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3-10 ファイナルシャーク②

 箱根山一帯を封鎖したJNIA。付近には警備用ドローンを飛ばし、本部から要請した補給人員を各所に配置、最新鋭の装甲車での見回りも行う。


 マコトとレイカはというと、共に元箱根で警備に当たっていた。


「雨も風も強くなって来たな……」


 赤い誘導棒片手に、レイカはレインコートのフードを押さえる。


「そのせいでか知らないけれど、箱根本宮周辺のドローンのカメラが軒並み繋がらない」


「破壊されたのか?」


「可能性は五分五分と言ったところだな。奴ら側の勢力による破壊か、接続不調での切断か。なんにせよ・・・」


 言いかけたその時、二人の耳に通信が入る。


『こちらS―-05。緊―事態h―生!』


 周辺を巡回していた装甲車から入電。雨の影響か、ところどころで言葉が途切れる。


「こちら月海。SD-05……いや雨宮さん。何があった?」


 装甲車に乗っていたのは、JNIA伊豆半島駐在調査員の雨宮だった。


『正―不明の生物に、屋―を叩かれて―す! 至―救―を―――――――・・・』


 ついに通信が途絶えた。


「釘原、SD-05の現在位置は?」


「芦之湯近くの国道1号をこっちに向かって来ている。行くぞ」


 二人は車に乗り込み、作戦本部が置かれた元箱根集会所を出発。木々に囲まれた国道1号線を北上する。


 しかし、別荘エリアを過ぎた辺りでSD-05のGPS反応が消滅した。


「ウソだろ……消えやがった。」


「さっきまでの位置とスピードで推測できるだろ」


「確かにそうだな。やってみる」


 レイカはタブレットを叩き、SD -05の進行位置を計算する。


「――――出たぞ。場所は……マズい釘原、避けろ! 前だ!」


「えっ」


 雨の降りしきる闇夜を、車のハイビームが照らす。その時照らしたのは、コントロールを失った装甲車。


「マジかっ――――!」


 次の瞬間、二台の車は勢いよく衝突。二人の乗る座席はエアバッグで敷き詰められた。


「生きてるか?」


「あぁ。なんとか……」


 JNIA、箱根において二度目の自動車事故。これで今回の事件での損害車両は計四台にのぼった。


 二人は横転した車から這い出て、もう一方の車両に近づく。勿論拳銃を構えながらだ。


「無事か!?」


 マコトが叫ぶ。しかし、返事はない。


「おい、大丈夫か!? 返事をしろ!」


 続いてレイカが叫んだ。すると、横転したSD-05が揺れ、その影から勢いよくシャークが飛び出してきた。


「なんでここにいるんだ! カナタくんたちと戦っているはずじゃないのか!?」


「フヒッ……フヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」


 不適な笑みと鋭利な牙を浮かべながら、シャークはゆっくりと二人に近づく。

 奴の猛攻に備えて、レイカは警棒を展開して構えた。


 その時、北西の空が光った。


 気を取られて余所見をしたその隙に、シャークは襲いかかる。

 だが、レイカは牙を警棒で受け止め、もう片方の手に持っている警棒でシャークを殴打する。

 蹴り飛ばし、警棒二本で交戦開始。マコトも慎重になりながらも発砲してレイカを援護する。




 それから1分ほど戦った後、シャークは不意に動きを止め、全身を震わせた。


「……なんだ?」


 謎の状況に、マコトも拳銃を下ろす。


「ウググッ アググッ」


 ――――イカねば


 シャークは北東方向にある森の中に向かって走り出した。


「待て!!」


「月海。先に雨宮さん達を助けるぞ」


「……だな」


「雨宮さん、津久呼(つくよ)さん、大丈夫で……」


 横転したSD-05の方を振り返ったマコトは絶句した。車体からはガソリンが漏れ、壊れた部品が火花をパチパチと散らすその隣で、彼らは気を失っていたのだ。


 ――――マズい。このままでは爆発して……!


