2-11 変身と殺し屋
学校の狭い廊下で、それぞれが戦っている。
「古式武闘術五番:回転蹴り!」
ゴルダンはその名の通りの技をイエローの頭めがけて繰り出し、続いて後ろからこっそりと迫ってきていたグリーンの顔面に、振り向きざまに重たいパンチを喰らわせた。その衝撃でグリーンのマスクの一部が割れ、口元が露出した。
「助…け…て…」
その一言を聞いた彼の体に悪寒が走った。
「ラーシャ! ちょっと、こいつらのこと『視て』くれないか?」
ゴルダンはラーシャに遠くから声をかけた。
「わかりました!」
そう言ってラーシャはゴニンジャー全員が視界に入る位置に移動し、「Desine movere/動きよ止まれ」を使用して彼らの動きを封じると、口を開いた。
「発動:Status Apertus!/ステータスオープン!」
カッと見開いた彼女の瞳には、各々の生体情報や攻撃力、使うことのできる魔力量などが表示された。
「これは…!」
「何かわかったのか?」
セルアが聞いてきた。
「全員、悪性の魔術で洗脳されています! それと、恐らくですが魔力を用いた肉体改造も行われているようですね」
「やっぱりそうだったか」
ゴルダンがそう言って拳をグッと握り締めると、ラーシャは杖を床につき、魔法陣を展開。そこからは緑色のエネルギーが立ち上っている。
「A lavacro cerebri discede!!!/洗脳よ解けろ!!!」
ラーシャがそう唱えて杖を大きく左右に振ると、洗脳されていた5人は脱力して倒れこみ、レッド、もとい火田修司は荒い息をしながら変身を解除した。
「助かったのか…?」
「はい。もう安心してください。立てますか?」
セルアたちは彼らに手を差し伸べ、ゴニンジャーたちもその手を取って立ち上がった。
「誰かは存じ上げねぇが、助かった」
「それはよかった。ところで…」
セルアが、ここに来ているはずのジョンソンのことについて聞き出そうとしたその時、階段を駆け上がってくる音が聞こえた。その場にいる全員が身構えたが、上がってきたのはジョンソンではなくカナタだった。
カナタの姿を目にした火田は、何かに気づいたように目を見開いた。
「カナタ!? なにかあったのか?」
セルアが聞くと、カナタは息を切らしながらも口を開いた。
「これ…マキナの…」
カナタの手の中にはマキナのペンダントがあった。
「これ、わざわざ届けてくれたの…ありがとう」
マキナはカナタをぎゅっと抱きしめた。
カナタにとっては夢にも見なかった「最推しのキャラクター」に抱きしめられるという大事件。彼は今にも昇天してしまいそうな程、幸せの最頂点に達していた。
セルアは、幸せな顔をしながらフニャフニャと膝から崩れて気絶したカナタと、それを見てあたふたしているマキナを横目に、さっきの話の続きを始めた。
「それで、本題なんですけど、オニのようなお面をつけて回転刃のついた大剣を持っている男を知りませんか?」
その時、遠くからチェーンソーの「ブゥーン」という音が聞こえてきた。
「まさか」
「来るぞ…」
渡り廊下の向こうから般若のお面をつけたツナギ姿の男、『殺し屋ジョンソン』が回転刃のついた大剣を構えて突っ込んできた。
「みんな、伏せろ‼‼」
セルアの叫び声にほとんどの人間が反応し、凶悪な一振りから首を守ることができたが、反応が少し遅れたイエローとピンクは首を持っていかれてしまった。
「雷斗! 姫谷! テメェ…! よくも俺の仲間を!」
倒れこんだ二人の遺体に駆け寄った火田は、生身のままジョンソンに殴り掛かったが、
「…スピカ、洗脳の精度について、クラハに改善を要求しろ。解かれた」
当の彼は魔法石で通信しながら片手で火田のパンチを受け止め、一瞬手を放すと力いっぱい蹴飛ばした。そのまま流れで「裏切者には容赦しない」と言わんばかりに片手で斬撃を飛ばし、ブルーとグリーンの首をはねた。
「…残るはお前たちだけだ。勇者共」
セルアは前に出て、ジョンソンを睨みつけた。
「お前ら…覚悟は出来てるな?」
「うん」
「おう」
「はい」
この時、ジョンソンはセルアの口が小さく動いたのを見逃さなかった。
「じゃあ、いくぞ、みんな」
「Vola, Globus Ignis/火球よ、飛べ」
最初に攻撃を繰り出したのはマキナだった。彼女は杖で大きく円を描き、ジョンソンの方へ杖の先を向けた。すると、出現した火の玉がその方向へ飛んで行った。
だがジョンソンはそれをすべて斬って無力化した。
(斬られちゃった。でも大丈夫。これは陽動に過ぎない!)
