NON 2
NONの始まりへ・・・
NON高校二年・春
武庫湖女子高等学校
放課後の校庭、午後3時50分
菩提樹下のベンチに座るNONと
友人、福島 美緒
NON両手いっぱいに開いたエゴン・シーレの画集に
目を奪われている
美緒、どっぷり、その世界に入り込んでいるNONの
肘を何度も突付く
我に返り美緒に視線を向けるNON
NON「ご、ごめん、夢中になっちゃって・・・」
美緒「そうじゃなくて」
そう言うと美緒、顔を正面に向ける
美緒の示す視線をたどるNON
そこに立つ男、美術教員でも有り美術部顧問でも有る
岬 浩太である
NON画集を閉じ立ち上がり深々とお辞儀して
NON「こんにちは先生、すいません気が付かなくて・・・」
美緒、丁寧すぎるNONの挨拶を見せつけら仕方なく立ち上がり
美緒「こんにちは・・・」
岬、笑顔でNONが持つ画集を見つめ
岬「シーレ?」
NON画集の表紙を岬に向け
NON「はい!」
岬、直立する二人に恐縮しながら
岬「あ、ごめん、座って座って」
促されてNON、美緒ベンチに座る
岬、腕を組み画集を指差し
岬「“死と乙女”夢中で見てたね・・・気に入った?」
NON目を輝かせて
NON「鬼気迫る表現ですよね・・・クリムトより
私、好きかもしれません」
岬、腰をかがめNONの膝の上に置いた画集をめくり始める
岬「僕もゴージャス過ぎるクリムトよりも、くすんで
生々しい表現のシーレが好きだな・・・・・」
NONページをめくる岬の指先を見つめながら
NON「確か、クリムトの弟子だったんですよね?」
岬、一瞬顔を上げNONを見た後
岬「そう、でも自画像を描かないクリムトと自画像ばかり
描くシーレは除々に関係が破綻してゆくんだよね・・・・・
そうだ!面白い自画像が有るんだ」
岬、画集を持ち上げ、せわしなくページをめくる
夢中で絵を探す岬の表情を見つめるNON
美緒、二人の会話が全く理解出来ない為
足をバタつかせながらグランドの中央を見る
そこには五月の風が生んだ小さなつむじ風が
生徒と戯れている、そんな風景をぼんやり眺め溜息
岬、首を何度もかしげ
岬「有名な自画像だから載ってると思うん・・・有った!」
岬、安堵の表情を浮かべ、そのページを開いたまま
NONの膝に画集を置き説明を始める
岬「このシーレの左肩に背後霊の様に寄り添う男が
クリムトと言われてるんだよ」
自画像を見つめるNON、息を呑み自分の口元に左手を重ね
NON「かなり怖いですよね・・・私にはクリムトが二人の関係は修復不可能だと囁いている様に見えます」
岬「確かに・・・・・」
岬、つまらなさそうにグランドを見る美緒に気付き
岬「ごめんね、面白く無い話して・・・」
美緒、岬に目を合わせずグランドを見つめたまま
美緒「全然平気です、こうゆうの慣れてますから」
NON、画集から目を離し美緒の袖を軽く引っ張り
NON「ごめんね、美緒」
NONが袖を引っ張る度、美緒の肩が小刻みに揺れるが
グランドから1mmも視線を反らさず
美緒「本当、全然気にしてないから」
岬、美緒の言葉とは裏腹の態度に気まずくなり
かがめてた腰を上げ
岬「それじゃあ・・・」
NON思わず立ち上がり切ない表情を岬に向け
NON「え!・・・・・あ、はい・・・」
岬、左手を軽く挙げ
岬「又、明日」
岬、背を向け歩き出すが、足を止め振り返りNONを見つめ
岬「野島君、顔色悪いけどちゃんと食べてる?」
NON胸に持っている画集をギュっと抱きしめ満面の笑みで
NON「はい!」
NONの笑顔に思わず岬の顔もほころぶ
岬「そう、なら良いんだけど・・・じゃあ」
岬の姿が校舎に消えるまで立ったまま見続けるNON
ふと視線をベンチに向けるとNONを睨む美緒が居る
サッと座り画集を脇に置いて、美緒の左肩に両手を添え
NON「本当!ごめんね美緒!」
美緒、苦笑いを浮かべ
美緒「何とも思ってないから、謝らないでよ」
美緒、NONから視線を反らし自分の足元を見つめながら
首を少しかしげ尋ねる
美緒「ちょっと、疑問が有るんだけど・・・」
NON、美緒の左肩に置いていた手を離し
NON「え!・・・・・何?」
美緒、つま先で土の上に何本もラインを描き
美緒「何で岬先生NONに逢う度にNONの顔色気にするの?」
NON目を泳がせながら
NON「それは・・・・単純に私の顔色が悪いからじゃない?」
美緒、納得できない様子で
美緒「顔色の悪さだったら私も自信有るんだけど・・・」
嫌な自信である
美緒「いつもNONに対してだけじゃん?」
NON脇に置いた画集に目を向け表紙を指でなぞり
頬を赤く染め照れ笑い
NON「そぉ?・・・・・そーかな?」
そんなNONをいぶかしい目で見る美緒
美緒「顔色悪いって言われて嬉しいの?」
NON激しく手を振り
NON「全然!全然!」
美緒「・・・・・・・・・・・まぁ、良いけど・・・」
美緒立ち上がり
美緒「行こう」
NON、美緒を見上げ申し訳無さそうに両手を合わせ
NON「ごめん美緒、今日無理・・・・・」
美緒、眉を八の字にしてしゃがみこむ
美緒「えー!!何でー?図書館でノート写さしてくれるって
