3-6 翌日のこと
年明け一本目。次も比較的すぐ出るかも。
時刻は午後9時前。カナタはタイチに抱きかかえられてホテルに戻ってきた。
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サメ怪人を捕り逃してから15時間弱が経った頃。日は既に高く上っているが、カナタの意識は布団の底に深く沈んでいた。
『じりりりりりりりりり! じりりりりりりりりり! オきてくださいカナタサマ! もうゴゼン10ジですよ!』
「うん………ニールって目覚まし時計の機能もついてたんだ……へぇ便利」
未だ夢うつつのカナタは、首飾りのオーブの部分を、まるで目覚まし時計を止めるかのようにポンポンと押さえる。
『これはトクベツさーびすです!』
のそりとカナタは起き上がり、目をゆっくり開ける。それと同時に昨日の出来事が凄まじい速さで頭の中を横切った。と同時に体の節々に激痛が走る。
「――――っ、痛たたたた……そこまで激しくは戦った覚えないんだけどなぁ」
――――みんなはどうしているんだろう
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浴衣から着替えたカナタは急ぎ足で一階のロビーに向かう。
道中、館内に見当たらないセルアたち4人に電話をかけたが、応答は無かった。
「あ、いた。父さん!」
「カナタか。おはよう」
「おはよ。それでなんだけど、セルアたちって今どこ?」
「あいつらなら一晩中箱根を飛び回って、今も帰ってねぇ。ラーシャは流石に大事を取って寝てるけどな」
告げられた事実に、カナタは衝撃と申し訳なさの混じった顔を浮かべる。
――――みんなが身を粉にして人を護ろうと頑張ってたのに、俺はぐっすり寝てたとか……
「情けな」
カナタは外へ向かって駆け出した。
「ちょっ、気をつけろよー」
タイチの言葉を背に、カナタは走りながらコスモに変身。地面を蹴り上げて空へ舞いあがる。
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数十分、箱根中を飛び回ったカナタは、箱根元宮のすぐそばでセルアたち3人と合流した。
「釘原さんたち曰く、水門の近くで泳ごうとしたダイガクセー5人と、酒に酔った男女、車で走っているところを襲われた男の、合わせて8人が昨晩のうちに犠牲になっていたらしい」
「そんな…俺も一緒に見回ってたら、減らせたのかな……」
俯くカナタにマキナが優しく声をかける。
「その可能性は低いわ、多分。即死だったみたいだし、その人たちが殺された時、私たちは毎回1km以上離れてた。言い訳がましいようだけど、奴が私たちのいない場所と時間を計算した上でやったと見てるわ」
「ああ。それに奴は魔力の漏出を限界まで殺す高レベルな魔術を体得していた。これは僕でも使うのに苦労する技だ」
「それを使っていたから見つかることはなかったということかぁ。なるほど…? それでなんだけど、俺、アイツの正体知ってるかも」
カナタの告白に、全員が目を見張る。
「それは一体?」
「『シーシャーク・ウォー』って言う90年代に作られた、海中サメ人間と地上に住む人類の戦いを描いた映画に出てくる、雑魚敵キャラクター。それに酷似してた」
「”シャーク”ってことは、ボルケーノシャークと関連のある作品なの?」
「いや、全然関係ない。同ジャンルなだけだし、あのB級とは違ってこれはガチの名作。同じサメ映画でもピンキリだから」
「映画のキャラクターが別世界に……か。人のこと言える立場じゃねぇ上に魔王軍が噛んでるようだが、あり得るんだな、そんなこと」
「うん。どんな原理でやってるのかは知らないけど、『刺客』ってことから考えて、ゴニンジャーの時と限りなく近い状況にはなってると思う」
その時、カナタのスマートフォンがポケットの中で震えた。
「あ、ちょっとごめん」
カナタはスマホを取り出して何の通知が届いたのか確認する。
――――インスタか。あ、スバルね。何を投稿したのかなーっと。
アプリを開いて一番上に出てきた投稿が、彼のアカウントのものであった。スクロールして目に入ったのは、「箱根」「ロケ」「1分前」の文字。
カナタの顔から血の気がみるみるうちに引いていく。
「カナタ、どうしたの?」
心配したマキナが声をかけた。
「マズい。親友が箱根に来てるみたいなんだ…………行ってくる」
――――向こう数週間の仕事が無くなったんじゃないのかよ…!
