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それは、いつかの霊術世界  作者: 河野古希
第一章 日天子の厄災 編
23/35

1-21 理屈よりも膏薬を

言い訳しません

本当に本当にごめんなさい


祐は意外にも冷静だった。

戦え、という結束の要望がある程度予想できていたからだ。


さっきこの円の中に入った時、触媒石板(リトグラフ)は反応しなかった。

つまりこの円は拘束用ではない。

なら、それ以外の可能性として考えられるのは戦闘訓練施設だ。

おそらく円周上の触媒石板(リトグラフ)は『光束変換』『無害倒懸』の媒体霊術。

月園高校と同じような仮想戦闘システムだろう。

そう考えると、彼女の用件が戦闘絡みであることは予想がつく。


まあだからといって、はい分かりました、と簡単に受け入れるわけにもいかない。


………それに。


「…………分からないな。厄災の情報を捨ててまでなんで俺と戦う必要がある。俺らは昨日の実技試験で戦って既に決着がついているだろう。俺とお前の差は試合結果を見ても歴然としている。今更戦って何になるんだ」

「でも、あの時あなたは本気を出していなかった」


まるで事実のようにそんなことを言う結束に、祐はキョトンとなる。


「……はあ?そんな訳ないだろ。自分で言いたくはないが、あの時俺は一切手を抜かなかった。全力を出した上で、お前に負けたんだ」

「………そう?もしあなたが本気を出していたのなら、霊獣とあんな善戦ができる訳ないと思うけど」

「…………は?お前、まさか………」


無駄に遠回しな言い方をしているが、こいつが言おうとしているのは………


「あなたには…………霊能力を使って戦ってもらう」

「……ばっ!」


何バカ言ってんだこいつ!?

霊能力だと?

如月の私有地であるこの場所で?


「ふざけんな、そんなことできるわけないだろ!」

「あなたの言いたいことは分かるわ。でも、この訓練場には監視の目を向けないように、(あらかじ)め諜報管制室に話は通してある。あなたの能力に調査が入る心配はないわ」

「…………」


なるほど。

彼女が午後から学校を休んでまで(おこな)っていた準備ってのはこのことか。


情報規制。そして、訓練場の手配。

彼女の言い分は理解できる。


だが当然、


「信用できないね」

「まあ、そうでしょうね。だからこそ私は『賭けで負けた分をチャラにする』という交換条件を出しているのよ」


…………これも、なるほどだな。

霊能力に調査が入らないというのは信用できないが、その交換条件を出されれば、無理矢理彼女を信用してでも戦いを受け入れる方がまだマシだ。



ここはひとまず、彼女の気が変わらないうちに戦いを受け入れて賭けを清算する方が得策……………






「………………………」



………………………


……………………………ん。


だが…………待てよ。




…………おかしい。

何かが、おかしい。


なぜ俺は今、納得している?







