2-15 日本国家情報調査局SIDE
これまでカナタたちが過ごしてきた日々の裏で、彼らはどう動いていたのか…
――――四月上旬、セルア達がこの世界にやってきた翌日。
都内某所にある地下施設の、モニターが数多く並んだある一室に、ロングコートのスーツを着た男が入ってきた。
「よぉ加賀美、なんの用だ?」
ロングコートの男は、デスクに座っている加賀美という男に話しかけた。
「それが、釘原先輩に確認していただきたいことがありまして」
「確認? なんで俺に? 観測課の上司に見てもらえばいいだろ」
「そう…ですが、とりあえず一度見てもらえませんか?」
加賀美はコンソールを操作し、住宅街の衛星写真を出した。
「これは昨日夕方17時頃、七王子市のとある住宅街でのエネルギー発生データになります」
そこから100分ほど時間を進めると、カナタの家の部分が高エネルギーの発生を示す赤色に染まった。そこに加賀美がカーソルを合わせる。普段ならエネルギー体や物質の名称が表示されるはずなのだが、「???」としか表示されなかった。
「なんだコレは…凄まじいエネルギー量じゃないか。常陸には言ったか?」
「いや、まだ」
「バカ野郎、こういうのは直属の上司に真っ先に言うもんだろうが」
「すみません。でも、超常現象課に所属してる先輩に一番に見てもらいたくて…だって、未確認エネルギーですよ、未確認」
「そうか。常陸と上層部には俺から言っておく。お前はこの謎エネルギー…そうだな『Zエネルギー』の動向を注視していろ」
「分かりました」
ロングコートの男、釘原マコトはスマホでどこかに電話を掛けながら部屋を後にした。
日本国家情報調査局(Japan National Intelligence Agency)、通称「JNIA」は簡単に言うと、国内外の情報を収集する諜報組織である。調査内容は多種多様で、不正を行っている疑惑のある組織や企業の調査から、国内外の犯罪組織やテロリストの調査、さらには日本に影響を与える可能性のある国家の政府中枢への潜入、諜報、工作などが行われている。
そして、マコトが所属している超常現象課というのは、数ある部署の中でも一番新しくできたものであり、UMAや都市伝説といったオカルト的なものや、神隠しが疑われるような不可解な事件を調査している。だが、課が醸し出すおふざけ感と、設立以来成果が全く上げられていないことから、陰では度々「テレビごっこ課」や「予算食っちゃ寝課」などと揶揄されている。
その日の正午前には、エネルギー分野の有識者数十名が集められ、「未確認エネルギー臨時調査本部」が立ち上げられた。
そこでのランチミーティングの末、対象地域の現地調査が決定。不動台に局所属の調査員10名と有識者5名の計15名が向かうことになった。
――――その日の夜20時
港区のとあるビル内の会議室に設置された臨時調査本部で、この日の調査報告会が行われている。
「本日の現地調査の結果、仮称Zエネルギーは当初の見立て通り『不動台1丁目〇‐△番地』より検出されていることが発覚。同時に昨夜21時頃に七王子大運動公園からも同様のエネルギーが確認され、近隣住民から消防に『火柱のようなものが見えた』との通報も入っている。また、これらの地点で硫化水素のようなにおいも確認されている。迅速に関係性を突き止められたい」
以上の事実が報告され、この日は解散となった。
――――次の日の夜20時、昨夜と同じ会議室
「本日、七王子市区の駐在調査員により発覚した未確認種とみられる熊の出没事案を調査した結果、コスプレイヤーによって駆除された熊の死体からZエネルギーと思われるエネルギーを検知した。そして、駆除に関わったコスプレイヤーと子供の人定確認を行ったところ、子供の氏名は『春晴カナタ』13歳。七王子西中学校に通っており、家族構成は…」
カナタの個人情報が述べられた後、コスプレイヤー4人の個人情報は確認できなかったことが告げられた。
――――2週間後
