MIKI 2
ある選択
◆
ホテル街から数キロ離れた市民グラウンドと公園に挟まれた砂利道に車を止める
ここに来るまでの車中MIKIは一言も言葉を発する事は無く
YASUもあえて何も話し掛けなかった
その理由は今日有った事をMIKIなりに整理しているのだろうと考えたからである
YASUエアコンのスイッチに触れMIKIを見る
YASU「寒かったら点けるけど、どうする?」
MIKI視線を合わせず顔を振り
MIKI「・・・・・大丈夫」
YASU何かを思い出しスイッチから手を離す
YASU「あ、そうだ、これ」
YASUグローブボックスを開け、たばこと百円ライターを
出しMIKIに渡す
目を丸くして驚くMIKI
MIKI「嘘!わざわざ買って来てくれたの?」
YASU「ダッチに逢ってたんなら吸ってねーと思って」
MIKIたばことライターを優しく撫でながら
MIKI「嬉しい・・・・・YASUありがとね・・・」
YASU妙に素直なMIKIに戸惑いを覚える
エッチの後のMIKIってこんな感じになんのか?
非常にマイルドなおもむきである・・・・・
YASU「・・・・・・で、何でダッチに逢ったんだよ」
MIKIたばこに火を点け、肺いっぱいに煙を吸い込み
口と鼻から勢い良く吐き出し絶叫
MIKI「かぁー!うめぇー!」
YASU「・・・・・・・・・・」
やっぱ普段のMIKIだ・・・・・
MIKI「え?何?」
半開きの目の馬鹿ズラでYASUの方を向くMIKI
YASU「だから、何でダッ・・・・・」
MIKIと眼が合ったYASU思わず吹き出す
MIIKI「何?」
YASU「やっぱ無理、何でお前スッピンなの?」
MIKI頬を膨らませ
MIKI「仕方ないじゃん!私だってメイクしたかったし
髪もセットしたかったわよ、でもその音でダッチ起きたら出てこれないじゃん!」
YASU服の袖口で口を押さえ
YASU「なるほど、それでか」
MIKI、YASUに顔を近づけ
MIKI「そんなにヤバイ?」
YASU、MIKIが顔を近づける分のけぞり
YASU「ヤバイってゆーか、眉毛無いのが・・・・・」
MIKI舌打ちをしてフロントガラス越しに周りを見渡し
トイレを見つける
MIKI「解ったわよ!メイクしてくる!」
YASU、MIKIの顔の前で手を合わせ
YASU「お願い、そうして!」
不満そうな顔で車を出るMIKI
YASU、MIKIがトイレに入って行くのを確認すると
車の室内灯を点けポケットに入れていた単語カードを出し
単語の暗記を始める
数分後、助手席のドアが開き乗り込むMIKI
MIKI「どう?これで!」
YASU単語カードを直しMIKIを見る
YASU「おお!MIKIちゃん!」
MIKI呆れた顔でYASUを見て
MIKI「ほんと、YASUめんど臭い」
そう言うとMIKIたばこに火を点ける
YASUアームレストに肘を置き
YASU「んじぁ、改めて聞くけど、何でダッチと逢う事に
なったんだよ」
MIKI吐いたたばこの煙を見つめながら
MIKI「DSのね・・・」
YASU眉をしかめ
YASU「DS?」
MIKI「そう、DSのソフト、付き合ってた頃ダッチに貸したの
忘れてたのね・・・」
YASU、眼を合わせようとしないMIKIの横顔を見ながら
YASU「んで?」
MIKI「で、めちゃめちゃそのゲームしたくなって部屋中
探したの、でも出てこない訳・・・
そんで思い出したの返してもらってないって・・・」
YASU、片膝を立てシートにもたれ
YASU「ふーん・・・何のソフトだよ?」
MIKIたばこの煙を吸いながら天井をぼんやりと眺めて
MIKI「・・・・・・・・・え~っと・・・・ドラクエⅡ」
YASUシートから身を起こし
YASU「はー?ドラクエⅡだったらお前に貸してるじゃん!」
MIKIたばこを持つ手が一瞬止まる
MIKI「え?何?」
