3-15 カーレーサー・ガンマン②
「ぼ、僕の名前はジェイク。カンザラタウンの新人保安官です。特技は……無くて、苦手なことは拳銃の扱い……です」
「釘原課長、カンザラタウンと言う地名は過去にも現在にも存在しません」
後ろのソファでパソコンを叩いていた黒服の男が言った。
「やはり異世界転移者ということか……ありがとう。じゃあこれから作戦会議と・・・」
その時、先ほどの黒服の男が声を張り上げた。
「本部から入電! 灯保町にカーレースデーモンと思われる怪人が出現しました。至急、現場にお向かいください」
「分かった」
「行きましょう。保安官はお留守番でいいよね?」
「い、いいえ。僕も行かせてください。キミを傷つけようとした奴が……許せないんです」
「――――そっか。なら、行きましょう」
**********
三人が灯保町に到着したのは、25分後のことだった。
「おい!」
真っ先に車を降りたカナタが声を荒げた。
「来たよ。さあ、レースしよ」
『だナぁ。発動:Progressio Hippodromi/競走場の展開』
その一声で、カーレースデーモンを中心に周りがまばゆい光に包まれた。
カナタが目を開けると、そこは全く見ず知らずの街の中にいた。だが、すぐに感じた一つの違和感。
――――人が一人もいない。それどころか、生活感もないし、車も通ってない。信号の電気も消えてる。
「映画のセットみたい……」
そこにはジェイクも一緒に連れてこられたようで、ビクビク怯えて乗っている馬にしがみついていた。
『よウこソ。わガれェしンぐふィぃルどヘ。コこノこトを、ハじメまシてノきミたチに、トくベつニおシえテやロう』
「お願い」
『まズはジめニ、こノれェしンぐフぃィるドは、”氷河”、”都市”、”砂漠”ノみッつのエりアにワかレてイる』
「そこを巡るようにレースしろ……ってこと?」
『のミこミがハやイな。”氷河”エりアをスたァとシて、”都市”、”砂漠”ノじュんバんダ』
「おっけー。ニール、車でもバイクでもどっちでもいいから、コントロールしやすくて速いやつを出して」
『まったく。AIづかいがアラいですねぇ』
10秒ほどでニコーラーはバイクを生成して見せた。それを見たカナタは気分が高揚し、バイクの周りをぐるぐる見回したり、いろんなところを試しに触ってみたりした。
「こ……これ僕もやらなきゃいけない感じですか?」
『そウだ。レぇスがオわルまデ、だレもコこカらデるコとハでキなイ』
「うっそぉ……」
『ごタごタいッてナいデ、はヤくレぇスをハじメよウ』
そう言ってカーレースデーモンはエンジンを一吹き。すると、周囲の景色は一瞬にして氷河に変わった。
『いチにツけ』
三人は半楕円状のアーチの手前の白線に並ぶ。余裕そうな表情のカーレースデーモン、覚悟の面持ちを感じさせるコスモ、恐怖で怯えているジェイク、三者三様の待機時間。
そして、出発の時間はやってくる。
3、2、1、GO!!
