<クリス・アルバディアドール>
「……様、……え様!」
「う~ん…」
「姉様! 起きて下さい!」
「ん……シオン? どうしたのですか?」
窓から見る景色は月明りが美しく、夜である事を告げている。
「まだ夜ではないですか」
「反乱です」
「反乱……?」
目覚めたばかりの頭のせいでシオンが言った言葉が何なのか一瞬理解できなかった。
「反乱?!」
「お父様とお母様が捕らえられました」
「なぜ?!」
「理由は後で。今は逃げるのが先です」
「逃げるってどこへ?」
「ここはもうダメです」
「お父様とお母様は無事なのですか?!」
「お父様とお母様ならば今は大丈夫です。私達が捕まらないかぎり、命は無事です」
なぜ私たち?
「とりあえず、人間が住む地へ参りましょう」
「なぜですか?!」
「いいから! 次はクウガの所へ」
「え、ええ」
辺りが騒がしい。確かに何かが起こっている。
◇
「いいですか、姉様。私が追手を食い止めます。姉様はクウガを連れて逃げてください」
「そんな事できるわけないでしょう! シオンも一緒に逃げなければ!」
「姉様! 姉様っ! 聞いてください。クウガがいたら足手まといなのです」
「私一人であればなんとでもできますが、子供のクウガがいては動けません」
「あなたも子供ではないですか!」
「ですが、私は誰よりも賢い」
「何をこんな時にっ」
「今、クウガを守れるのは姉様しかいません」
「あなたが本当に誰よりも賢いならば、3人一緒にいても逃げられるのではないのですか?!」
シオンが苦笑いをする。
「申し訳ございません。さすがにそこまでは賢くないようです」
違う、そんな顔をさせたいわけではないのです。
「お願いします、姉様。どうかこのシオンを信じてください。必ずこの窮地を脱して姉様とクウガの元へ参ります。この地へ戻ってきてはなりません。いいですか、この地へ戻ってはなりません」
「なぜですか?!」
「っ!! 追手が来ました。私も必ず人間の地へ参ります。そこで合流しましょう」
「人間の地など行った事もありません」
「姉様が世界地図を覚えている事を、このシオンは知っていますよ」
自慢するんじゃなかった。
「姉様、絶対に身分を隠して下さい。ドラゴニュートである事は気づかれたとしても、私達が王女と王子である事は誰にも言ってはなりません」
「そんな事、人間に言う訳がありません」
「念のためです」
「シオン、必ず生きて会えますか? 信じてよいのですか?」
「私を誰だと思っているのですか? シオン・アルバディアドールですよ」
「分かりました……絶対に生きて会いましょう」
見上げると、月夜に浮かぶシオンの背中。
その表情は見えない。
「いいですか、姉様、人間の地で何事もない顔をして、笑顔で暮らしてください」
「あなたの無事が確認できるまで、何事もない顔などできません!」
ましてや笑顔で過ごすなど!
「お願いします。私の為だと思って。姉様とクウガが笑顔でいると思えばこそ、私も頑張れます」
「っっ!!」
「さ、早く逃げてください。追手は私がひきつけます」
そういうと、シオンはドラゴンに姿を変え、追手に向かって飛んでいく。
「シオンッ……」
お願い、絶対無事でいて。
「姉さま……?」
まだ寝ぼけているクウガの頬を叩く。
「痛ぁっ……」
「クウガ、ドラゴンになりますよ」
「なんで?」
「いいから! 逃げるのです!」
溢れそうになる涙をこらえながら、クウガと共に月夜を飛ぶ。
◇
「――誰か――か?」
何者かの声が聞こえる。追手だろうか……
「――衰弱していますね」
せっかくシオンが助けてくれたのに、私たちはもうダメです……
「これ……まさか――」
クウガがこんなに傷を受けていては……助からない。
最後にパーンの匂いに包まれて、命の終わりを迎えましょう。ごめんねクウガ、あなたを守ってあげられなくて。
そしてシオン……あなただけでも無事でいて――
「――ニュートの子供……」
「――――――――」
「――してあげなくていいんですか?」
「どっちの子が――――」
クウガを捕まえようとしている!
やはり、追手! これ以上クウガを傷つけさせはしません!
「キイィィィッ」
何やらまぬけな会話をしている……
追手ではない?
私達に何をしようというの……?
