3-18 セルアとお菓子とアルバイト②
《前回のあらすじ》
騎士セルア・レイズはジョギング中に、悩める商店の店主と出会った。
彼を幸せにするために、セルアは商店で働くことを決めた……
その翌日。
「今日からよろしくお願いします!」
コンビニの制服っぽい服に着替えたセルアは、力のこもった挨拶をした。
「羽柴誠也くんか。良い名前だな。おっと、儂も名乗らねばな。儂は秦辺という者だ……さて、何をしてもらおうかね」
「呼び込みでもなんでもやります!」
「ほっほっ。えーとじゃあ、床の掃除を、あそこにあるモップでやってもらおう」
「承知しました!」
『うおおおおおおお!』。まさにこの文字列の通りの勢いで、セルアは店内の床をモップで二周、三周……十周もした。その間僅か50秒。
「うむ。チリ一つないわい」
「ありがとうございます!」
「だがまだ終わりではない。モップだけではとりきれない、細かい汚れもたくさんあるからな」
「分かりました。雑巾がけをしますね!」
「助かるよ」
今度は雑巾を手に、またもや鬼のような勢いで店内をざっと拭き。続いて、汚れのあった要所要所を擦って周る。
セルアの掃除は床にとどまらず、棚、壁、窓、果てはトイレまで、店内の全てを清掃した。
文字通りピカピカになった店内。時刻はいつの間にか正午を回っていた。
「お疲れさん」
レジの奥に設けられた休憩所で休むセルアの前に、秦辺は弁当を差し出した。
「あぁ。ありがとうございます」
「さて、午後からは何をしてもらおうかのう」
「それなら、僕に一つ案が。からあげとかポテトとかを温めておいてください。なるべく多く」
セルアは知っていた。夏休み期間中の毎週火曜午後3時になると、腹を空かせたサッカー部の七西中の学生が、一斉に下校することを。
ちなみにこの情報は、先週、日課の20キロマラソンの時間をずらしたことにより、たまたま手に入れることのできた情報である。
**********
さあ、呼び込みの時間だ。『ホットスナック、あります』と書かれたのぼりを片手にしたセルアは、商店のある細道と大きな通りが交差するポイントに立った。
腹ペコ七西生たちは自転車にまたがって、すぐにやってきた。
すかさず声を張って呼び込みだ。
「いらっしゃいませー。美味しいもの揃ってますよ~。からあげ、ポテト、温まってますよ~」
それを聞いた、先頭を走っていた男子生徒が自転車を止めて、後ろに声をかける。
「なあ、食ってこうぜ」
返って来た返事は「いいねー」「賛成」と、肯定的なものだった。
その言葉を耳に入れたセルアは、「お店はこっちです」と、小道に案内する。
「秦辺さん、ちゃんと連れてきましたよ」
「こんなところにこんな店あったのか」
「からあげ美味そ~。揚げたてっすか?」
「棚ガラッガラじゃん」
セルアに案内されるまま入店した腹ペコたちは、思い思いに店内を歩き回る。
しかし、この商店には商品がほとんどない。ジュースや水ですら最低限の量しか用意がない。
なので、腹ペコたちは自然と、ホットスナックを買うために列を成していた。
するとその時、
「ねーチハヤちゃん。ここにこんなお店あったっけ?」
「ほんとだ。なんか、うちのサッカー部たちで賑わってるし」
冬雪チハヤと忽那カエデ、遊び帰りのご来店。
「せっかくだし~、お菓子買お」
「ナイスアイデア」
二人は店内にある数少ないチョコ菓子を手に取り、サッカー部員たちの後ろに律儀に並んだ。
そして、次は二人の会計の番だ。
「え待って。この人すっごいあたしの好みなんだけど。写真いいですか?」
「構いませんよ」
カウンター越しに、セルアとチハヤはツーショットを撮った。
「わ~。ありがとーございました。インスタかティックトックって、やってます?」
「いんすた……てぃっくとっく……って何ですか?」
「あっ、やってないんですね。じゃあ、あなたのこと、SNSに上げてもいいですか? あたし、フォロワー1万人いるインフルエンサーなんで」
チハヤはドヤ顔でそう言ってみた。そして後に付け足す。
「あ、もちろん名前とかは隠しますよ。けど、このイケメンが世界に知れ渡らないのは勿体ないですって!」
「まぁ……大丈夫ですよ」
「あざっす!」
**********
また翌日。
「ねえ、ここじゃない? 『イケメン店員』がいる秦辺商店」
女性三人組が、開店してすぐに訪ねてきた。
「いらっしゃいませ」
「あの、ティックトックで見ました! やっぱりイケメン……」
「は、はあ」
「写真いいですか?」
「私は握手……!」
「サインください」
まるでアイドルを前にしたかのような声のかけられた方に、セルアは淡々と対応する。
「先にお買い物していただけると、嬉しいです」
「はい! してきます!」
それからも、大体五分おきに新たな客が、『秦辺商店のイケメン店員』を求めて、この商品もほぼ置いていない商店に来店してきたのだ。
昼前頃にもなると、来客もピークに達し、店内は特売中のスーパー顔負けの人口密度となった。
「列、まっすぐ並んでくださーい。店内、止まらないでくださーい」
その時、慌ただしい現場に、店主の秦辺がやってきた。
「これは一体、何が起こったんだ?」
「さあ。――――もしかして」
「何か思い当たりがあるのか?」
「昨日、女の子に写真を頼まれたんです。二人の。その時に、えすえぬえす? にあげるとかなんとか言っていたので、それでしょうか……」
――――口コミが昨日の今日でこれ、というわけは無いしな。
セルアは知っていた。『えすえぬえす』はカナタもやっており、それが社会に多かれ少なかれ「バズ」として影響を与えることを。
「何はともあれ、繁盛して良かったわい。皆さん、また来てくださいねー!」
秦辺の呼び掛けに返ってきたのは、「はーい!」の揃った声だった。
「さて、儂は商品の追加発注をしてくるとしようかの」
**********
またまた翌日。
「おっ、チハヤストーリー更新してる。……万バズ……? 七王子一のイケメン店員……? 羽柴誠也ぁ!?」
「どうしたんだい? 急に僕の偽名を叫んで」
この日、商店は定休日だったので、セルアは家にいた。
その時、リビングに誠が滑り込んできて……
「カナタくんにセルアさん! 一体これはどういうことだ!?」
彼のスマホにも、チハヤが投稿したと見られる動画が映っていた。
「知らん!」
「――――? 僕、何かやっちゃいました?」
その後、チハヤが上げた動画はJNIAによって削除された。しかしその頃には、秦辺商店のイケメン店員伝説は日本中に知れ渡っていたのでした。
その日の正午過ぎ。
チハヤは遊び歩いていたところをJNIAの車両に乗せられ、聴取を受けることになった。
調査官がカーレースデーモンの一見で見知った顔だったこともあり、すんなり応じたようだ。
「なぜ投稿、拡散した?」
「イケメンだったから……」
捜査官から目をそらし、「あたしわるいことした?」とでも言いたげな、不貞腐れた表情をして答えた。
「彼は我々の重要機密だ。そんなこともあるから、今後誰かのことをネットに上げるのはやめなさい」
「はぁ~い」




