MIKI 3
起こされた悪魔
◆
YASU、FMのボリュームを絞り
YASU「なぁ」
うっすら目を開けるMIKI
MIKI「何?」
YASU「何か飲みたくね?」
MIKI「確かに・・・・」
YASU「コンビニ寄ってくか?」
MIKI「だね」
パーキング付きコンビニを見つけ
駐車スペースに車を止める
運転席のドアを開けMIKIに尋ねるYASU
YASU「何飲む?」
MIKI「自分で決める」
助手席から出ようとするMIKIに
YASU「無理!無理!」
YASUを怪訝な目で見るMIKI
MIKI「何で?」
YASU「お前、眼の周りヌタヌタ」
MIKI「嘘!」
MIKIバックミラーでチェックする
MIKI「最悪~・・・ハズ~・・・YASU洗顔シート買ってきて」
YASU「はぁ?後、家に帰るだけだろ、そのままで良いじゃん」
MIKI、YASUに顔を近づけて
MIKI「私は良いけど、YASU耐えられる?」
YASU「・・・・・・・成る程、買ってくる」
MIKI「本当、YASU失礼!」
MIKI、YASU同時に吹き出す
MIKI「カフェオレがいい」
YASU「BOSSな」
MIKI右手を軽く上げ
MIKI「よろしく~」
車を降りコンビニへ入るYASU
振り返ると助手席から手を振るMIKIが見える
YASU思わず大きな声で
YASU「ヤバイ!ヤバイ!」
MIKIその発言に顔をクシャクシャにして舌を出す
明け方のコンビニは想像以上に客が入っている、と言ってもほとんどが立ち読みの客なのだが・・・
店員はレジでは無く、今届いたパンや弁当を
陳列棚に並べている
YASU忙しそうにしている店員に恐縮しながら
YASU「誠に申し訳有りませんが洗顔シートって置いてます?」
コンビニから出ると東の空が白み始めている
YASU溜息をついて
YASU「あぁ~あ・・・・・朝だよ・・・・・」
運転席のドアを開け、ぼやくYASU
YASU「お前、洗顔シート高けぇ~よ、18枚入りで252円も
したじゃん!それとBOSS無かったからジョージア・・・」
MIKIを見ると深刻な顔で折りたたんだ携帯を両手で持ち
膝の上に置いている
YASU「・・・・・どうしたんだよ?」
MIKI「・・・ダッチからメール来た・・・」
YASU運転席に座り
YASU「え?お前、電源切って無かったの?」
MIKI「うん」
YASUコンビニの袋からジョージアとリアルゴールドを出す
YASU「なんて書いてたんだよ」
MIKI「まだ開いてない・・・」
MIKIすがる様な目でYASUを見る
MIKI「どうしよう・・・・・」
YASUジョージアを助手席のドリンクホルダーに入れ
不快な顔をしながら
YASU「知らねぇーよ、自分で決めろよ」
MIKI「YASUだったらどうする?」
YASUリアルゴールドを開け
YASU「答えたくねぇー」
YASU、リアルゴールドを飲みながら横目でMIKIの行動を
監視する
MIKIゆっくり携帯を開く
YASU「良いのか?」
MIKIの下した選択に異議を唱える言葉が思わず出て
しまったYASU視線を反らす
MIKI「え?!」
MIKI、YASUに目を向けるがYASUは外を見ている
YASU「・・・・・・・」
MIKI視線を戻しメールを開き読み始める
おそらく時間的には数分間だったのだろうが
YASUには恐ろしく長い沈黙に感じる
車の中に微かに聞こえるメールをスクロールするボタンの音がそのメールの長さを物語っている
MIKIの鼻をすする音が聞こえ、ゆっくりと視線をMIKI
に 向けるYASU
涙の表現で止めどなくというが有るが、今、まさにMIKI
の瞳から涙が止めどなく溢れ出している
しかもとてつもなく静かに・・・・・
そんな光景に言葉を失うYASU
メールを読み終えたMIKI、携帯を静かにたたみ
両手でしっかり包み胸の前で抱きしめる
涙は枯れる事を知らず益々勢いを増し流れ続ける
YASUにダッチからのメールの内容が分かる筈も無いが
おそらく一人ラブホに残されたダッチがMIKIへの思いを
ストレートに綴ったのだろう・・・
MIKIの姿を見つめながら、ジレンマに陥るYASU
MIKIにとっての幸せとは?
