かぎりなくネタ切れに近くブルー
阿舞野さんに絵の描き方を教えた日の夜、オレは部屋で一人、夢見心地でいた。
彼女が帰った後、緊張が解けた途端に阿舞野さんと一緒にやったことを思い返して、急に胸がときめき始めたのだ。
今まで生きてきて、初めての体験。
この部屋に阿舞野さんが……、いたんだよな?
部屋にクラスメイトの女子を招くなんて。
しかも彼女とオレの描いた漫画のマスク越しのキスシーンの実演。
実際にやることになるなんて、素粒子ほども思っていなかった。
早速、この貴重な体験を絵にしなきゃいけないのに、頭がポーっとして働かない。
未だに信じられないけど、オレが不思議の国に迷い込んだんじゃなければ、今日起きたことは現実のはず。
モテない漫画オタクの妄想のような今日の出来事を思い返していると、SNSにメッセージが届いた。
名前を見ると、オレを今の状態にした原因からだ。
《おつかれー、今日はマジで超楽しかった!》
《なんか漫画とおなじこと体験できて、久々に刺激もらったみたいな!?》
《興奮切れなくてマジヤバイ!》
阿舞野さんから立て続けにメッセージが来る。
彼女はオレのとは違う快感を得たようだ。
《それはよかった》
こういう状況に慣れてないもので、無難な返事を送る。
《また漫画体験しようよ! ゆらっちの創作の手伝いにもなるし。話の続きあるでしょ?》
確かに続きはあるけど……。
《あるけどいいのかな》
《どんなの?》
《体育の時間もお互いを身近に感じていたいって、体操服を交換して授業に出る話》
オレは今後の展開を阿舞野さんに伝える。
《おー、それもやってみよう!》
阿舞野さんもオレと同じく、自分の中に眠るフェティシズムに目覚めてしまったのだろうか。
《わかった》
オレは了承した。やっぱり漫画の資料としても体験は大事だ。
《アタシも協力するからさ、ゆらっちの漫画完成させようよ!》
《これから何が起こるかと思うとテンション上がる〜》
《協力、よろしく》
ノリノリの阿舞野さんに、オレはそう返事を送った。
《ゆらっちの漫画ヤバい、超楽しみ!》
オレの漫画を楽しんでくれる読者が一人できた。そのこと自体は嬉しい。
ただ、話に乗ってきてくれている阿舞野さんに申し訳ないけど、実のところ、この漫画は次の体操服交換までしか話ができていないのだ。
色々考えるんだけど、主人公とヒロインが行う二人だけの秘密の行為が、もうオレ自身ではこれ以上アイデアが浮かばない。
漫画家ってもしかして、絵を描く力だけじゃなく、優れた脚本家でもなくちゃいけないのか。
好きな物語を描いているのにネタが貧困とは。
自分の才能の無さに気分が沈む。
でも楽しみにしてくれてる人がいるわけだし。
これはもう、漫画部の話し合いで決めたラノベ部とのコラボの話、本当に持っていかなきゃいけないかな。




