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2-8 カナタ・イン・ワンダーランド

 カナタが教室、いや、不思議の国に閉じ込められる30分前、ジョンソンは駅前の路地裏で鍵を使用し、「助っ人」であるゴニンジャーを召喚していた。そしてそれと同時にスピカが再び連絡をしてきた。


「クラハの視覚共有に映っていた少年の情報が分かった。名前は春晴カナタ、性別男、七王子西中学校第二学年に在籍している」


 スピカは自作のコンピューターで、カナタが慈善活動を行ったことを表彰されている画像を見ていた。


「…それで?」


「君にはこれから彼をどこかに閉じ込めてもらいたい。どうやらクラハ曰く『あのガキの中に大きな、ボクたちの脅威になりうる力を感じた』そうだ。不安要素は潰しておくに過ぎないだろう?」


「...わかった。学校を襲って殺せばいいんだな?」


「そう。だが穏便に済ませてくれよ。未開の地ではあまり目立たない方がいい。今後の活動に支障をきたすかもしれないからな」


「...了解」


 ジョンソンは変身前のゴニンジャーを連れて校門前までたどり着いた。


「お前たちはここで待機しろ。合図をしたら入ってこい」


 五人はコクっとうなずいた。彼らの目には、以前までの輝きは無い。

 ジョンソンは武器を隠して校内に侵入した。流石殺し屋というべきだろうか、音一つ立てず、気配すら感じ取られずに進む。呼び出し放送でカナタが教室を出るという誤算が起こりつつも、無事教室に侵入することができた。

 2-3の教室に侵入するや否やジョンソンは魔術「phantasma hypnosis/幻影催眠」を発動し、その場にいた全員を不思議な世界へ誘った。


「...子供はお菓子が好き。家族よりも、友達よりも...子供とは、そんなもの、だ…」



 **********



 ここで視点はカナタへ戻る。


「なにこれ…! どこここ!」


「春晴くん!」


 名前を呼びながらこっちへ走ってきたのはクラス委員でもある佐藤さんだ。


「佐藤さん、これ一体どうなってるの?」


「私にも分からないけど、気づいたらここにいて」


「みんなは?」


「それもわからない。でもみんなバラバラになってると思う」


「そっか。じゃあ探そう、みんなと一緒に生きてここから出る」


「そうだね。行こう」



 *佐藤さんがパーティーに加わった。



 二人は扉から出たところからまっすぐ歩きだした。


「誰かいるー!!!???」


 カナタが声を出しながら歩いていると、チョコレートの川に突き当たった。


「すげぇ、チョコの川だ」


「乗っていかれます? タダで行きたいところまでお連れしますよ」


 川に浮かんだボートから声をかけてきたのは、全身チョコレートの渡し守だった。


「じゃあお願いします」


 二人はボートに乗り込んだ。


「あの、一ついいですか?」


 カナタはオールを漕ぐ渡し守に声をかけた。


「はい、なんでもどうぞ」


「ここは、この世界は一体何なんですか?」


「うむ…申し訳ありませんが、実は私共も分からないものでして、お答えできかねます」


「そうでしたか…ではここから外の世界に行く方法って知ってたりしますか?」


「それもわかりませんね。森にいる魔女にでも聞けばいいんじゃないですか? ところでお二方、お好きなお菓子ってありますか?」


 渡し守が聞いてきた。


「お菓子? うーん、なんでも好きだけど、特段好きなのはチョコですね」


 カナタが答えた。


「おお、分かってらっしゃいますね。それではそちらの貴方の好きなお菓子は何でしょうか」


「私が好きなのは...グミ、かな」


 佐藤さんが答えた。


「グミ? あなた今グミっておっしゃいました?」


 渡し守が聞き返してきた。


「はい。私、グミが好きです」


 その答えを聞いた途端、渡し守は立ち上がった。


「グミなんてものが好きだなんて貴方思考が終わってますね! プリンやクッキーならまだしも、グミなどというここ数年でしゃしゃり出てきた半端者など言語道断!! 私は認めんぞぉ!!!」


