NON 1
剥き出しの悪魔
NON「え?何て?」
NON携帯画面から目を反らさずけだるそうに聞き返す
駅のプラットホーム午後11時過ぎ
電車を待つNONと2K(小倉 治“おぐら おさむ”22歳)
2K自分の足元を見つめながら
2K「今日で終わりにしたい・・・・・」
NONのメールを打つ手が止まる
NON「は?もう一度言ってみ」
2K、NONの顔をチラ見し
2K「こんな事、何度も言わせないでよ、聞こえただろ?」
NON携帯をバッグにしまい両手を腰に当て2Kを睨み
NON「聞き間違えかも知んないから!」
その声にビクつく2K、周りを気にしながら
2K「だから・・・・・別れたい・・・・・です」
その時反対ホームに回送電車が通過し突風が二人の体に吹き付ける、
激しく揺れる2Kの髪と完璧にセットされ微動だにしないNONの髪・・・
回送電車が去り静まるホーム
NON首をかしげ
NON「は?・・・・もしかして今、振られたの?NON?」
黙りこむ2K
NON、正面に掛けられた広告看板を数秒見つめた後
2Kに視線を向け
NON「はぁー?!」
NON、2Kの耳元に顔を近づけ
NON「答えてよ!」
2K困惑の表情で自分の足元を見たまま
2K「え?・・・・・何を?」
NON、2Kの左足のつま先をヒールで踏みつけ
NON「NON振られたのって聞いてんの!」
顔を歪める2K
NONそんな2Kをまじまじと見つめた後
足をどかし何度か頷きニヤッと笑う
NON「なるほどね」
そう言うと2Kのスーツの袖をつかみ歩き出す
NON「行こ!」
NONの行動に戸惑う2K
2K「ど、どこに?」
NON前方を見つめ黙々と歩きながら
NON「ホテル」
度肝抜かれ動揺する2K
2K「何で?」
NON立ち止まって振り返り
NON「要するにそういう事でしょ?」
2K「えっ?」
NON溜息をつき
NON「早い話、付き合ってるのに何にもさせてくれないから
辛くなって、別れ話して情に訴えたらさせてくれるかも作戦でしょ?
あんたにしては上出来じゃん!良いよ、その捨て身の作戦にハマってあげる」
NON再び2Kを引きずり改札へ続く階段に向う
NON正面を向いたまま
NON「今のうち言っとくけど、NONラブホ無理だからそれと一泊2万以上のホテルでしか泊まらないからヨロシク!」
2K引きずられながら眉をひそめ
2K「それが目的じゃないんだって・・・」
NON歩くスピードを緩め振り返り2Kの目を覗き
NON「強がんなって!」
2KたまらずNONの手を振り払い
2K「勘弁してよ!」
NON、2Kの泣きそうな表情を見て爆笑
NON「はい、はい、そんな小芝居いいから」
NON階段を少し登り立ち尽くす2Kを見つめ
NON「4番出口上がった所にATM有るからそこで
お金下ろすといいよ」
ノーリアクションの2K
NONその態度に苛立ち、階段を下り2Kの肩を掴み
NON「ホラ、行くよ」
NON強引に引っ張る
しかし2K強い力でその手を振り払声を絞り出す
2K「本当にそんなんじゃ無いんだって!」
NON 、2Kの正面に回り込み
NON「それマジで言ってんの?」
2K静かに頷く
NON、2Kの襟を掴み怒りに満ちた表情で
NON「こっち来いよ!」
ホームの端に連れて行き
中央に建つ丸い柱を背に2Kを立たせる
NON「お前、何ふざけた事言ってんの?」
2K「・・・・・・・・・」
NON「喋れよ!」
その時、ごう音と共に電車が到着する吐き出される人々
乗降者が居なくなるまで立ち尽くす二人
そして静まるホーム
NON、2Kの肩を軽くこつき
NON「お前、自分の身分解ってんの?」
無言の2K
NON右手を腰に当て
NON「お前さ~、NONと付き合えてる事がどれだけ奇跡か
解ってんの?」
2K「・・・・・解ってるよ・・・・・」
NON再び2Kの肩をこつき
NON「解ってねーよ!それが解ってる奴の態度かよ!」
苦悶の表情を見せる2K、ただ黙って無礼なNONの
言葉に耳を傾ける
NON「お前、友達にNONの写メ見せて何て言われたん
だっけ?」
2K顔をNONに向け
2K「・・・今言うの?」
NON、 2Kの頭を叩き
NON「言えよ!」
2K下唇を少し噛んで
2K「お前には勿体無いって・・・・・」
NON、2Kの襟を再び掴んで前後に揺らし
NON「違げぇーよ!“嘘つけ”ってまず信じて貰えなかった
