草稿 〜序論「愛が産まれた日」〜
処女作です。
よろしくお願いいたします。
………もしこの世にそれが存在するなら。
人は悲観するだろう。
人は歓喜するだろう。
………もしこの世にそれが存在するなら。
人は人生の可能性を失うだろう。
人は人生の可能性を見出すだろう。
……………なら、もしその存在が目の前に現れたら。
人は、どう思うだろう。
絶望するだろうか。
希望を持つだろうか。
珍妙に思うだろうか。
好奇心を抱くだろうか。
「その存在」が持つ力は、絶対的だ。
人は決して、その力に抗えない。
世界をねじ伏せるような大きな力を持っていたとしても。
無限の財を成すほど長けた頭脳を持っていたとしても。
社稷を揺るがす程の富と名声を持っていたとしても。
全てを従える権威を持っていたとしても。
逆らうことは許されない。
「その存在」がある限り。
…………だから、これはもしもの話。
例えばの話だ。
もし、「その存在」に抗えるなら?
もし、「その存在」と対等になれるなら?
もし、「その存在」と共に歩める世界があるのなら?
これは、願いだ。
希望にも似た、愚かな願い。
だが、それでも。
もしもの話。
万が一の話。
仮の話。
例えばの話。
…………………………そう。
もし。
もし、「その存在」に。
…………ほんの少しでも、「温もり」があるのなら。
人はそれをなんと呼ぶのだろう。
…………きっとその答えは、「人間」だ。
「人間」とは弱い者のことではない。
「人間」とは運命に従う者のことではない。
「人間」とは醜く争う者のことではない。
…………「誰かを愛せる者」
それを人は皆平等に「人間」と呼ぶのだろう。
そして「私」は知らぬ内に、そんな世界を望んだのだろう。
『天の回顧録』 冒頭抜粋