カナタは再び変身し、三人の前から姿を消した。
「ちょっと待ってくれ! 僕たちも行くぞ」
セルアたちも、空高くジャンプしながら移動するコスモを追うように駆け出した。
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時を同じくして、マコトとレイカは昨晩合流した超常現象対策課のメンバーと、箱根警察署の廊下を歩いていた。
「このメンバーで仕事するの、久しぶりっすね」
マッシュヘアの男、清水ユウヤが張りつめた空気にひと突き入れた。
「そうはいっても三か月だろ。俺達が二人で長野の宗教施設に潜入してた三か月間、あれは本当に応えたぜ」
「モツ、情報管理カリキュラムもう一回受けるか? 公共の場では誰が聞いているか分かったものじゃないぞ」
マコトに『モツ』と呼ばれて注意された、顎鬚の目立つ男は天童モトキ。
「釘原先輩、いい加減モツ呼びはやめていただけますか」
「やめてほしいならその口の軽さをどうにかしろ、モツ」
「月海先輩まで…」
「そうだぞー、モ ツ ヤ ン」
ユウヤの放った一文字一文字がモトキの胸に突き刺さってゆく。
「ユウヤ貴様!!」
モトキはユウヤをヘッドロックする。
「あーーーー悪かったって。ギブギブ!!」
その時、彼らが歩む先にある曲がり角のさらに先から、コツコツとこちらへ向かってくる足音が聞こえた。
「お前たち、そこまで」
争い続けるモトキとユウヤを、レイカがなだめた。
曲がり角から現れたのは、白衣を着たいかにもな学者の老人だった。周りには役所の職員と箱根警察の署長が付き添っている。
「キミ達が情報局の人間だね」
「はい。日本国家情報調査局、超常現象対策課より来ました釘原です」
「同じく月海です」
「清水です」
「モツヤ……ン゛ン゛ッ、天童です」
四人は順々に手帳を見せて名乗った。
「うん。ではそこをどいてくれないかね?」
「それはどういう……」
「キミ達が立っている真横の扉が、これから使う会議室なのだよ」
「「「「あ、申し訳ありません」」」っす」
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「いた。スバルーッッ!!!」
カナタは変身を解除して、箱根湯本駅前を芸能人と撮影隊と共に歩いているスバルのところへ走ってゆく。スバルもそれに気づいたようだ。
「えっ、カナタ? わざわざ会いに来てくれたn」
「今すぐ箱根から離れて!!!!!」
唐突に肩を掴まれてそう言われたスバルは、困惑を隠しきれない表情だ。
危険を察知した撮影クルーに、カナタは両腕を掴まれてスバルから離される。
「大丈夫です、僕の親友なので」
その言葉を聞いた撮影クルーはカナタを解放した。
「なにがあったんだ? 教えてほしい」
「昨日から何人も猛獣に襲われて死んでるんだ! だから今すぐ東京に帰って!」
「ホントだ。ネットニュースになってる」
カナタの訴えを聞いた撮影クルーの一人がスマホ片手に呟いた。
「それは流石に無理。それにロケは今日だけだから、大丈夫だよ」
「なら良かったとはならないけど……何かあったらすぐに逃げて。地面の中から何か近づいてきた時も逃げて。いい?」
「えっ? う、うん」
「皆さんも気を付けて! これ以上犠牲者が増えてほしくないので!」
国民的スター荒牧スバルが参加するバラエティ番組のロケと、そこに乱入してきた一人の少年。それによってストップした撮影。周囲は少しの騒ぎとなった。
その時、遠くから「カナター!」と呼ぶ、マキナの声がした。
「失礼しました。でもどうかお気をつけて!」
カナタはそう告げると、マキナたちのいる方へ走って行った。
「ユニークなお友達ですね」
カメラが回り続けていることに気付いた芸能人の一人が、冷笑混じりに関西訛りの敬語で言う。
「本当にご迷惑をおかけしました。彼にはしっかり言っておきますので」
「いやぁー、でもネットニュース見る限り本当っぽいんですよね」
先ほどスマホを見ていたクルーの男が言った。
「えー。それは怖いですね。まあでも我々はサイコロ振って飯食って帰るだけなんで。ね」
この続きは、2週間後の本放送で……
「カナタ、突っ走りすぎよ! それにいくらなんでも目立ちすぎ! 釘原さんたちから『目立つな』っていつも言われてるでしょ?!」
ロケ場所から離れる道中、マキナはカナタを叱責する。
「そうだけど、スバルにはもう傷ついてほしくないから」
その言葉に込められた親友を想う気持ちに、マキナは口をつむぐことを選んだ。
何とも言えない空気感の中、セルアが「とりあえず」と口を開いた。
「とりあえず、警察署で釘原さんたちと合流しよう。こっちもさっき収穫があったからね」
セルアの言葉に頷きつつ、カナタは思う。
――――撮影を止めちゃったことは、今度会ったら改めて謝ろう。
【今話のTopic】
デーモン怪人の「demon」は、悪魔というより鬼に近しいニュアンス。