……………………そうだ。



『俺が彼女の言い分に納得している』というこの状況が、そもそもおかしいんだ。


大体、普通の奴ならこんな提案は受け入れない。

自分の霊能力が如月全体に広まってしまうという最悪のリスクを背負って戦うなど、愚の骨頂だ。


いや、霊能力の内容だけではない。戦闘そのものを見られるということはつまり、その能力の使い方、特徴、弱点、定石(セオリー)の戦法など、全てを知られてしまう。


それなら(いさぎよ)く情報を吐いた方がよっぽどマシだ。

普通ならそうする。

そう、普通なら。


なのに、それでも俺が戦いを受け入れようとしているのは、『日天子(アドウェルサ)の厄災』はそれほどに自分の中で閉ざしたい記憶だったからだ。


もし結束が受け入れてもらえるつもりでこの提案をしているのなら……………厄災の情報が俺にとって何よりも語りたくない内容であるということを知っていたことになる。


…………なぜだ。

なぜ、こいつが俺の過去を知っている。


………………思い当たる節は…………






「…………………」




ある。

彼女は昨日、入学式後のいざこざがあって2人きりになった時、こんなことを言っていた。


『残念ながら貴方があの事件の関係者だという確かな情報は得ている』



………………そして。



『神崎恭也って言ったかしら……貴方のお友達の。あの人、何者なの?』



「………………………」


あの時、俺と恭也は結束と初対面だった。

恭也に関しては、結束と一切の会話もなかった。

なのに、何故か恭也を気にするような言葉。

そして俺が厄災の関係者であるという、謎の確信。

あれはよく考えれば、明らかに不自然だった。



だけど……………そういう、ことか。





「お前………恭也と繋がってんだろ」

「…………いきなり何の話?」


結束は不思議そうな、どこか疑うような目でこちらを見る。

本当に何も知らないかのような顔。


…………だが、こいつは邦霊の人間だ。

演技でそういう顔ができる。


面倒だな。

おそらく、結束は恭也から俺の過去についての情報を得ている。

ほぼ確実だと思うが、確信に至る根拠はあっても証拠がない。

こういうパターンは情報戦において一番面倒だ。


「………………」


だが…………やりようが無いわけではない。

証拠がないなら、自分が確信しているということをそのまま相手に伝えればいい。


「………(とぼ)けんな。お前は昨日、俺と初めて出会った時より前から恭也とコンタクトを取っていた。俺はもう、確信している」

「……何よそれ。証拠はあるの?」

「いや。残念ながら、証拠はないな。だけど、さっきいったろ。確信はしている」

「確信確信って、あなたの考えなんて関係ないのよ。確たる証拠がないんじゃ話し合いにすらならないわ」

「そうだ。話し合いなんてするつもりはない。俺は俺の意見を伝えたかっただけだからな」

「…………意味がわからないわ」

「そうか。とりあえず…………俺は、お前の提案を受けない」

「……は?」

「お前とは戦わない、と言ってるんだ」

「…………へえ」


結束は少し驚いた様子を見せつつ、顔をしかめる。

まさか断られるとは思ってなかったのだろう。


「それはつまり、代わりに厄災のことについて聞かせてもらえるということでいいのかしら」

「ああ、そうだ。ここで戦うくらいなら、俺の過去を含めた厄災の事を全部話すよ。………………だが」

「…………………」

「お前が恭也から何を聞いたのか。それを正直に言えば戦いに応じてやる」

「はっ、何を言ってるの。そもそも前提がおかしいでしょう。私は恭也さんとは………」

「俺は確信してるって言ってんだろ。それに、どうせ証拠があってもお前はそうやってしらばっくれる。この時間が無駄だ。さっさとどっちか選べ。情報か、それとも恭也との事を話して俺と戦うか」

「………………」

「俺は別にどっちでもいいんだよ。どうせお前は恭也から俺のことについて聞いている。つまり賭けで渡すつもりだった厄災の情報をお前は既に持ってるんだ。なら、今ここで情報を渡したところで俺にはこれ以上のダメージはない。だからこそお前は『既にいらなくなった賭けの報酬』を『俺と戦うための引き換え手段』にしたんだろ」

「………………」


これは全て憶測だ。

彼女が恭也から何かを聞いたのは間違い無いだろうが、逆に何を聞いたのか分からない故に、この発言は多少綱渡りになる。


もし彼女がそれほど祐のことを深く聞いていないなら今のは失言だ。

少なくとも、祐が水無月の人間だったことぐらいまでは知っていなければ、彼女は『情報』を選んでしまうだろう。


「………………その2択なら仕方ないわね。私が恭也さんと内通しているという事実がない以上、戦う条件は満たせない。素直に情報を貰うことにするわ」

「…………………」


祐は結束に聞こえない程度に舌打ちする。




くそ。読み違えたか。

やはり恭也は必要以上のことは彼女に教えていなかった。

いや、本来はその方がありがたいのだが。


だが、演技の可能性もある。

恭也と内通していたことを知られないための、演技。

おそらく、祐が本当に情報を口に出すことができるのかを探っているのだろう。


確かに彼女の予想通り、俺には厄災のことを口にする度胸はない。


だが………そっちがその気ならこっちも賭けに出るか。


「何黙ってるの?教えてもらえるんじゃないのかしら」

「……そんな催促しなくても教えるさ。だが…………教えるって言っても、恭也がお前に送った便箋(びんせん)と内容はほぼ同じだからな。これ以上俺が何か言うことなんてあるのか?」

「………………」



結束は相変わらず黙ったままだったが、一瞬。

ほんの一瞬だけ、動揺が見える。



これは………ビンゴか?