約束したじゃん!」
NON、美緒に手をすり合わせ
NON「さっきお母さんからメールが来てお父さんと外食
する事になったの・・・・だから、本当ごめん!」
美緒立ち上がり何度も体を上下に揺らし
美緒「それ、断れないの?」
NON「うちのお父さん仕事の事情で速く帰れる事が滅多に
無いの・・・・・だから、解って・・・・」
NON立ち上がり鞄の中からノートを出し美緒に差し出す
NON「これ、貸すから許して・・・」
美緒、半べそをかきながらノートを押し返す
美緒「そうゆうんじゃ無いの!一緒に居たかったの!」
美緒のストレートな表現にNONの胸は痛むが
NON「美緒、本当に、本当にごめんね!」
NON、ノートを鞄になおし、うつむく美緒の顔を下から覗き込む
美緒小さな声で
美緒「・・・・・明日は?」
NON満面の笑みを浮かべ
NON「明日は絶対大丈夫!」
美緒、NONと目を合わせ
美緒「約束よ・・・絶対よ・・・」
NON左手の小指を美緒の右手に近づけ
NON「うん、約束」
美緒、細く整ったNONの小指を見つめながら
美緒「言葉だけでいい・・・・・指切りは嫌い・・・」
美緒そう言うと、にっこり笑う
嘘の無い美緒の笑顔に安心するNONベンチに置いた画集を
取り両手で胸の前に抱え
NON「じゃあ、悪いけど時間が無いから行くね・・・」
美緒「楽しんできてね」
NON「ありがとう」
小走りで校門へ向うNON
見送る美緒
美緒、ベンチに座り目線を上に向けるとベンチを覆う
菩提樹の葉の隙間から光の粒子がてらてらこぼれている
南風が優しく美緒の髪を僅かに揺らす
目を閉じ、胸いっぱいに春の息吹を吸い込むと
大気と自分の境界線がぼやけ、心が身体を離脱する
美緒「・・・・・気持ち良い・・・・・」
・・・・・って浸っている数十メートル先からこっちへ
近づいてくる下品な複数の足音
美緒、そのノイズに眉をひそめ、うっすら目を開き視線を向ける
一瞬にして美緒の表情は曇り思わず呟く
美緒「ゲ!!!GM!!!」
グランドのど真ん中を我が物顔で闊歩する三人
MIKI“朝日 美紀”
理恵 “大塚 理恵”
オグリン“小栗 愛”
“軍団MIKI”のスリートップである
何がそんなに面白いのか中央でアホズラして
馬鹿笑いしているMIKI
美緒そそくさと立ち上がりGMに背を向け
歩き始める
そこに突き刺さるMIKIの声
MIKI「おぉ!美緒!!」
立ち止まる美緒泣きそうな顔で
美緒「勘弁してよ・・・・・」
振り返る美緒、白々しく笑顔を作り
美緒「あぁ、MIKI」
数メートル先からゲラゲラ笑いながら
MIKI「目が笑ってないよ美緒~」
その言葉にさらに凍りつく美緒の作り笑い
MIKI右手に持っていた鞄をベンチに放り投げ
MIKI「何してんの?こんな所で?」
理恵、そびえる菩提樹を見上げ
理恵「木の精霊とお喋りしてたんだよね~」
MIKI大爆笑
美緒、黙ってMIKIを見つめ心の中でつぶやく
“MIKIってホント馬鹿っぽい”
美緒「別に・・・・・ただ座ってただけ」
MIKI、美緒の肩を叩き
MIKI「んじゃ、暇って事?パチ屋行かない?」
美緒「パチヤ?・・・・・て、何?」
首をかしげる美緒に理恵、呆れた顔で
理恵「パチンコ」
美緒「は~?!」
後ずさりする美緒
その肩をつかみ引き寄せるMIKI
MIKI「行こ~よ、今日“海”のイベントだから勝てるって!」
美緒、MIKIの手を払いのけ
美緒「勝つとか負けるの問題じゃなくてパチンコって
20歳からでしょ!」
理恵、溜息をつき
理恵「パチンコは18から出来んの!」
美緒、理恵を睨み
美緒「どっちにしても駄目じゃん!」
MIKI、人差し指を美緒の顔に向け
MIKI「何?美緒、びびってんの?」
美緒、その指を掴み眉間にしわを寄せ
美緒「嫌なの!そうゆうの!」
オグリン、美緒の反発を意外そうに見つめ
オグリン「へ~、美緒って切れるんだ~・・・・・」
美緒、GMスリートップを見つめ
美緒「まさか、学生服で行くつもり?」
オグリン「んな訳無いじゃん!理恵ん家で服借りて行くの」
理恵、指を鳴らし
理恵「美緒だったら、亜矢の服似合うんじゃない?」
ちなみに理恵は四姉妹で三女の亜矢は11歳である
オグリン「亜矢ちゃん小5じゃん!」
MIKI腹を抱え爆笑
MIKI「それ全然違和感無い!ランドセルも着けて~」
GM大爆笑
美緒、屈辱的な状況に切れそうになるが切れた所で
無意味だと自分に言い聞かせて
美緒「・・・・・んじゃ、頑張って・・・・・」
GMに背を向け立ち去ろうとする美緒
MIKIさすがに言い過ぎたと気付き美緒の肩を軽く叩き
MIKI「冗談じゃん、怒んないでよ~」
美緒、歩みを止めず
美緒「遅い・・・・・」
そこへMIKIの名を呼ぶ声
??「MIKIセンパ~イ!」
MIKI、美緒、同時に声の主へ視線を向けるとこっちに全力疾走
してくる二人の女子
美緒、MIKIに尋ねる
美緒「誰?」
MIKI「・・・・・解んない・・・けど私のファンだと思う」
美緒、MIKIの横顔を見て心の中で“あんた何様?”
