3-3 箱根を楽しむ
――――ん、う〜ん…あれ? …ここどこだっけ…?
あ、そうだ。
「俺…旅行に来たんだった…」
布団が3つ敷かれた、朝日の差し込む和室でカナタは目を覚ました。まだ目がショボショボして起きるのが面倒くさい上に、昨日の海水浴の疲れを引きずっていたため、布団に抱きついてゴロゴロしていたその時、タイチによって勢いよく襖が開けられ、その音でカナタは驚いて飛び起きることになった。
「起きろカナタ、朝食の時間が終わっちまうだろうが。"朝食食べ損ねて超ショック"って状況にはなりたくねぇだろ?」
「う゛ぅっ なんか寒くなってきた…起こしに来てくれたとこ悪いけどおやすみ…」
「あ〜悪かった悪かった。サムいオヤジギャグ言ったのは謝るから一緒に飯食いにいこうぜ」
「…へーい」
カナタは渋々布団から起きて、寝返りで乱れた館内着の浴衣と髪をササッと整え、タイチと共に一階の食事スペースへ向かった。
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「おはよう、カナタ」
既に朝食を食べ始めていた4人の中で、セルアが一番にカナタに声をかけた。
「セルアもみんなもおはよ〜 調子はどう? よく寝れた?」
「それはもう、布団が家のよりふかふかで気持ちよくて、すぐ寝ちゃった」
「わかる。布団めっちゃ柔らかかったよね。そのせいでか俺はちょっと寝坊して今に至る… 食べもの取ってくるね」
実はこの旅館、レトロな老舗旅館にしては珍しく朝食はバイキング制をとっている。
この日のカナタの朝食のプレートを見てみると、ウインナー・チキンナゲット・ナポリタン・フライドポテト・スクランブルエッグ・焼いたベーコン、それに加えてクロワッサン2個というなんともバランスが偏ったものとなっていた。しかしそれを目にしたタイチに「野菜も食えよ」と釘を刺されたためか、サラダも空いたスペースに渋々盛り付けていた様子だった。
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「ふぅ、よく食べた。さて、出る準備しますか!」
そう言ってカナタは客室の襖を開けた。着替えの服を出そうと自らのボストンバッグを開けたその時、彼の瞳には驚きの光景が映った。
「オーブが…光ってる? なんで!?」
一応持ってきた、ゴニンコスモに変身するための大きな、宝石のような「オーブ」が埋め込まれた豪華絢爛な首飾り。その中心のオーブが一定リズムで光っているのだ。
「なんかしたかな…? あ、そうだ。ゴニンジャーのことなら…」
カナタはスマホを取り出して電話をかけ始めた。
「あ、宮崎部長。朝早くにすみません。ちょっと聞きたいことがあるんですが…」
『聞きたいことって勉強のことかい? それなら僕じゃなくて他の人を…』
「いやそうじゃなくて、ゴニンジャーのことなんですけども」
『あぁ、それか。それなら何でも聞いてくれたまえ』
「ゴニンジャーたちの首飾りって、丸い宝石みたいなのがついてますよね。それが一定リズムでポワーン、ポワーン、って光る描写ってありましたっけ?」
『チェンジオーブが一定リズムでポワーンポワーン…それは『ニコーラー』、CVが天魅姐さんのAIがいたでしょ? それが起動認証待ちをしてる時だと思う。おもちゃでも確かそうだったはず…それにしても、何でこんな事を急に?』
「いや〜なんとなく気になって」
『そうか。聞きたいことはもういいかい?』
「うん。ありがとうございました」
『じゃあ僕はこれで。夏休み楽しんで』
「はい、失礼します」
そう言ってカナタは電話を切った。
『Necollar system』…アニメ『スーパーヒーローゴニンジャー』の作品内において、メンバーのチェンジオーブに宿り、戦闘の補助をはじめ、敵の分析やロボットの制御といった裏方としてサポートをしたり、日常ドラマパートではいつも明るくおちゃらけている、最新鋭のAIだ。
それが起動したというのか。継承してからここまでの約2週間の間は、全く音沙汰が無かったというのに。
(起動認証…たしか、こう!)
