転移の理由
転移の翌朝、布団が片付けられた和室には昨夜と同じように机と座椅子が並べられていた。そこには春晴一家とセルア達が分かれて座っている。
「じゃあ、改めて、私は春晴サユコ。この家で料理とか洗濯とかをやってるから、困った時はいつでも声掛けてちょうだいね」
最初に自己紹介をしたのは母、サユコだった。
「分かりました。いつでも頼らせていただきます!」
サユコの自己紹介にセルアが返事をした。
「俺は春晴タイチ、社長やってる。」
(あ〜社長さんだからこんなに家が広かったのね)
マキナは春晴家が広い理由について納得したようだ。
「あと、昨日は済まなかった」
父、タイチは深々と頭を下げた。
「いいんです、誤解も解けたことですし水に流しましょう」
ラーシャがそう言うとタイチは頭を上げた。
「ありがとう、許してくれて」
「次は俺か。俺は春晴カナタ、趣味は映画鑑賞。よろしく」
「おう! よろしくな」
カナタは手を差し出すと、ゴルダンは力強くカナタの手を握った。
「あ、私たちも改めて自己紹介した方がいいのかな」
「いいよ。あんな形だったけど、名前と職業は覚えてるし」
「そっか。了解」
そうして家族会議は本題に入った。
「えーと…こっちからも色々質問させてほしいんだけど、大丈夫だよね?」
「ああ、なんでも聞いてくれ」
セルア達も春晴一家も真剣な顔で話を始めた。
「まず、こっちに転移してくる前に何があったか教えてほしい。なにかトリガーになるようなことはあった?」
カナタがメモを片手に質問する。
「確か…僕達は魔王と戦っていました。」
「魔王!? そんなものがセルア君たちの世界にはいるの?」
サユコが心配そうな目でセルア達を見た。
「はい、普段は地獄という場所に封印されていて、被害はほぼ無いのですが…どういうことか出てきてしまったのです。」
(地獄…確か7話で言及されてたな)
「はぁー魔王に地獄、確かにファンタジーだな」
タイチはどこか納得しているようだった。
「話を進めます。僕達が魔王が暴れていたシラ王国の首都であるキュージに着いたのはヤツの復活から2日後でした。その頃には街はほぼ壊滅、城も制圧されていて兵力も0、勝ち目なんてなかったんです。
なのに僕達は無謀にも戦いを挑んで負けました。ここからはうろ覚えになるんですが、魔王が城の最上部に置かれている『秘宝:虹の魔法石』に触れた途端、周りが光に包まれて気づいたらこの世界に」
「ちょっと待て、虹の魔法石ってなんだ」
今まで納得気だったタイチがついに質問した。
「それについてはラーシャの方がよく知ってるので彼女から」
「はい、まず魔法石とは何かから説明いたしますね。魔法石というのは、簡単に言うと『魔法を使うためには欠かせないアイテム』で、私たちの世界の人々はほぼ全員所持しています。この指輪やマキナちゃんのペンダントも実は魔法石なんですよ」
ラーシャは自分の左手の薬指につけられた指輪を見せながら説明した。
「そして、魔法石は『色』によっても特性が異なります。例えば、私たちの持つこのペンダントは『赤魔法石』と言って、魔法を使用するためには絶対に必要で、ここにはありませんが『青魔法石』はワープを可能にし、『黄魔法石』は魔力を増幅させ、『緑魔法石』はフルオートで回復が可能です」
「便利なのね」
「そうなんですが、中には危険なものもあるんです」
「というと?」
「『黒魔法石』。これを使うとあらゆる欲望や悪意が増幅されます。これを国王が使ってしまったせいで滅んだ国もある程です。そんな多種多様な魔法石の力全てを含んでいるのが『秘宝:虹の魔法石』です。一説によると、虹の魔法石からすべての魔法石が生まれたとか」
「「「へぇ〜」」」
春晴家三人の声がピッタリ揃った。
「でもそれに触れただけでここに?」
カナタが聞く。
「悪いけど詳しい事は僕達にも分からないんだ。なにせ文献が古すぎて読める状態じゃなかったから…」
「そうだったんだ」
「うん、でもそれがトリガーであることは間違いないと思う」
カナタはセルア達から聞いた内容を最後までメモした。
「おっけい! 1番聞きたいことが聞けてよかったよ」
「他にも聞きたいことはあるのか?」
「えーとじゃあ好きな物と嫌いな物を…」
こうして質問と雑談は昼過ぎまで続いた。