1-3 共同生活、スターティング
「男二人はこの部屋を、女二人は向こうにある部屋を使ってくれ」
家族会議の後、春晴家の二階。この家に三つほどある空き部屋の一つの扉を開け、タイチは案内する。
「寝具は昨日使った布団を持ってくるから、後は自由に過ごしてくれや。くれぐれも部屋を破壊するなよ」
「分かってます」
「荷解く荷物は無いみたいだし、俺はこれで。要るものがあったら早いうちに言えよ」
「お世話ンなります!」
その時、女性陣二人が向かった部屋の方から何かが壊れる音がした。
「おいおいマジかよ」
「おのれ、やったな……」という表情でタイチは飛んでいく。
「何した!?」
そう叫んで覗いた部屋の床には、天井から落下したと見られるシーリングファンと尻もちをついているマキナの姿があった。
「ごっ、ごめんなさい。出来心でぶらさがってみたらこう、なっちゃいました……弁償します」
そう言ったマキナは、懐から紙幣らしきものを10枚近く取り出した。
「その紙は紙幣か?」
「はい。私たちの世界のお金です。これで大体10万はあります」
「どうせ使えんだろうし要らん。明日にでも修理は呼ぶから、今夜は和室で寝てくれ」
「うちのマキナがご迷惑をおかけしました……」
ラーシャは深々と頭を下げ、それに続いてマキナも下げた。
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「ねぇみんな。家事の当番を決めない?」
シーリングファン落下事件から20分も経たぬうちに一階に降りてきた四人は、サユコに集められていた。
「これから一緒に暮らすわけだから、やることの量も増えるし、みんなでやったら早く済むわよね。ほら、何かやりたい担当はない? ちなみに今はカナタがお風呂掃除、パパ……タイチさんがゴミ出し、私がその他全部だから、手伝ってくれるとありがたいわ」
「お安い御用です。私たちもそうしていましたから」
「じゃあいつもと一緒でよくねぇか? 被ってるところは変えるとして」
「だね。買い出しはラーシャ、洗濯はゴルダン、料理が僕で・・・」
セルアが続きを言いかけたその時、サユコは口を挟んだ。
「あ、料理は私もやるわよ」
「それは失敬。で、マキナが家全体の掃除だ」
「うん。それにしてもあっさりと決まったわね。じゃあ、それでお願いするわね。早速のお仕事だけど、ラーシャちゃん、お買い物お願いしてもいい? メモと代金は渡すから」
「承知しました」
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「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
吹き抜けに マキナの声が こだまする
高橋聖 地の文の俳句
冗談はさておき、その声を聞き付けたカナタは部屋から飛び出す。シャーペンを握っているので勉強していたのだろう。
「どした?」
マキナの声にやや掻き消されてはいるが、掃除機の吸引音も聞こえる。
――――何があったの? 本当に。
そう思いつつ手すりから下を覗き込む。すると、暴走する掃除機に捕まって廊下を行ったり来たりするマキナの姿があった。
「なにやってるのマキナーっ」
「掃除機に自動で動く魔術かけたら止まらなくなっちゃった!!」
「えぇ!? 今行くから待ってて!」
カナタは階段をかけ降り、暴走する掃除機の前に立ちはだかる。受け止められるか、それともそのまま轢き飛ばされるかと思ったが、掃除機は巧みにカナタの体を避けて暴走を続ける。
「なんでぇ!?」
思わず叫びたくなる「まさか」で「ありえへん」な挙動。
「魔術で動かしたんなら魔術で止められないの!?」
「なぜかできないのよ!」
「マジかよ。あっ、そうだ。マキナ! 掃除機から手を離して、飛び降りて!」
「え!? そうしたらコントロールが……」
「確かに……じゃあもう壊すかバッテリー切れを待つ……か……」
カナタが目線を上に戻すと、時すでに遅し、マキナは掃除機から降りた後だった。
「ごめん。降りちゃった」
掃除機は今までよりも勢いよく暴走を始める。玄関ホール中をあっちへ行ったりこっちへ行ったり。今のところ幸いなのはなにも壊れていないこと。
二人が止められないまま暴走し続け、遂に掃除機はリビングに突入する。
「まずい! あのままだと……」
そう。掃除機の向かう先にはガラスがあった。このままのスピードで突進すれば、間違いなく割れてしまい、最悪の場合は暴走掃除機が世に解き放たれてしまう。
――――もう、壊すしか……!
「ictus electri/電気ショッ・・・」
その時、掃除機は上に持ち上げられ、流れるように卍固め…?にされた。
「ゴルダン!? 寝たままなにやってるのよ……じゃない。助かったわ」
鼻提灯が割れ、ゴルダンは目を覚ました。
「ん? うわっなんだこれ。一体どんな状況だ?」
寝起きの思いがけない状況に、彼は思わず掃除機から手を離してしまう。
「掃除機に魔術かけたら暴走して……って、離しちゃダメ!」
しかし、掃除機は立ち上がろうと動くもののうまく立ち上がれない様子だ。
「この様子じゃ大丈夫じゃない? スイッチオフっと」
カナタによって掃除機の電源は切られ、春晴家に平和がもたらされた。
「ふぅ。これで一段落ね」
「ところでなんだけどさ、セルアとラーシャと母さんのお三方は何処へ?」
「それなら、みんな揃って夕飯の買い出しに行ったぜ」
「そっか。父さんは……車あるし昼寝中かな?」
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既に日は暮れ、夜の19時。ダイニングテーブルには七人収まりきらないので、今日の夕食はリビングに置かれた長テーブルでとることになった。
「お待たせしました。焼き牛肉団子のでみぐらすそぉす(?)がけです」
そう言って彼らの前に出されたのは、いたって普通のデミグラスハンバーグだった。同じ皿には付け合わせでサラダとナポリタンも入っている。
「セルアの焼き牛肉団子だ……アニメと原作で大体五回は出てきてたやつ。本人手作りとか、マジで最高じゃん!!」
「良かったですね。セルアの料理はどれも美味しいですから」
「じゃあ早速、いただきます!」
以降、この日はこれといった出来事もなく、平和に幕を閉じていった。