カナタが恐る恐るオーブに手をかざすと、ポワンと音を立てて「Start-up OK?」と文字の入ったボタンが浮かび上がった。それを人差し指で押すと、そのボタンは光の粒子に一度分解され、顔文字のような形に組み変わった。まるでドローンショーのようだ。
『はじめまして! ハルバレカナタサマ!』
「うわっ、ホントに起動したよ」
『ショタイメンで『うわっ』とはなんですか! シツレイですね。 アラタめて、ワタシはセントウホジョAIの『Necollar』こと『ニコーラー・マカリスター』です。気軽に"ニール"とヨんでください』
そう彼女(…?)は顔文字の口をパクパクさせたり、おでこに怒りマークをつけたりしてコミュニケーションをとる。
「"ニール"だね、オッケー。これからよろしく」
『はい! こちらこそよろしくおネガいします!、ハルバレカナタサマ!』
オーブに浮かび上がるニコーラーの顔文字は、満面の笑みを浮かべたものに変わった。
「"カナタ"でいいよ。様付けはちょっとむずがゆいし。ってか! なんで俺の名前知ってんの!?」
『AIですから、なんでもおミトオしですよ』
「怖〜」
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午前9時過ぎ、自家用車からタクシーに乗り換えて、すすき草原にほど近い旅館を出発した一家と、それをこっそり…まあ早々にバレてしまっているが付いてきたマコトとレイカが向かったのは、大涌谷に繋がるロープウェイ乗り場である『桃源台駅』だ。旅館からは十数分ほどで到着し、駅は多くの観光客で賑わっていたが、思いの外早く乗り込むことができた。
ロープウェイはゆっくり、ゆっくりと、時々揺れながら高度を上げていく。そして気がつくと、目の前には富士山が見えていた。
富士山から箱根まで直線距離で約30km。ここまで離れていても、その美しさと圧巻のサイズ感はひしひしと伝わってくる。
「カナタ、あの山…実際何mあるんだい?」
「3776m」
「「ルーデンドルフ岳より高い」」
「目標だもんね、"伝説の騎士が晩年に修行をしていた山"」
「ああ。英雄と名高い彼に、限りなく近づきたいからね」
そして、ロープウェイは20分ほどのぼり続けた末、ついに大涌谷に到着した。
目の前にそびえ立つ箱根山と、谷の間から噴き出し続ける水蒸気のコラボレーションは、見たものを幻想的な世界へ引き込むほどの、魔性の魅力があった。
「エモいな〜」
その3文字だけで済ませるのはもったいない。もっと他に言葉があるだろうに。
という考えこそあったものの、地球の息吹を間近に感じるこの景色を前に心を奪われてしまって、なかなか語彙が出てこない。
そんなカナタは斜面にせり出した展望デッキに立ち、スマホを取り出して写真を撮る。少し離れて見物していたマキナを呼び寄せ、大涌谷の絶景と推しのツーショットも撮る。
「うん、眼福」
満面の笑みでピースをして写る彼女を見たカナタはそう呟いた。
そこから約5分後、タイチが何かを手に提げて戻ってきた。
「ほれ、『黒たまご』買ってきたぞ」
「ありがと〜 これ食べてみたかったんだよね」
黒たまごをタイチから受け取り、一番の特徴である黒い殻を剥いてやると、中は意外にも白かった。「食べると寿命が7年延びる」なんて言い伝えのあるそれを、ベンチに腰を下ろしていたカナタはかじる。他の皆もかじる。
「あっ、普通に美味しい。もっと味にクセのあるものかと勝手に思ってたけど」
「確かに美味しいわね。爆発四散した卵のリベンジってことにしよっと」
ふとその時、同じように黒たまごを食べていたゴルダンはあることに気づく。
「なぁ、あそこ。誰かいねぇか?」
彼が指さしたのは、東側、早雲山駅方面のロープウェイが走る鉄塔の上だった。
「ん? どこどこ?」
カナタはゴルダンの指の先を探す。10秒も経たないうちに「あ、ほんとだ誰かいる」と呟く。
――――にしても、なんか体格が人間とは違うような…