YASU「何じゃねーよ、貸してるじゃんドラクエ!」
MIKIたばこの灰をドアの外へ落とし
MIKI「・・・・・うん、そう、・・・でもあれYASUのじゃん・・・」
YASU、MIKIの顔をじっと見つめ、大きく溜息をつき
YASU「じゃあ、返して貰って今、有るんだな」
MIKIのショルダーバッグを指差す
MIKI「うん?・・・ううん」
MIKI目を泳がせながら首を振る
YASU呆れた顔で
YASU「MIKI、らしく無いじゃん・・・苦しいよ」
MIKI「・・・・・・・・・・」
YASU「どっちが逢おうって誘ったんだよ」
MIKI「ん?・・・・・・・向こう」
YASU「何て?」
MIKI、横目でYASUをチラ見して
MIKI「いや、いきなり電話がかかって来て・・・・・
東高円寺駅に着いたよって・・・」
YASUその言葉に違和感を感じ
YASU「東高円寺?・・・ってお前の最寄り駅じゃん・・・・・それって前もって約束してたんじゃねーの?」
MIKIたばこの火をじっと見つめ
MIKI「え?・・・・・・してないよ・・・」
YASU腕を組み勢い良くシートにもたれ
YASU「まぁ、いいわ、で、なんて返事したんだよ」
MIKIうつむいて
MIKI「じゃあ、行くねって・・・・・」
YASU、MIKIを睨み
YASU「はー?!逢う気満々じゃん!」
MIKI吸ってた、たばこを助手席の窓から投げ捨て
MIKI「ほんと、今日、てか昨日何にも予定が無くて・・・・・」
YASU「やーさんは?」
MIKI次のたばこを抜きながら
MIKI「やーさん?・・・・やーさん何か用事が有るって・・・」
YASU疑いの眼差しを向け
YASU「まじか?」
MIKI抜き出したたばこを手の平に転がしながら
MIKI「うん?・・・・・ううん・・・」
MIKIの様な性格の人間は稀にだが居る、軽い嘘は腐るほど
つけるのにいざ追い込まれると嘘がつけなくなる
まぁ、逆じゃないだけ可愛いのだが逆となると厄介である、それは女性でも男性でも・・・
YASU、ばつが悪そうにうつむくMIKIに
YASU「正直にいこうぜ、何か、やだよ・・・」
MIKI、 YASUに目を向け
MIKI「だよね・・・ごめん」
YASU、眉をひそめながら目を閉じ
YASU「で、飲みに行ったのか・・・」
MIKI「・・・・・まぁ・・・・・・」
YASU地鳴りの様に唸った後、目を開け
YASU「お前傷つくかも知んないけど、男の立場から正直に
言わせて貰うとな、ダッチはこっちに来るって事になった時点でお前とヤるって決めてたな・・・」
MIKI手に平に置いていた、たばこを握り締め
左側に有る公園に視線を向ける
YASU「だいたい流れが分かり易過ぎるよ、何で酒飲む必要が
有んの?普通にファミレスとかで良いじゃん」
MIKI「・・・・・・・・・・・」
YASU「飲んで、酔って、今日泊まるとこ決めて無いからつって
良かったら行かね?みたいにホテル誘って」
MIKI「・・・・・・・・・・・」
YASU「酔いが冷めたらヤってた・・・みたいな
ダッチの思惑道理じゃん」
MIKI視線は公園に向けたままポツリ呟く
MIKI「私なの・・・・・」
YASU、MIKI言葉が理解できず
YASU「何が?」
MIKIは公園を見続けながら
MIKI「私が誘ったの、バーもラブホも」
YASU「・・・・・・・・・・」
MIKI「ダッチ、酒はまずいって拒んでたし、泊まる所も
連れの家に行く事になってたのを無理矢理私が
止めたの、だから勝手な想像しないで・・・」
YASUシートから身を起こし公園を見ているMIKIを睨み
YASU「じゃあ、今、この車の中に居るお前何なんだよ!」
MIKI、YASUの怒声に微動だにせずただ公園を見続ける
YASUそんなMIKI態度に益々怒りがこみ上げ
YASU「誘ったお前が逃げるって、どうゆう事だよ!
