ハンプレンドルダンジョン 1F(ボス部屋)
「もう嫌ですよ~」
「シロアリの方が嫌だと思いますよ。ブチュブチュ潰されて」
俺は無心でシロアリを駆除していった。
「もう駆除って言っちゃってますからね」
だって害虫だもん。
「ボス部屋に到着しましたね」
はぁ、どうせ黒蟻と一緒だろ。
「先にお弁当食べますか」
「食えるかぁ!」
「食べませんか?」
「マジで気持ちが悪い。せっかくのお弁当はもっと良い気分で食べたい」
「分かりました」
「でもMPもそんなにないから水でも飲みながら休憩するか」
「では、私はお先にお弁当食べます」
「ええ……出てから一緒に食べようぜ。一緒に食べた方がおいしいだろ」
「味は変わりませんよ」
「変わるんだよ」
「そうですか。では後にしましょう」
「それにしても圧縮しまくったな~」
「魔法を使う時、声に出してますね」
「そういやそうだな」
声出すと勢いつくんだよな。
「スポーツでもそうだけど、声出した方が威力高くなるとかあるし」
「威力は変わりませんよ」
分かってるよ。
「そういえば、風魔法で攻撃できないとか言っていませんでしたか?」
言ってたね。
「別に圧縮は攻撃魔法じゃないし。暮らしに役立つ魔法だし」
「ほほう」
「ほら、ふとん圧縮袋ってあるじゃん」
「ありますね。空気を抜いて圧縮する」
「それ」
今回袋はないけどね。
「風っていうと飛ばす系とか吸い込みとかを想像するけど、空気で押すというか」
今回は押し潰してやった。
「布団圧縮袋だと布団は元に戻るけど、シロアリはご臨終ということで」
「確かに用途としては幅広いですね」
ナイフと一緒で使い方次第だね。
「我ながらいいアイデアだった。天才かもしれない」
「天才ではないので安心してください」
「ボス部屋も圧縮で行く」
「どうせなら黒蟻の時に思いついてくださいよ」
「あの時はあれで天才かと思ってた」
名付けて『天国と地獄』
「ダサ」
言うと思った。
「蜂蜜で天国を味わい、氷と火で地獄を味わうという恐ろしい攻撃だ」
「ではそろそろ行きますか」
そうですね。
◇
「予想通りすぎて怖い」
なんちゃって巨大シロアリがお出迎えしてくれた。
「マージーで気持ち悪い」
なんやかんやで、何かしてくるわけでもない敵なんだけどな。
「悪いけど、倒されてくれ」
お前には地獄しか見せてやれないぜ。
「ああっっしゅくうぅううう」
この魔法なんか無駄に気合いいるな。
「おえええぇぇぇぇっ」
グロイグロイ。
「目を閉じればいいのでは?」
「普通に話しかけんな。さすがにボス部屋で目を閉じるのは自殺行為だろ」
何があるか分からないからな。
「おらああぁぁっ」
潰れてく潰れてく。
「全部潰れたか?」
全てが潰れたのを確認して、顔を覆った。
「何も泣かなくても。泣きたいのはシロアリの方ですよ」
あまりにひどい惨状だ。
「キツすぎ」
しかもアイテムもドロップしてないし。
「無事終わったわけですからいいではないですか」
「もう帰りたい」
「では帰りましょう」
ツキが背中をポンポンしてくれる。
「ツキが優しい」
「私はいつも優しいです」
それはない。
◇
「この先って、地下1階に行く道しかないんじゃないのか?」
「ここは1階なので、ちょうど戻れると思いますよ」
ボス部屋の奥の扉から出ると、2階と同じ洞窟だった。
「は〜、なんか普通の洞窟だと安心する」
木造がトラウマにならなきゃいいけど。
洞窟を少し進むと地下への階段があった。
「これどう考えても、地下1階に行くよな」
「ありませんでしたね」
戻るしかないのか。
「道がなければ作ればいいのです」
は?
「私は優しいですからね」
そういう時もあるね。
「こんな感じで」
ドゴォォンッ!!
ツキが俺と話しながら後ろを振り向いたと思ったら、洞窟に腰の入ったパンチを入れた。
「さ、これで戻れますよ」
…………何してんの?
「あなたこそ、大口開けて何をしているんですか? 行きますよ」
「お前が洞窟に大穴開けてるから、驚いてんだろーが!」
何してんの? 何してんの?
「道があるかと思いきや、なかったので作りました」
わ〜、凄いね。
「ってなるけど、ならねーよ!」
「どっちですか?」
「いや、おかしいじゃん。これはさすがにダメなやつじゃん」
「出たら直しますから、大丈夫ですよ」
なんだ、そっか〜、じゃあいいね。
「ってなるけど、なるね!」
「では行きましょう」
はい。
◇
「無茶苦茶だ」
「誰もいなかったので、まぁいいかなと思いまして」
軽。
ツキが開けた穴はダンジョンの建物の裏、アカネさん家の前に出た。ちなみにハンプレンドルダンジョンの建物を壊して出たわけではなく、俺たちは別空間から出てきた。
空間に亀裂というか、穴が空いていた。
さっさとツキが直してたけど。
「もっとさ〜、穏やかに出れなかったのか? 瞬間移動とか転移とか」
「あなたがそれをできるようになるには、まだまだ時間がかかりますからね」
「俺ができないのは分かってるけど、一緒に瞬間移動してくれればいいだけだろ」
「嫌です」
じゃあしょうがないね。
「それに、私がいない時に同じような事が起こった場合、こうすればいいという参考にもなったでしょう」
空間に穴も開けられないんですけど。
「私、優しいので」
あ、はい。
「さてと、いい加減お弁当を食べましょう」
あ、はい。
「ここは木漏れ日の美しい場所なので、確かにダンジョン内より美味しくいただけそうですね」
ツキがいそいそと敷物を引く。
「お前、さてはお腹すいてたな」
「だったら何ですか?」
「俺も腹へった~! 今日の弁当何?!」
「今日は唐揚げです」
「定番来たー!」
「あなたはお茶を出してください」
「はいよー!」
「ではまた次回」
いつの日か、ダンジョンを踏破できる日が来るのだろうか。




