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それは、いつかの霊術世界  作者: 河野古希
第一章 日天子の厄災 編
29/35

1-27 猪

毎週予約投稿は諦めました。。


「う〜ん。えっと、これ今どういう状況?」


広大なグラウンドの中心。

神崎恭也は、周りを見渡しながら1人ポツンと立ち尽くしていた。


それは、ほんの5分程前の出来事。

午後の授業。

恭也達1年1組は測定器を用いた実技授業ということでグラウンドに集合していたのだが、実技担当のはずだった担任の教師は時間になっても来ず、代わりに山染(やまぞめ)と名乗る他校から来た非常勤講師が現れた。

その男曰く、担任の教師が急病で倒れ、抜き打ちの試験があるので自習にするわけにもいかず自分が代わりに来たという。


だが、その言葉は全くの嘘だった。


「………テロリストとか、今時流行(はや)んないでしょ」


山染は実技試験と称し、「試験の準備があるが、受講者には見せられない」と、生徒達に目を(つぶ)らせた。

だがいつまで経ってもその後の合図はなく、おかしいと感じて恭也が目を開けた頃には、生徒も山染もその場にいた全員が消えていたのだ。


だが、普通ならそんなことはあり得ない。

恭也達が目を瞑って、その後全員が消えた事に気づくまで、およそ数十秒。

そんな短時間で40人以上の生徒を転移させるなんて、どんなに優秀な霊術士でも不可能だ。

おそらくあれは、それ相応の媒体を使った自動結界だろう。

そして、その結界を作ったのは言わずもがな山染と名乗る謎の男。

つまり、山染(あいつ)は敵。

テロリストだ。


そして、錬成機(あんなもの)まで用意してきているということは、この敵には綿密な計画(プラン)と明確な目的がある。

つまり、


「……………俺がここでボッチしてるのも、何か意味があるのかな」


だが、その意味がなんなのかはまるで分からない。

ただグラウンドに一人残されただけで、敵が攻め入ってくる気配もない。

それとも敵の目的は俺ではなく、どこかに転移させられた俺以外の1組の生徒か?

俺だけ用無しだから取り残されたとか?


「……………………」


分からない。

どうすればいい。

自分は今、どう動くべきだ?


真っ先に思い付くのは、祐との合流。


敵が来たのが1組だけとは限らない。

いやむしろ、全てのクラスに山染の様な教師擬き(回し者)が送られたと考えた方がいい。

当然、祐のクラスも例外なく。


「…………………」


恭也は南校舎3階の端、祐がいるであろう1年11組の教室を見る。


遠目に見ても、異様な光景だ。

割れた一枚の窓ガラス、そしてそこから溢れる様に噴き出す、灰色の煙。


だが………あの窓ガラスを割ったのは、他でもない恭也自身だ。


「………祐、大丈夫かな」


1組の生徒が周りから消えた時、パニックになりながらも最初に懸念したのは祐の安否だった。


祐達11組は午後の授業は学科、つまり教室で行われる予定だったはずだ。

そう思い、祐に危険を知らせる為11組に剛弾符を撃ち込んだわけだが、


「さっきの爆発。…………手遅れだったかもね」


11組の教室を覆う煙幕。

あれを見るに、あの爆発は殺傷を目的としたものではない。

おそらく、恭也達(1組)に使ったものと同じ転界結界だ。

だが、今あの教室の中がどうなっているのか分からない。


祐は?

如月結束は?

敵は、まだあの中にいるのか?


