はじめての回復
「パーン屋の裏で怪我してるって事は喧嘩かなんかかな?」
俺とツキは怪我人がいるらしいパーン屋の元へ走っていた。
「まだ喧嘩してたら、止めなきゃだな」
気合を入れる。
「いえ、ただ怪我をしてるだけで周りに人はいませんよ」
「そっか」
入れた気合はどこへやら。
「大丈夫か?!」
パーン屋の裏に到着し、すぐに怪我人の姿を探す。
「あれ?」
いないぞ。
「いないじゃないか」
「いますよ。そのゴミ箱の裏です」
ゴミ箱?
パーン屋の裏口のすぐ横にあるゴミ箱に目をやると、もぞもぞ動く陰。
「ああ、ゴミ箱に隠れて見えなかったのか」
……んん? それだと小さくないか?
「誰かいるか?」
ゴミ箱に近づきながら声をかける。
動物か?
「えっ?!」
「ひどく衰弱していますね」
「これ……まさかドラゴンか?!」
「ドラゴンですね。正確には違いますが」
ええっ?! うわっ! ドラゴン見ちゃった!
「え?! 二匹いる?!」
もぞもぞ動いていると思ったら、二匹いた。
「ど、どどどどどどうしてこんな所にドラゴンがっ」
ん?
「いま、正確にはドラゴンじゃないって言ったか?」
「ドラゴニュートの子供ですよ」
「何ぃ?!」
「それよりも怪我、治してあげなくていいんですか?」
そうだった!
「どっちの子が怪我してるんだ?」
触ろうとしたら下の子に覆いかぶさっていたドラゴンが牙を剥いて威嚇してきた。
「キイィィィッ」
怒ってるな。
まぁ、そりゃそうか。
「なんもしないぞ~、治してあげるだけだぞ~」
「気っ持ち悪い。なんですかその猫なで声は」
気持ち悪くて悪かったな。
「小さい子を驚かせたらダメだろうが」
ドラゴンの警戒は解けない。
「そんな気持ち悪い声を出されて警戒されない訳がないでしょう」
どんだけ気持ち悪いんだよ俺の声。
「あなたは普通に声を出した方が良い声なのですから、普段通りに話した方が良いですよ」
え? 今褒められた?
「え……何? ありがとう」
「褒めてません」
「いや、どう考えても褒めてただろ」
「普段通りに話した方が良いと言っただけです」
「良い声って言った!」
「言ってません」
なんだ、照れてんのか。
「じゃあ、褒められてないって事でいいよ」
ひぃ!
ツキの目が限界までかっぴらいている。
「どう考えても俺は悪くないだろ!」
「警戒が解けたようですよ」
え?
振り返ると、ドラゴンの顔から警戒が解けていた。
「あまりに頭の悪い会話にアホらしくなったのでしょう」
なんだそれ。
「じゃあ、触っていいか? 怪我を治してあげたいだけだから……な?」
前にいたドラゴンが後ろのドラゴンを見せてくれた。
「ちょっと触るからな?」
「キイィッ……」
「ああっ! ごめん! 痛いよなごめんな」
こんな小さい身体が傷だらけだ。
「何個か深い傷もあるんだけど、俺で大丈夫かな?」
心配になってツキに聞いてみる。
「どれだけ回復するかは分かりませんが、悪くする事はありませんから大丈夫ですよ」
ほっ……。
「じゃあ、やるか」
初めての回復魔法がこんなに小さくて弱ってる子になるなんて思ってもみなかったな。
今の俺にどこまでできるか分からないけど、できる限り精一杯やろう。
俺は苦しそうにしているドラゴンの子にそっと触れ『全部治りますように』と願った。
「できたか?」
正直、回復魔法は魔法を使った実感が全くないから成功したかどうか分からない。
「見たとおりです」
「キュイ?」
回復魔法をした子が不思議そうな顔をしている。
「キュイィィッ」
庇っていたドラゴンが驚いたと同時に鳴いて喜んでいるようだった。
なんとなく回復しったぽい感じがする。
「良かった~……」
どれくらい回復したのかな?
「全回復してますよ」
マジ?!
「俺、すご」
「そうですね、なかなかやりますね」
お~、褒められた。
「前の子も治してあげたらどうですか?」
前の子も深い傷はないが傷だらけだった。
「そうだな。前の子もちょっと触らせてな?」
一瞬ビクっとなったが、触らせてくれた。
この子の傷もちゃんと治りますように。
「キュイッ?」
「どうだ?」
「治りましたね」
「お~、俺すご」
「おや、二匹とも寝てしまいましたね」
え?
「本当だ」
気が張ってたんだろうな。
「どうしますか?」
「どうしますか? って、置いていけるわけないだろ。連れて行くぞ」
俺は二匹を抱きかかえ、家に戻った。
重。
◇
「それにしても……可愛いぃぃ」
ソファのクッションが丁度良い大きさだったので、二匹を寝かせている。
「あ~……つんつんしたいけど、起きちゃうだろうからな~」
「気持ち悪い顔しないでください」
デレた顔がキモくて申し訳ございませんね。
「許しましょう」
許してもらおうと思って言ってないんだけど。
「知ってますよ」
あっそ。
「目が覚めたようですよ」
起きたドラゴンの子と目が合った。
「お~、起きたか。大丈夫? まだ痛い所あるか?」
起きたドラゴンの子はもう一匹のドラゴンを起こした。
「キュイ?」
「キュイィ」
二匹で抱き合い、顔をスリスリしあっている。
ガワイイイイイィィィィッ!!
「ちょっと、静かにしてください」
声に出してないのに、静かにしろって言われるのもなんだかなと思うが。
「身体がどろどろなので、お風呂に入れてから食事でもあげたらどうですか?」
「そうだな。でもそんな体力あるかな?」
「あるそうですよ」
あるんだ。
「なんで分かる」
「なんで分からないと思いますか?」
そうですね。
「じゃあ、お風呂に入ろうか」
一緒に風呂に入って洗おう。
「こっちの子と一緒に私が先に入ります」
「何で? 俺が二匹と一緒に風呂入るよ?」
「この子は女の子ですよ」
え?! そうなの?
「ちなみに、双子の姉弟です」
えええええっ! 可愛いっ!
「ではまた次回」




