3-8 鮫を倒すには
旅館に戻ったカナタたちは、回復魔術での手当ての後、セルア達が寝泊まりした方の部屋で地図を広げて作戦会議を始める。
「まずは時間と場所を確認しよう。時間は今日の深夜0:00、場所は箱根元宮、であってるね」
「うん。そこに俺が一人で行って、アイツを倒す」
セルアはマーカーペンでその場所を丸で囲み、時刻を記入する。
「やっぱり本気なのね……」
「こうするしかないんだよ、多分。無関係の人達が無抵抗に殺されていくよりかは……ね」
「――――。カナタの覚悟についてはよく分かった。その上で僕たちもサポートはさせてもらうつもりだ。勿論、バレないように」
「とすると、火力の強い攻撃は無理そうだな。それに近接攻撃がメインの俺とセルアの直接的な参加は難しいか。出来てカナタがピンチになった時の助太刀くらいだな」
「まあそうなるよね。考えられる策としては……ラーシャの『status/ステータス』で俺の力を最大限に強化して、マキナとセルアが時たま遠隔で魔術攻撃、ピンチヒッターは全員で。ついでに釘原さんたちに周辺を封鎖してもらおう」
その時、部屋の襖が開き、マコトが顔を出した。
「言われなくてもそうするつもりだ」
一言だけ言い残して、襖を閉じる。「トイレ借ります」との声が聞こえたのでトイレに行くのだろう。
「……ああ。これで俺たちにできそうなのは以上かな。じゃあ次はシャークの攻略法についてなんだけど……実際に映画見た方が早そうだし、見るか! 『シーシャーク・ウォー』」
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カナタのスマホに寄り集まり、飛ばし飛ばしで映画を見始めて30分。海中サメ人間の秘密について語られる、物語において一番重要なシーンにたどり着いた。
「主人公の家の中にサメ人間の兵士が入り込み、主人公は息子と共にタンスの影に隠れている」というシチュエーションである。
『いいか、マイケル。何があっても絶対にここを出るな』
『でもパパは……』
『パパは大丈夫だ。何があっても死なないし絶対にお前を迎えに来る。だから、いいか? 絶対だぞ』
そう言い残した主人公はタンスの影を、部屋を出て、廊下で捜索する兵士たちに『おい! こっちだ!』と叫んで走り出す。
誰もが思うとおり、兵士たちは主人公を追いかける。階段を下り、玄関から外におびき寄せようとドアノブに手を掛けようとしたが、すぐ横にあった窓からこちらへ向かってくる別の兵士が見えた。外へのルートをガレージに変更した主人公は再び走り出す。
ガレージに到着した主人公はドアノブに手を掛ける。しかし、ドアは外から開かれ、入ってきた一人の兵士が主人公を取り押さえた。
『ココマデ、デアル』
三ツ又の槍を向けられて押し倒され、絶体絶命の状況となった。主人公は「クソッ、どうすれば…」というような目で付近を見回す。少し離れた場所で見つけたのは火炎放射器だった。
兵士の腹を蹴ってその場を脱した主人公は火炎放射器のもとへ走って向かい、手に取る。
『ウオオオオオオオオ!!!』
という雄叫びとともに火炎放射器のトリガーを引く。火だるまになったかと思いきや、三秒も炙らないうちに兵士の肉体は粒子状になって消滅した。
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「見た?」
カナタは再生を止めて聞く。
「うん、見た。火を浴びせたらすぐに消滅したわよね?」
「そう。この海中サメ人間たちは『熱さ』が弱点なんだ。後のシーンでもしっかり明言されてるから間違いない」
「なるほど。『熱』ですか……それなら、私が体得している『Port/ポータル』でマキナちゃんの炎系魔術を遠隔発動させる罠で、奴を火炙りに……というのはどうでしょうか」
「ありだけれど、奴は魔王軍による改造を受けている。並みの魔術で倒しきれるのか、という懸念は残ってしまうな」
「そこでなんだけど、」と、カナタは挙手をした。
「俺たちがいまいるこの『箱根』って場所は、元々火山なんだ。昨日行った大涌谷の煙も火山活動によるもの。火山ということは、地下には少なからずマグマ溜まりがあるはずだ。
