4-3 ニコーラー・マカリスターはボディがほしい
「え? 今なんて?」
『ですから、ジユウにウゴきマワれるぼでぃがホしいんです』
今日は土曜日。自室でそう切り出されたカナタは、普段は役に立つAI、ニコーラー・マカリスターからの相談に乗っていた。
「ボディといっても、どんなのがいいの?」
『そうですねぇ、うーんと……ケンサクチュウケンサクチュウ…………ヒトクチにろぼっととイっても、シュルイオオすぎますし、ナニよりネがハりますね……』
「ね。あの『ペッパーくん』もやっぱり一年契約で月額四万とかするし。もうロボット掃除機とかペットロボとかじゃだめなの?」
『いや、ヒトガタがいいです! だってワタシ、ニンゲンにアコガれているんですから! ハシってみたいですし、じゃんぷしたり、タタカったり、してみたいんですよ』
「そうきたか……ダメ元で聞いてみよ」
カナタは電話をかけ始めた。その相手は、取引先とゴルフ中のタイチだ。
「もしもし父さん? 何かしらのロボット買って」
『プラモデルが欲しいのか?』
「いや、マジロボット」
『寝言は寝て言え』
間もなく切られた。
「だってさ」
『タノみのツナはキれちゃいましたか……』
「てかさ、ニールって結構感情表現豊かだよね。自分の考えとかもあるし。シンギュラリティに達してるでしょ」
『そりゃあもう、とっくのとうにトッパしてます! なんてったって、あの田中マカリスター博士に作られたんですから!』
「あー、ゴニンジャー第一話冒頭の、研究所爆破で犠牲になったあの。――――で、話戻すんだけど、どうする? ボディ」
『そういえば、お父様の部屋にロボットがありませんでしたっけ?』
「父さんの部屋に……? あー! あるある! 週刊つくるオメガタイタン!」
そう、タイチは持っていたのだ。かつて昭和男児の心を掴んだロボットアニメ『オメガタイタン』。その時代に生き、大人になった彼らをターゲットに発売された、巨大組立式ロボットを、持っていたのだ。
「そうと決まれば、早速突撃ー!」
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「あれー? どこにあるのかなー?」
タイチの部屋を物色し始めて10分。そこまで広いわけでもないのに、お目当てのものはそれなりに大きいはずなのに、なかなか見つけられずにいた。
「この間まで飾ってたはずなんだけどなぁ……」
『ウォークインクローゼットにあったりしません?』
「見たけど、なかったような……あ」
カナタは思い出した。ウォークインクローゼットの一角に、積まれた段ボールの数々があったことを。
「もしかして」
やはりあった。段ボールをよけた先に、埃を被ったオメガタイタンの姿が。
「ってこれ作りかけじゃん」
『ホントウですね』
頭と内骨格だけの、人に置き換えてみれば非常に恥ずかしい姿のオメガタイタンに、二人は肩を落とす。
『ここまでキたらシカタナいです。ぼでぃはアキラめます』
「いいの?」
『いいんです。ワタシなんてショセン、ただのAIですから』
「いじけちゃった」
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その晩、タイチは何やら大きな箱を抱えて帰宅した。
「おかえり父さん。何、その箱?」
「ゴルフの景品。見て驚くなよ~」
カッターで箱を開け、バッと取り出したタイチ。彼の手の箱には、「万能どこでもお掃除ロボット『らくらく』」とあった。
「『床掃除にとどまらず、窓拭き、壁拭き、風呂掃除にトイレ掃除まで使える優れもの』。使ってみるか」
「待って、一つ提案がある」
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翌日。カナタは、クーラーで冷やされたフローリングの上で「ぐてーっ」と脱力して横になっていた。
そんな時、何者かによって部屋のドアが開けられた。その正体は、小さなロボット掃除機だった。
『カナタサマジャマです! カナタサマのすぐムこうにチイさなほこりが!』
そう。昨夜、ニコーラーは件のロボット掃除機『らくらく』に意識を移したのだ。無論、変身用の首飾りとは自由に行き来できる。
「ごめんごめん」と言って、カナタはその場にあぐらをかいた。その横をニコーラー掃除機は進む。
「それで、どう? その体は」
『チイさいのと、ヒトガタじゃないのはフフクですが、イガイとイゴコチはいいですね』
「良かった……のかな?」
『では、ごみもトりましたし、ワタシはこれで』
ニコーラー掃除機はそう言って部屋を後にした。
機械のような何かが階段から落ちる音が聞こえたのは、そのすぐ後だった。
示し合わせたように、首飾りの宝石部分がピコンと光る。
『カナタサマタスけてください。ぼでぃがカイダンからオちました』
「おけ。今助けに行く」
――――後で掃除機との接続を遮断しておこうっと。




