教室の中心で不満を叫ぶ
学園生活の終わりの始まりを告げるチャイムが鳴った。
いよいよ今日から高校三年の一学期。
群光学園、最後の一年。
聞き飽きたチャイムのメロディー。
今まで何回聞いたんだろう。
登校日数を数えて計算すればわかるだろうけど。
でも面倒だからしない。
ただ一つわかっていることは、このチャイムを聞くとなんだか虚しくなるってこと。
自分の人生(ちょっと大袈裟)が、他人の手で機械的に回されているようでつまらない気分になって……。
他のみんなも同じなのだろうか。
それともオレだけ?
高校三年になったけど、友達も多くないオレは、これと言って青春的なイベントもなく、結局、残りの一年も、過去ニ年と変わらずに同じ日常を送って卒業なんだろう。
ただそんなオレにも変化が全く無いわけではない。
クラスメイトの顔ぶれは変わった。当たり前だけど。
でもその変化の中で一つ注目すべきポイントが。
在校3年目にして、校内での有名人と一緒になったのだ。
オレの視線の先、教室の真ん中あたりの席、机の上に座って足を組んでいるギャル系女子。
あれがその有名人。
パーマを当てたロングの髪をポニーテールにした、小顔で整った顔の子。
両耳に小さいピアス。
左腕には金と銀のブレスレット。
首には小さなハートが付いたシルバーのネックレス。
でも髪には色を入れず黒髪。
名前は阿舞野……、えーっと、なんだっけ?
ギャル系女子は好きじゃない‥‥と、自分で思い込んでいたんだけど、たしかに阿舞野さんは可愛いと思う。
「うずめー! またクラス一緒だー!」
ああ、そうだ。阿舞野うずめさんだ。
たしか、学校の成績もそこそこ良いんだよな。あと運動神経も。
友達に手を振って会話してる。
やっぱりああいう人は、自然と中心に位置取るんだろうな。
彼女とは対照的にオレは学校に馴染めず、親友と呼べるほどの友達はいない。
会えば話すぐらいの仲の人ならいるけど。
なんせ趣味が漫画の同人誌を書くことだからな。
同志との多くの出会いを待っていたんだけど、残念ながら今のところ漫画部の連中だけ。
でもオレの漫画を理解してくれるかな。
何故なら、オレの描く物語はちょっとエロいラブコメだけど、直接、性的な行為の絵は描かないのだ。
なんとなくエロい感じを匂わせるような絵。
ようするにフェチズムを追求するような作品。
おっと、経験がないからリアルな性行為を描けないんだろ、という即死魔法を唱えることは禁止だ。
モチベーションが消滅してしまう。
とは言え、そんな物語だとしても、どこか主人公とヒロインにリアリティがなく物足りないのが悩み。
自分で読み直しても、どこか薄っぺらくて面白くない。
たぶん阿舞野さんのような社交的な人と違い、他人との交流が乏しいから描けないんだろうな。
まあ話を元に戻すと、つまり阿舞野さんは可愛いけどオレとは別世界の人ってこと。
同じクラスになったとしても、彼女と交わることは無いと思う。
阿舞野さんは足を大きく振り上げて、反動をつけて机から降りた。
「あーっ! ラスト一年。経験したことない刺激が欲し〜い!」
前後の話の脈絡はわからない。
友達と話していた阿舞野さんが突然、教室の中心で刺激不足を叫んだ。
一斉にクラスの視線が彼女に集まる。
みんな目を丸くしている。
オレもきっと同じような目をしてるのだろう。
でも経験したことないって……、もしかして阿舞野さんもオレと一緒であの経験がなかったのか……、なんてね。
明るくて友達に囲まれている阿舞野さんのような人でも学校生活に不満があるなんて思わなかった。
って、えっ……!?
彼女に視線を向けていた、オレのまぶたがさらに大きく見開く。
彼女がはいている紺色のミニスカートの後ろ側が捲れ上がったままになっていたのだ。
しかも、その下にはいていた黒パンが食い込んでいて、中に隠されていた明るいピンク色の布が脇から僅かに食みだして……??
「ちょっと、うずめ、スカートめくれてるって!」
友達が笑いながら指摘する。
阿舞野さんは「あっ、ホントだ!」とケロッとした感じでスカートを下ろした。
次の瞬間、突然彼女がこちらに視線を向けて、オレと偶然目が合った。
しまった! つい無意識のうちに目が釘付けになってた。
ガン見してたことがバレたかな。
焦って表情が固まるオレ。
でも視線の先の阿舞野さんは表情を崩して、オレに向けてニカッと笑った。
怒っては……ないよな??
それにしても新しい学校生活早々、S級女子から良いネタをもらった。
学校が終わったらこの光景を早速、絵にすることにしよう。