この日をもって、調査本部は一時解散となった。なぜなら調査開始2日目以降全くと言っていいほどZエネルギーの反応が無いのだ。
この事を受け、JNIA上層部は学校に鈴木ユウガ調査員を派遣し、上記の判断を取った。
その次の日、マコトは本部の食堂で加賀美と共に昼食をとっていた。
「本当に、解散して良かったんすかね」
「どういう事だ?」
「いや、あのエネルギーの強さは使いようによっては核を超えると思うんです。もしもこの情報が他国や世間に漏れた場合のことを想像すると、ちょっと不安で…」
加賀美の注文したラーメンは、湯気を放って彼のメガネを曇らせた。
「確かに。今、そしてこれからの未来は、なんでも不足して、それを奪い合う争いの時代だ。お前が言ったような事にも納得できる。だが、俺たちは日本国家情報調査局。
『己の人生を捨てる覚悟で、国家の秩序と国民の安全を守る』
モットーにある通り、困った時は心身捧げてでもどうにかするんだよ」
マコトはカレーを一口食べて続けた。
「まあでも、そうなる前になにか対策を講じるだろう。あ、そうだ、それで加賀美、お前の下の名前なんだっけ?」
「えぇ…忘れたんすか?」
加賀美は溜息をついた。
「なつめです。加賀美なつめ」
「あー! そうだそうだ、ナツメだ。悪いね、俺人の名前覚えるの苦手で」
「僕が広島支所から異動してきて早1年、この短期間で6回も忘れるなんて…いい加減覚えてください!」
「分かった。以後気をつける」
「ほんとに頼みますよ…」
――――約3ヶ月後の7月11日、13時25分
未確認エネルギー臨時調査本部が再招集された。緊急だったこともあり、今度の本部はJNIA本部内の会議室に設置され、有識者たちにはグループ電話を繋いだ。
「本日13時15分頃、東京都七王子市城裏町1-1、七王子西中学校にて大規模なZエネルギーの反応が確認された。これは今までで最大級のものであり、現在同等のエネルギーが頻発している状態だ」
その時、学校に派遣されていた鈴木ユウガがグループ通話に参加した。
「鈴木調査員、状況を報告してください」
「はい。突然、覆面ヒーロー姿の不審者が、文化祭中の校内で暴れだし、そこに居合わせた生徒と保護者、教職員は恐らく全員学校から退避済み。現在私は職員室に隣接している警備室のモニターから、内部の状況を確認しております」
「それで?」
「今のところ目立った動きは確認されていませんが、逃げる人々の流れと逆行する女と、体育館で不審者の一人と戦って(?)いる男二人がいます」
「了解。鈴木、今からそっちへ行く、少し待っていてくれ」
通信を切ったマコトは、息を大きく吸い込んで、
「これより七王子西中学校制圧作戦を実行する! 月海、JATから15人、こっちに集めろ」
と、声を張り上げ、月海も「了解」と冷静に返事をした。
JATとは、Jniaspecial Assault Team の略であり、JNIAが直轄で管理する武装特殊部隊である。
「釘原、七西中なら『彼』がいるはずだ。強力を仰いでみたらどうだ?」
マコトに話しかけてきたのは、40代後半ほどに見える職員の男だ。
「いや、それはしない。『あの人』は既に脱退済の一般人だ。巻き込むわけにはいかない」
「…そうか」
二人の言う『彼』『あの人』とは、一体誰なのだろうか…
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スーツの上からボディアーマーを装備したマコトとレイカの二人は、駐車場のある階まで降り、黒い車に乗り込んだ。
「貴方とこうして共に任務に向かうのは久しぶりね」
「だな。最後に行ったのは…研修生時代か? 同期つっても、意外と会わないもんだよな」
「私の主な任務は海外でのスパイ活動だから、それは当然。余計なお喋りはこのくらいにして、そろそろ出るぞ。事態は刻一刻と悪くなっているかもしれん」
「流石、お前はしっかりしてるな」
車は北西へと向かっていく。この事件の謎を解くために。