息を切らしMIKIの前で立ち止まる女子、顔を上げ
??「MIKI先輩こんにちは」
MIKI、声を掛けて来た方の女子をじっと見つめる
??「あ、私・・・・・」
MIKI名乗ろうとする女子の開いた唇を人差し指で塞ぎ
MIKI「ちょ、ちょっと待って!思い出すから・・・・・」
MIKI、じっと瞳を覗き込む
みるみる内に女子の頬が赤くなる
MIKI「・・・・・え~っとね~・・・」
MIKI空を見上げ目を閉じ記憶を辿り始める
その姿をかたずを呑んで見守る女子
MIKI目をカッと見開き女子に顔を向け叫ぶ
MIKI「思い出した!石本 美佳ちゃん!
一人っ子のA型、誕生日が11月1日でさそり座
趣味が割り箸袋の収集、現在サッカー部で好きな食べ物がハッピーターンとオレオで・・・確かクリームとクッキー、分けて食べるのが癖って言ってたよね」
驚異的な記憶力である
石本「ハイ!!」
MIKI、石本を優しくハグして
MIKI「イェ~!」
MIKIの胸の中でうっとりする石本
そんな二人を冷ややかな目で見る美緒、理恵、オグリン
MIKI、ハグ越しに正面を見ると石本と一緒に来たもう一人の
女子と視線が合う、MIKIハグを止め石本に尋ねる
MIKI「ところで美佳ちゃん、そちらさんは?」
石本、後ろを向き
石本「あぁ、この子、私と同じクラスの壺井 美佳子
(つぼい みかこ)です!MIKI先輩と知り合いだって言ったら会いたいってせがまれて・・・・・」
MIKI、壺井に近づき
MIKI「美佳子ちゃん初めまして~」
憧れのMIKIを目の前にし返事が出来ない壺井
MIKI「もしかして緊張してる~?かわい~」
そう言うと壺井の髪を優しくなでる
MIKIがこのまま抱きしめれば壺井は確実に昇天するであろう
石本、そんな二人を羨ましそうな目で見つめ
石本「先輩、良かったらこの子と写メってくれません?」
MIKI、壺井の髪を撫でながら顔を見つめ
MIKI「良いの?私で?」
壺井、真っ赤な顔で小さく頷く
MIKI「全然良いよ、携帯は?」
壺井、手に持っている鞄から携帯を出そうとするが手が震えて
フックを上手く解除できない、MIKI壺井の背後に回って震える手を握り
MIKI「この中に入ってるの?私が出してあげる・・・」
MIKI、壺井の手の上からフックを外し鞄の中を覗き
耳元に唇を近づけ
MIKI「このピンク色で硬いの?」
壺井うっすら目を開け頷く
二人のやり取りを冷ややかな眼差しで眺める
美緒、理恵、オグリン
理恵「何?・・・この絵・・・」
オグリン「MIKI~、いいかげんにしてくんない?」
美緒「・・・・・家に帰りたい・・・」
石本「羨ましい・・・・・・」
石本の発言に美緒、理恵、オグリン同時に
「どこがー!!!!!」
MIKI携帯を取り出し壺井に渡し囁く
MIKI「続きは又今度ね・・・・・」
その言葉に壺井、メロメロになり視線も定まらない状態で
携帯を写真モードに切り替え、石本に携帯を託す
石本、嫉妬を覚えてしまう程の甘い場面を見てしまった為
内心、壺井に紹介なんてするんじゃなかったと後悔するが
感情を殺しMIKIと壺井に携帯を向ける
MIKI、壺井の肩を抱き超笑顔
石本「じゃあ・・・撮りますね・・・」
石本がシャッターに手を触れかけた瞬間
MIKI、手の平を石本に突き出し
MIKI「ちょっと待ったー!!!」
驚く石本と壺井
MIKI、石本に近づき
MIKI「その携帯見せて!」
石本、携帯を恐る恐るMIKIに手渡す
壺井、MIKIの発言の意図が解らずおどおどしながら状況を
見守る
携帯のレンズ部分に眼を凝らし見るMIKI
そして顔を曇らせ一言
MIKI「写真・・・・・無理・・・・・」
壺井泣きそうな顔で思わず
壺井「え!?」
MIKI残念そうに顔を横に何度か振り
MIKI「悪いんだけど、この携帯500万画素じゃん・・・」
?の石本と壺井
MIKI「私の魅力って500万画素程度じゃ写し切れないん
だよね~・・・800万画素以上あれば良かったんだけど」
しょうもない理由に絶句する石本と壺井
春なのに寒風がピンポイントで吹き抜ける
MIKIしらけきった空気をしこたま堪能した後
MIKI「って、ウッソ~」
変顔しておどけるMIKIの背後に忍び寄る無骨なシルエット
そこから伸びる太い腕がMIKIの髪の毛を鷲掴みする
MIKI「痛ぇ!!!!」
鬼の形相で振り返るMIKI、そこに立つ熊!いや人?
