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月曜日の朝

 クマの1件についての説教を終え、カナタはカバンを持ってリビングを出ようとした。


「どこか行くの?」


 机でトーストを食べていたマキナが聞いた。


「学校。夕方まで帰らないから大人しくしててね。」


「学校?!」


 『学校』という言葉に反応したマキナは、目をとても輝かせていた。


「もしかして、行きたいの?」


「い…いや? そんなことはないけど……ま、いってらっしゃい!」


「おう」


「いってらー」


「行ってらっしゃい」


 各々の挨拶を背にカナタは靴を履いて玄関を出て、自転車に乗った。家々の影から時折覗かせる朝日を浴びながら坂道を駆け下りる。時々信号や曲がり角で止まりながら学校まであと600m程の交差点までやって来た。

 朝7時は通勤ラッシュがピークの時間である、車通りはとても多く、あわや事故を起こしてしまいそうな程のスピードで走る車もいる。

 そういった光景を見ながら信号が変わるのを待つカナタの後ろから声が聞こえた。


「おーはよっ」


「あ、チハヤ、おはよう」


 冬雪チハヤ。髪は白いポニーテールで、華奢な見た目のカナタの幼稚園時代…それどころか生まれた病院、生まれた日まで一緒なマジでガチな幼なじみだ。


「今日は久しぶりに一緒に学校まで歩かない?時間はまだあるしさ」


「そうしようかな」


 カナタは自転車から降りた。


 それと同時に信号が変わり、鳥の鳴き声のような補助音も聞こえてきた。


「朝ごはん何食べた?」


 チハヤがカナタに聞く。


「普通にトーストとベーコンエッグ」


「へぇ〜カナタって意外と普通よね。私は昨日のハンバーグとお米」


「チハヤだって普通じゃん」


「確かにね。 というか聞いて、今思い出したんだけどうちのクラスの担任マジでウザイの。初日から『あなたたちは今日から3年(マイナス)2学期です~』とか言いだすし。カナタどうにかして~」


 マキナは人目も構わずカナタに抱きついた。


「さすがにそれは無理かな~。そしてここ普通に街中だから早く退いて? 普通に恥ずかしい」


 カナタは動じずに返した。

 そんな様子をチハヤのクラスメイトの男子3人組が後ろから見ていた。


「あれ、うちのクラスの冬雪さんだよね」


「彼氏いないって言ってたのにやっぱり居たのか〜残念」


「お前狙ってたもんな」


 チハヤはとっさにカナタから手を離した。


「か、彼氏じゃなくて! 幼なじみだから!」


「それみろ誤解された。」


「え? 聞かれてた?」


 狙っていたという男子は驚いた様子だ。


「こいつ、人より耳いいから多分皆さんのヒソヒソ話が聞こえたんだと…」


「マジか! 恥ずかし! バレたやん!」


「残念だったな」


 3人のうちの1人が苦笑した。


 そんなやり取りをしているうちに学校に着いた。


 2-3 春晴彼方

 2-1 冬雪千速


 それぞれ下駄箱にしまってあった名札を胸につけ、2年生フロアである3階に上がった。


「じゃあ私こっちだから、また部活でね」


「おう、じゃあまた」


 こうして一時の別れを告げた2人はそれぞれの教室に入っていった。




 少し時と場所が移って、街のお店が開く10時頃、母とセルア達はアウトレット内の服屋にいた。平日だからか、閑散としてはいるが数人の客はいるようだ。


「私はお店の中ウロウロしてるから、欲しい服があったら呼んでちょうだいね」


 サユコは4人に呼び掛けた。


 各々が服を選んでいる最中、母はマキナに声をかけた。


「ねえ、マキナちゃん。今朝、カナタが学校に行くってなった時、すごく目を輝かせてたけど、もしかして、学校に関わるなにか事情があったりするの? 例えば家にお金が無くて学校行けなかった…とか」


「……はい、そうなんです。貧民街に住まなくちゃいけないほど、家庭が貧乏で……学習支援をしてくれる人たちに勉強を教えてもらったりはしてたんですが、それでもまだ学校には憧れがあるんです。学校に通ってた子供たちはいつも目をキラキラさせて笑ってて、周りにはいつもお友達がいて。ほんと、羨ましくて羨ましくて、一晩中泣いたことさえありました」


「そうなのね。ありがとう、教えてくれて」


 サユコは、そう言うとマキナをギュッと抱きしめた。


「ちょっ…サユコさん苦しい…」


 それをゴルダンとセルアは遠目に見ていた。


「何やってんだ?」


「さあ」


 服選びを済ませると、同アウトレット内のスマホショップで4人分のスマホを契約し、タオルやティッシュ、食器といった生活用品を買った後、書店で小学校と中学校の問題集をそれぞれ5教科分買って帰路に着いた。


 5人が家に帰ってきたのは13時30分頃の筈だが、なぜか先にカナタが家にいた。


「あら、カナタ早いわね。何かあったの?」


「それがさ、給食室が火事になったんだよ。幸い他のところには燃え広がらなかったんだけど、安全のためだっつって午前授業になった。それより腹減った〜なんか作って〜」


「じゃあ、はい」


 サユコは紙袋が入ったビニール袋をカナタに手渡した。


「これ…」


「本当はおやつにって思って買ったんだけど、そういうことならお昼ご飯ね」


 袋の中身はハンバーガーだった。


「おー! ありがとう!」


「食べる前に制服脱ぎなさいね」


「分かった!」


 カナタはそう言うと、袋を持って2階へと駆け上がって行った。

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