「……………………」


普通なら考えるまでもなく祐達の様子を見に行くべきだ。

だが……………


「怪しすぎるでしょ、これ」


迷う間も無く、一択。

それがおかしい。

まるで、行動を操られている様な。

やるべき事を用意されているかの様だ。


「…………さてさて。これ、俺はどうすりゃ……」

「うわあぁっと、やっべえ遅れた。まあた時雨にどやされんぞ!」


恭也の思考は、突然聞こえてきた上調子な男の声に遮られた。


恭也は声が聞こえてきた方を見る。

(あわ)てた様子でグラウンドに入ってくる謎の男。

いや、声で男だと分かったがその顔はフードで隠されて見えない。

その男は恭也から数メートル離れたところで止まり、ふぅ、と呼吸を整える様に一息ついた後、言う。


「うし。遅れたけど、間に合った。あぶねぇー!」

「……………誰?君」


恭也は一歩下り、身構える。


声やセリフからして明らかにバカそうだが、油断するな。

身を隠すための厚手のコートを着た男。

こんな状況で現れたなら、こいつは敵だと考える他ないだろう。


「誰って、俺の名前?それか、組織?えぇっと、何だっけ。確かー………えと、(すず)の音がなんちゃらとか」

「!!……………その声、灰元(はいもと)。……お前、灰元(れん)か」

「んあ?なんで俺を知ってる?」

「いやいや、だって君天尚学園にいたでしょう。学年は違ったと思うけど」


彼は確か自分達の一つ下の学年。

日天子(アドウェルサ)の厄災が起きた時は中学一年だったはずだ。


…………なぜ、天尚の人間(こいつ)が生きている?


「……………………」

「俺は天尚にいた時お前と話した覚えはないぞ」

「うん。俺もないよ」

「ええ?じゃあ何で知ってんだ」

「そりゃだって、同じ学校にいりゃ見かけることくらいはあるでしょう。天尚の制服は左胸にフルネームの刺繍があるから顔と名前も一致しやすい」

「おお、まじぃ?」


恭也の言葉を信じるや否や、憐は深く被っていたフードを上げる。


「……………………」


やはり、天尚学園にいた『灰元憐』と同じ顔だ。

如月結束の髪より少し暗めな、短めの白髪(はつはつ)

大きく丸っこい目に小さい鼻と口。

まだ14歳ということもあり、その容姿にはまだ幼さが残っているが、それを(くつがえ)す様に左耳には銀色のスタッドピアスが2つ光っている。


中学生にしては少しませたその少年は楽しそうにニカッと笑い、言う。


「お前すごいな!まさか天尚の生徒の名前全員……」

「……そこまでバケモノじゃないよ。何となく覚えてる奴が何人かいて、その内1人が君だっただけ」

「ふうん。まー、どうでもいいけど。名前を知られるなとは時雨から言われてないし」

「………時雨?」

「俺の指揮官」

「ええ………そんな事言っちゃっていいのかなあ」

「それも、言うなとは言われてない」


………いや、君の上官は多分当然すぎて口止めするまでもないって思ってそうだけど。

この子、素直だけど頭悪いタイプかな。


「…………ああ、そういえば、時雨って…………草城時雨のこと?彼も生きてるの?」

「うん。生きてる」


草城時雨…………自分達の一つ上の天尚学園の生徒だったか。

なんで天尚の人間がこう何人も生きてる?


それに、


「何で君が草城時雨の指示に従っているんだ」

「そりゃだって、あいつは俺より頭がいいから」

「……………ほうほう」

「頭悪い奴より、頭いい奴の作戦の方が上手くいくだろ?」

「ふむ、なるほど。なるほどなんだけど、ちょっと違うな」

「ああ?」

「ええと、なんていうか。何で君達は生きてて、何で今ここにいるの?」

「それ、俺も聞きたいんだけど」

「うん?」

「何でお前は生きてて、今ここにいんだよ。お前だって天尚にいた人間だろ」

「ああー。確かに」

「確かにってなんだ」

「確かに、お前も同じこと聞きたいだろうな」

「ふむう?」

「…………………」


なんだ、この無駄な会話は。

こいつは何がしたい。

俺と戦いに来たわけじゃないのか?


