3-13 荒牧スバルの遊園地潜入大作戦②
国民的子役の荒牧スバルは、先に遊園地に遊びに来ていたカナタたちと合流すべく、園内を探索中である。
「ジェットコースターでは探せなかったな」
今度こそはと、絶叫系以外で、高いところに上がっていて、尚且つ安定している乗り物を探す。
ジェットコースターや観覧車がある「上のエリア」には条件に当てはまるものが無かったので、エントランス付近の「下のエリア」にやって来た。そこで、ようやく見つけた。
「スカイカート……これなら!」
今度は高さ10m弱のモノレールの上を、電動で動く車型カートに乗って進むアトラクションをチョイスした。
ガラガラに空いていたので階段をかけ昇り、フリーパスを掲げながら乗り物に乗り込む。
「いってらっしゃいませー」
係員のその声で乗り物は動きだし、「下のエリア」を空から一周するドライブに出発した。
「さてどこだ~?」
上から見回すと、子供や若者の客で園内が埋め尽くされていることがよく分かる。正直、この中から見つけるのは困難かもしれない。
「これじゃ誰が誰だか分からないな」
少し身を乗り出して捜索を続けていたその時、ちょうど下にいた小さな子供に指をさされて
「あ、ぼくあのひとしってる!」
と、叫ばれた。
「こら、指ささないの。どこで見た人なの?」
一緒にいた母親が聞いた。
「テレビ! おなまえは、えーっと……」
――――やばい。
名前を呼ばれて注目を浴びてしまってはどうしようもない。
スバルはスッと乗り物の中に縮こまって身を隠す。
そうしているうちに乗り場まで戻ってきてしまった。最後の最後まで名前を呼ばれることは無かったが、後半の捜索は叶わなかった。
――――もう一周したいところだけど……
スバルの財布の中には、千円札が残り一枚と乗り物券が三枚。スカイカートに乗るには五枚が必要なので、節約のためにも断念した。
**********
「バニラのソフトクリーム、一つ」
ああいっておきながら、スバルは再びソフトクリームを購入した。
「あなた、今日三つ目ね。うちのアイスは美味しいでしょう?」
店員のおばちゃんに話しかけられた。
「はい。それに僕自身、家の事情でアイスはあまり食べられないもので。物珍しさで爆食いですね」
「あら、厳しいお家なのね。――――はい、こちら商品です」
「ありがとうございます。多分また来ます」
「楽しみに待ってますからね~」
ソフトクリームを受け取ったスバルは、再び「上のエリア」に向けて足を進める。
店から百数メートル、ボーッと歩いたところで、ハッと思い出したように溶けかけたソフトクリームに舌を伸ばす。
その時だ。何メートルか前から、小さな子供の泣き声が聞こえた。
何かあったのかなと、スバルは目を向ける。泣いていたのは、さっきスカイカートで見た男の子だった。
「どうしたの?」
すかさず駆け寄って、目線を合わせて話しかける。
「ママとはぐれた……」
――――迷子なのか。
「そっか。じゃあ、お兄ちゃんと一緒に探そう。――――アレルギー……『これは食べちゃダメ』って言われてるものはある?」
「ないよ」
「じゃあ、はい。ソフトクリーム食べて良いよ」
「……ありがとう」
男の子の顔に、少しだけ光が戻った。
二人は手を繋いで園内を、男の子の母親を探して歩く。
――――母親の顔はさっき見たから分かるはず……
「ねぇおにいちゃん」
「なんだい?」
「おにいちゃんって、コヤクのあらまきスバル?」
――――バレてたーーっ!!
「イヤッ、チ、チガウヨ?」
「でもおにいちゃんのおかお、おとといテレビでみたよ」
「――――そうだよ。僕が荒牧スバル、本人」
「やっぱり! あとでおしゃしんとって!」
「いいよ」
そう返事をして足を一歩前に出そうとしたその時、背後から女性の「ユウタ!」と叫ぶ声がスバルの耳をつんざいた。
「へっ?」
振り向いた目線の先には、スカイカートからみた男の子の母親だった。彼女は男の子の体をスバルから引きはがして抱きかかえた。
「うちの子をどうするつもりだったんですか!」
「どうって迷子で……」
そう訴えても、母親の瞳に映っていたのは、帽子を深く被ってサングラスを着用した”いかにも”な不審者の男に変わりは無かった。
騒ぎを聞きつけた野次馬も増えてきた。
「ママ、おにいちゃんわるくないよ。だってぼくにアイスくれたもん。それにおにいちゃん・・・」
「アイスで釣って誘拐ですって!? 係員と警察に通報しなきゃ……」
男の子の声を遮った母親はカバンの中をかき回して携帯を取り出す。
――――この手は使いたくないけど……仕方ない。
「実は僕・・・」
「スバル?」
その時、スバルの背後から彼の名を呼ぶ者が現れた。
「カナタ……!」
そこには、スバルを誘うことに失敗したカナタをはじめとした、チハヤ、エイタ、ビスケ、カエデの五人がいた。
「どしたのその人。知り合い?」
「この感じからして、そんなわけなさそうよ、チハヤちゃん」
「チハヤ、カナタ。僕の潔白の証明に協力してほしい」
「? いいけど……」
「まず何があったか、教えて」
**********
「誘拐犯に間違われてるぅ!? そんなことあるんだ」
「この帽子とサングラスのせいだとは思ってるけど……」
「分かった。協力するね!」
話を終えた三人は、改めて親子へ顔を向ける。
「実は僕……子役の荒牧スバルなんです」
そう言うと同時に、彼は防止とサングラスを外して素顔をさらけ出した。
「ウソっ、本物!? いや、本物な訳ないわ! そっくりさんよそっくりさん! それで騙して我が子を連れ去ろうとしたんだわ!」
――――なんか見たことあるな~こんな展開。
「こいつが本物の荒牧スバルだってことは、俺たちが証明します」
「あたしたち、こいつの同級生で、部活も一緒なんです。一年くらいの付き合いなんですけど、こんなことするような奴じゃないです」
その言葉を聞いても、母親の顔はまだ「信じられない」と言いたそうだった。
「極めつけに、これを」
スバルはスマホに保存していた一枚の写真を見せた。
「俳優の桑部ソウジとのツーショットです。フェイクではありません」
そんなものまで見せられては、もう本人だと信じるほかなかったのだろう。母親は「悪かったわね」と吐き捨て、ばつが悪そうに去って行った。
しかし騒ぎはまだ収まりそうもない。そこでカエデが声を荒げた。
「オラァ全員捌けろ! 見せモンじゃねえぞ!!」
その声で野次馬も去って行った。
「みんなありがとう」
「いや俺とビスケはなんもしてないから」
「ハハ。どういたしまして。シューシューついてよかったよ」
「それでだけどスバル……一つ言いたいことがあるんだ。――――あの時はごめん」
そういうと同時にカナタは頭を下げた。
「箱根の時、撮影の邪魔してごめん。言い訳は何もしないよ」
「――――いいよ。もう気にしてないし、なんとかオンエアはできたから。それに、カナタは教えようとしてくれてたんだよね。猛獣熊のこと」
シャークデーモンの世間での扱われ方に少し違和感を覚えたものの、それがJNIAの工作だということは、カナタはすぐに分かった。
「……ありがとう。じゃあ、遊ぼうよ!」
「だね。行こう!」
カナタとスバル、二人を先頭に、彼らは再び遊園地にむけて繰り出していった。