とても優しい声が聞こえる。
なぜかは分からないけれど、この者にはクウガを見せても大丈夫な気がする……
意識が遠のいていく……ここまでのようです……
暖かいものが体に流れてくる……
これは……なんなのでしょう……?
私に触れた者の頭上で月が輝いて――
◆◆
私達を助けて下さったのは『オリ・ジナル』様と『ツキ・ソーイ』様という方でした。
変わった名前ですが、オリ様からは安心とやすらぎを感じます。
ツキ様からは何やら得も言われぬ迫力を感じます。
そしてどこかでお会いした事があるような気もします。
人間の知り合いはいないので、他ドラゴニュートのそら似でしょうか。
なぜかは分かりませんが、この場所は安全だと思ってしまいます。
シオンと合流するまで、ここで暮らす事ができれば……
その後、無理矢理ここで暮らす事をお許しいただき、一緒に住む方達と会いました。
もの凄く好みの男性ととても可愛らしい女性です。
お二人とも優しくて、オリ兄様とはまた違った印象です。
買い物へ行くことになりました。
私とクウガの服などを購入する為です。
夜中に逃げだした為、寝間着だったからです。
昔から両親が持たせてくれていたお金があった為、オリ兄様に迷惑をかける事がなくて本当に良かったです。お父様とお母様はこうなる事を予見していたのでしょうか。
買い物中に、何度か違和感を覚えました。
オリ兄様の言動です。
これまで私が出会った人達とは何かが違います。
一番気になるのは『大人だったからな』と言われた事。
普通このような言い間違いをするでしょうか?
シオンしか知りませんが、私にはここではない世界で生きていた記憶があります。
もしかしたら、この事にオリ兄様は気づいているのでしょうか。
子供の私が店の看板を普通に読めても、2歳の頃から今のように話していたと聞いても、世界地図を覚えていると言っても疑問に思わない。
あまりにも鈍い人なのか、他人に興味がないのか。そんな方にも思えません。
そして、自分の事を普通だという。普通とは一体何を指すのか。
ただ言えるのは、オリ兄様に出会えて私は幸運だと思ってしまいました。
シオンが今、どうしているかも分からないのに、こんな気持ちになる事に罪悪感を覚えながら。
見た事もない、店内と食べ物を提供するお店にやってきました。
こんなに気分が高揚するのは初めてです。
国から逃げてきたのに、楽しいと思ってしまっている。
こんな事ではいけないのに。
お父様、お母様、そしてシオン、早く会いたい。
家族皆でこの店に来たいです。
また涙が溢れそうになりました。
どうしても泣きそうになってしまっていけません。
寂しくても笑顔でいなければ。
「おお~、ツキ。なかなかイチーゴパフェ似合うじゃないか~。可愛いな~。ほら食ってみろよ~。ほっぺにクリームつけたりなんかしてさ~」
何かが始まりました。
クウガがツキさんの頬にクリームをつけてしまいました。
圧が……圧が凄いです。
クウガは無事でいられるのでしょうか。
すると、ツキさんがオリ兄様のお鼻にクリームをつけました。
……これが世にいう『いちゃいちゃ』というものなのでしょうか。
なぜかお二人はクリームを拭う事なく、黙々と食べていました。
公衆の面前でいちゃいちゃするというのは恥ずかしい事だと聞いていましたが、人間の世界ではそうではないのかもしれません。
人間の世界に溶け込むためにも勉強が必要です。
……私もライ君と同じ事がしたいです。
シオン、本当にごめんなさい。
こんな姉を許してください。
絶対に探しだしますから!
◆◆
「クリス、何してるんだ?」
「今日、購入したノートに日記を書いています」
「字まで書けるなんて凄いな〜。俺なんて日記書こうとしても三日坊主だわ」
三日間、坊主とは一体なんなのでしょう?
「あ、三日坊主は……知らないよな……えっと……大人になったら分かるからな」
なぜ、オリ兄様は焦っているのでしょう?
ツキさんが笑っている。
ツキさんはオリ兄様にだけ笑顔を向けている気がする。
冒険者パーティーというのを一緒にしているだけあって仲が良いです。
私もライ君と仲良くなりたいです。
私はまたこんな事を……。
シオンを探すことに集中しましょう。
今日の日記はこんな所でしょうか。
早く『シオンが見つかった』『お父様とお母様に会えた』と日記に書きたい――
新しい異世界ものでも始まってしまったのだろうか。
なんならこっの方が王道っぽいという意見があったりなかったり。
スピンオフ来るかな?