赤だったランプが青に変わると同時に、三人はエンジンを入れる。
一番に飛び出したのはカーレースデーモン。やはり、デーモンコアと魔力で強化されたエンジンの火力はケタ違いだ。
それに追随するようにコスモが走り、コスモに並ぶようにジェイクが走っていた。
フルパワーのバイクと互角に渡り合える馬とは、一体何なのだろうか。
「保安官、速くない!?」
「し、知りまんよ! この子がこんなに速いだななんて!」
状況が動いたのは、ツルツル滑る氷河エリアを越え、都市エリアに入ったすぐのところだった。
カーレースデーモンの独壇場が続いていたが、コスモとジェイクが距離を縮め、三者互角の一位争いが繰り広げられていた。
――――じャまダな。
そう、頭の中で呟いたカーレースデーモンは、再びエンジンを一吹かし。
すると、ビルの壁を突き破って、スポーツカーが五台飛び出してきた。
「ハリボテビルからスポーツカー!?」
「う、うわぁ~~!」
『しョうカいシよウ。あラたナらイばルだ』
そう紹介された、赤、青、緑、銀、オレンジのスポーツカーたち。
彼らもレースに参戦したのだ、圧倒的なスピードで熾烈な戦いが幕を開ける。
「『ワイルド・スピード』とか、今日観た オーバードライブ:ユーラシア・ラン に出てきた車によく似てるな~」
その時、コスモの隣を走っていた一台のスポーツカーの窓が開いた。
「やぁ兄弟。今日もいい天気だな」
「ディーンの兄貴!?」
カナタはその顔に覚えがあった。それもそのはず、今日映画館で二時間近く眺めた顔なのだから。
「初対面なのに俺のこと知ってんのか。珍しい」
「まあね」
――――映画のことは言わんとこ。
「それより、ユーラシア大陸横断レース、優勝おめでとうございます」
「おう、サンキュー。だが、この場では俺たちはライバルだ。容赦はしないぜ!」
そう言って、ディーンはさらにアクセルを踏み込んで加速する。
負けじとコスモも加速。
ジェイクも手綱を振って、馬を加速させる。
ドリフトで交差点を曲がり、橋への上り坂でピョンと跳ね、6レーンの大通り全部を贅沢に使ったカーレース。
やはり現状の一位はカーレースデーモンだが、途中でコスモが追い越したり、ディーンの乗るスポーツカーが追い越したり、ジェイクが凄まじい加速をして追い越したりと、はっきり言って先の見えない、ハラハラドキドキのレースである。
**********
そんなこんなでレースも遂に終盤。一行は砂漠エリアに突入した。
「うぅ……砂漠走りづらっ」
「ザンバー、まだ走れるかい? 無理はしちゃダメだよ」
ザンバーというのは、ジェイクの乗る愛馬のことである。
『あの~カナタサマ。たいやをおふろーどもーどにヘンコウしましょうか?』
「できるなら、お願いしま~す」
コスモのバイクは、すぐさまオフロードタイヤに変わった。
「おっ、走りやす~い」
砂漠地帯を走りやすくなったコスモは、アクセルを全開にして超加速。カーレースデーモンとのトップ争いに躍り出た。
「チッ。まタじャまヲ……」
「ねえねえ、ゴールまであとどのくらい?」
「2きロもナいダろ……ウ!」
そう語気を強めると、カーレースデーモンはまたもやエンジンを一吹かしさせた。
すると、何やら後ろのほうから多くのエンジン音が聞こえ、地響きもする。
「今度はなんだよも~」
呆れた様子でコスモは振り返る。すると後方には、スパイクやガトリングガン、火炎放射器で武装した「世紀末」という言葉の似合う車両団が迫ってきていた。
その光景に、思わずカナタも目を見張る。
「うっそ今度は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』!? ……いやよく見たら違う! インスピレーション受けた別のやつだ! 名前忘れたけど」
車両の姿は、よくよく見たら見た目が少し違う、「パロディ車両団」のものだったようだ。
車両団たちはスポーツカーたちを押しのけ、ジェイクの後ろまで追いつめてきていた。
「ひいっ」
次の瞬間には、車両団たちはさらに追い上げ、ジェイク、ディーン、コスモを巻き込んで進む。それに乗じて、カーレースデーモンはさらに速く進む。
