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俺の回復魔法(2)

「俺は回復魔法を覚えられない」


「そうですか」


「何でか聞いてくれよ」


「既に聞いています」


 心の声を勝手に聞きますもんね。


「そうでなくても、こうなる事は分かっていましたよ」


「分かってたんなら教えてくれよ」


「何事も経験ですからね」


 良い経験させてもらってます。


「俺が甘かった」


「あなたが甘くなかった事なんてありましたか?」


 ありませんね。


「ピリっとする事ないもんな、俺」


 なりそうなら逃げるし。


「は~……大変だな。治療所」


 こんなに大変とは思わなかった。


「清拭頑張りましょう」


「だよな~。初めてだからとはいえ、下手くそで申し訳ないよ」


「体位変換頑張りましょう」


「冒険者だから、力仕事はかかって来いって感じだったけど、患者さんも冒険者だからガタイが凄くてな~。重い重い」


 って、なんで知ってんだよ。


「お前、軽傷治療患者の手当てだっただろ」


 階が違う。


「心の声が大きすぎるんですよ。気が散ってしょうがなかったです」


 それはすみませんね。


「そういえばお前褒められてたよな」


「そうですね」


『ジナルさん! ソーイさん凄いですよ! 目にも留まらぬ速さで処置! そして全てが適切なんですぅ!』


 陽キャ看護婦さんの大きな声が今も聞こえるよ。


「中等症まで処置しだしたって言って、正式に雇いたいとまで言ってたもんな。1日働いただけなのに」


「当然です」


 そうですか。


「明日には重症患者治してそうだよな」


「目立つのでしませんよ」


 今でも十分目立ってるけど。


「その気になればあの治療所の患者全員治せるだろ」


「治せますよ」


「治したらダメとかあるのか?」


「さすがに派手な回復はダメでしょうね」


「どこまでならいいんだ?」


「さぁ? どこまででしょう?」


「はぐらかすなよ」


「はぐらかしてはいませんよ。明確な線引があるわけではないので分からないと答えただけです。派手にすると怒られるというのは確定してますが」


「罰とかあるのか?」


「特にはありませんが謝らないといけません」


 軽。


「軽くありません。謝りたくないです」


 そうですか。


「じゃあさ、派手に治せないのは分かったけど、どれくらいの範囲を回復できるんだ?」


「治した事がないから分かりません」


「お前でも分からないんだ?」


「ソパール湖くらいまでなら確実に治せると思いますが」


 規模。


「何言ってんの?」


「回復の範囲ですよね?」


 そうですね。


「凄すぎない?」


「あなたからみたらそうかもしれませんね」


 誰からみたらそうじゃないんだろう。


「神とか?」


 神でちゃった。


「お前の場合、出来ない事を聞いた方が早そうだな」


「基本的に出来ない事はありません」


 そっかぁ。


「チートすぎだろ」


「『基本』ですから」


 そっかぁ。


「ついていけないよ」


「ついて来てなど言いましたか?」


 言ってないですね。


「治せる力があるのに、治さない事について何か思ったりすんの?」


 真顔やめて。


「なんか、すみませんでした」


「別に怒っていませんよ。驚いただけで」


 本当かよ。


「よくそんな無神経な事が言えると思いまして」


「あ~……ごめん」


 なんかお前ならなんでも聞いていいと思ってた。

 ダメな事は教えてくれないだけで。


「ひとつ学びましたね」


 はい。


「せっかくなのでお伝えしておくと、なんとも思いません」


 え?


「俺、謝って損した?」


「損も得もありません。それに人を治す事は基本的にしませんが、気が向けば治すことはあります」


「いつ気が向くんだよ」


「さぁ?」


「分かんないのかよ」


「分からなくはないですが、適当に返事しておけばいいかなと思いまして」


 そっかぁ。


「俺が怪我した時は治してくれたよな?」


「あなたなので治しただけです。それに私が負わせた怪我ですし」


 俺なら治してくれんだ。


「気が向けばですけどね」


 いつだって、気が向いててくれ。


「なんとも思わないって凄いな」


「私の前職なんだと思ってるんですか」


 前職て。


「まぁ、そうか」


「傷ついた人を見て何も思わないわけではないですが、治さない事についてはなんとも思いません」


 分かった。


「言い難い事教えてくれてありがと」


「別に言い難くないです。あと、その神妙顔やめてください。腹立つんで」


 ええー……。


「で、回復魔法諦めますか?」


「諦めたくないんだけどさ、患者さんで試せるわけないって事に気づいちゃった」


「あなたならそうなります」


「回復魔法が100%できる確証もないのに、できるわけがなかった……」


 悪化させたらどうしようってなるし。


「では、明日からは通常営業に戻りますか?」


「いや、行くけどさ」


 怪我人を魔法の練習台にできるわけがなかった。


「下手だけど、なんだかんだ喜んで貰えたし。経験豊富な冒険者さんから話し聞けるし」


 前世では介護とかした事なかったけど、想像以上に大変だった。

 本当、職業にしてる人には頭が下がるよ。


「清拭の時、大事な所まで丹念に丁寧に拭かなきゃだから気が気じゃなかったよ。色んな意味で」


「ああ、陰部ですね」


 言うな言うな。


「やり方見せてくれた看護婦さんの手際が良くてさ。色々驚いた」


 老衰で死んだから介護とかされてないんだよな。

 友達もいないから介護された話しとかも聞かないし。


「老人になっても、知らない事が多過ぎて引いたよ」


「私は出会った頃から引いてました」


 そうでしたか。


「治療所忙しそうだったから、当初の予定通り1週間は行くよ」


「お好きにどうぞ」


 お前が1週間もいたら、患者さんいなくなりそうだな。


 ◇


「か、かかかかか患者さんがいなくなりました!!」


 陽キャ看護婦さんが壊れている。


「ソーイさん! 仕事早すぎですし、なんだか治りが早いと評判なんですけど!」


 ペコリ。


「ペコリって!!」


 陽キャ看護婦さんがツキを『ぎゅっ』としている。


「すごい~、すごい~」


 ツキの頭に頬ずりしている。


 こいつってこういう時はなすがままなんだよな。


「治りが早いって言われてるんですか?」


「よく分かりませんが、何度も怪我してる冒険者さんたちがそう言ってました」


「へ~。ツキなんかしてるのか?」


 首を振るツキ。


「可愛い~、可愛い~」


 ツキの頭がどんどんボサボサになっていく。


「ジナルさんも清拭も体位変換もどんどん上手くなったって言われてましたよ」


「本当ですか? なら良かったです」


 皆様のご要望にはできるだけ応えたいからな。


「お二人とも今週でおしまいなんですよね~」


「はい、そろそろ通常の依頼に戻らないと」


「ですよね~。引き留めたいですけど……ウチで働きませんか?」


 引き留めてる引き留めてる。


「ごめんなさい。冒険者やりたくて」


「あはは! 冗談ですよ。ありがとうございました。また、お待ちしてますね! あ、怪我しては来ないで下さいね」


「はい!」


「ではまた次回」

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