そばに居てくれるやーさん?
長崎に帰るダッチ?
愛が距離で測れない事は知っている、しかし注がれる愛情が
等しいなら距離は重要なファクターである
そう、ダッチでは無い!やーさんの元へ帰るべきだ!
でもMIKIが今ダッチに対して流してる涙はやーさんへの
愛情を超えているのではないか?
嫌!この涙こそ等しい愛情で有るが故、苦悩し選べないでいる証拠ではないのか・・・・・
脳内でもがくYASU
MIKI胸に抱いてた携帯をゆっくり膝の上に乗せ
静かに開く、その仕草を見たYASUとっさに
開いた携帯の上に手を置く
YASU「何するつもりだよ!」
真っ赤に充血した目でYASUを見るMIKI
YASUそのMIKIの表情に胸を痛めながらも強い口調で
YASU「ダッチにメール返すんだったら内容にかかわらず
もうこの件でお前のフォローしねぇーからな!」
MIKI携帯の上に置かれたYASUの手を見つめる
YASU「やーさんのとこ戻るんじゃねぇーのかよ!」
MIKIまぶたを閉じると大粒の涙がこぼれその一粒が
YASUの指先に触れる
“痛ッ!”思わず言葉が出てしまいそうな程その涙は
鋭く切なかった・・・・・
沈黙の後、緊張していたMIKIの肩の力がフッと抜け
MIKI「・・・・・ごめん・・・・・そうだよね・・・」
そうつぶやくとYASUの手の下からそっと携帯を
抜き折りたたむ
YASU切ない表情をMIKIに向け
YASU「俺・・・・・・間違ってんのかな?・・・」
そう言うとYASU、MIKIの膝の上に乗せていた手を
ハンドルへ戻し、天井を見上げる
YASU「何か・・・辛いんだけど・・・」
MIKI左右に顔を激しく振り
MIKI「YASUは間違ってない・・・・ごめんね」
その言葉に少し救われた気持ちになるYASU深呼吸をし
YASU「じゃあ・・・・・家に帰るか・・・」
MIKI少し腰を上げ座り直し大きく頷く
YASUシフトに手をかける、と、その時
MIKIの携帯の着信音が車内に広がる
硬直する二人・・・
YASU「・・・・・・・」
MIKI「・・・・・・・」
顔をこわばらせYASUを見つめるMIKI
YASU視線を合わせず
YASU「心に従え・・・・・」
MIKI携帯に視線を下ろし数秒間見つめた後、
携帯を開きゆっくりと左耳に当てる
YASU、何処までも続く澄んだ空を見据えたままつぶやく
YASU「それが答えか・・・・・」
YASUハンドルから手を離しシートに身を沈めて
目を閉じると、まぶたの裏がやけに熱い
MIKI軽く息を吐き
MIKI「・・・・・ども」
ダッチ「今、何処?」
MIKIコンビニを見つめ
MIKI「ホテル近くの公園に居る・・・・・」
YASU、MIKIにしか聞こえない程度の声で
YASU「よく言うぜ・・・」
MIKI、YASUをチラ見する
ダッチ「何で・・・・・出てったんだ?」
MIKIこめかみを掻きながら
MIKI「何か・・・・・怖くなって・・・」
ダッチ「こんな事になって?」
MIKI右膝を立てつま先を右手で何度もさすり
MIKI「・・・・・うん」
ダッチ「・・・・・だよな、やーさん居るの知ってるのに・・・
本当、俺、最低だよな・・・・・ごめん・・・」
MIKI立てた膝を下ろし
MIKI「いや、なんか・・・誘ったの私だし・・・
ダッチは悪くないよ・・・・・」
YASUさっきと同じ声のトーンで
YASU「どっちも悪ィ~よ」
勿論YASUのぼやきはMIKIの返事に対してのものである
ダッチ「メール読んだ?」
MIKI少し間を置き
MIKI「・・・・・・・読んだ」
ダッチ「あれ、マジだから・・・」
MIKI静かに目を閉じ
MIKI「信じて良いの?」
ダッチ「うん」
MIKIのまつ毛が微かに光る
MIKI「・・・・・うれしい・・・・・」
やーさんを、ないがしろにしてラブモードに突入している二人
