3-12 荒牧スバルの遊園地潜入大作戦①
――――今日、僕は初めて一人で遊園地に来た。とはいえ中で友達と合流する予定、だったんだけどなぁ……
なぜ、こうなったかと言うと……
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夏休み真っ只中のある日の朝、スバルは七王子駅前に建つマンションの最上階に位置する自宅で目を覚ました。
ベッドから降りてまずスマホを点ける。最初に目に飛び込んで来たのは、カナタからのLINEの通知だった。
『今日、エイタたちと遊園地行こうと思うんだけど来る? チハヤと忽那さんもいるよ』
――――三組の藤木くんか。あまり接点はないけどこれを機に……
返事を打ち込もうとしたその時、スバルはあることを思い出して手を止めた。
「今日、撮影だ……」
『ごめん。今日は撮影があるから、また今度お願い(おじぎの絵文字)』
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この日、珍しく七王子市内で映画の撮影が行われた。しかし、撮影は結婚式場が出てくるワンシーンのみで、その他の撮影は行われない。
「本番いきます。よーい」
その直後に鳴るカチンコ。同時にカメラも回りだした。
役者の演技力やスタッフの対応スピードの速さなどが相まって、撮影は四時間ほどで終わった。
この後は町田でまだ撮影があるのだが、スバルが出るシーンは無いため、今日は退勤となった。
「ありがとうございました」
スバルは母の運転する車に乗って撮影場所を後にする。
――――現在時刻は正午ぴったり。今から行ってもまだ間に合う。
「母さん、友達から遊園地に行こうって誘われててさ。行ってもいいかな?」
「いいわよ~。でも18時までには戻るのよ。バラエティの収録があるからねえ」
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――――で、それからバスに乗って来たのはいいんだけど……スマホを、忘れた!
「しくったなぁ……」
先に連絡しておけばよかった、という後悔がスバルに押し寄せる。
変装は完璧なのに、現代における最必需品たるスマホを家に忘れる大失態。幸いにも財布は持っているため、キャッシュレス主義者のスバルでも入園することはできるようだったので、とりあえず入園した。
――――自力で探して合流するしかないか。
そう思って歩きだした次の瞬間、
「あの、子役の荒牧スバルくんですよね?」
「ドラマ見ました」
背後から女性二人組に話しかけられた。
「あっハイ。プライベートなのでちょっと……」
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荒牧スバルの遊園地潜入ミッション
一.一般客にバレるな
二.18時の門限に遅れるな
三.早急にカナタたちと合流せよ
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スバルはソフトクリームを購入し、日陰のベンチで食べていた。
「結局握手しちゃったなぁ」
――――仕事じゃないときのファンサは極力控えてって言われてたのに。
「ま、切り替えていこう」
ソフトクリームを食べ終え、スバルは歩き始めた。
「カナタが行きそうなところと言えば……」
彼の目線の先には、園最大のジェットコースターがあった。
そこへ向けて足を進める。
道中、人でごった返すプールエリアが見えたが、
「まさかね」
と呟いて素通りした。『立場上あんなところへ入るわけにはいかない』という気持ちが、選択肢の一つを排除したのだろう。
一方その頃カナタたち。
「え、俺が滑るの? この高さを?」
「そう。ガンバ~」
彼らはプールに入っていた。
カナタとチハヤに関しては、二人ともウォータースライダーの上にいた。
「ほ~ら~。エイタくんもビスケくんもカエデちゃんも滑ったんだから早くして。なんなら、あたしが先に行ってあげようか?」
「どうぞどうぞ」
「……やっぱやめた。特等席でカナタの悲鳴を聞いてたいしね」
「あ~無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理」
「ラップゴッドか、早く行けぃ!」
チハヤに足で押される形で、浮き輪に乗ったカナタはスライダーを滑り出した。
その際に発せられた悲鳴は、遊園地を取り囲む山々の間をこだましていった。
そして当然ながら、それはスバルの耳にも届いているわけだ。
「今の悲鳴、もしかして……いや、気のせいか」
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――――どうしよう。どこにも見当たらない。もしかして帰ったのか?
ジェットコースターやバイキングの辺りをぐるぐる三周したスバルは、コーラ片手にベンチで項垂れていた。
「そうだ」
――――高いところからなら見つけられるかもしれない。
と、思い観覧車に足を運んだのだが、
「臨時運休……」
とのことだったので行き先をジェットコースターに変更した。
変装のためにつけていた帽子やサングラスは外さなければいけなかったため、代わりに前髪を極限まで下ろしていざ乗車。コースターはゆっくりゆっくり昇っていく。
「さてと、どこにいる?」
瞳の真ん中辺りまである前髪を掻き分けて園内を見渡す。パッと見では分からないので目を凝らして一ヵ所一ヵ所眺めていく。
だがそれができた時間も長くなかった。
コースターはレールを滑って降下し始めた。風が顔に吹き付けて、前髪が翻る。
「えっ、荒牧スバル!?」
隣に座っていたおじさんが声を上げた。幸いにも、風がそれを掻き消してくれたので周りにバレることはなかった。
「しー!」
それからも上がって、下がって、回って、乗り場に着いた頃には胃の中が掻き回されたような感覚に陥った。
「トイレ……トイレ……」
コースターを脱出し、そのままおぼつかない足取りで手すりを掴む。
帽子とサングラスを忘れていたことを係員が教えてくれなければ、あわや出た先で身バレをするところであった。
この遊園地のジェットコースターは、先の乗客が完全に乗り場から退場してから、次の乗客を乗せるやり方である。
「俺これ大好きなんだよね。力学的エネルギーを肌で実感できるし」
「へぇ。お前ジェットコースター好だったのか」
「そりゃもう。と、言ってもこれしか乗ったことないけど。みんなはどう?」
「俺はまぁまぁ」
「エイタに同じ」
「あたしはそこまでかな。小三の時にこれ乗ってゲロったのが苦い思い出。二つの意味で」
「"アレ"が苦いかどうかは、微妙なところじゃない?」
「チハヤ、忽那さん、その話は今やめて」