カナタがそんな疑問を抱いたその直後のことだった。鉄塔の上の怪しい人影が、空気の中に溶けていくように、突如として消えたのだ。
「あっ、釘原さん今の見て…」
――――って、いない…
「釘原ならトイレだ」
早々に食べ終えていたレイカがカナタに教える。
「月海さんは見てました? 今の人影」
「人影? 何のこと?」
困った時の頼れるJNIAの中で、唯一その場にいたレイカが見ていなかったとなれば、言った所でどうする事もできないだろう。そう思ったカナタは「何でもないです」と返すのだった。
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ロープウェイで来た道を逆走し、再び『桃源台駅』にやって来た春晴家+JNIA一行。次の旅程は…
「海賊船でか〜」
芦ノ湖を縦断する遊覧船だ。
早速乗り込み、一行は海賊船を模した船のデッキの、進行方向右側の手すりのところに陣取る。
十分も経たないうちに船は出航。晴れ渡った夏空のもと、雄大な自然に囲まれた芦ノ湖を進みだした。
船が進んでいく間、カナタは無心でデッキからの風景を眺め続けた。手すりにもたれかかって眺め続けた。風を顔に受け続けながらも眺め続けた。写真一枚撮らずに眺め続けた。悩みなんて消え去ってしまいそうなほどの美しさに、心も体も沈んでいってしまいそうだった。
だがそんな時、
「カナター? どうしたの? そんなにぼーっとして。もしかして退屈?」
マキナの手がカナタの肩にポンと触れ、思わず体を震わせる。
「全然。その、なんか綺麗だなーって思ってつい」
「そう…ありがとう」
一瞬、彼女の頬が少しだけ赤く染まる。
「今言ってるのは景色のことだからね?」
――――マキナも超がつくほど綺麗でかわいいけどね。
……なんて、言えるわけがないよなぁ…俺のキャラでもないし。
カナタはデッキを離れ、船内を散策することにした。豪華でおしゃれな船内は、海賊船に乗ったことも、海賊の一員になったことすら勿論無いカナタでも、本当の海賊船であるかのように思わせるような趣きがあった。
少し立ち止まって船内の風景を一通り眺めた後は、一階の売店でお茶を購入し、彼女らの待つデッキに戻ろうと階段を上りかけたその時、船がガタンと揺れた。窓の景色を見るに、港に着いたのだろう。
再び階段を駆け上がり、カナタは他のメンバーと合流するのだった。
「今までどこ行ってたんだよ」
タイチが話しかける。
「船内を意味もなくうろついてた」
彼らは再び、地に足をつけた。
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元箱根港で下船した春晴家一行は、そのまま北西へと足を進める。目的地は、箱根随一のパワースポットであり、開運・厄除けの御利益で有名な箱根神社。
正月の風物詩である箱根駅伝でも一際目を引く大鳥居をくぐり、高く伸びる木々の間を歩くと、湖上に浮かぶ鳥居が見えてきた。
「お、あれが『平和の鳥居』かぁ〜」
カナタは、湖上に浮かぶ鳥居と石畳、その周りを囲む木々、水面に反射する日光を纏めて一枚の写真に収める。
続いてセルアたち四人が集合写真を撮るためにポーズをしている傍ら、カナタは徐にかばんから自撮り棒を取り出し、スマホをセット。まるでインスタ映えを狙う女子高校生かのように、鳥居と、笑顔でピースをした自分を写真に収めた。
写真を撮り終えたカナタは横にはけて、スマホを手に持ち替える。さっき撮った写真にモザイク加工を施し、少しだけスタンプ等でデコレーション、それをインスタグラムのストーリーに投稿……しなかった、その写真は。直前になって「やっぱやめた」のだ。
代わりに最初に撮った誰も写っていない写真を投稿することにした。
それを、七王子で思い思いの夏休みの日常を送っている友たちは見ていた。
塾の自習室でエイタとビスケが、駅前でカエデとパフェを食べていたチハヤが、退院してすぐに参加したドラマ撮影の現場で休憩をしていたスバルが、ゲームセンターでマサルが、自宅で受験勉強中のカナメが、ジムでトレーニングしていたイオリが、自分の布団の中でアカネが、他にもカナタの同級生や先輩後輩の50名ほどが、彼の、美しい景色を写した投稿を見ていた。
