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3-11 帰ろう。

 心地よい暖かさを持つ柔らかな光が、瞼に降り注ぐ。


 ――――ん……体の節々が痛い、重い……


 もう少し、寝ていよう。


 身体中の神経が徐々に力を取り戻していく。掌を生暖かく、柔らかい物が包んでいるのが分かった。


「―ナタ……お―い、――て……」


 優しげな、今にも泣いてしまいそうな少女の声が耳に届く。


「無―で―っ――れ……」


 今度は、何かを切に願う青年の声。


 ――――呼ばれてる。


「回復魔―でどうにかで―ねぇのか?」


「意識――は無―だと何回言わ―るんですか」


 ――――どこかで、誰かが、俺を待ってるんだ。


 もう、いかなきゃ。


 深い水の中からゆっくりと、虹色に光る水面に向かって浮上する。



 **********



 13時34分、春晴カナタは病院のベッドの上で目を覚ました。


「カナタっ! 分かる?! 私、マキナ分かる?」


「……うん」


「――――良かったぁぁ…………」


 マキナの目から大粒の涙がたくさん流れ落ちる。

 他の三人も同じように涙を浮かべている。唯一ゴルダンだけは背中を向けて涙を隠していた。


「私、タイチさんたちに知らせて来ます」


「ああ。頼む」



 **********



「シャークが死んだ……か」


「申し訳ございません。これまで二度の責任を取って幹部の座を・・・」


「いらん。お前を解雇したからといって何になる。シャークが蘇るのか? 春晴カナタ共がすぐに死ぬのか? 否、あり得ん。それに、お前と同レベルの腕を持つ者はそう居ない。気軽に捨てようとは思わんな」


「――――! ありがとうございます! なんとお礼申し上げれば良いか……」


 横に立っていたジャイゴが口を開く。


「あ、だけど勘違いはすんなよ。無罪放免って訳じゃないから。予算、少なからず使ってるし」


 その他の話を終えて玉座の間を後にする直前、スピカは「最後に」と魔王に呼び止められた。


「もうすぐデイノケイルスが戻る。新たな手駒を連れてくるそうだ。だからな、また強化改造を頼む」


「お任せください!」


 スピカが向き直って膝をつくと、扉は閉まった。

 その直後、魔王は咳き込み、勢いよく吐血する。


「魔王様。やはり調子が……」


「あぁ。中で()が暴れている。終わりが近いのかもしれん」


 再び青い血を吐く。咳と目眩が止まらない。


 ――――もし、この身体が奪われようものなら、本当の意味での終末が……やってくる。



 **********



 「後処理はこっちで色々するから。安心して帰ってください」


 既に日が半ば傾いている頃。検査を終えて退院の準備を進めているカナタに、マコトが話しかけた。


「うん、ありがとう。もう一回聞きますけど、最後の戦いでの民間の被害は0だったんですよね?」


「ああ。何とかね」

 ――――騒ぎを聞き付けて押し寄せた人たちで一波乱あったことは、別に言わなくてもいいか。


「よし。準備も終わりましたし行きましょう。みんなが下で待ってる」


 二人は並んで病室を後にした。



 **********



 一階の待合室には、セルア達と両親、JNIAの三人が待っていた。


「お疲れみんな」


「そっちこそ。ったく、心配させやがって。目が覚めたら『カナタ(お前)が意識不明になって病院に運ばれた』って聞かされたもんだからさぁ」


 あの戦いに往く前、『決闘のことを二人に離したら絶対に止められる』と踏んだカナタは、ラーシャに頼んでタイチとサユコを眠らせていたのだ。


「ごめんって。それ聞くの三回目だから」


「それにだぞ、母さん泣きじゃくってたんだからな。この罪は重いぜ?」


「分かった分かった。ここに溜まっても迷惑だし、出ようよ」


 病院を出て、"後始末"のために箱根へ戻るJNIA一行と別れ、タイチに先導されるように西へ向かって歩きだした。


「それでだけど……俺らどうやって帰るの?」


「安心しろ。18時に小田原駅発のバスとった。一時間あるからボチボチ歩けば着くぜ」


「新幹線じゃないんだ」


「ギリ今日から事前の予約必須期間だったからな。それがなきゃ新幹線選んでたよ」


「あ~それね、CMしてたやつ。なら仕方ない。で、今何時だっけかな……っと」


 指紋認証でスマホを開き、目に入った時刻にカナタは目を丸くする。


「あっ、あのみなさん、コレヤバいです」


「何がヤバいの?」


 マキナが聞いた。


「現在時刻『17:45』です!」


 カナタは振り返って、マキナのイラストと共に時刻が映るスマホのロック画面を見せる。


「うわっ! しまった!!」


 その事を聞いて慌てて予約画面を確認したタイチは頭を抱えた。


「やっぱり私のこと好きだよね……?」


「……なるほど。そういうことなら走ろう、みんな!」

「「「応!!!」」」


 その一声で四人は一家の前から風のように姿を消す。気付いた頃には数百メートル先を走っていた。


「は? 速っ」


「人に気をつけてねーーー!!!」


「待てお前ら! 俺がいねぇとバスは乗れねぇっての!」


「取り敢えず私たちも走りましょ」


 一家も彼らを追って走り出す。

 だが、乗り場のある駅前まで直線距離で約二キロ。実際の道に直すとそれ以上ある距離だ。並みの走りでは到底間に合わないだろう。


「待って……足、足痛い。18時のはキャンセルして次の取ろうよ」


 走り出して500メートルもいかないうちに、カナタの口から弱音がこぼれた、


「あーマジで悪かった。でもキャンセル料かかるし次のは21時だし無理だ!」


「……分かった。かくなる上は……」


 カナタは二人を家と家の間の細い道に連れ込んで変身。二人を背負って空へ飛び上がった。


「嫌っ。飛んでる!!」


「ほーら、俺にくっついてろ。怖くない怖くない。俺とカナタを信じろ」


 コスモの背中に乗ったタイチは、同じく乗ったサユコに腕を回してしっかり抱き止める。


「ありがとう。あなた大好き」


「俺もだ」


「息子の背中でイチャイチャしないでー!!」


 コスモは家や雑居ビルの上を飛び回って、小田原駅に向かった。



 **********



「来た。タイチさーん! ここです!」


 小田原駅の東口にあるバスロータリー。

 一足先に到着していたセルアは、遅れて走ってくるカナタたち三人に手を振る。


「やっと着いた……」

 退院したてにも関わらず、なんやかんやで一番動いたカナタは息を切らしながら立ち止まる。


「よし。全員いるな。じゃあ帰るか」


 運転手に予約画面を見せたタイチを先頭に、彼らは家へ帰るためのバスに乗り込んだ。



 **********



 「はい……はい……いや、ですから残りの処理は我々伊豆地域の者達にお任せください」


 同じ頃、芦ノ湖畔の神奈川県道75号線を歩きながら、雨宮はマコトと通話していた。


「はい。後は本部から正式な増援を待ちますので。では失礼します」


 電話を切った雨宮は、前後左右に誰も見ていないことを確認し、森に足を踏み入れた。


 200メートルも歩けば、探していた物は見つかった。それと同時に、彼のスマホに非通知の着信が入る。


「はい、雨宮です。たった今見つけました。……はい。ええ、所定の場所にきっちりと。そちらも報酬お願いしますよ? ……今後ともご贔屓に、ターヴォさん」


 電話しながら雨宮が拾い上げたのは、あの時シャークから分離した赤黒く輝くデーモンコアだった。

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