それとも、ただ戸惑っているだけか?




「さっきも言ったように、どうせ俺が何を言ってもそれは既にお前が知ってる情報だ。教えたところで、これまた時間の無駄だろう?」

「……………」


彼女は何か考えるように下を向く。

核心に迫られて、言い訳を用意しているのか。


…………いや、これは、


「…………なるほど、ね」


結束は何かに納得したように、フッ、と口元を緩める。


これで潔く恭也との繋がりを認めてくれれば助かるのだが……………

彼女の笑みからはそれとは違う、何か嫌な予感を感じる。


「あなたは………『恭也さんが便箋で私にコンタクトを取った』と思い込んでいる…………いや、知っているかのように振る舞ったのね」

「………………はっ、何の話だ」

「昨日の学校初日で私はあなた達とは初対面だった。つまりそれより前、学校に入学する以前に恭也さんが私とコンタクトを取るには『便箋』という手段しかあり得ない。『学校で会う』という手段がない以上、如月である私に無名の彼が直接会う機会なんてないでしょうからね。もっと言うなら私、学校初日の前日まで如月の本拠(大阪)にいたし。もちろん便箋を私の所まで送るにしても簡単にいくことではないけれど、セキュリティ面を考えればメールや直接会うよりも、ずっと可能性は高い。だからあなたは恭也さんが便箋を送ったことに賭けて、ブラフを張ったんでしょう?……………陳腐なコールドリーディングね」

「………………」


こいつ…………思ったよりも手強いな。


別に、恭也が便箋を送っていたという予想は外れていても構わなかった。あいつが俺のブラフを見破って、そのまま調子に乗ってボロを出してくれれば、そこから付け入ることができたのだ。


例えば、「恭也とやり取りしていたのは便箋じゃない」みたいなことをポロッと言ってくれれば、「やり取りをしていた」ことに関しては肯定することになる。


だが、


「…………………まあ、無理か」

「いつの間に、随分と侮られたものね」


腐っても結束は邦霊のトップ。その正当な血を受け継ぐ人間だ。

彼女との昨日の話し合いを振り返るに、心理戦では俺が勝っていると思い込んでいたが、どうやら俺は彼女という人物を誤解していたようだった。

昨日彼女が俺に弱みを見せたのは、『命の恩人』という特殊な状況と、さらに特殊な『彼女の邦霊らしくなさ』が合わさり、彼女が絶対に言ってはいけない情報を恩返しにしたからだ。


本来の彼女はあくまでも聡明で凛々しく、敵に対しては冷徹な、まさに如月を受け継ぐに相応しい人間だ。


彼女相手にこれ以上探りを入れても、もう意味はないだろう。


とりあえず、彼女が恭也から何か聞いているだろうということは分かった。

今はそれだけでよしとしておこう。


「………戦うしか、ないっぽいな」

「受け入れてくれるなら、よかったわ」

「だけど、一つ条件がある」

「…………何かしら」

「戦う場所を、限定させてくれ。具体的に言うなら、ステージはこの円の中だけだ」

「…………………待って、それは」

「お前が言いたいことは分かる。み……………夏越家にもあったから分かるが、この円周上の触媒石板(リトグラフ)は『光束変換』と『無害倒懸』、あと自動転界システムを兼ね揃えたもんだ。さすがに『地勢複写』はないだろうが………ほぼほぼ月園の試験の時と同じシステムだ。そしてお前は、試験の時のステージにできるだけ条件を近づけて、俺らが昨日2人で戦った時を再現した上で本気の俺と戦いたかったんだろ?だから、こんな樹海の中を選んだ」

「そこまで分かっていて、何で」

「樹海はいくらなんでもリスクが高すぎる。監視カメラ、盗聴器、霊力感応センサ(スピリトス)、何でも仕掛けたい放題だ。さっきも言ったろ。俺はお前が情報規制しているなんて少しも信じちゃいない」