「君達の目的は、何?」

「それは言うなと言われている」

「……時雨から?」

「そう」

「さっきから、時雨のことばっかり。君自身の考えはないの?そんなに全部を彼に委ねて、大丈夫?」

「大丈夫だ。あいつは頭がいい。なら、あいつの言う通りにすればこの作戦は成功する」

「へえ。でももしかしたら、俺は時雨より頭良いかもよ?」

「お前の頭の良さは関係ないな。お前は俺より弱いから」

「………………つまり、俺は今から君と戦うってこと?」

「………どうだろうな。なるようになるさ」

「………………」


なるほどね。

明らかに敵だというのに、攻撃してこない。

俺の会話にも当然のように付き合ってくれる。

今のところ、ただただ無駄な時間が流れているだけ。

だが………その無駄な時間が、彼の目的か。


「なるようになる」とはつまり、「最悪戦ってでも恭也を止める」ということ。


「…………時雨は今、祐の所?」

「…………それは、言うなと言われて………」


瞬間、恭也は踵を返し走り出す。


「あれ?どこ行くんだよ」


恭也は何も言わず走り続ける。

祐がいる1年11組の教室へ向かって。


(こいつ)はただの足止め役だ。

不意打ちもせずただ目の前に現れて、攻撃を仕掛けてこないということは、自分に勝てるほどの実力は持ち得ないということ。

戦闘での時間稼ぎに自信がないということだ。


そして、祐は今おそらく時雨と戦っている。

時雨の実力は分からないが、これだけの準備をしている相手だ。

祐を殺す算段は付いているのだろう。

俺が祐を助けに行く様に誘導しているという予想は的外れだったわけだ。

つまり自分がやるべきことは、やはり祐との合流。


恭也はグラウンドを抜け、校舎へと走る。

だが、


「ああ〜、やっぱりこうなんのかよ。時雨の言う通りだったな。よし、()ろう、『ファルメリア』」

「………!!」


背後から霊力を感じ、恭也は足を止めて振り向く。

そこにはもう憐の姿はなかった。


そして、


「お前は行かせるなと、時雨に言われている」


低く、語気の込もった声がすぐ背後から聞こえてくる。


「っ!」


恭也は距離を離しつつ振り返ろうとするが、瞬間、背中にとてつもない衝撃が走る。


「がっ!?」


その勢いで恭也の体はグラウンドまで吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。


「………ぐ………は。なん………だよ、これ」


なんだ、今のは。

衝撃が走る瞬間、(あいつ)の足が見えた様な気がしたが、まさか蹴られたのか?

速すぎて全く見えなかった。

あまりもの衝撃に頭痛がする。

三半規管が狂い、視界が揺れる。

だが、ここで寝転がっている場合ではない。


恭也は頭を抱えながら立ち上がる。

すると、さっきまで校舎前にいたはずの憐がもう目の前にいた。

校舎まで離れた自分に追いついた時もそうだったが、あまりにも驚異的なスピードだ。


とても、生身の人間とは思えない。


「あれえ?なんで立てる?結構思いっきり蹴ったんだけど。もしかして三法印?」

「………………」


恭也はもしもの時のために、敵が攻めてきたと分かった時からずっと三法印をかけていた。


だが…………逆に、三法印をかけているというのにこのダメージ。

いやそれ以前に。


「…………それは」


憐の足首辺りに、メビウスの帯のように(ねじ)れた白い輪が(まわ)っている。

あれが、さっきの脚力の正体か。


つまり、


「…………くそ。霊能力かよ」

「うん」

「…………お前、強かったのか。誤算だな」

「うん。言っただろ。俺はお前より強い」

「つまり、お前を殺さないと祐のとこに行けないってことね」

「だから殺せないって。お前の能力は俺の【久修の體(エレフセリア)】と相性が悪すぎる」

「…………は?バカじゃないのお前。なぜわざわざ自分の能力を言う?」

「時雨に言うなと言われていない」

「そういう問題じゃ………」

「それに、俺はバカだけど、めちゃくちゃバカではない」

「…………何言ってんだお前」

「死人に口なしっていう言葉は知っている」

「……………………」

「俺は別にお喋りしてりゃ良かったんだけどな。戦闘(これ)は、お前が選んだ道だ」

「いやだって、それしかないでしょ。俺が行かないと多分祐死んじゃうもん」

「行く前にお前が死ぬけどな」

「それはやってみないと分からないよ」

「いいや分かる。お前の霊能力じゃ、俺には勝てない」

「……何それ。君がなんで僕の能力を知ってるんだよ。いくらバカでも、もうちょっと楽しい嘘を……」

「【九天閉袪(くてんへいきょ)】」

「……………!!」

霊術第一義六目録(スタンダードシックス)1節『物質擬似化』、2節『物質操作』。そして………霊術九迷章典(シークレットナイン)第五位項目『矛盾』に位置する、『雷の形を(かたど)った緑色の物質を生成、操作する能力』。お前の能力は俺と相性が悪すぎる。なんでかは、言わなくても分かるだろ?」

