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2-3 面談へ行きましょう

 マキナがカナタの部屋を訪問した次の日の朝、買ってきたドリルに付いていた確認テストを解いてサユコに見せていた。


「はい…はい…うん…マキナちゃん、あなたの学力は、計算と英語と化学の分野以外は全部小学校1年生~3年生並よ」


「それってどれくらいですか?」


「キツイ言い方にはなるけど、この国で教育を受けた大人ならできて当然とされる知識のほぼ最低に近いレベルね」


「そう...なんですね」


「まあでも、頑張れば伸びるかもしれないから引き続きやってみましょう」


「はい!」


 その日の夜、全員が寝静まった後タイチとサユコはダイニングテーブルに座って話をしていた。


「マキナのことなんだけどな、シオンに確認取ってみたら、また近いうちに面談に来いってさ」


 タイチの弟、春晴シオンは私立高校の経営者である。


「ありがとう。でも弟くんの学校って結構なレベルよね? 現時点で小3レベルのマキナちゃんが、仮に入学できたとしてもついていけるのかしら...」


「小3!?…となると難しいかもしれないが...まあ頑張るっきゃないだろう」


「そうね」


「じゃあ、今週末に行くってことで連絡しておくぞ」


「うん、お願い」



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 カナタはここまでの経緯を一通り聞いた。その後は高校に到着するまで、マキナの緊張を和らげるために呼吸法を教えたり雑談をしたりした。


 その間、サユコは職場にいるタイチとスピーカーモードで電話をしていた。


『悪いな。急に食事会の予定が入っちまったばっかりにサユコ一人で行く羽目になって。…まったく、あいつは多忙過ぎるんだよ。約束を三週間もずるずると引き延ばして…』


「多忙はあなたもでしょ。別に私は構わないわよ。それに、そっちは大事な食事会なんでしょう?」


『そうだ。都内の名だたる企業の重役が大集合だ』


「すごい大事なやつじゃない。頑張って」


『おう。頑張るぜ』


 電話はここで終わった。

 カナタが車に乗り込んでから20分ほどで目的地に着いた。


「俺も一緒に行った方がいい?」


「今回はいいかな」


「りょ~かい」


 駐車場に車を駐めたサユコはマキナとともに校舎へ向けて歩いて行った。もちろん、この世界で買った服で。


 2人は来客用玄関で靴を揃え、そこからすぐのところにある校長室に入ると、ソファーに腰かけている春晴シオンがいた。シオンは2人を見るやいなや立ち上がりお辞儀をした。


「こんばんは、どうぞこちらへ」


 言われるがまま2人はソファーに座った。


「お久しぶりです、サユコさん。カナタくんはお元気ですか?」


「はい、それはとても。最近部活が今まで以上に楽しいようで…」


「それは良いことです。それと、君が春晴牧奈さんだね。初めまして。私はこの学校の校長の春晴シオンです。以後お見知り置きを」


 シオンは資料を見ながら挨拶をした。


「春晴マキナです。よろしくお願いします」


「うん。それでは面談を始めさせていただきます」


 シオンはメガネをクイッとなおし、話を始めた。


「まず、どのような経緯でこちらに入学したいとお考えになったんですか?」


「それについては私から説明しても良いですか?」


 サユコが聞いた。


「まあ、構いませんよ。」


「実はこの子、異世界から来たんです。」


「異世界? 兄…いえ旦那様からは親戚の子供だとお伺いしておりますが」


「いえ、異世界から来たんです。それもテレビアニメの世界から」


「テレビアニメ!?」


 シオンは一瞬驚いたがすぐに冷静な態度に戻った。


「春晴さん、申し訳ありませんが今は真面目な話をする場面なんです。確かに異世界転生なんてロマンがあるなとは思いますが、別に今する話じゃないでしょう」


「そうですよね。でもこの画像を見てもらえるとわかると思いますが」


 そう言ってサユコが出したのは、カナタの部屋にもポスターとして飾られている、ファンタジーワールドのメインビジュアルだった。


「この魔法使いの女の子、マキナちゃんに顔が似てると思いませんか?」


「言われてみれば…どことな〜く似てますね…」


 シオンはサユコのスマホとマキナの顔を交互に見ながら言った。


「でしょう? それにこのキャラクターの名前を見てください」


「マキナ…アーロウ…名前まで、すごい…」


(やったかしら…!?)


