3-2 大魔王SIDE②
「起きろ、鮫」
未だ、謎の空間を漂い続けている魔王城。その地下4階部分にある『改造手術・実験室』と呼ばれる部屋に、スピカはいた。
手術台には、あの時ゴニンジャーと共にこの城へ連れてこられたサメ男もいた。どうやら改造手術を一通り終えた後らしい。
「ウウッ…アガッ…」
「喋れるか?」
スピカは手術台から体を起こしたサメ男に寄り添うようにして聞く。
「ウッ…ア゛ア゛…ウン…イジョウハ ナシデアリマス」
「ぎこちなさは残るが、成功といったところだな」
彼女はサメ男のそばから離れ、デスクに置かれていたコンピュータ端末を起動。サメ男の目の前にスクリーンを出現させた。
「今回の手術で、貴様の体内に『デーモンコア』と黒魔法石を埋め込ませてもらった。これでデーモン怪人への変身と、固有魔術をはじめとする強力な魔法の使用が可能になった。あとは肉体の強化改造と声帯の調整と・・・
その時、サメ男は拳を力いっぱい振るってスクリーンを破壊した。
「ナニカァ、クワセロ デアリマスゥ…!」
そう声を荒げて、スピカに向かって大口を開けて喰らいついたが、その牙が彼女に届くことは無かった。彼の頭に昭和のお笑い番組の如く、鉄製の巨大な鍋が激突し、そのままその場に倒れこんでしまった。
「大丈夫ですかー? ターヴォ様」
スピカの立つ位置と対になる位置に配置された部屋の出入口の向こうから、ある者の影が見える。
「なんだ、ステイシー兄か。どうした? 説教が足りないか?」
「いえいえ。たまたま通りかかったら、ターヴォ様がピンチだったもんで。どうでした? 俺の固有魔術『Coquina usquam/何処でも厨房』は」
「可もなく不可もなく、独特だなとしか思えん。まあ、何はともあれ助かった」
すると、ヴィルマは「それでなんスけど…」と、申し訳なさそうな顔で言った。
「これでこの前のやらかしって消えませんかねぇ…?」
「消えん」
スピカが間髪入れずに返す。
「こりゃ手厳しいですな」
その時だ。サメ男は息を吹き返し、再び起き上がろうと体に力を入れた。もちろん、理性なんてない猛獣のように、怒り狂った状態で。
「えやぃ」
ヴィルマは再びサメ男の頭…今回はリーゼントの先端部分を狙って鉄鍋を当てた。またもや鉄鍋の攻撃を受けた彼は、またもや意識を失った。
「貸し2」
スピカに見せつけるように、彼は指で「2」を作った。
「本当に貴様は何様のつもりだ…?」
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ヴィルマを力づくで追い返した後、スピカは再び改造手術を開始した。
(自己の感情・野生の本能を可能な限り沈めて従順な眷属に…と)
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「サメ男の件について、報告を聞かせてもらおうか」
2日後、玉座に座る大魔王の前で、スピカは膝をついていた。
「ジョンソンを含む被検体でのデーモンコアとの融合実験、そして奴自身の肉体改造手術を経て、現地投入が可能な状態までもっていくことができました。現在はクロノスと戦闘訓練をさせています」
「そうか…よくやった。ふむ、そうだな…作戦の実行は明後日、今度は彼らの住処を襲わせるとしよう」
「お言葉ですが、魔王様。奴ら、近く旅行を企てているようです。『まさか旅行中に敵が襲ってくるわけがない』いくら奴らとてそう考えるはずですし・・・」
続きを言いかけたその時、魔王は彼女の名を呼んで遮った。その声に、スピカは身震いする。
「『まさか旅行中に敵が襲ってくるわけがない』…それは常人の思考だ。もっと奴らの気持ちになって考えろ。『いつ敵が襲ってくるかわからない。だから何時如何なる時も警戒を怠らない』たとえ休暇中といえど、戦士であればそう考えるのが自然だろう? 作戦決行は明後日。その方がより確実だ」
――――承知いたしました そう返事をしようと口を開いた刹那、玉座の間の扉が開き、「スピカ」とクロノスが名を呼んで入ってきた。彼の左手の先には全身痣と傷だらけの、伸びたサメ男があった。
「魔王様、会話に割って入ることをお許しください。スピカ、申し訳ない。やりすぎた」
「なるほど…貴様は手加減という言葉を知らないのか」
「手加減してこれだ」
今回の作戦で主戦力となる予定だった者が、作戦決行を目前にしてボコボコの、最高のコンディションとは全く言えない状態となっている。
それを見かねた魔王は口を開く。
「ふむ……作戦決行は先延ばしとする。そして全ての指揮権をスピカ、お前にやろう」
彼女は一瞬目を見開いて魔王の方を見上げ、再び膝をついて頭を垂れる。
「はっ。有難うございます。魔王軍幹部スピカ・ターヴォ、この名に恥じぬ成果を残しますことをここにお約束いたします」
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――――約2週間後
「出ろ、鮫」
スピカは、サメ男が一日の大半を過ごしている城内の個人室の扉を開けた。
「チョットマッテ デアリマス。アトスコシデ アタマノカタチガ キマル デアリマス」
サメ男は髪…? を整えて、まるでヤンキーのようなリーゼントを作り出す。
「ヨシ デアリマス。モウシュッパツ デアリマスカ?」
「ああ。思いきり暴れてこい」
スピカは『鍵』を何もない場所に差し、カナタたちの住む世界へとつながる『扉』を創り出した。
「詳しい連絡は追ってする。それまでは大人しくしていろ。絶対に目立つな」
「ハイ デアリマス」
そう返事をしたサメ男はその扉を開けて、未だ見ず知らずの異世界へと進んでいくのだった。




