交渉依頼
「ダメだった……」
どうしよう、いい感じであの子達と一緒に暮らすつもりでいたけど、オーナーNGだった。
いや、ちょっとそんな感じはしてたけど。
ダメか〜……。
あんなに喜んでくれたのになぁ。
「よく童貞のあなたが子供の面倒を見る気になりましたね」
うるせー。
「自分の面倒もみれてないのに」
俺にはツキがいるから。
「私はあなたのお母さんではありませんよ」
ですよね。
「本気ですか?」
「何が?」
「幼子と一緒に暮らすという事です」
「まぁ……」
それが正解かは分からないけど。
「なぜですか?」
「俺さ、二度の人生で初めてあんなに求められたというか、頼りにされたというか……なんか応えたいなって。あと子供好きだし」
そんなんで子供預かったらダメかもしれないけど。
「なるほど。分かりました。相手は幼子です、あなたに責任が発生することだけ夢々忘れないように」
はい。
「ではサラの所に行きますか」
なんで?
「分かりませんか?」
うん。
「行けば分かります」
◇
「ツキさん、今日はサラ様はお留守ですよ」
サラの部屋の前まで来たら、後ろからフェスに話しかけられた。
「そうなんだ? 最近よく見るからいると思ってた」
「1週間は戻らないとの事です」
それだけ言うと憂鬱そうに自室に去って行った。
「だってよツキ」
「大丈夫です」
ツキがフェスに教えて貰ったことをガン無視し、サラの部屋のドアをノックする。
「はいはいはいはい!」
ドアが勢いよく開く。
「いなかったんじゃなかったのか?」
「ツキさんに呼ばれれば来るに決まってんだろ」
あっそ。
「入りますよ」
「どうぞどうぞ!」
◇
「あなたにお願いがあります」
「何っでも言って下さい!」
「ドラゴニュートの子供を預かる事になりました」
「ツキさんがですかっ?!」
「私ではありません。この人がです」
「そう、俺」
俺の顔を見ながら、メンチを切ってくる。
「で、どうしたんですか?」
「ここのオーナーに子供を保護するのを断られたそうです」
「ここは単身者向けですからね。お前、知らねーのかよ」
この態度の違いたるや。
慣れたけど。
「なので、あなたがここのオーナーを説得してきて下さい」
おお! その手があったか!
「えっ! こいつの為に?!」
またしてもメンチを切られる。
「あなたなら容易いでしょう」
「まぁ、そうっすけど〜」
サラが嬉しそうな顔をする。
「ツキさんの為なら、喜んで引き受けますけどぉ、こいつの為なら嫌っすね~」
俺の顔を見て『やーい、やーい』みたいな顔をしてくる。
こいつ……。
「家をなくし、親元から離れざるを得なかった幼いドラゴニュートの為でもありますよ」
「そんなのどこにでもある話じゃないですか〜。そんなん我々が気にしてたらキリないっすよ」
……サラなら行けると期待した俺が馬鹿だった。
それに、その意見自体が間違ってるとも言えないし。
俺だって、困った人を全員面倒見れるかと言われれば無理だし。
「……あなたは本当に諦めが早いですね。普段ならそれでいいでしょうが、ドラゴニュートの為に頑張ろうとは思わないのですか?」
確かに……。
俺またやってんな……。
「こんな所で躓いて、この先あの子達の面倒が見れるのでしょうか」
確かに……。
本当その通りです。
「じゃあ、もういいっすかね? 最近こっちにいすぎて、本来業務を疎かにしちゃってまして」
と、ヘラヘラ笑うサラ。
遊んでばっかりじゃないんだな。
「そういえば、あなたピクニックに行きたいとか言ってませんでしたか?」
「行きたいっす!!」
「あなたの都合の良い時に行きましょうか?」
急にどうした。
「ピクニックついでに色々遊んでも楽しいでしょうね」
「そんなん絶対楽しいっすよー!」
サラが興奮しだした。
「では、オーナーの所に行って説得してきてくれますか?」
「もちろんっすよ! ちょっと行ってきます!」
言うが早いか、サラは奥の部屋へ走って行った。
「なんだアレ」
「あの子は単純なのですから、アプローチを変えればなんてことないのですよ」
あっけにとられる俺。
「あなたも簡単に諦めないように。ちょろい問題でこれだと先が思いやられます」
はい。
「あと、あなたのお陰であの子とピクニックに行く羽目になりました」
言い方。
「今度、何かしらしてくださいね」
何かしらって何?
「考えておきます」
ツキがニヤリとする。
「ニコリです」
「は〜! でも本当助かった! ありがとうなツキ!」
「どういたしまして」
「お待たせしましたー! OK貰って来ましたよー!」
早。
「ありがとうございました」
「なんのなんの、これくらい私にかかれば」
大口あけて笑っている。
「お前の為じゃねーからな」
首をぐるりと回してメンチを切ってくる。
「分かってるよ」
「ツキさんと子供らの為だかんな! 勘違いすんなよ」
「分かったって。本当に助かったよ。ありがとう」
「あと、お前が責任持ってピクニックの計画しろよ」
「はいはい」
「はいは一回だろーが」
「はい」
「サラ様? 今日は留守のはずでは?」
急にフェスが入ってきた。
「お〜、ちょっとな。すぐ戻るけど」
「来ていたのなら、知りたかったです」
「いちいちうるせーな。ちょっと来ただけだって言ってんだろ」
「はい……」
「は〜……面倒くせ」
「申し訳ございません」
「は〜……次からは声かけてやるよ」
言いながら、フェスの頭をぐしゃぐしゃに撫でるサラ。
「ありがとうございます」
「じゃあな」
言い残し、サラは奥の部屋に去っていった。
フェスはといえば撫でられた頭を嬉しそうに撫でていた。
「フェスってやっぱサラのこと好きだよな」
「いえ、崇拝しているだけです」
キリッとした顔で出ていった。
「ずっと頭触りながら言われてもな~」
まぁ、何でもいいけど。
「なにはともあれ、あの子達喜ぶぞ! 早速行こうぜ」
「ではまた次回」