国語教師で生活指導の坂口 幽研
坂口「絶好調じゃねーか、朝日~」
MIKIの表情筋は固まり
MIKI「ザァ~す、先生、ザァ~す・・・・・」
坂口「ざーすじゃねぇ、チョケるな」
理恵、オグリン直立不動
石本、壺井、数々の極悪指導伝説を残す坂口を前に震えだす
美緒、この汚れた状況を浄化してくれる坂口の登場に
思わず顔がほころぶ
坂口、なめるように全員を見回した後、石本と壺井に
坂口「君達は帰りなさい」
そそくさと立ち去ろうとする石本と壺井に
MIKI「ちょ!美佳子ちゃん、携帯!」
石本、手を伸ばしMIKIの右手から奪う様に壺井の携帯を取り、坂口に一礼し疾風の如く去って行く
砂ぼこりだけを残し消えた石本、壺井
残された美緒とGM
美緒、有る意味この場に居られる事を神様に感謝し
心の中で祈る“数々の自分に対する暴言・失言・・・坂口先生、GMに天罰をお与え下さい!”
坂口、掴んでたMIKIの髪をグシャグシャとこねくり回し
坂口「朝日~、カッコイイ髪してんな~」
ちなみにMIKIは髪型を崩されるのが、しいたけの次に嫌いで、相手が坂口でなければブチ切れていただろう・・・MIKI引きつった顔で搾り出すように
MIKI「恐縮です・・・ザァ~す」
坂口、MIKIに顔を近づけ
坂口「ナメてんの?この色?」
MIKI「イエ、ナメてないです・・・・・」
坂口、MIKIの髪の毛を再び掴み持ち上げ
坂口「俺の記憶が正しければ先週の色と違うと思うんだけど」
MIKI痛みをこらえ
MIKI「そうっすか?自分何もイジってないっす」
坂口、掴んだ髪を放し両手で髪をかき分け
根元から1mmにも満たない黒い髪を見つける
坂口「ほ~、お前の髪は黒く生えていきなり茶色になる
性質なの?」
言葉を失うMIKI
坂口の発言に思わず吹き出すオグリン
勿論、坂口がその声を見過ごす訳が無くオグリンに視線を向け
坂口「小栗、お前笑った?今?」
オグリン背筋を伸ばしたまま目を閉じ
オグリン「イエ!笑ってない!ません!」
坂口、MIKIを乱暴に突き放しターゲットをオグリンに変更
坂口「だよな~、笑えないよな~」
坂口、ニタつきながらオグリンの目の前に立ち粗雑に
オグリンの前髪を引っ張る
顔を歪めるオグリン
坂口「お前は何で前髪は黒くて他は茶色いの?」
オグリンくっきり色分けされた髪を指摘され思わず
オグリン「遺伝です!」
それを聞いた理恵、一番無い言い訳に吹き出しそうになり
口を袖で隠す
坂口「言い切ったね~小栗~、遺伝か・・・・学生証の写真
見せろや・・・」
オグリン泣きそうな顔を空に向け校庭中に響き渡る声で
オグリン「遺伝です!!」
理恵、耐え切れず爆笑する
坂口、オグリンの髪から手を離し鬼の形相で理恵を睨む
坂口「あ~?」
坂口怒りのオーラを放ちまくり理恵に近づく
理恵、そんな坂口の視線から目を反らさず
理恵「私は染めました!」
MIKI、オグリン、早々と戦線離脱した理恵の言葉に凍りつく
坂口、理恵の肩を軽く叩き
坂口「よ~し!」
坂口、MIKIにゆっくり近づき
坂口「MIKI、親友がゲロったぞ~どうする?」
MIKI恨めしそうに理恵を見るが
理恵は運動場を涼しげな眼差しで見つめ超シカト
観念したMIKI静かに
MIKI「すいません・・・染めました・・・」
坂口「よ~し!」
坂口、オグリンの前に立ち睨みつける
坂口「・・・・・・・」
オグリン、坂口の影にすっぽり覆われ震えながらも
オグリン「遺伝です」
その瞬間、坂口の平手がオグリンの脳天を直撃!