隣に居るYASUはたまった物じゃない思わず大きな声で
YASU「は~あ!」
携帯から漏れるダッチの焦る声
ダッチ「え!誰か居んの?!」
MIKI、YASUの胸ぐらを掴み睨む、が、口調はいたって冷静に
MIKI「何か、サラリーマンがベンチでワンカップ飲みながら
溜息ついたみたい、リストラにでもあって絶望してんじゃ
ないのかな?」
YASU開いた口が塞がらない
ダッチ「世知辛い世の中だよな・・・・・」
MIKI「・・・・・ホント、世知辛いよね・・・」
MIKI、YASUの胸ぐらを掴んでいた手を緩め、なでる
YASUその手を勢い良く振り払う
沈黙するダッチとMIKI
余りの長い沈黙に不安になるMIKI・・・静かに
MIKI「どうしたの?」
ダッチ「もう離れたくないから俺んとこ来て欲しい・・・・・」
MIKI携帯を右耳に移し
MIKI「俺のとこって・・・・・長崎?」
ダッチ「駄目?」
MIKI「本気?」
ダッチあえて返事はせずMIKIの答えを待つ
MIKI下唇を軽く噛んだ後、微笑んで
MIKI「・・・・・じゃあ、さらって・・・・・」
YASU、MIKIの返事でこのお話しの結末が読めてしまった
シフトをドライブに入れゆっくり車を発進させる
MIKI甘えた声で
MIKI「じゃあ、ホテルに戻るね」
MIKI携帯を切り、気まずそうにYASUを見て
MIKI「・・・・・YASU・・・悪いんだけど戻ってくれる?」
YASU溜息混じりに
YASU「もう戻ってるよ」
ホテルへと戻る車
MIKI、いきなりハンドルの前に手を伸ばし大きな声で
MIKI「ちょっとストップ!!」
焦るYASUブレーキを踏み込みMIKIを睨む
YASU「あんだよ?!」
MIKI数メートル先に見えるコンビニを指差し
MIKI「寄って!」
YASU顔をしかめ、ダルそうに
YASU「何で?」
MIKI「タバコ吸ったから歯ぁ、磨かないと!」
YASU、MIKIの顔をじっと見て
YASU「あと化粧もな・・・」
MIKIその言葉にバックミラーを覗く
MIKI「うげ!私でも、もう誰だか解んない、洗顔シート頂戴」
車をコンビニの前に止め、洗顔シートを渡すYASU
受け取ったMIKI、YASUを睨みつけ
MIKI「何やってんの!?これメンズ用じゃん!」
YASU「は~!?一緒じゃん!」
MIKI馬鹿にしたような口調で
MIKI「全然違っ・・・・・・・ごめん・・・・・」
そこまで言うと黙り込むMIKI
今日YASUにどれだけ迷惑をかけたかを思い出したの
だろう、うつむいて洗顔シートを抜き拭き始める
MIKI拭いた洗顔シートを広げ
MIKI「おえ~!YASU見て!」
洗顔シートをYASUの顔に近づける
YASU思いっきり顔を背け
YASU「いいって!気持ち悪りぃ~から!」
MIKI「一瞬、一瞬、えらい事になってるから!」
YASU恐る恐る洗顔シートに目を落とす
YASU「汚ね!!!お前顔に何塗ってんだよ!」
YASU、MIKIの顔を見る
YASU「ぐわ!!」
YASU、MIKIの顔と洗顔シートを交互に見て思わず
YASU「行くも地獄、帰るも地獄・・・・・」
MIKIぺらぺらの顔で頬を膨らまし
MIKI「ひど~い」
そして吹き出し笑うMIKI
YASU口には出さなかったが、“その顔で笑うと一層怖い・・・”
MIKI「じゃあ、ちょっち行ってくるね」
MIKI車から降りコンビニへ入る
それを見送るYASU囁く
YASU「店員びびるだろ~な・・・・・」
YASU国道をぼんやり眺める
ついさっきまで閑散としていた道路に車の群れが
脈を打っている
YASUズボンのポケットから携帯を出し
AKIへのメールを打ち始める
朝早くにごめん
今日抗えない力で引き付け合う愛を見たんだ
それはとても美しく多少の難を除けば
恐ろしく純粋なものだったよ・・・
僕とAKIとの関係もこの愛に負けない位