 同じことをレイカも察知したのか、二人は同時に走り出す。


 SD-05に乗っていた雨宮を引っ張り出し、車から投げ出された津久呼の肩を持って引き摺り、事故車両郡から距離を取る。


 3mほど離れたところで、ついに火花がガソリンに引火、爆発した。爆発の範囲ギリギリにいたマコトは背中に爆風を浴び、抱えていた雨宮と共に前に吹き飛ばされた。


「おい、大丈夫か?!」


「なんとか……」


 地面に座り込んだ状態で、マコトは燃え盛る二台の車両に目を向ける。


「救助呼ぶか」


「消防もな」



 **********



 熾烈な戦いの続く山中。カナタvsシャークの一騎討ちから、セルア達も正式に交えた五人vsシャークのレイドバトル方式に変更され、両者一歩も引かぬ状況である。


「Flammae iaculator/火炎放射!」

 ――――これで三回目。三回目の大成を願うばかりね……


 シャークは弱点の一つである炎に包まれる。しかし、結果は火傷を負った程度で奴にとっては無傷同然であった。


「なんで効かねぇんだ! よ!!」

 ――――古式武闘術七番:上飛大殴撃


 これでも、やはり与えることのできたダメージはそこまで多くなかった。


「効いてねぇって訳では無さそうなんだけどな」


 ラーシャは再び『status/ステータス』での視認に挑戦する。


「ぼんやりとしか視えませんが、奴の体力、攻撃力、素早さは先のジョンソンとほぼ同等。ですが防御力はそれなりに上回っているようです」


「固いだけなんだ」


「固いというより、軟らかくて攻撃が吸収されるような感じだ」


「あ~軟骨魚類だからかな。コイツに関係あるかどうかは知らんけど」


 シャークは木々の間を蛇腹型をつくるように蹴って移動し、奥の真ん中にあった木を一段強く蹴り、体を丸め、ローリングアタックの姿勢をとって飛んでくる。


「鮫肌デスロール」


「山陰か!」


 ツッコミながらコスモは避けた。


『サメのカイジンがワニのワザをツカったことと、サメをワニとヨぶサンインチホウのことをかけたつっこみですね!』


「解説要らないから」


 その時、遠くから「ご本体ー!!!」と叫ぶ声が聞こえた。その声は途切れることなく、こちらへ近づいてきている様子。

 声の正体が茂みから姿を現した。またもやシャークの分身体で、奴もまた本体の首もとに融合し、「ミツマタノサメ」状態になった。


「また増えた!」


「今度は『トリプルヘッド・ジョーズ』? 勘弁してよもう」


「これが! 俺様の真の力の姿だ」


「へぇ。何度強化を重ねようが、俺たちは勝つぜ。お前によ」


「悪いがお前達は()()()だ」


 その時、シャークは勢いよく飛び出し、地面に潜る。五人の周りをとてつもない速さでぐるぐる回った後、コスモの真下から飛び出て彼を腹パン。上空へと吹き飛ばし、シャークも後を追って飛び立った。


「カナターっ!!!」


 空高く打ち上げられたコスモは、身動きがとれぬまま何度もシャークに殴られ、蹴られる。


「うぐぅっ……ニール、この装備って空飛べる?」


『トべますよ。ハンジュウリョクしすてむサドウ!』


 その掛け声で足の裏の機構からエネルギーが発され、コスモは宙に立った。


 ――――どこ行った?


 シャークを見失ったコスモは辺りを見回す。

 

 来た。真下から拳を付き出して、顎を狙って昇ってくる。

 

「危ねっ」


 顎狙いならば頭を後ろに傾けてしまえばいいのだ。

 攻撃を外してもまたすぐに息も吐かぬ速さで攻撃が飛んでくる。


「はい。はい。ほっ。これでも喰らえっ!」


 弾いて弾いて避けて回転蹴り。


 ――――空気中のチリや原子、水分を『液状化』させて固めて浮いてるのか? いやでもそれ可能かな?