奴の『liquefactio/液状化』を上手いこと暴走させて、そこまで沈めて、蒸し焼きか直焼きかにして倒す。これが俺の構想。確殺に限りなく近いんじゃない?」
「ほう。奇想天外な作戦を考えつくじゃねぇか」
「その作戦はアリとして、どうやって奴の固有魔術を暴走させるんだ?」
「そう、それが問題。酔わせる系の魔術って無いもんなの? ラーシャとかマキナとかさ、何か知らない?」
「思考・認知機能を短時間だけ麻痺させる魔術はあるにはあるけど……」
「確実に暴走させられるとは、言い切れないんですよねぇ」
「まじか……プランA潰えたな」
「Aってことは、他にもあんのか?」
「ある。今考えた。プランBは自爆覚悟で引きずり込む。プランCは温泉にブチ込んで茹で上げる。箱根は避暑地だし、時間帯のこともあるから外気温で倒すってことは無理かな。みんなだったらどっちが良い?」
四人は少しの間考える。
「やっぱり、一騎討ちである以上、カナタが安全な作戦が一番だと思うわ」
「同感だ。カナタが今挙げた二つは両方ともリスキーすぎる。悪いけれど、否定せざるを得ない。そ・・・」
その時、再び襖が開き、
「それにプランCは他所の人に迷惑がかかる可能性が高い」
改めてマコトも部屋に入ってきた。
「お腹の調子悪いんですか? 30分近く入ってましたし」
「諸々の対応に追われすぎて便秘気味だよ」
マコトも机に座ったところで、セルアは咳払いをして話を再開する。
「そこでだけど、こんな作戦はどうかな?」
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『何っ!? 春晴カナタと決闘だと!?』
時を同じくして、シャークは自らの体内に埋め込まれたデーモンコアを介して、スピカと通信を行っていた。
「そうだ。それにともなって肉体の改造を頼みタイのだが」
シャークがそう言っても、返事が返ってこない。しかし、通信の向こうでスピカが誰かと会話しているのは聞こえる。
『……すまない、それについては一時保留とさせてくれ。これから魔王様に代わる』
「魔王様……!」
『聞こえているか? シャークデーモン』
「はい、聞こえております魔王様。貴方様のお声を再び聞くことができて、俺様は幸せです。生まれつき親もおらず、言語を解すこともできず、周りの者たちからも出来損ない扱いされてきた、ザコだった俺様を救ってくださったご恩は一生忘れません」
『そうかそうか。作戦の方は順調か?』
「万事問題なく進んでおります。あと数時間もすれば、春晴カナタ"は"潰すことができるでしょう」
『春晴カナタ……ゴニンジャーの力を受け継いだあのガキか。それはそうとして『春晴カナタ"は"』とはどういうことだ? まさか、セルア・レイズ共四人は殺せないとでも言うのか』
「はい。互角に戦うことはできても、倒すというのは現時点では限りなくフカ能に近いです。だから俺様はスピカ様に肉体の再改造を依頼したのです」
『よく考えられているじゃないか。その調子だぞシャークデーモン。ということだスピカ。改造してやりなさい』
『はっ』
『それではす健闘を祈るぞ』
「お任せください」
通信が切られると同時に、シャークデーモンの目の前には『扉』が生成され、彼はその中へ消えた。
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時刻は23時30分。準備を整えたカナタたちは旅館を出発する。
「うわっ、雨じゃん。最悪」
「走ろうか」
「ですね」
四人が決戦の地へ向かって走り出した中、カナタは一人旅館を振り向いた。
――――必ず生きて帰ってみせるから、安心して待っててね、父さん、母さん。
そうしてカナタも四人に続いて走り出した。
このまま森を抜けて箱根本宮に……そう考えていた五人の背中を車のライトが照らし、クラクションが鳴る。
「君たち! 送るよ」
車窓から顔を覗かせたのはマコトだった。
「釘原さん! ありがとうございます。乗ります!」
車に乗ったカナタたちは、改めて箱根本宮を目指して進む。




