ハンプレンドルダンジョン ー完ー
「食べてすぐ寝ると牛になりますよ」
「モ~、ちょっとだけ」
これぞ地獄から天国。
胃は満たされた。
「それは何よりで」
さっきまであんなに気持ち悪かったのに、今は幸せに包まれている。
木漏れ日の中、目を閉じると夢の世界に旅立てそう。
「いい加減起きてください」
はい。
「だああああぁぁっ!」
目を開けたら、どアップのアカネさんがいた。
「人ん家の前で何しとるんじゃ」
まだ心臓がばくばく鳴っている。
ツキかと思って目を開けたらたらアカネさんって……。
インパクトでかすぎ。
蟻よりはマシだけど。それは失礼か。
「パーテーしとるんか」
確かにアカネさん家の前でピクニックを始めてしまっていた。
「パーテーではないですけど、すみませんご飯食べてました」
「随分早かったのぅ」
「それが……」
包み隠さず、俺のヘタレっぷりの全てをアカネさんに説明した。
「ふわっふわっふわっ」
「どうしてもダメでした」
「なんでかいの~?」
「気持ち悪いんですよね」
思い出してもぞわぞわする。
「みぃんな、そう言うんじゃ」
え?
「一度中に入った者は二度と来ることがないんじゃ」
俺も来たくない。
「そんな事ってあるんですか?」
「あるからこうなったんじゃ。なぜか全ての冒険者がすぐに根を上げてのう。気持ち悪い気持ち悪い言うて」
分かる分かる。
「そうしてここは廃墟となっていったんじゃあ」
「ここって踏破した冒険者いるんですか?」
「いるぞい」
いるはいるんだな。
「ワシと弟じゃ」
「アオトさん?」
「会ったんか」
「地縛霊のアオトさんですよね」
「何を言うとるんじゃ」
え?
「アオトは禁縛はしても地縛霊じゃないぞい」
え?
「それじゃただの変態じゃないですか」
「アオトは変態じゃ」
ええ……確かに納得だけど。
「そしてしょうもない嘘つきじゃ」
「なんでそんな嘘を」
「しょうもない嘘つきの考える事なんぞ分からんわい。信じる方も信じる方じゃがのう」
確かに。
死んだ後の世界を知ってるせいで、地縛霊もいるもんだと普通に受けいれてしまっていた。
「ツキだって、幽霊って言ってただろ」
「言ってませんよ」
「言ってたよ」
「『今更幽霊に驚くこともないでしょう』といったのです。アオトさんが幽霊とは言っていません」
確かにそう言ってました。
「騙された」
「私は騙していませんよ」
「じゃあ、アオトさんは生きているんですか?」
「殺したって死なんわ」
さよですか。
「それなら何よりです」
「もうしばらくしたら、昼飯食いにくるわい」
普通にダンジョンから出るんだね。
「噂をすれば来たわい」
「お~、どしたんぢゃ、もう戻って来たんかぁ」
「何、嘘ついてくれちゃってんですか」
「何の事ぢゃ?」
「地縛霊って大嘘じゃないですか」
「なんぢゃ、アカネばらしたんか」
「ばらしたも何もお前が下らんこと言うからじゃろ」
「ひゃっひゃっひゃ。驚いた反応が面白くてな~。この兄ちゃんなんて最高ぢゃったぞ」
殴りて~。
「それにしてもそっくりですね」
どっちがおじいちゃんでどっちがおばあちゃんか分からないな。
「今、絶対失礼な事考えたじゃろ」
「考えてないです」
なぜバレた。
「昔はぶいぶい言わせとったんじゃがのう。ちょいと歳とるとな~」
ちょいとじゃないだろ。
「地縛霊じゃないなら、アオトさんはあそこで何をしてたんですか?」
「害虫駆除ぢゃ」
害虫駆除?
「あんなダンジョンだからか、害虫被害がひどくてのぅ」
「害虫ですか? モンスターじゃなくて?」
「正しくはモンスターなんぢゃが、このダンジョンに出るモンスターの『細ぁい』のがアホほど出るから害虫言うとるわ」
それは俺の知っている蟻だよな。
「駆除剤をアカネが作ってワシが撒くんじゃがキリがなくてのぅ。そのせいで1Fは廃墟みたいになっとるわ」
「モンスターなら冒険者が戦えばいいのでは?」
俺なら戦えないけど。
「あいつらを見ると寄り付きもせんくなるんじゃ」
分かる~。
「駆除剤を撒けば冒険者らもなんとか2階に行ってくれるからのぅ」
「2階は綺麗ですよね」
「安全地帯ぢゃし、ワシ頑張っとるからのぅ」
「アオトさんが頑張ると2階が綺麗なんですか?」
「ワシが頑張ってリフォームしたからのぉ」
は?
「1階があんなんぢゃから、可愛い子が来ても何もできんぢゃろ。良い部屋を完備しておけばいつか誰かとまぐわえるかと思ってのう。良い部屋ぢゃったぢゃろ」
この人何言ってんだ。
「すまんのう、アオトは性欲が旺盛で」
この人も何言ってんだ。
「ちなみにワシは普通の性欲じゃ~。も~、何を言わせるんじゃ~」
アカネさんの性欲についても聞いてないです。
あとおばあちゃんがクネクネしてるのもしんどい。
「このダンジョンって結局どうなってるんですか?」
「1階が害虫ダンジョンぢゃろ~」
「安全地帯先の異空間2階が黒蟻ダンジョンじゃ」
「異空間1階が白蟻ダンジョンぢゃ」
「オリ君たちはここで終了じゃったそうじゃ」
「早いのぅ」
「何階くらいまであるんですか?」
「地下10階までぢゃ」
うわ、結構ある。
「もしかして、全部『蟻』系ですか?」
「そうじゃ」
「異空間地下1階ぢゃと『羽蟻』ぢゃったな」
「地下2階で『毒蟻』じゃったか?」
「それは5階ぢゃ」
「あ……もういいです」
唐揚げ吐きそう。
(吐いたら許しませんよ)
吐かないよ。
「そんな感じで誰も来んようになるんぢゃ」
「攻撃もしてこんのになぁ」
「誰でも踏破できるはずなのに、ワシら以外おらんかったのぅ」
どんな猛者でも気持ち悪い。それが蟻。ということか。
「まぁ、せっかく来たんじゃからまた来んさい」
「可愛い子ちゃん連れてきてなぁ」
いっやらしい顔して言うなよ。
「ちょっと、また来る自信がないです」
「なんでそうなるんじゃろうなぁ」
「でも、宣伝はしておきますね」
「おお、おお、頼むわ」
とりあえず、今日はもう帰ろう。
「ではまた次回」




