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3-9 ファイナルシャーク①

 雨の降りしきる箱根本宮。階段を上った鳥居の手前でシャークは、腕を組み仁王立ちで待っていた。

 

 ――――まもなく12時間が経つ。春晴カナタの姿はいつ見えるのだ。



 **********



『じゃあカナタ、プランXを始めよう』


「うん。任せるよ」


 時を同じくして、行きの車内でラーシャに最大限の『status up/ステータスアップ』を施してもらい、マコトから連絡用インカムを貸与されたカナタは、雨に打たれながら決戦の地へ向けて足を前へ進めていた。


 その様子をシャークは遠目ながらに確認した。


「来たか」


 シャークは思い切り飛び上がり、カナタの文字通り目と鼻の先に着地した。


「そっちから迎えに来てくれたんだ。敵だけどありがとう」


「べっ、別にそんなんじゃないんだからねっ! あ゛っ?! なんだこれっ?」

 ――――マサか、先の改造のエイ響か?


「ツンデレシャーク(笑) 映画会社に持ち込もうかな。そしたらお前、きっとスターだよ」


「煩い、黙れ」


「ははっ、ごめんごめん。さ、約束の時間はもう過ぎてるし、そろそろ始めよ?」


 カナタは雨に濡らされた口角を上げ、余裕があるような、覚悟の笑みを浮かべる。


「そう、するとしよう」


 その言葉と同時にオーブリンクを行い、スライドを三回。大気中に待機音が響き渡るも、雨音がかき消していく。


『変身。』


 右腕を真横に伸ばし、トリガーを引く。今回の変身は、いつもよりエフェクトも変身音も力強く感じた。


 カナタの変身完了を確認した瞬間、シャークは息も吐かせぬ速さでコスモに襲いかかる。


 ――――危ないっ! 


 その時、右腕が顔を守るように動いた。カナタが意識しないうちに、だ。


 …………今の、何?


 コスモはステップで後ろに下がる。


「ねぇニール、何今の? なんか勝手に腕動いたんだけど」


『フッフッフッ、よくぞキいてくれましたね! これこそがセントウホジョAIであるワタシのシンのキノウ、その名も『オートガードXX(ダブルクロス)』です! ヤスんでいるアイダにトりモドしました! イマならふるぱわーをハッキできます!!』


「マジかよすげぇじゃん!」

 ――――あれ? オートガードってセルアと被ってね?


『へへっ。 あっ、ミギふっくにキをつけて!』


 その瞬間、ニールの助言どおり、右フックがコスモの頭めがけて飛んできた。だが、コスモはしゃがんでちゃんと避けた。


「助かった! その調子で頼むね」


「おマカせあれ!」


 両者一歩も退かぬ打ち合いが幕を開ける。


 攻めては防ぎ、避けては攻めてを繰り返し、互角の戦いが繰り広げられる。


 ――――このままジリ貧になるのは嫌だなぁ……


 コスモは2ステップ後ろに下がり、トリガーを三回『チョウ・ヒッサツ/ショット・フィニッシュ・ショット』を放ち、シャークを中心に爆発的が起こる。


「やっぱり必殺技というより単なる大技だね。これからも使お~」


『レンパツはできませんよ!?』



 **********



 一方その頃、ロープウェイ乗り場の建物の上にマキナとゴルダンは待機、カナタの戦いを観察していた。


「おー。カナタよくやってるじゃねぇか」


「ね。今まで三回カナタの戦いを見てるけど、今回のが一番激しいわ」


「それに、『魔力持ちとの戦闘には魔力で対抗しろ』ってのが異世界人(俺ら)の一般常識なところを、魔力ほぼ無しな以前に魔力に適応してねぇカナタが、あのレベルと互角に渡り合えてんのってハッキリ言って異常、才能アリどころの話じゃないぜ」