「偶然ですかね」


 サユコは一瞬ズッコケそうになったが、挫けず反論を続けていく。


「でも、ここ。右目の下のほくろ、一緒じゃないですか?」


「確かに…いやでもそれもただの偶然..」


 その瞬間、悩んでいるシオンの頭の上を花瓶が通り過ぎた。


「え?」


 一瞬上を見上げ、前方に視線を戻すとマキナの手には例の花瓶があった。


「キミ...今どうやって...」


「こう、です」


 マキナは指でひょいひょいと花瓶を空中で動かして見せた。


「もしかして...」


「はい。魔法です」


 サユコはきっぱりとした答えと目の前で起こった超常現象にシオンは頭を抱えて悩みだした。


(はぁぁぁぁぁ⁉︎ 魔法⁉︎⁉︎⁉︎ そんなことが現実で起こるはずが…いやでも俺は見た! 確かに見たけど! はぁ? う、嘘だ! いやでもサユコさんがあんな真面目に嘘つくわけがないし…)


「信じていただけないかもしれませんが、頼れるのはあなたしか居ないんです。お金は払いますし、どうか」


 サユコと、それに続くようにマキナは深々と頭を下げた。

 シオンは深呼吸をして心を落ち着けた後、口を開いた。


「わかりました。信じるとしましょう」


 シオンの言葉を聞いた二人の顔に光が差した。


「では、なぜこの学校に入学を志願した理由を、改めてお聞かせ願います」



 サユコは、マキナの実家が貧乏で教育を受けられなかったこと・家で簡易学力測定をしたところ小3程の学力だったこと・もし一生この世界で暮らす選択をした場合、どうしても学力と学歴が必要になると考えたこと

 の三つを伝えた。


「なるほど...分かりました。ではこうしましょう。本来なら今年度の入試問題のみを転入試験で使用するのですが、今回は2年生一学期期末試験の問題も転入試験の問題として加えさせていただきます。その上で満点の8割の点をとることが出来れば、特例で異世界からの転入を認めましょう」


「ありがとうございます!!」


 サユコが感謝を述べる前にマキナが大きな声で感謝を述べた。


――――数分後


 面談を終えた3人は来客用玄関へ戻って来ていた。


「本日はありがとうございました」


 シオンはお辞儀をしながら言った。


「こちらこそありがとうございました。ほら、マキナちゃんも」


「ありがとうございました」


 2人もシオンに続き、軽くお辞儀をした。


「言い忘れておりましたが、マキナさんの転入試験は7月25日、終業式の日の13時から行いますので、よろしくお願いします」


「はい…わかりました。それでは失礼します」


 手帳に簡単に記したサユコはドアを開けて外へ出た。続くようにマキナが玄関を出ようとする間際、シオンは口を開いた。


「マキナさん。期待していますよ」


 マキナは少しの沈黙の後、「はい」と静かに答えた。



 **********



 帰路につく車の中、カナタは2人から面談の内容を聞いていた。


「2ヶ月半で7年分ちょいを!? それ超絶キツくねえか!?」


「でしょ、私も聞いた時声出るかと思ったわ。でも高校に行きたいのよね! マキナちゃん!」


「うん! 学校で友達作ったり勉強したりして楽しく過ごしたい!」


 マキナの表情は夢と期待と希望に満ちたものだった。


「じゃあ、やるしかないわね!」


「はい!」


 そう返事をしたマキナの顔はやる気と希望で満ちていた。


「………………『がんばるぞ』で乗り切れる話なのかな…」


 少し小さい声でカナタが呟いた。けれど、その言葉とは裏腹に、彼にも『やるしかない』という気持ちは芽生えていた。

※マキナの牧奈表記はミスではありません。

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