んだろ!」
2K、乱暴に揺すられるがまま
2K「ご、ごめん」
NON柱に2Kの背中を押し付け
NON「勝手にはしょんな!そこ大事な所!!」
2K掴まれている襟の下で両手を合掌させ
2K「ほ、本当にごめんなさい・・・」
NON手を離し、ヒールの先で神経質に床を鳴らし始める
NON「その話、NONの前で嬉しそうに話してたよね」
2K「はい」
NON「で、お前、最後NONに何て言ったっけ?」
2K怯えきった眼差しをNONに向け
2K「今、言うの?」
NON眉間に幾筋ものしわを寄せ2Kを睨む
2K弱々しい声で
2K「野島さんと付き合えて僕は幸せです・・・野島さんに出会えた事を・・・・・」
そこで口ごもる2K
NONすかさず2Kの頭を殴る
NON「やめんな!最後まで言えよ!」
2K「・・・・・神様に感謝致します・・・・・
こんな事言わせないでよ!」
NON、右足で2K の太ももを蹴りあげ
NON「自覚させてんだよ!お前がどれだけ幸運な男か!」
NON天井を見上げながら首をポキポキ鳴らし
NON「今まで、全く興味無かったから聞かなかったけどお前、
彼女居た事有んの?」
2K黙ったまま・・・
NONそんな2Kの姿を鼻で笑い
NON「居るわけ無ェ~よな~そんなんじゃ」
NON、2Kの耳に唇を近づけ、囁く
NON「ぶっちゃけNONとしたいでしょ?」
その言葉に2K即座に
2K「別に」
NON、想定外の言葉に動揺し二、三歩後ずさりする
NON「別にって・・・・・・・否定?」
2Kゆっくり頷く
この瞬間NONの恋愛不敗神話に終止符が打たれた・・・
しかも相手は何の変哲も無い非常に地味な男にである
NON、胸を押さえ呟く
NON「嘘でしょ・・・・・」
黙っている2K
NONの呼吸ペースが尋常でないスピードで刻まれ出す
そして小さな声で呪文の様に同じ言葉を繰り返す
NON「嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ・・・」
みるみる内にNONの顔は青く染まり
唇はリップをしているにも関わらず紫色に変色し過呼吸状態に
おちいる
NON柱に手をつき崩れる様にしゃがみ込む
2KそんなNONの状態に焦り腰をかがめ恐る恐る肩に触れる
2K「大丈夫?」
NON両耳を塞ぎ
NON「嫌―!!!!!」
ホームに響き渡るNONの奇声
まばらとはいえホームに居合わせた人が一斉に視線を向ける
その場から離れる人、二人を見ながらヒソヒソ話す人
携帯を向け写メる人、この状況を携帯で実況する人
好奇の目にさらされる二人・・・
NONはまったくその状況に気付いていないが
2Kは出来るならその場から逃げ出したい気持ちで
いっぱいである
そんな魔の時間が数分間続いた後
二人に近づいて来る駅員と中年の女性
恐らくその女性が駅員に連絡したのだろう
2Kの目の前に立ち軽く会釈する駅員、うずくまるNONを見つめた後2Kに尋ねる
「お連れの方ですか?」2K連れじゃ無ければどれだけ幸せかと思いつつ
2K「・・・・・はい」
しゃがみ込む駅員、NONに優しく尋ねる
「気分が優れない様でしたら駅長室にソファーが有るので
そこで休まれてはいかがですか?」
ピクリとも動かないNON
2Kもしゃがみ込みNONの耳元で
2K「野島さん、駅長室行こ」
中年女性も2Kの隣にしゃがみ心配そうにNONに
問いかける「大丈夫?」
NON途切れ途切れの息で、うっすら目を開け中年女性に視線を合わせ一言
NON「うるせぇ、ババァ・・・・・」
その言葉に絶句する中年女性
NON、視線を駅員にシフトして
NON「お前らに関係ねェーんだよ、消えろ!」
駅員立ち上がり呆れた顔で2Kを見る
2K駅員に勢い良く頭を下げ
2K「本当にすいません!」
駅員さっきとは打って変わって事務的口調になり
「とりあえず戻りますが、何かあれば駅長室に誰か職員が居ますのでお尋ね下さい」
2K立ち上がり深々とお辞儀をし
2K「すいませんでした!」
駅員、動揺し動けないで居る中年女性の肩にそっと手を置き
声を掛ける「行きましょう」
親切心に対する答えが罵声という事実を受け入れる事が出来ない中年女性、
力無く立ち上がりNONに哀れみの視線を向けつぶやく
「何が有ったの?あなた・・・・・」
この言葉はとても意味深く、NONにとって重要な
キーワードでも有る“何が有ったの?”