 渡し守は持っていたオールで襲い掛かってきた。


「キャア! ごめんなさい! ほんとはチョコ、チョコが大好きです!!!」


「今更私に忖度など、もう遅い! 川底に沈みなさい!!!」


 渡し守はオールを船底に叩きつけた。佐藤さんにはギリギリのところで当たらなかったが、船底に穴が開いてしまい、そこからチョコレートが入ってきた。


「やばい! このままじゃ沈む! 渡し守さん落ち着いて!」


「落ち着けるかぁ!!」


 カナタが荒ぶる渡し守を止めようとしたが、彼は全く聞く耳を持っていない。


「こうなったら...」


 カナタは立ち上がり、渡し守を蹴飛ばして川に落とした。


「あぁ..あがが」


 川に落ちた渡し守はドロドロと溶けていった。この川に流れるチョコレートはどうやら高温らしい。


「やった! でも船がヤバい!! 佐藤さん飛べる⁉」


「うん!」


 二人はぴょんと船から飛び降り、岸に着地した。


「助かったぁ」


 カナタはその場に座り込んだ。


「カナタ?」


 背後から声をかけられた。


「もしかしてその声は、エイタか⁉」


 振り返ると、そこにはカナタの予想通り、エイタがいた。


「あ~よかったぁ。それでエイタ、他の人見なかった?」


「いや、見てねえな。というか俺らがここに来る前に教室にいたの、俺らの班の5人とお前のねーちゃんだけだったぞ」


「ん? ねーちゃん?」


「おう、『カナタの姉』ですって言ってたぞ」


(マキナか)「わかった。じゃあ残りの4人を探しにいこう」


「だな」



 *エイタがパーティーに加わった。



 それからカナタ達は北へ向けて歩き続けた。すると、いつの間にか砂がクッキーでできた砂漠地帯に来ていた。


「あちい。もう歩けねぇ。それに腹減ったぁ~」


 エイタが地面に座り込んだ。


「がんばれエイタ。いずれ砂漠から出られる時が来るから...」


 カナタは疲弊した声で話した。


「ごめん私も休憩...」


 エイタに続き佐藤さんも地面に座り込んだ。


「佐藤さんまで...ってあ! あれ見て!」


 カナタは進行方向から向かって左側を指さした。


「あれってオアシスじゃね?」


「どうせ蜃気楼だろ」


 エイタが反論した。


「いや、あれはマジオアシスだね」


「証拠は?」


「ない。でもとりあえず走れ!」


 そう言ってカナタは走り出した。


「待てよぉ」


 エイタと佐藤さんは立ち上がってカナタを追った。


 ところが数百メートル走ったところでカナタは転んでしまい、緩やかな下り坂でコロコロ転がり、勢い余ってそのままオアシスにダイブしてしまった。


「カナタ! 大丈夫か⁉」


 追いついてきたエイタが岸で叫んだ。


「大丈夫! ってあっま! ここの水、シロップだ!」


 カナタが水面から顔を出して答え、すぐさま二人に救助された。


「うわ、ベトベト...」


 カナタが落ち込んでいると、佐藤さんが何かを見つけたようだ。3人でそこへ行くと、ビスケと班長と、帽子をかぶった男と赤いドレスを着た女性がお茶会をしていた。


「あ、カナタ。会えてよかった~」


「二人とも無事?」


「おう。班長は緊張で震えてるけど無事だよ」


「それは良かった。この人たちは?」


 カナタが聞いた。


「さぁ。詳しいことは俺にもわかんないけど、行商人とどこかの国の女王様らしい」


「ほへぇ~。それでビスケ、芝谷さんとは会った?」


「いや、気づいた時には班長と二人だけで砂漠にいたから会ってない」


「分かった。じゃあ探しに行くぞ。次は森を目指す」


「おう、ほら班長も行くぞ」


「は、はい」



 *ビスケと班長がパーティーに加わった。



「ちょっと坊や、これを持っていきな」


 そう声をかけたのは女王だった。彼女はビスケにクッキーが十枚ほど入った袋をくれた。


「仲良く食べるんだよ」


「ありがとうございます!」


「そうだ、君たちもしかして魔女を探してるんじゃないか?」


 行商人の男がカナタに話しかけた。


「え?なんでわかったんですか?」


「おいらにゃ君たちの考えなんてお見通しだよ。...お菓子の家を探しな。多分そこに魔女はいる」


「お菓子の家...ですか。ありがとうございます」


 カナタは礼をしてお茶会の会場を後にした。

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