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ふがいない僕はキスをした

「このキャラってさ、ゆらっちの漫画の登場人物?」


 阿舞野あぶのさんが自分の描いた女の子を見ながら、訊いてきた。


「そうだよ」


 オレは頷く。


「ちょっとさ、その漫画見せてよ!」


「え〜っ!」


「この子が漫画の中で動いてるとこ見たい。ね、いいでしょ?」


 オレは戸惑った。


 何故ならちょっとフェチな漫画だからだ。


 阿舞野さんに変態だと思われないかな。


 とは言っても描いた作品というのは、やっぱり人に見せてこそのもの。


 自分だけ読んで自己満足で終わらせるんじゃつまらない。


 他人に見せて評価をもらいたいって気持ちは、オレにもあるのだ。


 オレは原稿を取り出し、ドキドキしながら阿舞野さんに渡した。


「これ!? どんなのどんなの? 超気になる! 読んでみよっと!」


 阿舞野さんは目を輝かせて読み始めた。


「ってなにこれ? マジで面白いんですけど!   

 きゃ〜、このカップルの初々しさ、たまんないんだけど!」


 阿舞野さんは、ひとりではしゃぎながら読む。


「さすが上手いよね〜。もうプロになれんじゃない?」


 大袈裟すぎる褒め言葉。


「それは言い過ぎだよ」


 オレは謙遜する。


「そうかなー、このマスク越しにキスするシーンなんて超いいじゃん? なんか付き合い初めで思い切れない二人のウブっぽさとか恥ずかしさとか伝わってきてさー、もう読んでるこっちももどかしいってかんじ?」


「リアリティが足りないんだ。オレの漫画は。自分の妄想の域を出てないから、ストーリーもコマ割りも不自然だし、全体として薄っぺらい。それが悩みなんだよ」


 オレはずっと悩んでたことを阿舞野さんに打ち明けた。


「へぇ〜、こだわって創作してるんだね。じゃあさ、実際にやってみる?」


「え?」


 オレは思わずフリーズする。


「実際に体験してみればさ、漫画にもリアリティが出るんじゃない?」


「で、でも……」


「いいじゃん。漫画の真似をするなんて、面白そうだし」


 いいじゃんって呆気なく言うけど、本当に言ってる意味がわかってるんだろうか。


 いくら直接唇をつけるわけじゃないとはいえ、クラスメイトの男子とキスするんだぞ!?


 なんという積極性。


 というよりも、阿舞野さんのような人達にとってキスは挨拶みたいなものなのだろうか??


 驚きの展開に頭が軽くパニックになる。


「マスク、ある?」


「う、うん」


 オレは阿舞野さんのペースに巻き込まれて、操り人形のように彼女の指示に従う。


 自分の机の引き出しから、以前風邪ひいた時に使っていた不織布マスクの余りを取り出し、一枚阿舞野さんに渡した。


「じゃ、ゆらっちもつけて」


 オレと阿舞野さんはマスクをつけた。


 お互いの顔、下半分が隠れる。


「なんかドキドキするね! 最近刺激が欲しかったから、この感じたまんない!」


 阿舞野さんの目が笑う。


「じゃあ、キャラになりってやろうよ。えっとヒロインの台詞が……『こ、これなら、恥ずかしさが和らいで、わたしでもできるかも……』」


 阿舞野さんがオレの考えた漫画のキャラになりきって台詞を言う。


「『じゃ、じゃあいくよ』」


 オレも自分で考えた台詞を自分で言う。


 二人で入り込む漫画の世界。


 阿舞野さんは目を閉じて、顎を突き出す。


 オレはマスクで隠されている彼女の唇あたりに、自分のマスクを重ねに行く。


 オレは緊張しているのか落ち着いているのか、自分自身でそれすらもわからなかった。


 とにかく目の前の阿舞野さんの隠された顔に神経が集中する。


 お互いの不織布が触れ合った。


 少し阿舞野さんの唇の位置とオレの唇の位置がずれてる気がする。


 なんにせよ、これがオレのファーストキス。


 初めてのキスは、カサカサした感触だった。

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