「…………は、はは。すごいペラペラ喋るね。バカとは思えないくらい饒舌(じょうぜつ)

「時雨に嫌というほど教えられたからな。この学校の奴ら全員の能力。全く、骨が折れるぜ」

「………………」


俺の能力が『矛盾』に属することを知っている。

つまりこいつは……………俺の能力の()()()()()まで知っているということだ。

…………それに。


俺の、だけではない。

この学校の教師や生徒、全員の霊能力を知っている。

ブラフだと信じたいが、こいつが本当にここで俺を殺すつもりなら、そんな嘘をつく必要はないはず。

だが、本当のことだとしてもにわかには信じ(がた)い。

霊能力はその人間の最重要機密(トップシークレット)だ。

特に邦霊の人間の能力を調べるとなると、骨が折れるどころの話じゃない。

命に関わるレベルだ。

もし、本当に能力の情報が漏れているとしたら。


これは……………


「………結構、まずいかも」


これは一刻も早く現状を知る必要がある。

その為にはとりあえず、


「さっさと君を殺そう」

「うわ、怖いな。それ笑いながら言う言葉じゃないぞ」

「ごめんね。この顔は生まれつきなんだ」

「へえ。ずっと笑ってるのか。幸せ者だったんだな」

「うん、そう」

「ここで死ぬけど」

「それは君」

「いや、お前だ。いくら邦霊の人間が相手でも、これだけ能力の相性が良けりゃ、負けない」

「……………は?待ってよ。俺、邦霊の人間じゃないんだけど」

「ん、ああ。そりゃ、()はな」

「……!!」


それは、この学校に来て初めて、本当の意味で恭也が笑みを消した瞬間だった。


今まで、どんな事にも冷静に対処してきた恭也が、初めて素の動揺を見せる。


「………何を、言ってる」


自分でも驚くほど暗く、冷めた声。

だが、それを見て憐は嬉しそうに笑う。


「おお!いいね、それ。ずっと言いたかったんだけどさ、俺、取り繕う奴嫌いなんだ。人の顔見て、態度コロコロ変えて、嘘ばっかりついて。何が楽しいんだって思うんだよ。それを見て、俺も楽しくなくなる。お前もそのタイプだと思って最初はウザかったけど、今のその顔は好きだ」

「何で、お前が………お前らが、()()()を知ってる」

「んん?それって………天籟(てんらい)(そう)の事?」

「!!」

「図星ぃ?でもざんねーん。それは時雨に言うなと言われている」

「…………それを知ってるのは、俺とあの親父(クソジジイ)だけだ。…………何で、お前がそれを知っている」

「何度も言ってんだろ。人の話聞けない?それは時雨に言うなと…………」

「ああ、もういい。予定変更だ。お前は殺さない。捕まえて、拷問する」

「それ、殺すより難しいけどいいの?」

「黙れ」


瞬間、恭也は憐に向かって飛ぶ。

だが、憐はポケットに手を突っ込んたまま恭也を見る。


「いいねー!その感じ。その楽しい感じのまま、()り合おう」


そう言って、心から嬉しそうな顔で笑う。

笑ったまま、楽しく呟く。


「………【脚力補強解除(フロアシール)、視力補強 Floor(フロア) (ツー)】」


憐の言葉に呼応し、足首の輪がスゥと消える。

それと同時に、今度は彼の両目に先程のメビウスの輪が二重に重なり、鮮紅(せんこう)(まばゆ)く光る。


この瞬間、グラウンドにて第二の戦闘が始まった。


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