美しく純粋なものだと信じている・・・
ある指導者の思想で無数の命が天へ昇った
九月、AKIはぼくの前に下りてきて生きる事
を教えてくれたんだ
それまでの僕は脱力と迷走の中に溶けていて
僅かに射す光も白い点でしか捕らえる事が出来なかった
そんなすさんだ僕の心に手を差し伸べてくれたAKI・・・
その指先は震えるほど暖かくて
凍りついていた涙が溢れ出したんだ
AKIが蒔いた優しさの種子は僕の細胞の
隅々に根を張り呼吸を始め
世界に色が在る事
空気に香りが在る事
Kissに温もりが在る事を教えてくれてたんだ
AKIに触れられない日が続いて
咲いた花が枯れそうだよ・・・
水を下さい・・・
YASU送信ボタンに指を置いた瞬間助手席のドアが開く
MIKI「よっこいしょっと」
腰を下ろすMIKI
YASUボタンから指を離し携帯をポケットへしまう
YASU「結構時間かかったん・・・・・・・」
MIKIへ視線を向けたYASU息を呑む
そこには美しい女性が座っている・・・
勿論、紛れも無くMIKIなのだがとても美しい
YASU「マジかよ・・・・・」
MIKI「どうしたの?」
YASUの顔を不思議そうな目で見るMIKI
YASU「お前、めちゃめちゃ綺麗じゃん」
予想外のYASUの言葉に返事が出来ないMIKI
そしてそのまま見詰め合う二人
妙な時間が数秒流れお互い前を向く
YASU右手で後頭部を掻きながら
YASU「・・・・・んじゃあ・・・行くか・・・」
MIKIうつむき
MIKI「・・・はい・・・」
快適なスピードを保つ車の中に容赦なく入り込む朝の光
ホテルへ近づく程赤みを帯びるMIKIの頬
そしてつぶやく
MIKI「YASU・・・今日ホントありがとね・・・」
YASU一瞬だけMIKIに視線を向け
YASU「え?・・・・あぁ」
MIKI目を閉じ
MIKI「やーさんに今日の事正直に話すね・・・・・」
YASU左に大きくハンドルを切り
YASU「・・・・・そうしな」
MIKI左手でこめかみを押さえながら
MIKI「これで良かったのかな・・・・・」
眉をしかめMIKIうつむく
YASU、そんなMIKIの姿を見て怒鳴る
YASU「もう泣くなよ!綺麗なままで行け!!」
MIKIその言葉に顔を上げ
MIKI「・・・・・そうだね・・・ごめん」
◆
セックスフレンドの玄関付近に車を停車する
YASUもMIKIも前を向き黙ったままエンジンの音に
耳を傾けている
MIKI大きく息を吐き
MIKI「それじゃあ、行くね・・・」
YASU前を向いたまま
YASU「お、・・・・・おぉ」
助手席のドアを開け外へ出るMIKI
ゆっくりとホテルの玄関へ向かう
YASUも運転席のドアを開け外へ出る
YASU、MIKIの背中に向け
YASU「MIKI!!」
振り返るMIKI
YASU「ブレんなよ!!」
MIKIはにかんだ後
硬く握った右手の拳をYASUへ伸ばし見せる
YASUも拳をMIKIへ向ける
そしてホテルの中へ消えるMIKI
YASU「・・・・・・・・・・・」
YASU車に乗り込みシフトに手をかけるがその手が止まる
YASUの顔がみるみる険しい表情になり
シフトに置いた手を外し両手でハンドルを握る
目を閉じハンドルに向かい軽く頭を打ち付ける
ゆっくりとハンドルから顔を放すYASU
そしてさっきより更に強くハンドルに頭を打ち付ける
何度も、何度も・・・・・
車内に響く低く鈍い音・・・・・
今日、YASUの心の奥底に眠らせた悪魔が無意識の内に
目覚め自分を支配していた・・・・・
誰の心にも居る悪魔・・・
きっとMIKIもダッチも否応無く対峙する事になるので
あろう・・・
YASU一心不乱にハンドルに頭を打ち付ける
悪魔が眠りにつくまで・・・・・
元居た場所に帰るまで・・・・・
神は我々を人間にするために何らかの欠点を与える
シェイクスピア




