本を借りたいだけなのに(2)
「あ、戻った」
フェスの顔が真っ赤から普通の顔色に戻った。
「意識飛んでたっぽいけど大丈夫か?」
「はい、問題ありません」
問題ないようには見えなかったけどな。
「お待ち~、皆カロピースにしたけどいいよな」
そもそもこの世界ってカロピースあるのか?
(ありませんよ)
ないんかい。
「なんですか、この乳白色の液体は」
お、いつものフェスだ。
「乳酸菌飲料だろ」
「乳酸菌飲料?」
「お前の大好きなたくあんぬにも入ってるだろ『乳酸菌』。知らねーの?」
「知りませんでした」
「ふ~ん。まだまだだねぇ」
フェスの奴、また食ってかかるぞ。
「……」
あれ? 大丈夫だったな。
「ささ、ツキさんどうぞ~」
ツキが何も言わず受け取る。
「ツキ、せっかくカロピースどっかから買ってきてくれたんだから、お礼くらい言えよ」
「いいんだよ。ツキさんはこれで」
ツキを見ながらニコニコ笑っている。
「喜んでる」
ちょっと、よく分からない。
「ほらお前らも飲めよ。ツキさんが待ってるだろうが」
「ありがとう。もう飲むことはないと思ってたから嬉し~。フェス、ほら飲もうぜ」
「はい」
カロピースを見つめるフェス。
やっぱりちょっとフェスの様子がおかしい。
まぁでも、この世界にはない飲み物だしな。
「で、本貸しゃいいんだっけ?」
「そうだった。サラって本たくさん持ってるよな?」
「おう、そこそこな」
「貸してくれないか?」
「なんでお前に貸さなきゃなんねーの?」
「貸して」
ツキが冷めた顔で言う。
「何がいいですか~?」
この会話何回するんだろ。
「甘い……」
フェスがカロピースを飲んだようだ。
「これが、乳酸菌飲料……たくあんぬと全然違う」
そりゃそうだろうよ。
「お前とか絶対飲んだ事ないだろうな。うまいだろ」
「はい」
「敬えよ」
「はい」
「お〜、今日は素直じゃねーか。いいぞいいぞ」
フェスの頭をガシガシ撫でる。
「……」
フェスもされるがままにしている。
サラはフェスが歯向かわないからご満悦だ。
「魔法の本とかある?」
「魔法の本なんてあったか~? は~…ちょっと見て来てやるか~」
「悪いな」
「お前の為じゃねーし。ツキさんの為だし。あ~、さっき適当に放りこんだからな~」
なんて言いながらサラが隣の部屋に消えた。
「このような飲み物は初めてです。とても甘い」
「砂糖入ってるからな」
「サラ様は……」
「は?」
……サラ『様』? 聞き間違いか?
「サラ様は、私など及びもつかない方でした」
聞き間違いじゃなかった。
「フェス? どうした~?」
カロピースを見つめるフェスの顔の前で手を振ってみる。しかし、俺の手などまるで見えてないようだった。
肩を叩いてみる。
「フェス? フェース? こっち見て。こっち見よ〜」
なんかヤバイ気がする。
俺の鈍いセンサーでもおかしいと気づくくらいに。
「私が間違ってました」
急にどうした。
「何が?」
「私などが、興味を持って良いような方ではありませんでした」
「いやいや、興味を持つ事に良いも悪いもないだろ~」
この間なんか言ってたけど、一件落着したんじゃなかったっけ?
「なぜ、気づかなかったんだ私は……」
なんかぶつぶつ言ってる。
「ろくな本なかったわ~」
サラが戻ってきた。
「もうこれでいいだろ」
持ってた本を投げて来た。
「お〜、ありがとう。じゃあ、そろそろお暇しようか」
そそくさと帰ろうとする俺。
「はあ? 本だけ借りてさっさと帰るとか失礼だろーが」
そうですよね。本当その通り。でも今は帰らせて。
「サラ様」
「あ~ん?」
あ……ダメなやつだ。
「弟子にしてください」
弟子ぃ?
「お? なんだ急に?」
さすがのサラもフェスと俺達を交互に見る。
「お願いします」
げぇっ……
フェスが土下座した。
……この世界って土下座あるんだ〜。
「今日どうしたんだこいつ。キモいんだけど」
う~ん、ひどい。
「これまでの数々のご無礼、誠に申し訳ごさいませんでした。サラ様という存在の大きさに気づきもせず、失礼な言動ばかりしておりました」
「ははは! そうだぞ、以後気をつけろよ」
「その上でお願いいたします! 何卒!! 弟子にしてください」
「嫌だよ」
言うと思った。
「お願いいたします! 私にできる事なら何でもいたします!」
うわ〜、ここにいたくない。
(では放っておいて帰りますか)
そういえば、居たね。
何、普通にカロピース飲んでゆっくりしてんだよ。
お前は引っ込んでろ。
(引っ込んでましたけど、帰るのならもういいかと思って)
そうだね。
あーっ! ついていけない!
(誰もついて来てなんて言ってないでしょう)
もう、本当黙ってて。
「弟子つったって、なにすんだ? 教えるような事なんもねーぞ」
「いいんです!」
「それ、弟子じゃなくね?」
「お側にいさせて下さい!」
「無理に決まってんだろ」
「お世話させてください!」
「どっちかってーと、お前される側の人間だろ」
「サラ様を見ていたいのです!」
なんか告白みたいになってきたな。
「なんだお前、結局私に惚れたんか?」
「惚れてません!」
惚れてないんだ。
「その感じ惚れてそーだけどな?」
「敬っております!」
「ほほう」
サラが反応した。
「お前、私の事敬っちゃってんだ?」
「はい!」
「ふ〜ん」
満更でもない顔しだしたぞ。
「なんも教えないぞ」
「はい!」
「こっちにいる時くらいしか、側におけねーぞ」
「それでも良いです!」
「へ〜」
なんか考え出してるー。
「本当になんでもすんの?」
「私にできる事ならなんでもします!」
「じゃあよ~……」
あばばばばば……なんという事でしょう。
サラがフェスの顔を『足』で顎クイしてるんですけど!!
フェスが曇りのない目でサラを見ている。
「この足舐めろって言ったら、お前舐められるのか〜?」
めっちゃニヤニヤしてるサラ。
俺は今、何を見せられているんだ……。
「舐められます」
サラと目を合わせながら、サラの足を持つフェス。
ぎゃーーーーっ!! 舌出すな舌出すな!!
(うるさい)
「やめろ馬鹿」
サラがフェスの手から軽く蹴るようにして足を元に戻す。
「汚ねぇだろーが」
「私は本気です」
「分かった分かった。よく分からんけど分かったよ」
「では……」
「師匠って呼べよ」
「はい!」
「いや、おかしいだろ。なんの師匠だよ」
「人生の……かな!」
サラがウインクする。
1mmも決まってないからな。
どこからともなく聞こえてくる拍手。
振り向くと、フェスがうんうん頷きながら拍手していた。
なんなの?
「ではまた次回」