ふざけんな!帰れ!」
MIKIの鼻をすする音が聞こえる
おそらく涙も流れているのだろう
しかしYASUの角度からそこまでは伺えない
YASU「ホテル帰るからな・・・」
YASUサイドブレーキを解除しドライブにシフトする
MIKI「・・・・・やだ・・・・・」
搾り出すその声はかすれている
YASU「無理!ホテルに帰る」
MIKI顔を伏せたまま右手を伸ばしハンドルを掴む
MIKI「やだって言ってるじゃん!」
YASU薄暗い車の中で小刻みに震えるMIKIの背中を見つめ
YASU「好きなんだろ?ダッチの事」
YASUサイドブレーキを引きパーキングにシフトする
MIKIハンドルから手を離し膝を抱え泣き始める
YASU「好きな人の所帰るのが一番じゃね~の?」
MIKI「・・・・・・・やーさん」
鼻声で上手く聞き取れない
YASU「何て?」
MIKI「・・・・・・やーさん・・・・好き」
YASUバッグからポケットティッシュを出し
MIKIの右肩にコツコツ当てる
YASU「拭けよ・・・・・」
MIKI、YASUに顔を見られないように左手で受け取り
涙を拭き始める
YASU「お前、自分で何言ってるか解ってんの?
メチャメチャ勝手すぎね?」
MIKI黙って涙を拭いている
YASU「ダッチとヤるだけヤって、やっぱりやーさんなんて
都合良過ぎじゃん」
MIKI顔を上げ鼻をすすりながらシートにもたれ
数分間の沈黙の後、フッと笑い
MIKI「・・・・・確かに勝手だよね・・・」
MIKI、右手を額に当て
MIKI「私・・・最低だ・・・・・」
YASU「・・・・・・」
MIKI「今日、やーさんに・・・・正直に・・・話す・・・
それで別れようって言われたら・・・」
そこまで言うとMIKIの瞳から再び涙が溢れ出し
嗚咽が漏れる、そしてクシャクシャに丸めたテッツシュ
で涙を拭う
MIKIの出す悲しみの波動が容赦なくYASUの心を侵食する
YASU横目でMIKIを見つめ
YASU「本気でやーさんの所に戻りたいのか?」
MIKI闇の中、何度も頷き
MIKI「戻りたい・・・・・でも無理・・・」
YASU正面に向き目を閉じて
YASU「何で?」
MIKI丸めたテッシュをポケットへ入れ両手で顔を覆う
MIKI「今日の事話したら、多分許してくれない・・・」
YASU上半身を起こしハンドルに両肘をついて
YASU「話したらだろ?」
MIKI少しだけ顔を上げ
MIKI「え?」
YASUハンドル越しにMIKIを見つめ
YASU「今日の事知らねーじゃん、やーさん」
MIKI、YASU顔をじっと見て
MIKI「YASU、何言ってるの?」
YASU、MIKIの視線に眼をそらさず
YASU「今日の事知ってるの、俺とお前とダッチだけだろ?」
MIKI「・・・・・・・・・」
YASU「無かった事にしちゃえよ・・・・・」
MIKI再び両手で顔を覆う
MIKI「それって最低じゃない?」
YASU「最低だよ、極悪に」
MIKI「・・・・・・・・・・」
YASU「でもやーさんと別れたくないんだろ?」
MIIKI静かに頷く
YASU「じゃあ、無かった事にしよーぜ」
MIKI「・・・・・・・でも」
YASU右手でハンドルの上部を何度も叩き
YASU「でもじゃねーよ!ばれなきゃ良い嘘が有る事ぐらい
お前も良く知ってんだろ?今日がそれなんだよ!」
MIKI「・・・・・・・・・」
YASU興奮の中、ある事がよぎりハッとして尋ねる
YASU「生か?」
MIKI「まさか」
YASUシートにゆっくりもたれ
YASU「そっか、じゃあ、何も無かったんだよ・・・・・」
MIKI顔を上げ
MIKI「・・・・・いいのかな・・・」
YASU苦笑いして
YASU「良くないけど、いいんだよ」
MIKI上半身を起こしシートにもたれ数秒の沈黙の後
MIKI「・・・・・うん」
YASU車の中で両手を伸ばし緊張していた筋肉をほぐし
YASU「とっとと帰ろうぜ」
YASUシフトをドライブに入れ車を発進させる
流れる景色を見つめるMIKI
FMをつけるYASU
そこで流れ出すリクエスト曲、ドリカムの“好き”
MIKI目を閉じ
MIKI「・・・・・名曲だよね・・・・・」
その言葉にボリュームを上げるYASU
曲に合わせ歌うMIKI
つかの間優しい時間が車を包む