「…………それは、円の中でも同じでしょう?たしかに、こんな(ひら)けた場所なら樹海の中よりは監視に気付きやすいかも知れないけど、私と戦いながらその監視を掻い潜るなんて出来やしない」

「だろうな。だが、監視カメラや盗聴器の(たぐい)は見たところこの円の周りにはない。後は霊力感応センサ(スピリトス)だが…………」


祐は6枚の霊符を取り出し、結束に見せる。

それを見て結束は、


「…………なるほどね」


6枚の霊符のうち、1枚は六芒星結界(ヘクサガンル)を生成するために必要な乱鎖星符だ。

そして、後の5枚は………


「貌淋符の結界を円周上の触媒石板(リトグラフ)に組み込み、円内の霊力にセンサが反応しないようにする。樹海で戦いたいが為にわざわざこの場所を選んだあんたからしたら不本意だろうが、こっちも戦いを受け入れる以上、出来るだけリスクは回避させてもらう」


結束は一瞬顔をしかめるが、やがて不服そうに承諾する。


「…………そうね。情報規制を敷いているのは確かだけど、それをあなたに信用させられない以上、それくらいの提案は受けるわ」

「ん」


その時背後で、ホワンと、ゆっくりとした霊力の流れを感じる。

祐が後ろを振り向くと、2人の会話を聞いていたであろう明音が貌淋符の結界を触媒石板(リトグラフ)に組み込み始めていた。


これから戦う2人に、余計な霊力を使わせないためだろう。

それを瞬時に察して行動に移す。

やはり冬鳴の人間なだけあって、優秀だ。


「ありがとう、明音」

「いえいえそんなとんでもないです!それより、そこのデクの棒を早くぶっ飛ばしちゃってください!もう、ぐっちゃぐちゃのメッタメタに!フレーッ!フレーッ!結束様!死ねーっ!死ねーっ!デクの棒!」

「………………」

「………………」


いや、やっぱり優秀じゃない。

うるさいしうざい。


「……………彼女が結界を準備してる間に、具体的なルールを説明するわ」

「…………おう」


結束のちょっと呆れたような顔を見るに、彼女は俺の共感者のようだ。


おい、冬鳴。主人に引かれてることに早く気づかないとお前嫌われるぞ。


「まず、あなたの提案通りステージはこの円内。本来は戦闘開始した瞬間に転界システムが作動して樹海のどこかにランダムに転送されるけど、多分今、明音がその設定も変えてくれてる。転送はされずにそのまま試合開始よ」

「…………おっけ。転界システムは試合終了時にだけ使われるわけね」

「そう。ちなみに、どちらかが円の外に出たらどうする?」

「負けで」

「分かった」

「それ以外は試験の時と同じでいいか?」

「ええ。どちらかが致命傷になるダメージを負えば転界システムが試合終了を宣言する。致命傷と判断されるダメージレベルも試験と同じ設定よ」

「そうか、じゃあそれでいこう。…………後、一個だけ質問」

「どうぞ」

「体に受けるダメージは『光束変換』で無害化され、『無害倒懸』で何かしらの枷になる。それは………霊力以外の攻撃でも同様か?」

「…………え?どういうことかしら?」


……………首を傾げる結束を見て、祐は少し躊躇(ためら)う。


…………あまり、これ以上は言いたくないな。

これ以上言えば、俺の霊能力の性能の一部がバレてしまう恐れがある。


だが、そうだとしてもこれは必ず試合前に確認しなければならないということも事実だ。


「…………………だから、霊力が全くこもっていない、物理ダメージのことだよ。例えば試合中、俺がお前に石を思いっきりぶつけたとして、それが仮にダメージになるほどの威力だとしたらそれはちゃんと無害化されるのか?」

「………なんで、そんなことを聞くの?」

「たまにあるんだよ、そういう適当な設定。大抵の訓練施設は大丈夫なはずだけど、たまに結界の設定がガバガバで、霊力を節約する為に物理ダメージの無害化がOFFになってる時があるんだ。さすがに如月の訓練施設なら大丈夫だと思うけど、一応確認しようと………」