"いつか自分も行ってみたい"
そんな事を考えた者も少なくはなかった。
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そんな人達の考えもつゆ知らず、一行は箱根神社の長い階段を一段一段、しっかり踏みしめて上っていた。
「はぁ…暑いわねぇ…」
そう言ってサユコは立ち止まり、ペットボトルの水を喉に流し込む。
夏真っ盛りの正午近く、それに近年の異常気温を併せれば、いくら避暑地と言われている箱根でも暑いものは暑い。
「お前らも水分摂っとけよ。熱中症になられたらたまったもんじゃない」
タイチが呼びかけるが、カナタ以外のメンバーは、JNIAの二人も含めてさほどバテている様子も、体の水分が不足しているような様子もない。きっと彼らの持ち前の体力のお陰だろう。
「ほっ、とっ、はい着いた〜」
マキナは階段をひょいひょいと軽やかに駆け上がり、頂上へ到着すると腕を大きく伸ばしながら鳥居をくぐった。
「あ゛〜 足、棒になるわ」
続いてカナタが手すりにつかまりながら到着。
さらに2人に続くように、メンバーがが順々に鳥居をくぐる。
そのまま真っ直ぐ歩き続け、本殿へ向かう。だが神門の前まで行ったその時、カナタが「あっ」と呟いて立ち止まった。
「ラーシャ、参拝大丈夫なの? ほら、宗教の…」
「? どういうことなの?」
サユコが聞く。
「私が司教だということは皆さんご存知ですよね?」
「最初ん時言ってたな」
タイチが反応した。
「カナタ君は、"司教という宗教において大事な立場にある人間が、別の宗教の施設に参拝してもいいのかな…"と心配してくれたのでしょう。ですが、これについては大丈夫です。ハトマーレは結構色々なことに寛容なので。女性である私が司教をできているのも、この寛容さのお陰です」
「言われてみれば、そんな事がファンブックに書いてあった気がする。大丈夫そうだし、行こっか」
カナタは止めていた足を再び動かし、今度こそ、本殿で参拝をした。
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元箱根に一度戻って昼食をとった一行は、午後からも箱根を満喫せんと行動を始める。
ここで一つ知っていてほしいのが「春晴家あるある:タイトな旅行スケジュール」だ。内容はその名の通り。家族旅行において、1・2日目はホテルから離れた場所にある観光地巡り等でキッツキツのスケジュールを組み、3日目以降は近場で自由に過ごす、ということになるケースがほとんどだということ。今回の箱根旅行も例に漏れず、そのあるある通りとなっている。
時刻は13時30分、次の目的地は彫刻の森美術館。またタクシー2台を駆使して足を運ぶ。片道約10分、正月の箱根駅伝の5区でお馴染みのルートを走る。
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彫刻の森美術館は、その名の通り近現代の彫刻が箱根の雄大な自然の中に数多く展示されている。
中でも、『幸せを呼ぶシンフォニー彫刻』という名のステンドグラスの塔や、水面に横向きで置かれた女性の頭の『嘆きの天使』という作品、ピカソの彫刻作品を集めたピカソ館、小さな子供遊具としても展示されている『ネットの森』等は有名なのではなかろうか。
それらを彼らは3時間かけてゆっくりと見て周る。中には「なんだコレ?」「何が言いたいんだ?」というような作品もあったが、どれもが何かを伝えようと表されているということは、カナタは中学生ながらに感じとっていた。
――――彫刻とか絵画って、見てるとなんだかその世界観に引き込まれそうになるなぁ…
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「あ〜…生き返る〜」
時刻は18時頃。既に日は殆ど傾き、箱根湯本の空は夕紅と宵が混じる。