「魔力云々のこと、ゴルダン分かるの!?」


 マキナの目は、いつになく丸くなる。


「魔術なるべく不使用主義の俺でも、それくらいは魔術教育受けてっから知ってるっての」


『とはいえ、何か別の力を用いて戦っているようですが……』


 マキナの左手に握られたスマホから、ラーシャの声が聞こえた。しかし、その直後に『すみません』と言われ、声が聞こえなくなった。



 ~~~~~~~~~



 セルアとラーシャは本宮裏の森に待機、というより何かから身を隠しているようだ。


『あれ? ラーシャ、どうしたの?』


 急に声が途絶えたラーシャのことを心配したマキナの声が、グループ通話越しに届く。


「代わった。すまない、近くに魔王軍(やつら)の偵察用小型モンスターがいてね。二人も気をつけて」


 木の影から体を出したセルアの目線の先には、血のような紅色の、まるで眼球のようなモンスターが浮遊していた。


『うん、



 ~~~~~~~~~~



    わかった。ありがとう」


 そう言った途端、マキナは自信の体が揺れる感触に襲われた。それがゴルダンによるものだと気付いたのはすぐだった。


「何? 揺らさないでほしいんだけど……」


 後ろを向いて青ざめているゴルダンの顔が見えたので、マキナも後ろを振り返る。


 するとそこには、血のような紅色をした眼球のようなモンスターが浮遊していた。


 見つかった事実を悟ったマキナは、絶望と猛省で言葉を失った。

 次の瞬間には、眼球は横向きに裂け、牙が乱雑に生えた口が露になり、そのまま警報音のような大声を発した。その声は箱根中に響いていく。



 **********



「何の声!?」


「どうやらお仲間が見つかったようだな。一騎討ちを宣言しておきながら仲間を連れ来て、挙げ句()()()()とは、どこまでも卑怯で無様な男だな」


「どうせそっちも偵察要員連れてきてたんでしょ」

 ――――あ゛ーっ! プランXがぁーっ!!

「もうおあいこでいい、じゃんっ!」


 その声と同時にコスモは上段蹴りを繰り出す。顎に入った。続いてもう片方でも……しかし、それは体に触れる直前に防がれた。コスモの左脚は180度半円を描くように回され、腹に重たい一撃。


 でも、コスモはこれしきでは折れるヒーローではない。

 彼は再び駆け出す。右、左、右、シャークの体に撃ち込む。少し怯ませたところでシャークの体を上下逆さまに抱え上げて脚をがっちり掴み、その状態から勢いよく座り込んでシャークを頭から地面に叩きつける、パイルドライバーが決まった。

 その際コスモは地面に力一杯、ねじ込むように押し付けた。


 シャークの体は、足だけが出た状態で地面に突き刺さっている。


「意図せず『犬神家の一族』になっちゃった」


 だが気絶しているというわけでも無さそうで、『liquefactio/液状化』で復帰されるのは時間の問題だろう。


 ――――金的でもしとこっかな。でも先に連絡連絡……っと。


「セルア。プランX 潰えたからプランYに変更で」


 そうニコーラーの通信機能越しに呼び掛けるも、向こうからはノイズ音が聞こえるばかりだ。


「あれ? セルア?」

――――何かあったのかな?


 コスモはふと上を見る。やけに大きい羽音が聞こえたからだ。

 しかし、よくよく見てみると、羽音を出していたのは翼の生えたデーモントルーパーだった。


「何あれ気色悪り」


 彼らの向かう方向にも注目してみる。すると、彼らはマキナとゴルダンが待機している建物の上に群がっていた。


「嘘でしょ。何が……!」


 コスモはシャークのことは一旦置いておいて、マキナ達の助太刀へ向かう。しかし、走り出してすぐに目の前にシャークが地面の中から現れた。


「どこへ行こうと言うんだ。仲間が不安か?」


「その通りだよ!!」

 ――――どけよ、そこ!


