3-14 カーレーサー・ガンマン①
昼前、カナタとチハヤの二人は並んでショッピングモール内の映画館から出てきた。
「おもしろかった~」
「オーバードライブ:ユーラシア・ラン……ウラジオストクを出発してマドリードを目指すユーラシア大陸横断レースをテーマにしたカーアクション映画……人間ドラマはちょっと薄いところがあったけど、アクションシーンはCGと火薬たっぷりで迫力満点。なんやかんやで飽きなかったし、満足満足」
「なにブツブツ言ってんの?」
「いや、なにも。映画の振り返りをしてただけ」
「そっか。あ」
チハヤが立ち止まって見た先にはカーレースのゲームがあった。
「やってかない?」
「乗った」
二人は百円ずつ投入し、ハンドルを握る。
『3、2、1、GO!!』
その合図で強くアクセルを踏み、勢いよく発車する。
直進の道を走り、コーナーを曲がり、起伏を越え、アイテムを使って妨害していれば、あっという間にレースは終わった。
結果はカナタ一位、CPU二位、チハヤ三位となった。
「カナタ上手すぎない? これレーサーなれるよ」
「いや『グランツーリスモ』じゃあるまいし。……まぁエイタたちと遊びに行った時は毎回やってるからね~」
雑談を繰り返しながらモールを出て、バス停へ向かう。
道中にある横断歩道を渡ろうとカナタが右足を出した次の瞬間、二人の目の前をとてつもないスピードで"何か"が横切った。
「えっ今の何!?」
「ニール、見えた?」
カナタは小声で、ポケットの中にあるスマホにインストールしておいたニコーラーに問いかける。
『ブンセキチュウ…………ミえました。これは……フォーミュラカー? ガゾウ、ダしますね』
スマホに映し出されたのは、速さのせいでピンぼけしている、禍々しい雰囲気を纏ったF1カーのようなものの写真。
「これって、デーモン……?」
「ねえ。なにまたブツブツ言ってんの? ほら、早く行こ。信号変わる」
「ごめん、ちょっと急用ができた!」
手を合わせてそう言うと同時に、カナタは走り出した。
「ちょっ、カナタ!? どこ行くのよー!」
カナタを追ってチハヤも走り出した。
**********
南東へ一キロメートル程走ったところにあるガソリンスタンドで、"何か"を見つけた。
赤紫色のF1カーを醜く、禍々しく歪め、機械的な筋肉や血管のような意匠を纏った巨大な存在が、地面に溜まったガソリンをチビチビ飲んでいたのだ。
「おい! 何、してるの?」
カナタの声を聞いた"何か"はギロリと目を動かしてこちらを睨む。
『ア? なニもンだィ?』
「俺に名乗ってほしかったら、そっちが先に名乗ってよ!」
『おレはカぁレぇスでェもン。まオうサまのチゅウじツなシもベェ』
「例に漏れず変な喋り方。やっぱりデーモン怪人だったんだ」
その時、遠くからチハヤが走ってきた。
「うわっ、なにコイツキモッ」
「チハヤ。下がってて、できたら周りの人を逃がしてほしい」
「でもカナタはどうするつもり? まさか、戦おうってわけじゃないよね!?」
「そのまさか。ほら、早く行った」
「…………死ぬなよ!」
チハヤ は"グッ"と親指を立て、再び駆け出した。
『はナしハおワっタか?』
「終わったよ。じゃあ、お手柔らかに」
そう言ってオーブリンクをしたその時、カーレースデーモンは大きくエンジンを吹かせて威嚇した。
『まテ、おレはウでッぷシのタたカいハとクいジゃナい』
「? じゃあどうするの? 何かゲームでもする?」
『げェむ……トはマたチがウが、チかシいコとダ。おレさマと、レぇスしロ!』
「レース!? ここで!?」
『あアそウだ。オれサまト、いマこコで、カぁレぇスだ!!』
「分かった。ニール、車かバイクを」
『だーかーら! ワタシにそのキノウはナいと、ナンドイわせればいいんですか!』
『れェすシなイのカ?』
「したいけど無いんだよ! 車両が!!」
『そウか。ジゃアしネ』
カーレースデーモンはフロントウィングの部分をカナタに向け、エネルギーの球を作り出した。コスモの必殺技と似たようなものだ。これが高威力の攻撃の準備であることは、用意に想像がついた。
「やっべ」
オーブリンク。
しかしその時、近くで銃声がしたかと思えば、カーレースデーモンは怯んだ。続けて一発、二発、三発と鉛玉が撃ち込まれる。