「いえ、そうではなくて」

「……………ん?」


祐は、すっとぼけた顔をして見せるが、本当は分かってる。

彼女が、何を聞きたいのか。


「物理ダメージなんかが、三法印をかけた体に通用する訳ないでしょう?なんでそんなことを気にするの?」

「………そんな事ないだろ。刀だったり拳銃だったり、多少なりともダメージを与えられるものだって世の中にはある」

「………カタナ?ケンジュウ?………まあいいわ。少なくともこの場には物理的に危害を加えられるものなんてない。別に気にすることでもないでしょう?」


………なんだ?刀や拳銃にピンと来てないのか?

まさか、知らない?いや、さすがにそれはありえないだろう。


だが、そんなことは今はどうでもいい。


「……………とりあえず、必ず確認しておかなくちゃならないんだ。理由は言えないが、教えてくれ」

「……………待って」


彼女の眉が、少しだけ動く。

何かに気づいたようだった。



…………まずい。


「…………そういえば……あなたの攻撃、霊獣に通用していたわよね。私が霊符で戦って傷一つつけられなかった霊獣の体を、いともあっさり貫いた。……………まさか、あなたの能力は………」

「…………ちょっと、黙れ」


祐は、声を低くして制止する。

周りに聞こえないように、小さく。だが、はっきりと警告を込めた声で。


「……………っ」

「俺と、戦いたくないのか?」

「………!」


その一言で、彼女は察したようだった。

彼女は別に祐の霊能力を広めたいわけではない。

純粋に戦いを望んでいるだけだ。

なら、ここで祐にちゃんと情報規制を敷いているという意思を見せるためにも、これ以上は祐の能力について口に出すわけにはいかない。


「………ごめんなさい。そうね。…………あなたが心配する必要はないわ。物理ダメージも、ちゃんと無害化される。それに………」

「………………ん?なんだ」

「…………いえ、何でもないわ」

「…………………」


彼女は何かを言い淀むが、何が言いたいのかは分かる。

物理ダメージの無害化がOFFになってたとしたら、彼女もその影響を受けるからだ。

彼女の能力の『膨張・収縮』は物理ダメージに分類される。物理ダメージが無害化されない設定になっていれば、彼女の能力は『光束変換』に反応しない。

だから、如月の仮想戦闘システムの物理ダメージの無害化がOFFになることはないということを言いたかったのだろうが、当然その説明のために自分の能力を言うわけにもいかない。


まあ、言わずとも俺は結束の能力を全て知ってしまっているのだが。


だから俺は、


「………まあ、別にいいけど」


興味のないフリをする。

そして、


「結束様ー!準備完了しましたっ!」


暗くなった場の雰囲気を明るくする様な、明音の溌剌(はつらつ)な声が聞こえて来る。


「………だってさ。んじゃ、やるか」

「ええ。…………だけど、その前に私からも一ついいかしら」

「ん?何」

「この試合、賭けをしましょう。勝った方は負けた方に何かを要求できる」

「何でだよ。………あれか、如月家は賭け事が好きなのか?」

「あなたに本気を出してもらうためよ。霊能力を隠す為に本気を出してもらえないんじゃ、戦う意味がないわ」

「………なるほど。だが、お前が勝ったとして、何を要求するかによるな。言っておくが厄災の情報はもうなしだ。恥ずかしながら………昨日はお前の実力を測り違えてたからな。今のお前の実力を知った上で、厄災の情報を賭けるほど馬鹿じゃない」

「………でも、負けたくないと思えるような要求じゃないと意味ないでしょう?」

「それは、そうだな。はなから俺は本気で戦うつもりだったがお前は信用しないだろうし………………。なら、こうしよう。お前が勝てば、俺の霊能力の詳細を全て教える。他言無用を条件にな」