前のめりになるオグリン
美緒、思わず両手で口を覆い息を呑む、一瞬時間が止まる
オグリン、フラつきながら顔を上げ小さな声で
オグリン「ビューティーン、ハニーキャラメリゼで染めました・・・・」
坂口、勢いを完全に失ったGMを眺めご満悦
美緒、噂以上の坂口の迫力に圧倒され涙目
坂口「お前ら明日、黒にして来い」
MIKI顔を上げ、すがる様な目を坂口に向け
MIKI「マジっすか!明日っすか!?」
坂口腕を組みMIKIを見つめ
坂口「じゃあ、今日か?」
MIKIたじろぎ
MIKI「いや・・・あの・・・そうじゃ無くて・・・」
坂口「あ~?!」
すごむ坂口
うつむくMIKI
重苦しい沈黙が流れる・・・
MIKI、ゆっくり顔を上げ、一か八かの賭けに出る
MIKI「坂口先生・・・・・」
坂口、冷めた視線でMIKIを見る
坂口「・・・・・」
MIKI「実は今日坂口先生にお渡ししたい物が有りまして・・・」
坂口「・・・・・」
MIKI「カプリコ・・・」
理恵、オグリン、美緒、MIKIのナメた言葉に対し
心の中で“終わった・・・”と呟く
しかし、予想に反し坂口の鉄槌は落ちないむしろさっきまでの
殺気が幾分和らいだかの様にさえ感じる
坂口、MIKIをじっと見つめ
坂口「いちごか?」
MIKI、深々と頭を下げ
MIKI「勿論です」
MIKI頭を下げたままベンチに向いボロボロの鞄の中からスーパーの袋を取り出し坂口に渡す
受け取った坂口、ゆっくり中を覗き込む
MIKI「受け取って頂けるでしょうか?」
坂口、袋を覗き込んだまま
坂口「何故、2本?・・・その心は?」
MIKI下げていた頭を上げ浪々と語り始める
MIKI「坂口先生の1日の食事の摂取カロリーを考えると
先生の身長が190センチ位なので、平均体重が
1. 90×1.90×22=79.42で約80キログラム、
体重×30が1日摂取カロリーなので80×30で2400カロリー
先生は独身でいらっしゃいますので食事を仮に
コンビニ弁当と考えさせて頂くと1食の平均カロリーが約700
カロリー、3食コンビニ弁当だとして2100カロリー
ジャイアントカプリコの1本のカロリーが196カロリー、
坂口先生の毎日の激務を考えると少し平均カロリーから足が
出ますが2本が妥当かと・・・」
MIKIの説明に聞き入る美緒、理恵、オグリン、まるでこの日が
来る事を想定していたかの様な説明である、恐るべきMIKI!
黙ったままカプリコを見つめる坂口
MIKI、後頭部を掻きながら照れくさそうに(勿論芝居だが・・・)
MIKI「本当、坂口先生にはいつも迷惑掛けっぱなしで・・・
こんな事ぐらいしか出来ないっすけど・・・・・」
坂口、袋から顔を上げると僅かに目が充血している
照れ臭そうにうつむくMIKIを見つめながら
坂口「・・・・・俺も生活指導っていう立場が有るから
見過ごせない事も有るんだよ・・・」
MIKI頭を下げ
MIKI「良く存じております・・・・・」
坂口ジャージのポケットに手を突っ込み
坂口「とにかく、その色はマズいからもう少しトーン落とせや」
MIKI「はい・・・ごもっともです」
坂口黙りこくる理恵とオグリンを見つめ
坂口「お前らも・・・・・頼むぞ・・・」
理恵・オグリン「・・・・・はい」
坂口、オグリンに近づき
坂口「・・・小栗」
肩を震わせ、びびるオグリンに坂口ぶっきら棒に呟く
坂口「悪かったな・・・」
オグリン「・・・・・・・・」
坂口、MIKIを見てカプリコの入った袋を軽く挙げ
坂口「これ・・・・・ありがとな・・・」
そう言うと背を向け校舎へと歩き始める坂口
が、その足を止め振り返り
坂口「お前ら・・・・・」
GM神妙な面持ちで
GM「はい」
坂口「・・・・・福島の事イジメんなよ」
“えー!!イジメられてないしー!!!”
