家族会議と証明
詠唱はラテン語です。
ファンタジーワールド・・・夏雲ゴロウ作の人気異世界ファンタジーバトル漫画で、剣士、魔法使い、闘士、聖職者、獣使いの5人が、悪の権化である大魔王を討伐するために旅をする作品である。また、アニメ化もされており、ストーリーの王道具合が多くの人に受け、昨年度の夏期覇権アニメにもなっている。
宴会用の大きな机と座椅子が並べられ、机の上にはお茶が出された春晴家の和室。席は両親と、カナタ+コスプレ集団に別れた。
「つまりそいつらはアニメの世界からやってきた、と言いたい訳だな?」
父が問いかける。
「そう、だと思う」
「ふざけているのか?」
「え?」
「ふざけているのかと聞いてるんだ。そもそもな、こんな素性も分からない人間を椅子に座らせて、もてなしてる時点でおかしいんだ。そうして何を言い出すかと思えば異世界転移って、馬鹿も休み休み言え! こんなのただのコスプレ集団だろう!」
父に一喝されたカナタはすっかり萎縮してしまった。
「で? 君達名前と職業はなんだ?」
父の問いに対し、最初は西洋騎士姿の青年が口を開いた。
「僕はセルア・レイズ。職業は剣士です」
「そうか。次」
次は紺色の髪をした、魔法使い姿の少女が口を開く。
「私はマキナ・アーロウ。職業は魔術師?になる…と思います…」
「はい次」
次は屈強な男が口を開いた。
「俺…いえ自分はゴルダン・クロルド。普段は闘技場で格闘技をしています」
「次」
「私はラーシャ・マグナ。教会の司教です」
「これで全員だな」
タイチは深いため息を挟んで、口を開いた。
「全く、お前ら全員頭の病気じゃないのか?」
「お父さん! 流石にそれは酷いんじゃないの?」
父の差別的とも取れる発言に母が声を上げるが、
「うるさい! 得体のしれない不審者共に慈悲など要らん! さっきも言ったがな、こんなことをしている時点で俺たちはおかしいんだよ!」
と、突っぱねてしまった。
「もうお前らに構う時間など無い!」
そう言って父はリビングに戻ろうとする。
「あの!」
その時マキナが父の腕を引っ張った。
「なんだ? まだ言い訳が足りないか?」
「私、本当に魔法使えるんです。信じられないかもしれませんが本当なんです」
「ほう、じゃあ見せてみろ。全員来い」
そう言って父はマキナの手を引いて車に乗り込んだ。それを追ってカナタ達も車に乗り込む。7人ともなるとパンパンだ。
「魔法を使われて、家が壊れたら大変だからな。広い場所に移動するぞ」
家から少し離れた大公園、流石に21時となるともう人はいない。
「ほれ、やってみろ」
「分かりました」
父にそう言われると、マキナは胸のペンダントを2秒ほど握りしめると、口を開いた。
「Surgant flammae/炎よ吹き上がれ」
30㎝ほどの杖を斜め上に振り上げ、斜めに下ろし、少し離れた場所を突くように指した。すると、杖で指した場所で炎が吹き上がった。炎は10秒ほど辺りを照らし続けた。
信じられない光景を目の当たりにした一家にセルアが問いかけた。
「僕達のこと、信じてくれます?」
悔しげな表情で父は答えた。
「認める…しかなさそうだな」
強ばった勇者たちの顔に笑顔が戻った。
帰りの車の中、カナタは考え事をしていた
(あれ? ジャイゴはどうしたんだろう? 獣使いで、パーティーではセルアに続いて強いジャイゴ・ガルシア… ん~、たまたま彼だけ転移させられなかったのかな?)
家に戻った一家は順番に風呂に入り、それぞれ床に就いた。セルア達はというと、和室に布団を敷いてもらっていた。
「こんなにしてもらっちゃって、なんだか申し訳ないです」
「いいのよ。それよりお父さんがあんな事言っちゃってごめんなさいね」
「いえいえ気にしないでください、状況が状況でしたし、怪しまれるのは当然ですよ」
「そうなの。じゃあよかった。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
母は襖を閉じ電気を消した。セルアたちも布団に入った。
「なんだか凄いところに来ちまったな」
ゴルダンがまだ起きているラーシャとセルアに話しかけた。
「ああ、夜なのに明るいし、水も無限に出てくる、家の中もチリ一つなくて、とても綺麗だ」
「ですね。私たちの世界では考えられなかったことです」
「この先一体俺らはどうなっちまうのかな」
「さあね。考えても無駄だと思うし、寝よう」
「だな」
「ですね」
「おやすみ」
「おう」
「おやすみなさい」
そうして彼らは眠りに落ちた。