それについては後でじっくり語る事にしよう・・・
2K去ってゆく駅員と中年女性の背中を見送りながら
何度も辞儀をする
そこえ電車が到着する
中年女性を含め、遠巻きにNONと2Kのやり取りを
見つめていた人達が名残惜しそうに電車に乗り込む
電車が発車し見えなくなるまで頭を下げる2K
静寂に包まれるホーム
2K、NONの丸めた背中を見つめ
2K「あんな言い方って無いじゃないか」
NON柱に手を付きゆっくりと身を持ち上げながら
NON「誰が蒔いた種だよ・・・」
2K強い口調で
2K「野島さんと僕の問題じゃないか、他人に当たるのは
おかしいよ」
NON柱に背中をピタリと付けたままニヤリ笑う
NON「お前、言うじゃない・・・」
2Kその言葉にビクつき
2K「ごめんなさい」
NONスカートに付いた埃を払い
NON「・・・・・本気でNONと別れたいの?」
2Kうつむき
2K「・・・・・はい」
NONの呼吸は落ち着き、顔色も本来の色を取り戻している
NON「良いよ・・・・・」
その言葉に2Kの顔に安堵の表情が広がる
NON「ただ・・・・・・」
2Kの背中に悪寒が走る
NON「NONと別れたいっていう真剣な思いがまだ伝わんない」
2K「・・・どうゆう事?」
NON胸の前で腕を組む
NON「言葉だけじゃ足んない」
2K「・・・・・・・・・・」
NON「土下座しろ」
2K眉をひそめ、泣きそうな顔で聞き返す
2K「何て?・・・・・・」
NON「聞こえてんだろ、土下座だよ、土下座」
2Kうつむき唇を強く噛む、そして搾り出すように
2K「何で・・・・・そこまでしなくちゃならないの・・・・」
NON、2Kに、にじり寄り
NON「お前はNONのプライドを傷付けたのお前にもそれに見合うだけの代償を払ってもらう」
とうとう2Kの目から一粒涙がこぼれ落ちる、この涙は悲しいからでは勿論無く
100%悔しさからである
NON、床に落ちた一粒の涙をヒールで踏みつけ馬鹿にした笑みを2Kに向けて
NON「はぁ?マジ?お前泣いてんの?」
2Kスーツの袖で涙を拭い
2K「出来ないよ・・・・・土下座なんて・・・・・」
完全に息を吹き返したNON自分勝手な復讐が2Kを飲み込む
NON「やるんだよ!」
2Kの涙が幾粒もこぼれ床を濡らす
NONその床を眺め
NON「オエ~!きたね~!」
2Kその言葉に再び袖で涙を拭い懇願する
2K「土下座だけは・・・・・許して下さい・・・・・」
NON、頑なに拒む2Kに思わず吹き出し
NON「へ~、えらく食い下がるじゃん益々見たくなっちゃった~、早くしろよ!」
2K、下ろした両手の拳が小刻みに震えている
NON「お前、今ここで土下座しなかったら一生付きまとうからな」
NONならやりかねない発言である
2Kの涙と鼻水が混じり流れる、そして膝が微かに折れる
徐々に沈みこむ2Kの身体を見つめるNONの顔から
笑みが消える
完全に膝を着いた2K、握り締めていた拳を開き床に置く
NONの顔から表情が完全に消える
なぜなら2Kの土下座と奴の土下座がオーバーラップし、あの日の記憶が鮮明に蘇ったからである
この軟弱で忌々しい男の背中・・・・・
私は絶対に許さない・・・・・
私を壊したあの男を・・・・・