美緒心の中で絶叫する
GM地面に頭が着かんばかりに、こうべを下げ
GM「はい!」
“否定しろよー!!!!”美緒心の中で発狂する
そう言い残し坂口は、つむじ風と共に去って行った・・・
その背中を見送ったGM、緊張から開放されしゃがみ込む
理恵「マジビビった~!」
オグリン「やばい・・・ふらふらする・・・・・」
MIKI「いや~エキサイティングだった~」
GMが感想を語る中、美緒、MIKIに疑問をぶつける
美緒「MIKI、本当に坂口先生にカプリコ渡すつもりだったの?」
MIKI、呆れ顔で美緒を見て
MIKI「んな訳無いじゃん!自分用に買ったの!」
理恵立ち上がり右手の人差し指をMIKIに向け
理恵「だいたい坂口がカプリコ好きな事MIKI知ってたの?」
MIKIベンチに腰を下ろして鞄の中からコンパクトミラーを出し
髪を整えながら
MIKI「え?・・・勘」
オグリンしゃがんだままMIKIに顔を向け
オグリン「はぁ~?勘だったの?!」
MIKIコンパクトミラーを鞄に直し両腕をベンチの背に回して遠くを見つめながら
MIKI「ただし勝機の有る勘」
美緒「どうゆう事?」
MIKI目を閉じる
MIKI「ここ(武庫湖女子高)受験する時ネットでホームページ
入った事が有ったのね、そこで学校紹介以外に教師のプロフも載ってて坂口の好きな食べ物の欄に、甘いもの(特にアポロ)って書いてあったんだよね~」
オグリン、MIKIの隣に腰を下ろし
オグリン「ヘ~、そんなの書いて有ったんだ・・・ん?・・・でも
アポロじゃん」
MIKI、首をかしげるオグリンの肩を叩き
MIKI「そう!でもMIKI統計学でアポロ好きにカプリコいちご味が嫌いな奴は居ないって結果出てんのだからそれに賭けた」
理恵、腕を組み心の中で“統計学って・・・・・お前個人の意見だろ・・・”そして吐き捨てる様に
理恵「な~んだ、ただのラッキーパンチじゃん」
MIKI「・・・・・かもね」
MIKI、理恵に鋭い視線を向け
MIKI「でも、そのラッキーパンチのお陰でみんなが助かったのは事実じゃん?」
美緒、MIKIの発言に思わず
美緒「みんなって言うの止めて、私は関係ないから」
オグリン腕を組みゆっくり左右に首をかしげ
オグリン「助かった?・・・ん~・・・でも結局、トーンは落とさないといけないじゃん?」
MIKI、オグリンを見て強く断言する
MIKI「落とす必要なし!」
理恵その言葉に呆れながら
理恵「何で?」
MIKI、ベンチに反り返ってた体勢を前に移し理恵を見つめ
力説する
MIKI「坂口は受け取ったんだよカプリコを、それはつまり今後
私らの行動には目をつむるって事の証なの!」
理恵、MIKIの飛躍し過ぎの発想に吹き出す
理恵「何でそうなる・・・たかだかカプリコ2本で・・・」
MIKI、ゆっくり顔を振り
MIKI「解ってないな~理恵、カプリコと思うから駄目なの
このシチュエーションの場合、カプリコ受け取った事はお金を
受け取った事と同じなの」
理恵「何言ってんの?カプリコはカプリコじゃん!」
美緒、真剣に語る合う二人を見つめながら深い溜息をつき
“カプリコ、カプリコってうるさいんだけど・・・”
MIKI勢い良く立ち上がり
MIKI「とにかく坂口はリスクを負ってカプリコを受け取ったの!
そして我々は自由を手に入れた!どーぞヨロシク!」
陶酔しているMIKIを横目にオグリンつぶやく
オグリン「MIKIの言葉信じたいけど・・・どーなんだろ・・・」
MIKI、弱気なオグリンの発言をかき消す様に
MIKI「解った!そんじゃ明日金髪にして坂口の前に立つ!」
理恵、オグリン、美緒、MIKIにつっこむ
理恵「絶対ヤバイって!」
オグリン「下手し~、退学よ!」
美緒「本人がやるって言ってるんだから、やらせれば?」
MIKI「・・・・・・」
MIKI低い声で
MIKI「やる」
決意の発言の後MIKI、手を派手に叩き
MIKI「さぁ!この件はここまで!パチ屋行こう、パチ屋!」
MIKI、鞄を脇に挟み美緒を見て
MIKI「どうする?」
美緒きっぱりと
美緒「行かない」
MIKI「・・・・・あっそ」
美緒を残し校門へ歩き始めるGM、しかしMIKIだけ足を止め
振り返り美緒を見る
MIKI「あれ?」
その言葉に理恵もオグリンも足を止め振り返る
MIKI「そーいや、美緒の唯一の友達NONは?」
MIKIの発言はいちいち勘に障るがこらえ
美緒「・・・ホントは一緒に図書館に行く予定だったんだけど
お父さんの仕事が早く終わったからって急きょ家族で食事に行く事になったんだって・・・で帰っちゃった・・・・・」
MIKI眉をひそめ
MIKI「そう言ったの?NON?」
美緒「うん」
MIKI「有りえ無いじゃん・・・・・」
美緒、下を向きつまらなそうに
美緒「でしょ?約束してたのに・・・でもお父さん早く帰れる事が少ないみたいだから・・・」
MIKI、美緒に近づきながら
MIKI「いや、そーじゃ無くて」
美緒、顔を上げMIKIを見る
美緒「・・・・・何が?」
MIKI「NONのお父さん亡くなってるじゃん」
美緒「・・・・・」
美緒、怒りの表情を剥き出しにしてMIKIを睨む
