ハンプレンドルダンジョンの受付
「ほんっとうに! ごめんなさい!」
「いいんじゃ、いいんじゃ。
いいんじゃ、いいんじゃ」
絶対いいと思ってない。
「そう見えたのなら、それが真実」
なんか深そうな事言ってる。
「とりあえず、今日は枕を濡らそうぞ」
「本当にごめんなさい!」
「ほっほっほ、冗談じゃよ」
許してもらえたのかな?
「2割はな」
8割は冗談じゃないんですね。
「からかうのはこれくらいにするか。この歳になると性別を超越してしまうからのぅ。勘違いするのも無理ないて」
「すみません」
「ほっほっほ。で? 今日はダンジョンに来た言うとったな」
「は、はい! この辺りにダンジョンなんてありますか?」
「おお、目の前にのう」
おばあさんがお化け屋敷を指差した。
「これダンジョンなんですか? 受付とかじゃなくて?」
「受付はここじゃ」
「ここ?」
「ワシの家じゃ」
「え?」
「ようこそハンプレンドルダンジョンヘ! じゃ」
さすがに、この家が受付とは想像もしてなかった。
「とんと冒険者も見なかったから嬉しいのう。受付するから、こっちに来なされ」
「は、はい!」
◇
家は古いが中は綺麗に手入れされていた。
有名なアニメ映画の家みたい。
思わぬ所でテンションが上がる。
「じゃ、この用紙に必要事項書いておくれ」
渡されたのは羊皮紙だった。
「これに書いていいんですか?」
「ほっほっほ。それに書かずに何に書くんじゃ?」
紙じゃないのか。
「羊皮紙に字を書くの初めてなので」
またしてもテンションが上がる。
「今の時代はそうかもしれんのぅ」
「書けました」
羊皮紙の書き心地が良くて驚いた。
なんだか字が上手くなったみたいだ。
(気のせいですよ)
そうですね。
「どれどれ」
おばあさんが、眼鏡をかけて俺の描いた受付用紙を見る。
「ほっほっほ。こう見えて老眼でのう」
至極当然に老眼だと思ってしまってました。
「『オリ&ツキ』じゃな。はい、受付ましたよ~。いってらっしゃい」
早。
「もう行っていいんですか?」
「扉入ったらダンジョンじゃから。気ぃつけてな~。出て来んかったら見に行ったるからな。死んでなければ、助けてやるから安心せい」
「おばあさんが助けに来てくれるんですか?」
「ほっほっほ。ワシ以外に誰がおるんじゃ。あと、ワシの事は『アカネ』と呼んでくれ。おばあさんじゃ老けたみたいじゃ」
「あ……はい。じゃあ、アカネさん行って来ます」
「何十年ぶりかに呼ばれたわい。行ってらっしゃい」
◇
「このお化け屋敷みたいな所がダンジョンなのか。予想だにしてなかった」
「私は分かっていましたけどね」
分かってたんかい。
「教えてはつまらないですからね」
確かに。
「こういうのは教えてくれなくていいってのをツキちゃんはよく分かってるね」
「攻略法を読んでないくらいですからね」
「攻略法は先に読んだら台無しだからな。初見は自分でやりたい」
「この本を借りてる必要ありますか?」
「今回みたいに知らないダンジョンも載ってるから必要あるだろ」
「中途半端ですね」
そうですね。
「それにこの本の良い所は攻略法ってよりも、アイテムの効果とかまで書いてあるところだし」
ゲームでもアイテムの効果とか価値とかは分かるわけだから、これはOKだろ。
「ゲーム基準なのですね」
はい。
「ダメかな?」
「お好きにどうぞ」
「この本あるから使っちゃうけど、この世界の皆さんは自力でそのアイテムがなんなのか体を張ったりして知識を得てるんだから凄いよな〜」
「この世界の皆さんだけではないですよ」
確かに。
俺のいた世界の皆さんもそうだよな。
「見ない方がいいかな?」
「図鑑みたいに使うという事ですよね? 便利な教材は利用すればいいと思いますよ」
言われてみればそうでした。
「なんか思考回路が難しく考えすぎちゃうな。素直に享受しよう」
「お好きにどうぞ」
「お前はなんでも『お好きにどうぞ』だよな〜。俺が悪い事しようと聞いても『お好きにどうぞ』って言うのか?」
「言いますね」
やめてよ。
「そこは止めてくれる?」
「悪いと思う内容は人それぞれです。誰かが悪いと思っていることが、人が違えば良い事だったり。私が口を挟む事ではありません」
言いたい事は分かる。
「でも俺が悪い事しようとしてたら止めて」
「私とあなたでは違う価値観ですよ」
「分かってるけどいいんだよ。止めてくれれば」
「気が向いたら止めましょう」
気が向かなくてもよろしくね。
「では入りますか」
「ここ、中どうなってるんだろうな」
「汚なそうですね」
全くもって同意見。
埃っぽいお化け屋敷の扉を開け、俺たちはハンプレンドルダンジョンへ踏み入れた。
「ほら、お化け屋敷じゃん。どこぞのテーマパークにあるお化け屋敷みたいな感じじゃん」
「あなた、お化け屋敷なんて行ったことないでしょう」
友達いなかったからな。
「テレビで見たもん」
「はいはい」
『はい』は一回じゃなかったのか。
「そうでした。やはり適当にあしらう時には出てしまうものですね」
おい。
「それにしても、モンスターとか出そうにないな」
「モンスターはいませんね」
「モンスター『は』?」
じゃあ、他に何がいるんだよ。
「あなたの後ろに」
ツキが俺の後ろを指差す。
やめてやめて。
「後ろにいますよ」
俺は恐る恐る振り向いた。
「うわあああああああ〜っ!」
「ではまた次回」