『チョウ・チョウ・チョウ・ヒッサツ!』 


 コスモは後ろ向きに大きく飛び上がり、


「ハァーッ、ハッ!!!」


 チャージが完了したチェンジャーのトリガーを、怒気を込めて引く。


『ショット・フィニッシュ・ショット・フィーバー!!!』


 シャークの体は爆散し、彼の頭部のみがコスモの足先に落ちた。


 「あっさり……殺れちゃった……?」


 そんなことを考えすぎている場合じゃない。コスモはマキナ達二人がいる建物に向けて跳ぶ。


「まだ……まだ、だ……――――――――」


 肉体と断絶されたシャークの頭は、事切れる寸前に不敵な笑みを浮かべた。



 **********



 「Congelare/凍れ。fulmen/雷撃。Fluctus aquae asperae/荒波水流……」


「古式武闘術五番:回転脚撃!」


 持ち前の魔法と武術で、襲い来るウイングデーモントルーパーを撃退し続けるマキナとゴルダン。しかし、倒したらまた新しく召喚されるというループに陥っていた。


「もぅ! いつまで出てくるのよこいつら!」


「埒が明かねぇぜこれ。セルアたちはまだ連絡つかねぇのか?!」


「まだだめよ。かけ直そうとしても繋がらないわ」


 ――――万事休す、まではまだ流石に余裕があるが、このままジリジリ削られるか……もうスポドリも残り少ねぇ……!


 いや、諦めるな。勝つことだけを考えろ。戦士、ゴルダン・クロルド!!


「古式武闘術十一番:四八超だ・・・」


 そう言って攻撃に移ろうとしかけたその時、空からウイングデーモントルーパーの頭を次々撃ち抜きながら、コスモが現れた。


「二人とも無事?」


「うん、助かったわ。シャークは?」


「なんか知らないけど、ジョンソンを倒した時の必殺技であっさり倒せちゃった。それでだけど、そっちはセルア達に連絡つく?」


「いや、無理だ。さっきからマキナが何回もかけ直してるが、一向に繋がる気配がない」


「――――なるほど。じゃあ俺はそっちを・・・」


「私が行くわ。万が一、セルアがやられているってなると、相手はとても強いはず。カナタは奴と戦った直後だし、疲れてるでしょ?」


「了解。任せるね」


 するとその時、どこからか引っこ抜いてきたであろう丸々一本の木を、ウイングデーモントルーパーがマキナに向かって投げつけた。

 

「ナイスデリバリー!」


 それを華麗に避けたマキナは、携行しているスポーツドリンクを一口飲み、口を開く。


「ぷはっ。『発動:volatus intermediarius/媒介飛行』」


 その言葉で、彼女は投げられた木と共に空へ飛び出した。サーフィンのポーズでバランスを取りながら。


「気をつけてねー!!」


 見送るコスモも、敵をさばきながら手を振った。



 **********



 セルアとラーシャが待機しているはずの森の少し手前で、マキナは地面に足をつけた。


 ――――この先に二人がいるはず。お願い、無事でいて……


 人工の明かりはもちろんのこと、月の明かりも雲が覆い隠す暗い森の中を進む。

 70mほど進んだところに斜面があり、マキナはそこを駆け降りる。


「Visio nocturna/暗視」


 200mあるともなれば足は疲れるしそれなりに勢いもつく。平地に差し掛かる直前で斜面を蹴って、平地にローリング着地。すると、背中に生温かい液体が触れた感覚がした。


 ――――えっ……?


 最悪の状況を思い浮かべながら、マキナは振り返る。そこにはぱっと見では分からないが、何かが溜まっていた。吐き気を催す鉄の匂い、そして先ほどの生温かい感触から、十中八九血液溜まりであるとマキナは判断する。