「あばばばばばばばばば あだっ!」
そんな声を上げて、コスモは転倒。バイクから転がり落ちた。
「っつぅ……」
ゴニンジャーのスーツを纏っているとはいえ、走っているバイクから落ちたらしっかり痛い。
だが、そんなこともすぐに忘れられるトラブルが、コスモの身に起きた。
座り込んでいた自身の体が、砂の中へ沈んで行っているのだ。
「えっ、何コレ!?」
『ソコなしヌマ……の”スナ”バンです! ハンジュウリョクしすてむでダッシュツ・・・』
「いや、大丈夫。一個、一発逆転できる作戦を思いついた」
そう言い放ったコスモは、ニコーラーの慌てる声を聞き流し、バイクにまたがって砂の中に消えていった。
**********
ついにレースも佳境に差し掛かる。ゴールまで残り三百メートルもない。現状の順位は、
一位
二位《車両団》
三位《ディーンの兄貴》
四位《ジェイク保安官》
行方不明《ゴニンコスモ/春晴カナタ》
となっている。
「うぅ……カナタくんはどこへ行ったんだ?」
地面が小刻みに震えている。そんな気がする。そしてそれはどんどん大きくなっていき、カーレースデーモンでさえも、タイヤを止めた。
「なンだ?」
揺れが最高潮に達したその時、地面の中から大きなエネルギーの球が姿を現した。
『ショット・フィニッシュ・ショーット!!!』
「これは……やるじゃねえか兄弟」
吹き飛ばされた砂とともに、蹴散らされた車両団とともに、地面の中から出てきたのはコスモだった。バイクにまたがったコスモは、カーレースデーモンの目の前に着地した。
『きサま……ドんナてヲつカっタ?』
「簡単簡単。地中に潜って、進んで……君たちの真下に来たタイミングで上向きにバーン!!! ってこと。一発逆転♪」
『ぼウがイはハんソくダ!』
「じゃあ『意図せず地中に沈んでしまって、そこから脱出するために仕方なく技を使った。巻き込まれたのは計算外でたまたまだった』ってことで」
『ぐヌぬ……』
言い争いの裏で、ジェイクが二人の間に割って入る。
「あのぉ……レースの続きを……」
『――――だナ』
そうして再びレースは再開。カーレースデーモン、コスモ、ジェイク、ディーンの4人で改めて発進!
残り百五十メートルを全力疾走。
やはり一番はカーレースデーモン。おっと、ここでコスモが追い上げた。しかし負けじとカーレースデーモンが追い上げる。
コスモ、追い越されるか……いや、ここで妨害。ジェイクの撃った弾がマフラーに着弾。
カーレースデーモンは少し減速した。
「やった……流れ弾ってやつ……です」
ついに最終盤。ジェイクとディーンの二人はトップ争いからはフェードアウトし、コスモとカーレースデーモンの二名が、追い越し追い越されの戦いを繰り広げていた。
言葉では言い表せないほどの激しさ、勢いだ。速さはゆうに時速四百キロメートルを超え、火がついてしまいそうだ。
そして、ゴールゲートをくぐったのはほぼ同時であった。
『しョうシゃハおレ、だナ』
「いや俺! VAR!!」
コスモのその声で、二人の前方上部にはホログラムモニターが出現した。モニターに映し出されたのは……
コスモが一ミリメートルの差で、カーレースデーモンに勝利したことを示す映像だった。
「っ……しゃあ!!!」
「『カナタの一ミリ』……流石ですね」
「それ、知らずに言ってるんだろうからすごいね」
『そンな……マさカ……』
――――デーモンコア、活動停止。
カーレースデーモンの頭の中を、そんな文字列が横切った。それと同時に、彼(?)の体からデーモンコアが分離し、カーレースデーモンはただのレーシングカーとなった。
分離したデーモンコアは、ふわりふわりととんでどこかへ行こうとしたが、
「させるかぁ!」
コスモがそれを撃ち抜き、粉々に破壊した。
いや、待て。本当に破壊したのはコスモか?
否。デーモンコアを一足先に撃ち抜いていたのは、ジェイクだった。
彼の顔は、いつになく、柄にもなく、真剣なものである。
『まったく、使えない奴だ。ま王様のき待に、沿えぬとは……』
「えっ。何、言ってるの……?」
その瞬間、ジェイクと馬のザンバーを、赤黒いもやが取り囲んだ。
彼らは、デーモン怪人と化した。