 そんなことを考えていたその時だった。マキナが丸太にしがみついて空に上がってきた。


「私がここから援護するから、頑張って!」


「分かった!」


「邪魔が増えたな」


 こうして、天空は二対一の構図になった。


 ここからは解説する間も言葉を発す間もないほど激しい戦いが幕を開ける。


 スピードアップした撃ち合い。木々が生い茂る山肌に近い場所では、引っこ抜いた木を使用して『液状化』からの『凝固』で、お馴染みのトゲ球攻撃や、文字通り「魚雷」な鮫型ミサイルでの攻撃が行われる。

 だが、コスモが避けるかマキナが撃墜するかで、シャークの攻撃全てを防ぐことには成功していた。


 だが、突如として事件は起きる。

 マキナが気を失い、立っていた丸太から落下したのだ。


「マキナ!」


 ――――計画通り。



 ~~~~~~~~~~


「これをやろう」


 二度目の強化改造を終えたシャークは、スピカから一つの瓶を受け取った。


「これは?」


「『火山ガス』と呼ばれる高濃度の有毒ガスを調合したものだ。奴らも油断さえしていれば通用するだろう」


「ほぅ……」


「もしかすれば箱根でも取れるかもしれん。足りなければ現地調達してくれ」



 ~~~~~~~~~~



「本とウニ役に立つとはな! 死ね! 魔術師女!」


 そう言い捨てる声を背中で聞き、為す術なく落ちてゆくマキナを助けるべくコスモは向かう。


「なんで急に……!」


 落下しながら空を泳ぎ、なんとかマキナの手を掴み、抱えることができた。が、今度はコスモの反重力システムが上手く作動しなくなり、浮けなくなった。


「なんでっ!? ニール!」


『モウしワケありません。えねるぎーのゲンカイです』


「ウソ、そんなのあるの!?」


「ザコがよ」


 不意の失敗を嘲笑するその声を耳にしたコスモは上を振り向く。

 すると、シャークが上からパンチを構えて迫ってきた。


 ――――ヤバっ


 避けきれない。このままでは二人共々地面に勢いよく叩きつけられるだろう。


 ――――考えろ俺。普段の勉強で培ってきた思考力をフル回転に……


 その時、下の方に気配がした。狙われていない筈なのに身を震わせてしまうほど、冷たくも熱い、押し潰されそうなほど"強い"オーラ。


 マキナをこの危機から脱させる方法が、カナタの脳内を貫いた。

 コスモは抱えていたマキナの体を、その気配の方向へ向かって投げた。


「セルア! ()()()!!」


 気配の主であったセルアは飛んできたマキナをしっかり抱き止め、剣先を空へ斜めに向けて唱える。


「Ebrius et confusus/酩乱」


 剣先から発された目に見えぬ魔術は、シャークを直撃。それによって「こんらん」し、自らの周囲を常に『liquefactio/液状化』させている状態になった。


「なんだっ! この状態は゛ぁ゛っ゛」

 ――――魔力が制御できない!