カナタが銃声の方へ目線を向けると、そこには馬に乗った西部劇の保安官風の男がいた。しかし、彼のリボルバーを持つ手はブルブル震えており、よく見ると顔もひきつっていた、。
「……誰?」
「こっ、こここ……子供をいじめる奴は……ゆ、許さんぞぉ!!!」
バン、バン、バン、と、今度も三発続けて撃つ。
『いテぇ。イてテてテてテてテ。くソっ、オぼエてロ!』
そう吐き捨て、カーレースデーモンはその場から逃走。自ら生成したポータルに逃げ込んだ。
「逃げられちゃった……」
「き、きみ」
カナタが振り返った先には、馬から降りた保安官風の男が立っていた。
「怪我はない……か?」
彼の口からは、見た目に反して弱々しい声のみが吐き出されてくる。
「はい、助かりました。ところであなたは?」
「僕?! 僕はジェイク。カンザラタウンの保安官……です。一応」
その名前に、カナタは覚えがあった。
――――この人、もしかしたらってかもしかしなくとも、映画:臆病者のバッジ の主人公だ。名前、舞台の町、格好が同じだし、顔も俳優まま。
「……どうか、されました?」
「いえ、なんでもありません。ありがとうございました、ジェイク保安官。この後、良かったら家にきませんか? 行く当てがないのでは?」
「よく分かりましたね……! 気がついたらわけの分からない場所にいて困ってたんです」
その時。
「カナターっ! って今度は誰その人!」
避難を完了させたチハヤが戻ってきた。
「えーとこの人は……言いにくいなぁ」
「春晴カナタさんですね」
カナタが言葉を選んでいたその時、彼らの背後に黒服の男が立っていた。
「あ、もしかしてJNIAの?」
「はい。釘原課長の指示を受けて参りました。指示に伴い、春晴さん意外のお二人を連行させていただきます」
「カナタ~、これどういうこと?」
「ほんとごめん、協力してあげて。あ、本部に連行しなくても、家なら釘原さんが近所にいるから、そこにってことはできます?」
「左様です。では、お乗りください」
JNIAの事後調査・処理の部隊が動く裏で、三人は車に乗った。
「あのぉ……馬、どうすればいいでしょうか?」
「――――動物輸送車を要請しよう」
**********
それから25分後、三人を乗せた車は春晴家に到着した。
「まさか、カナタがCIA的なのと繋がりがあったなんてね~」
「うん。何回も言うようだけど・・・」
「分かってる。誰にも漏らさないから」
「ならよし。今日は俺の部屋で好きな映画でも見てて。絶対に下には降りてこないこと」
「へーい」
家に入る。今日はセルアたち四人は、揃って図書館に行っていて不在のようだ。
その代わりと言っては何だが、リビングにはマコトが待機していた。
「………彼が新たな」
「うん、異世界転移者。魔王軍が絡んでるかは不明。だけど多分絡んでるんじゃないかな」
「そうか。報告は受けている。F1カーのようなデーモン怪人が出現、林町のガソリンスタンドを襲撃した、と。で、そこに現れたのが彼」
「そう。で、これは俺の見解なんだけど、この間のシャークデーモンと同じかんじで、ジェイク保安官もカーレースデーモンも、映画の世界から来たんだと思う」
「なるほど……で、なんの映画だい?」
「保安官の方は、臆病者のバッジっていう80年代の西部劇。カーレースデーモンの方は……カーレースモノの映画は多すぎて分かんないや」
「そうか。話は変わるんだけど、今度やるってレース、我々JNIAが観測・分析させてもらおうと思っている。いいね?」
「それはご自由に」
その時、カナタのスマホ画面が明るく光った。
「なになに?」
『カナタサマ。3Dぷりんたもーどのいんすとーるがカンリョウしましたよ。これで、ばいくだろうがかーとだろうが、ヨびダせるようになりましたよーと』
ニコーラーは少々呆れっぽく言った。
「えー、ありがとー!」
「それが噂の戦闘補助AIか。これは……JNIAにもほしいな」
『そっちにはイくつもりはモウトウありませんよ~』
「それは失敬」
「では改めて、彼女……彼かもしんないけど、ニコーラー・マカリスター。日曜の朝にやってるスーパーヒーローゴニンジャーの、サポートメンバー的立ち位置のAIで、なんやかんやあって今は俺のところに来てる」
「解説ありがとう。次は、キミ」
マコトはジェイクの方を向き直って言った。
「ぼ、僕ですか?」
「そう。自己紹介をお願いします」
ジェイクは深く息を吸い、覚悟を決めて口を開いた。