「………へえ。そんなことしていいのかしら」

「どうせ今から霊能力で戦うんだ。その詳細を話すくらいなら別に大したことではない。でも、俺が本気になれるくらいには教えたくないことでもある。いい塩梅だろ?」

「………私はあなたの能力に興味はあるけど、それはただの好奇心。知ったところでこれといってメリットがあるわけではない」

「メリットなんて必要ないだろ。お前は俺が本気になれればそれでいいはずだ。なら、『俺が損する情報』であれば、別に『お前が得する情報』じゃなくてもいい」

「…………ほんと、ずる賢くていけすかないわね」

「ずるは余計だ」

「…………それで、あなたが勝ったら?」

「………別に、特に要求するものはない。恭也との繋がりとかお前の霊能力のこととか、聞きたいことは無くはないが、今から見せる俺の能力と釣り合うほど安い情報じゃないしな」


さらっと言ったが、結束の霊能力を知らないような言い方は、当然演技だ。


「………あなたが気を使うなんて珍しいわね」

「建前だよ。単純にお前にそんな興味がないだけだ。まあ、それでも何か要求するとしたら………もう、この戦い以降は俺に関わらないでくれってことくらいだ」

「………それなら、昨日約束したでしょう?」

「なのに俺らは今こうして会っている」

「それは、賭けの約束があったから………」

「だから、ここで改めて約束だ。この戦い以降は今日みたいな仕方のない事情があったとしても絶対に関わらない。もし俺が勝ったらそれを約束してくれ」

「………それ、私が勝ったらどうなるの?」

「どっちにしろ、関わらないってのは変わらない。昨日の約束は生きてるからな」

「なら、同じ要求をする意味ないじゃない」

「賭けとして約束した方が制約としての効果が高くなるだろ。いや、だからと言って俺が負けたら制約が薄くなるとかないからな。これはお前の感情の問題だ」



これで俺が負けても関わらない。勝てばもっと関わらない。だが、俺が負けたからと言って仕方のない時は関わってもいいと思うな。


要約するとこんな感じだが、自分で言ってて意味分からんな。

まあ要求することが特になかったから、別に意味なんてなくてもいいだろう。



「………そんな要求でいいなら、それでいいわ。じゃあ、始めましょうか」

「ああ。お互い円の中心から20メートル離れたところからスタートで」

「分かった」


そう言って、2人は開始位置につく。


「…………………」


さて、始まるぞ。


まず最初はどうする。

お互い三法印をかけて様子見か。

それとも向こうは何かしら攻撃を仕掛けてくるか。


それに、彼女には【獨法師(ティルナノーグ)】がある。

近づけば()られるし、そうでなくても最後の奥の手として使ってくるかもしれない。

円から出たら敗北という条件の上では、俺の風の能力以上に有用性がある。

この狭いフィールドで、彼女の能力にどうやって対処するか。


そもそも、彼女にとっては、俺に霊能力を知られるわけにはいかないだろうから霊能力を使ってくる可能性はほぼゼロに等しいかとは思うが。

それでも念の為の警戒は必要だ。


「…………明音。結界の起動をお願い」

「分かりました!では、結界起動と同時に試合を開始します!3!2いぃ!1ぃーー!…………」


彼女のカウントダウンが始まると同時に、円周上の触媒石板(リトグラフ)に掘られた梵字が薄紫に光り始める。


…………そして、


「0!」


起動した結界が垂直に光を放ち、放たれた光同士がつながって円を成す。



この訓練場の円内が、探知避けと仮想戦闘システムの結界に包まれた。






…………………………試合開始だ。




祐と結束は、開始と同時に何枚かの霊符を取り出す。

祐は、三法印を起動するための3枚の霊符。

だが結束は、左手に祐と同様の三法印の霊符と………それに加えて、右手に5枚の剛弾符を備えていた。


その全ての霊符を同時起動させ、強化された体でこちらに間合いを詰めると同時に剛弾結界を起動させる。


「っ!?」



彼女の方が、霊符の起動速度が圧倒的に早い。

このままでは………




「くっそ、様子見も無しかよ!ユグ、力貸せ!」


祐は三法印の起動を中断し、その場に霊符を投げ捨てる。


そして、




「…………【嵐操(らんそう)】」




瞬間、祐の周囲に颶風(ぐふう)が吹き荒れた。



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