一日中箱根を堪能した後は、一日の疲れを落とすために温泉に入りたいものだ。しかし…
「にしてもなんであの旅館、温泉併設してないんだろ。温泉地なのに……まああそこ選んだ父さんも父さんだけど…」
露天風呂、夏空に湯気が愚痴の声と共に立ち上る。
肩までどっぷり浸かり、体の力を抜いて、縁石を枕のようにして空を見上げても、一番星は見えない。溜息もまた、空へと上っていく。
――――3人ともとっくに上がっちゃったし、俺もそろそろ上がろっかな
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カナタは湯から上がり、部屋着兼寝間着の私服に着替えて温泉のロビーに戻る。そこでは既にほぼ全員が待っている状態だった。
「ごめんごめん。待った?」
「別に…って言ったら嘘になるくらいには待ったかな」
「にしても、お前にしちゃ珍しく長風呂だったな」
「父さんがそう言うくらいだから結構入ってたのか……ほんとごめんね、待たせちゃって」
「いいのいいの。それにラーシャもまだだから。打たせ湯とサウナで心頭滅却だってさ」
「司教なのにやってることが仏教の僧侶……いやこの場合は小学生の修行ごっこ…?」
それから30分もすればラーシャも出てきた。どうやら集中のあまりサウナで気絶しかけたらしい。カナタはそれを、コーラ片手に聞くのだった。
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「駐車場まで、距離大体どのくらいでしたっけ?」
温泉の施設を出て、駐車場へ向けて歩いている最中に、セルアが聞く。
「ざっと300mってとこだな。まあ余裕だろ、お前らなら」
「みんなは余裕かもしれないけど、俺は既に足裏が痛い♪」
「カナタは早く体力向上させろ本気で」
「暇な時は散歩とかしてるんだけど…やっぱりそうそう向上しないもんだよね。あ、なんならゴルダンがトレーニングしてくれたりする?」
その言葉を聞いて、ゴルダンは「待ってました」と言わんばかりの顔になった。
「しょ〜がねぇなぁ。よし! 俺がこの夏でみっちり鍛えてやろう!!」
「あざ〜っす……と同時に、ついていけるか不安なんだよねぇ… 何しろ元格闘大会チャンピオンだし、超絶ストイックそうで…」
「え? ゴルダン君ってそうなの?」
「いぐざくとりぃ。世界トップレベルの大会を8連覇した文字通りの超人。だけど物語開始時点ではスランプで悩んでた。でもセルア達と出会って変われた。まあ詳しいことはアニメ第3話を参照」
「よく知ってんな。で、トレーニングに関しては心配ご無用。俺の作るメニューはキツイが、俺以外の人に無茶はやらせねぇぞ!」
「おお〜 それなら安心、5割くらい」
「5割くらいって、おめ〜よ〜」
ゴルダンはカナタの肩に手を回して、うりうり〜 と、軽く弄る。
だが、カナタがふと何気に横を見たその時、彼の目に、橋桁に人々が群がって下を覗き込んでいる光景が飛び込んできた。困惑や恐怖の混じったざわめきも聞こえてくる。
――――なにか、あったのかな?
その光景を見てカナタと同じ思いを浮かべていた人物は他にもいた。
「なああそこ、なんかあったのか?」
タイチがそう言って足を止め、他の皆も連動して足が止まる。
「本当だ。事件か何かかな?」
「俺、ちょっと見てくる」
カナタは群衆に向かって歩いていった。
「気をつけるのよ」
するとその時、マコトのインカムに着信があった。
「すみません、ちょっと離れます」
そこで何かを察したのか、レイカも共に離れた。
「なんでしょうか」
電話の相手は加賀美ナツメからだ。
『釘原さんって、今箱根ですよね?』
「おう、月海も一緒に春晴家の監視で」
『でしたら、箱根湯本の早川に掛かっている、湯場滝通りの橋に行ってください』
「湯場滝通りはすぐそこだ。そこで何か…まさか、さっきの群衆が…?」
『はい、恐らく釘原さんの予想は当たってます。橋の下で……何か猛獣の類に食い殺されたと見られる、死体が見つかりました』