美緒「MIKI、言って良い事と悪い事有るよ・・・・・」
理恵、オグリン、MIKIに近づきながら
理恵「MIKI、それはマズイっしょ・・・・・」
オグリン「幾らなんでも殺しはアウツ!」
MIKI、敵意に満ちた目を三人から向けられ
MIKI「ちょ、ちょっと・・・・マジだから・・そんな嘘つかないって!」
美緒、涙目でMIKIをなじる
美緒「今までMIKIの発言に耐えてこれたのは私個人に対する
事だったからなんだよ・・・・・そんな嘘ついて・・・その先に何が有るの?・・・・・許せない・・・・・」
美緒の頬に怒りの涙がつたう
MIKIの背後から理恵の冷たい声
理恵「MIKI、謝るんだったら今だよ・・・・・」
オグリン、美緒の肩にそっと手を添えMIKIを睨み
オグリン「私だったら謝っても許さない・・・・・」
MIKI、真実が信じて貰えないとは何と切ない事で有るか
実感する
MIKI「・・・そっか・・・・あんた達NONとは高校からだもんね・・・・」
オグリン、大きく溜息をつき
オグリン「まだ言うか・・・・・」
MIKI「三年前の脱線事故・・・・・」
美緒、理恵、オグリンの表情が固まる
理恵「××線の?」
MIKI目を合わせず頷く
オグリン「マジなの?」
MIKI、顔をオグリンに向け声を荒げながら
MIKI「だからマジだって!」
理恵、右手で口元を隠し眉をひそめ
理恵「NONのお父さん乗ってたの?」
MIKI自身、当時の記憶が蘇り言葉に詰まる
MIKI「そう、・・・・・だからおじさん・・・居ないの」
美緒、両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込む
MIKI、美緒の背中を見つめ
MIKI「美緒・・・NON本当にお父さんて言ってたの?」
美緒、頷く
オグリン「・・・再婚してるんじゃないの?」
MIKI、オグリンに視線を向け
MIKI「してない・・・ハズ・・・仮にしててもNONが再婚相手を
お父さんと呼ぶ事は絶対に無い・・・・・」
MIKIが断言できるのは幼馴染でNONがどれ程父親を
愛し執着しているかを知っているからである
理恵口元を隠したままつぶやく
理恵「・・・・・何でそんな嘘・・・・・」
美緒の弱々しい泣き声がGMの胸に突き刺さる・・・
MIKIしゃがみ、小さく震える美緒の背中に触れ
MIKI「何か・・・理由がある筈・・・美緒・・・辛いと思うけど
NON許してあげて・・・」
美緒、絶望に満ちた声で
美緒「私って・・・・NONの事・・・何も知らない・・・」
何処からとも無く来た突風が菩提樹の葉を激しく揺らす
命を燃やし尽くし赤茶けた葉と緑をたたえた葉が理恵の足元に儚く落ちる・・・理恵、図らずも散った若き葉を両手でそっと拾い上げ優しくブレザーの胸ポケットへ・・・
音楽室から僅かに聞こえる吹奏楽部の演奏が風に乗り
四人の頭上に降り注ぐ
“シューベルト弦楽四重奏第14番二短調D.810”
◆
同日、午後5時32分、美術室
純白のシーツを被せたモデル用のテーブルの上に
一糸まとわぬ姿で背中を丸め横たわるNON
それをデッサンする岬も同じく何もまとってはいない
窓から射す夕日がNONの裸体に美しいコントラスト
をもたらす
岬、デッサンする手を止め
岬「本当に綺麗だ・・・・・」
NON閉じていた目をゆっくり開き岬を見つめ
NON「先生が綺麗にしたんだよ」
その言葉に岬の顔はほころぶ
NON再び目を閉じ
NON「先生・・・」
岬「ん?」
NON「このポーズって、もしかしてロダンのダナエですか?」
オーギュスト・ロダン“考える人”で有名な彫刻家である
ダナエとは作品名
岬、パンの切れ端でデッサンの線を修正しながら
岬「そう、良く解ったね」
NON、少し笑った後、皮肉たっぷりに
NON「という事は、私はカミーユですか?」
カミーユ・クローデル、ロダンの弟子にして愛人
最終的にロダンに捨てられそのショックから神経に異常をきたし
精神病院で最後の日を迎えた哀れな女性・・・
岬、思わぬNONの言葉に笑い出す
岬「考えすぎだよ」
NON、頬を膨らませイタズラな目で岬を見つめ
NON「なら良いんですけど・・・」
岬、キャンバスから2、3歩さがり構図を確認する
NON真剣に絵と向き合う岬を眺め
NON「先生、アレ、もうやめません?」
岬、目を凝らしNONとキャンバスを交互に眺め
岬「アレって?」
NON「“私の顔色悪いね”って言う誘いのセリフ・・・」
岬、吹き出し
岬「え、何で?」
NONくすくす笑いながら
NON「美緒がね」
岬、首をひねり
岬「みお?・・・・・あぁ、福島さん?」
岬の表情が急速に曇り
岬「まさかバレた!?」
NON、岬の焦る顔が滑稽でお腹を抱え笑い出す
NON「バレて無いですよ~、ただ納得いかないって」
NONの笑顔に対し依然として険しい顔の岬
岬「納得いかない?何が?」
NON「顔色の悪さだったらNONより私の方が自信有るのに
岬先生は一度も顔色悪いって言ってくれた事が無いって」
岬ようやく安堵の表情に変わり、鉛筆を持つ右手で口元を
隠し笑いをこらえながら
