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文字が滲む肌

 放課後。


 部活へ行く前に阿舞野あぶのさんと二人でこっそり会った。


「ゆらっちの名前、友達に見られないか、メッチャドキドキしたんだけど。これ、超良きじゃない!?」


 阿舞野さんが楽しそうに笑い、ブレザーの袖を捲り、オレが赤の油性ペンで書いたオレの名前を見せてきた。


「まぁ、オレの場合はそんなに人に見られる危険性はないんだけど」


 友達が少ない陰キャのオレも袖を捲り『うずめ命♡』の文字を見せる。


 それを見て、彼女はまた笑った。


 よかった、阿舞野さんに刺激を与えられて。


 このアイデアを考えてくれたラノベ部部長、雨宮瑞葉あめのみやみずはさま、ありがとう。


「どう? 腕にアタシの名前書いてる間に、ほんとにゆらっち、アタシ命になっちゃったりして?」


 阿舞野さんは意地悪く笑い、オレにそう質問してきた。


 うっ……、これは難しい問題だ。


 なんて答えるのが正解なのか??


 スクールカースト上位の女子を陰キャのオレが好きだなんて、自分自身でははっきりと認めないようにしていたけれど、このチャンスを逃さずに正直に本人に告った方がいいのだろうか。


『あの、阿舞野さん、実はオレ、君のことが好きだ!!』


 ……なんて、無謀なこと言えるわけがない。


「あっ、阿舞野さんこそ、オレ命になってたりしてない?」


 オレは咄嗟に良い返しが思い浮かばず、彼女を真似た質問で返す。


 って、しまった! パニックに陥った頭が気の利いた返しを捻り出せなかったせいで、思わず大胆なことを聞いてしまった!


 コミュニケーションが下手という、オレの中の爆弾。


 阿舞野さんに、そんなことないよってすぐに否定されて、笑ってあしらわれてちょっと凹む……。


 という結果だろうと思ったんだけど。


 なぜか阿舞野さんはオレの質問に答えず、口を真一文字に結んで黙り込んだ。


 心なしか、顔がほんのり赤くなった気がする。


「とっ、ところでさ、これ、どーやって消すの?」


 阿舞野さんは逆質問で話を逸らした。


「……えっと、日焼け止めか口紅、持ってる?」


 オレは彼女に聞いた。


 日焼け止めも口紅も、阿舞野さんのようなオシャレJKにとってはマストアイテムだ。


「うん。両方持ってるけど?」


 彼女が答えた。


「どっちか貸して?」


 阿舞野さんは鞄から日焼け止めクリームを取り出し、オレに渡した。


 オレは彼女の肌に書かれた自分の名前にクリームの乗せ摺り込む。


 それからティッシュで拭き取った。


「あっ、消えた! えっ、待って。マジすごい! ゆらっちってなんでも知ってるんだね! こういう豆知識知ってる人って、なんか家事とか得意そう!」


 阿舞野さんは小さく可愛い拍手をしてくれた。


 そんなに褒められることだろうか、と思いつつもやっぱり嬉しい。


「痛み入ります」


 一応、オレはお礼を言う。


「ゆらっちのも消してあげるよ」


 阿舞野さんの日焼け止めクリームがオレの肌に染み込む。


 彼女の細い指がオレの肌をくるくると撫でた。


 なんだかくすぐったい。


 徐々に滲んで原型をとどめなくなった『うずめ命♡』の文字。


 滲む文字を見て、消さないでずっと残しておいてもよかったかな、なんて思いが頭をよぎった。

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