その時、ジョンソンの真上の天井に穴が開き、そこからゴルダンが逆さまの体勢で出てきた。
「古式武闘術三番:殴連打撃!」
ゴルダンはものすごい速さで殴り続け、ジョンソンはそれを大剣で防いでいる。
その隙にセルアは剣で斬りかかろうとしたが、ジョンソンは右手でセルアの顔を、左手でゴルダンの拳をがっちりつかみ、いくつかの天井を突き破って大きく跳躍し、屋上に出た。
「…ほら。戦う場所は広いほうがいいだろう…」
「そうきたか…!」
**********
その頃、気絶していたカナタは意識を取り戻していた。マキナとラーシャも三人を追いかけたのだろう、周りには誰もいない。あるのはゴニンジャーの遺体だけだ。
「うぅっ、マジか…」
カナタは青い顔をして手を合わせた。その時、ジョンソンに蹴とばされた火田に、とても弱々しい声で呼ばれた。その声を聞いたカナタはすぐに駆け寄った。
「大丈夫…じゃないですよね………」
カナタは大量の出血や吐血から、火田の死を悟った。
「ああ、もうじき迎えが来るだろう。そこでだ、キミにこの力を、託させてほしい…そして必ず…俺たちの仇を…」
火田は自らのゴニンチェンジガンと、真ん中に赤い宝石のついた豪華なネックレスを差し出した。
「本当に、俺でいいんですか?って言うか話急すぎ…」
死の間際でも、彼はフフッと優しげで力強い笑顔を浮かべた。
「キミだからこそ…だ。キミなら絶対に…できる」
――――キミの中には、七色に光り輝くものがある…から…な…
薄れゆく意識の中でそう思ったが、あえて口には出さなかった。
「分かりました。」
カナタはネックレスをつけた。すると、真ん中の宝石は赤色から、ラメの入った藍色に変化した。銃に入った赤いラインも同じくだ。
**********
屋上では当然ながら戦いが続行しているが、残念なことにセルア側が押され気味である。
「ねぇ、このままじゃ全滅は時間の問題じゃない?」
「ああ。マキナの言う通りだ。自爆してでも倒すことを視野に入れるべきだろう…」
「ですね…私たちが死んででも、この世界だけは守らねば…!」
「その必要はないよ」
屋上へ向かう階段の扉からカナタが出てきた。
「おいカナタ! 何やってんだ早く逃げろ!! 死ぬぞ!!!」
「大丈夫。俺は力と、仇討ちを託されたから。全身全霊でアイツに立ち向かわせてもらう!」
歩きながら銃をネックレスの宝石部分にかざすと、宝石が光り輝いた。『オーブリンク』だ。そこからスライドを三回引くと、電子音のかっこいい待機音が辺りに響いた。
(テレビで見たとおりに、やれば良いんだよね、火田さん)
カナタは大きく股を開き、銃口をジョンソンに向け、
『変身!!!』
トリガーを引いた。発射された五つの銃弾は星型を描き、その形を保ったまま横向きにグルグルと回転し続け、体がその間を通り抜けた。
すると、カナタは宝石と同じ色の重厚なアーマーを各部にまといつつも、スタイリッシュな白い英雄の姿になった。
「変身した…?」
「すげぇ…すげぇぞカナタ!」
白い英雄は細く、深い息を吐きながら3歩ほど前に出た。
「変身したんなら、名前を名乗るべきだよね……そうだな、」
そして軽く咳払いをして
「俺は、悪を倒し世界を救う新英雄、ゴニンコスモだ!!!!!」