「お前はここで死ぬんだよ」


 僅かに残っていた最後のエネルギーを使って、コスモはほんの少し上へ飛び上がり、シャークを押さえつける姿勢をとる。


 そのまま地面へ落下するも、『liquefactio/液状化』の影響で下へ下へと沈んでゆく。

 数キロメートルも沈めば、マグマによる地熱はコスモのスーツ越しでも耐え難いものになっていた。


『カナタサマ! これ以上は危険です!』


「分かってる! だけど、ここで殺らないと!」

 ――――殺らないと、関係無い人まで死んじゃうから。


 コスモはより一層強く押さえつける。


「ぅっ、あああああああああああああああああ!!!!!!!!」


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ア゛ア゛ア゛!!! ア゛ツ゛イ゛ィ゛ッ゛」


 一際熱に弱いシャークの体は、所々焦げ、塵になり始めていた。


 その時、シャークの体の中から赤黒く輝く物体が出てきた。その物体は上へ向かってふわりふわりと飛んでいく。


「――――! あれ、あの時の!」


 カナタの脳裏に浮かんだのは、文化祭の戦いの時にポータルから伸びた謎の手によって、今見たのと同じ赤黒い玉がジョンソンに埋め込まれる瞬間のこと。


 ――――もしかしてアレが……


 その時だった。


「あれッ ここどこだ!? くらいッ、あついッ、いたいィッ!」


「いきなりどうした!?」


 なぜか先ほどよりも弱々しくなったシャークに、コスモは困惑していた。

 その困惑の声に反応したサメ男は上を振り向く。


「だれッ!? やめて! ころさないでッ! お、おれまだ、しにたくない!!」


「えっ」


 彼からは「敵意」というものが完全に消えていた。その上、「恐怖」し大粒の涙を浮かべていた。


 その事に気付いたコスモはとっさに手を離す。だが遅かった。

 サメ男の肉体は崩壊を始めたのだ。下半身から上半身へ、サラサラと粒子状になっていく。


「たす……けて……」


 その声と共に彼の肉体は完全に消失し、爆発した。

 

 それによって発生した衝撃波は『液状化』により液体と化した土や岩石を押した。巻き込まれたコスモの体には一気に力が加わり、吹き飛ばされる。

 いくらスーツがカナタの身体を守っているといえど、これには耐えきれなかった。


 内臓が押し潰されそうになり、視界が歪み、メットの内で鳴り響くアラート音やニコーラーの声も遠のいていく。

 そしてその全ての感覚が消えるのは一瞬だった。



 **********



 同じ頃。セルア達四人は、コスモとシャークが共に沈んでいったその場所で、カナタの帰りを待っていた。


「マキナちゃん、調子はどうですか?」


「良くなってきたわ」


 ラーシャの膝を枕にして横になりながら、マキナは解毒魔術で治療されている。


「まさか毒を使ってくるとはね。完全に想定外だったよ」


 その時、地面が揺れた。体感では震度3ぐらいだろうか。


「わっ。揺れた」


「ったく、こんな時に地震かよ」


 そのすぐ後だ。芦ノ湖の方向から低い爆発音がうっすら聞こえた。


「今の、絶対なにかありましたよね」


「念のためだ。行こう」


 四人は森を抜け、遊覧船が停泊する桃源台港のそばの砂浜に辿り着いた。


「爆発が起きたのはこの辺りか?」


「……あ」


 それを目にしたマキナは、思考が止まった。何が起きたのか分からなかった。なぜ、湖にカナタが浮かんでいるのか。


「Superficiem aquae congela/水面よ凍れ」


 マキナはカナタのもとまで一本の氷の道を作り出し、急いで駆け寄る。


「カナタっ! カナタ聞こえる!?」


 体を揺すって呼び掛けるが、返事は帰ってこない。


「退いてください。『発動:status/ステータス』……マズいです……カナタ君息してません!」


 全員の顔から一気に血の気が引いた。


「任せろ」


 前に出たセルアは剣を置き、カナタの胸に手を置いて胸骨圧迫を開始する。

 ラーシャも回復魔術で対応する。


「お、俺釘原さんたち呼んでくるわ!」


「頼みます」


 ――――三人はカナタを助けるべく現在進行形で動いているのに、私は一人何をしているの? 回復魔術が弱いから、もう既に誰かがやってるからって、ただ突っ立ってるだけ? 違うでしょ。私に、今、できること……


 次の瞬間、カナタとマキナ、二人の唇が触れ合った。

 ただし、これは単なるキスではなく人工呼吸。彼女は必死になってカナタの体に空気を送り込んだ。


「お願い、生き返って……頼むよぉ………」

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