 しかし、「最悪の状況」には至っていなかったようで、死体はおろか、引き摺られた血液痕は確認できなかった。


「無事……とはいくらあの二人でも言い切れなさそうね」


 駒ヶ岳と箱根山の間のV字の谷。ハイキングコースとなっている山中を、二人を探して駆け回る。


「セルアー! ラーシャーっ! いたら返事してー!!」


「――――うーん……うーん……」


 マキナが叫んだすぐそばから、男の呻き声がした。


「あっ、大丈夫ですk……ってセルア! 大丈夫?」


「うーん……アレを……スポーツドリンクを……」


「なるほど魔力切れと……ひどい傷ね。私の飲みかけでよかったら、はい。肉体回復/Recuperatio corporis。弱いけど我慢してね」


 スポーツドリンクを手渡したマキナは、両手を突き出してセルアの傷口をじわじわと癒していく。


「ありがとう……」


 蓋を開け、セルアは一気に五口喉に流し込む。


「あ゛ぁ゛~……はぁ。生き返ったよ」


「良かった。ラーシャは?」


「今もどこかで戦っているはずだ。死んでいなければ……」


「もう! 縁起でもないこと言わないでよ!」


 刹那、轟音と共に空を一本の白い光が貫いた。


「今のって……」


「ああ、きっとラーシャだ。位置は補足した、行こう」


「うん」


 二人は、光が見えた北西方向へ向かって走り出した。



**********



 時を同じくして、ラーシャ。「radius clarus/ブライトビーム」を撃ち終えた彼女は、長い杖を両手で持って、息を切らしながら呆然と立ち尽くしていた。


 ――――ハァ……ハァ……なんで……


「なんであなた、生きているんですか!!!」


 彼女の目線の先。そこには、先ほどカナタが倒したはずのシャークデーモンと全く変わらない存在がいた。


「何度も言わせるな。お前と俺とじゃ力量の差が大きすぎる、それだけだ」


 ――――確かに、()()()()()にはまともに『status/ステータス』が反応しませんね。


 彼女の眼に見えている「status/ステータス」の画面には、全体的にモザイクがかかったようなものしか映っていなかった


「そういうことだ……よ!」


 全身どこにも力が入らない。このまま、奴の拳に潰されて終わってしまうのだろう。


 「(おわり)」の文字がラーシャの脳内を何度も横切っていく。


 ――――ごめんなさい……仇、討てませんでした。


 もう大人しく受け入れてしまおう。彼女は目を閉じた。


「危なーい!!」


 今にもラーシャの顔面に到達してしまいそうだったシャークのヒレ拳を、横からコスモが片足で蹴り飛ばす。


「カナタくん!? 生きてたんですか!?」


 彼女たちのところへシャークが襲い掛かって来たとき、奴は確かに「春晴カナタはたった今殺した」と言っていた。実際、その言葉は何度も頭の中で反響したし、セルアも激昂して剣を力一杯振った。


「勝手に殺さないでよ! ここは一旦下がってて」


「はいっ」


 遠くからゴルダン、セルア、マキナの声も一緒に聞こえてくる。

 

「やっぱレイドバトルになっちゃうか」


 スポーツドリンクと回復魔術で調子を取り戻したラーシャも加わり、彼ら五人は横一列に並び立った。


「まず聞かせて。なんでお前生きてんの?」


「……こういうことだ」


 シャークがパチンと指を弾く同時に、彼の後ろ茂みが揺れた。次の瞬間、揺れの正体が姿を見せる。


「シャークの頭? 俺がさっき倒した時の」


 最初に見せたのは首から上だけ。続いて下半身も茂みの中から登場する。


「いやちがうわ……アマリタウロスの、亜種?」


 アマリタウロス・・・ケンタウロスとは対をなす、上半身が馬で下半身がヒトの、ファンタジーワールドに出てくるユニークなモンスター。詳しい見た目は『ケンタウロス 余り』等でググってほしい。


 それの「上半身(頭?)がシャークデーモン」バージョンが、コスモ達の前に姿を見せたのだ。


「は? は? どういうこと?」


「よく頑張ったな」


 アマリシャークタウロスを抱きかかえたシャークデーモンは、それを自らの首元に押し込み、融合させた。その見た目は、さながら「フタマタノシャーク」といったところだろうか


「何あれ。『ダブルヘッド・ジョーズ』のつもり? 流石にキモい……」


「より化け物らしくなったじゃないか。どんなカラクリを使ったんだ?」


「簡単な話。再び改造を施していただいたワケだ。この姿なら……より、魔王様のご要望にお応えできてしまうぅぅぅぅぅぅ!!!!」


 シャークは狂ったように空へ咆哮を響かせた。戦いが始まろうとしている山内はおろか、箱根全体に死や絶望への恐怖を孕んだ空気が伝播してゆく。


「しぶとい奴だなぁ」


 コスモは耳を塞ぐジェスチャーをしながら前へ出る。


「仕切り直そうよ。そしてこれが、最後の戦い。ねっ」

【今話のTopic】

現実世界のことわざや故事成語と似たような言葉は、ほぼ同じ意味でファンタジーワールドの世界にも存在する。

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