熟れてゆく冬
阿舞野さんは自分のライバーのイベントにエントリーした時には、オレに配信を観てとは言わなかった。
彼女が配信を観て欲しいと言ってきたのは、ふわりちゃんとコラボする時だけだった。
一応、オレは阿舞野さんとは仲がいいと思っている。いや、そう信じている。
それなのに何故だろうとら僅かながら疑問には思っていた。
もしかしたらだけど、阿舞野さんはオレが投げ銭をしてしまうことがわかっていて、自分のために金銭的な負担をかけたくなかったから配信の視聴を誘わなかった……って理由はどうだろうか。
じゃあ、ふわりちゃんの時には観て欲しいと言ったのは?
それはなるべく視聴者を増やして、ふわりちゃんのコンプレックスを解消してあげたかったから……とか?
まあ、結局は本人に聞かなきゃわからないことだけど。
ただ阿舞野さんのお陰で、今のふわりちゃんは以前の目が隠れるほど前髪が長い陰鬱なイメージから、髪を上げてのスッキリ爽やかなイメージへと変わった。
男子からもモテるようになったし。
そのふわりちゃんはいまオレの隣で、今年の漫画部作品の完成に向けて制作に取り組んでいる。
「それにしてもラストはずいぶん過激ですねぇ」
二年の女子部員、衣川美南美が言った。
「しかしこれはなくね? いくらなんでもやりすぎだろ、教室でお漏らしなんて。実際にこんなことやる奴いねーよ」
そう言ってオレと同じ三年の部員、嵯峨元康が馬鹿にするように笑った。
オレの手が思わず止まってしまう。
「ま、まあ、実際にはできないことを代わりにやれるのが創作の良いところだからな」
オレはごまかす。
「それにしてもラストがこれって、なんだか変態性が強くなっちゃって物語が締まらない気がしますねぇ。あんまりウケないんじゃ……」
そう言って美南美が眉尻を下げた。
「なんかクライマックスを盛り上げるって要素が足りない気がする。ヒロインが主人公だけにしか見せない姿とかあればいいけどなぁ」
嵯峨が頭を掻く。
確かに言われればそうかも。
クライマックスがお漏らしで終わりっていうのは、なんだかフェチを前面に押し出しすぎて最後を飾るにはふさわしくないような。
かといって、オレには他にこれといったアイデアが浮かばない。
もう漫画部も引退だっていうのに……。
「これが完成したら、先輩、いなくなっちゃうんですよね……」
そのとき隣のふわりちゃんがポツリと言った。
「そうだよ、ふわりちゃん! これからは女子二人で盛り上げていかないと!」
それを聞いた美南美がガッツポーズをする。
「なになに、ふわりちゃん、俺がいなくなって寂しい?」
嵯峨がなぜか嬉しそうに聞いた。
ふわりちゃんは一瞬、キョトンと真顔になった後「あ、はい」と苦笑い気味の笑顔を見せた。
「いやー、なんならふわりちゃん、卒業したらオレと同じ美術の専門学校に来る?」
そう言って嵯峨が続けて質問する。
「いえ、わたしは大学行くつもりですから……」
ふわりちゃんが答えた。
「へぇ、ふわりちゃん、もう志望校決めてるんだ?」
今度は美南美が聞いた。
「あ、はい……」
「どこ?」
「それは……秘密です」
そういえば阿舞野さんも友達の前では志望校は秘密だった。
「あら、ゲン担ぎ? なんか人に言うと合格できなくなるとか? まあ、志望校が決まってるならそれに向けて一直線に勉強すればいいだけだもんね!」
「でもたぶん間に合いませんから……」
ふわりちゃんは美南美に寂しそうな声で答えた。
「えー、まだ大丈夫だよぉ。受験までに一年以上あるし。頑張ればじゅうぶん合格圏内に間に合うよ」
美南美がふわりちゃんを励ます。
彼女はペコリと頭を下げた。
ふわりちゃんも進学か。志望校に合格できたらいいな。
って、人の心配をしている場合ではなかった。
まずオレが先に阿舞野さんとともに、明導大学合格を目指さなくちゃいけないのだから。
受験は年明けてすぐだ。
にもかかわらず、そんな時期に受験勉強もせず、ここでお漏らしシーンの絵なんか描いてていいのだろうか?