岬「顔色の悪さに自信って・・・確かに福島さん顔色が良いとは言えないけど・・・」
NON「でしょ」
美術室に広がる二人の笑い声
岬「じゃあ、他の誘いのセリフ考えてよ」
NON上半身を起こし
NON「そうじゃ無くて携帯買って下さいよ」
岬、左腕を腰に当て困った顔でNONを見つめ
岬「何度も言ったと思うけど・・・」
NON「奥さんが駄目って言うんでしょ・・・」
NON寂しげな表情を浮かべうつむく
岬、鉛筆をイーゼルに置きNONの隣に腰を下ろす
NON「・・メールが出来れば文字だけでも?がっていられるのに」
NONの肩を優しく抱き寄せる岬
岬「ごめん」
目を閉じ沈黙する二人を包み込む黄昏
カーテンを揺らす窓から漏れる吹奏楽部の演奏
NON「・・・・・良い曲・・・」
岬うっすら目を開け
岬「ジュピター・・・」
ホルスト作“惑星”第四楽章
岬「個人的には一時間位前に流れてたシューベルトの方が
好きかな・・・」
NON、岬の肩に唇を当て
NON「死と乙女」
NON、顔を上げ岬の横顔を見つめながら
NON「今日のキーワードですね」
岬、NONに視線を合わせ
岬「なるほど・・・確かに」
見詰め合う二人
夕日の中、潤む目を向け微笑むNONはダナエの様に美しい・・・
美術室の壁に映し出された二人の影が再び重なり溶け合う
◆
日が沈み、暗闇に包まれた美術室に広がる二つの荒い呼吸
岬おもむろに立ち上がり教室の後方の棚から教材用の
キャンドルに火を灯しNONの横たわるテーブルの横に有る
教壇に置く
岬、教室の時計に目を向けると6時50分
岬「そろそろ家に帰った方が良いんじゃない?」
NON仰向けで寝そべったまま薄っすら目を開け
NON「先生がでしょ?」
図星なだけに気まずそうな表情をNONへ向ける岬
NONゆっくり起き上がり乱れた髪を整えながら
NON「冗談ですよ・・・・・」
NONテーブルの上に散乱した二人の衣服を仕分けし
岬にそっと渡す
岬「あ、有り難う」
キャンドルの灯に照らされ黙って服をまとい始める二人
NON、シャツのボタンを付けながら呟く
NON「先生・・・・・」
岬、腕時計をはめNONへ視線を向ける
岬「何?」
NON「無いんです・・・」
岬、シャツの袖をとめる手が止まる
岬「え?!・・・・嘘だろ?」
キャンドルの灯に浮かび上がる岬の狼狽する表情
NON、そんな岬をじっと見つめ
NON「・・・だって・・・出来ちゃうでしょ・・・付けないと」
岬、NONの両肩を掴み軽く揺らしながら
岬「冗談だろ?冗談だよね?」
岬、情けない顔で懇願する
NON何の抵抗もせずただ岬の力に上半身を揺すられながら
NON「・・・・・ずっと、無いから・・・・・」
岬、NONの肩から手を離し眉をひそめたまま
教室の中をうろうろ歩き回り
岬「単純に遅れてるだけじゃないの?」
NON「・・・・・そうかも知れませんけど・・・・・」
岬、NONの傍に近づき
岬「絶対そうだって!有り得ないって!」
NONうつ向き泣きそうな顔で
NON「でも付けてないから・・・・・」
岬テーブルに両手を付き、荒い口調で
岬「付けてないけどそんなヘマしないって!」
NON、岬の余りにも無神経な発言に心が凍りつく
今の岬にそんなNONの心の動きなど察知出来る訳がない。
乱暴にNONの膝の上にブレザーと鞄を置き
岬「今の時間だったらまだ薬局も開いてるから妊娠検査薬
買って調べてみてよ」
NON、鞄とブレザーを持ち力無くテーブルから降りる
しかしショックで足を踏み出せず立ち尽くす
岬、NONの肩にそっと触れ
岬「・・・・・ごめん・・・動揺しちゃって・・・・・」
NON、抑揚の無い声で
NON「私の方こそすいません・・・先生を困らせちゃって・・・
きっと勘違いです・・・・・」
岬、左手でNONの頬を撫でながら
岬「・・・仮に、そうだったとしても僕は逃げたりしないから
安心して」
NONその言葉に顔を上げると優しく微笑む岬の瞳
NON「本当ですか?」
岬、軽くキスをして
岬「信じて・・・・・」
NON、若干気持ちが落ち着き美術室の扉へ歩き始める
岬、扉の鍵を開け先に廊下へ出て薄暗い廊下を見渡し小声で
岬「大丈夫、出てきて」
廊下に出たNON、岬を見つめ
NON「正直、困ってますか?」
岬「・・・困ってないって」
岬、腕時計を見つめ
岬「早く行かないと薬局閉まっちゃうよ・・・」
NON「・・・・・・」
NON、深くお辞儀をしてゆっくりと廊下を歩き始める
背中を見送る岬
廊下を折れ三階から二階に続く階段を下りるNONの瞳に
大粒の涙がこぼれる、岬の相対する発言が頭の中でリフレインする“そんなヘマしないって”“逃げたりしないから安心して”
もし今日の事を誰かに話したら誰もが岬を罵り別れろと言うだろう・・・岬でなければNONもそうしたであろう・・・
しかし岬なのである!全てを捧げた初めての男性・・・
愛しい人・・・失いたくない・・・もう二度と・・・
岬、美術室の扉を閉めゆっくりとテ-ブル近づき敷かれた
シーツに残る愛の跡を見つめる、そして両手で勢い良く
シーツを剥ぎ取りテーブルに手を叩きつける
岬「・・・・・」
キャンドルの灯が不気味に岬の横顔を揺らす




