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本を借りたいだけなのに

「いや~、面倒くさかったわ」


 自室でたくあんぬの袋詰めをしているフェスの背中を見ながら神殿での話をしていた。


「叔父……神官長がそんなにオリに興味を持つとは思いませんでした」


 するど

 そう、本当に興味を持ってるのはツキの事です。


「神官長と一緒にいる人は面白かったけど」


「ルイズさんですか?」


「そそ。面倒くさいけど一周回ってなんか面白かった」


「そうですね。大体の人がそう思っていますよ」


 それはそれでどうなんだろう。


「神官長の信奉者ですから」


「やっぱり? そうだと思った」


「表と裏で相当動いて今の位置にいるようですよ」


「なんか『神官長になら抱かれてもいい』とか言い出しそうな勢いだった」


「普通に言うでしょうね」


「え?」


「むしろ言わないわけないでしょうね」


「え?」


「彼は神官長の為ならなんでもしますから」


「え? 男だよな?」


「ええ」


 そっちの感じ? いや、全然いいんだけど。


「別に男性が好きとかなわけではないですよ。ルイズさんは性に奔放だと聞いていますし」


 どうした急に。


「ん? 性に奔放? 無頓着? 節操がない? ただの運動? 来るもの拒まず? どれでしょうか?」


 知らん。


「興味がなかったので、詳しくは知りませんが」


 俺も知りたくないから大丈夫。


「なんか凄いな」


「何が凄いかよく分かりません」


 童貞の俺には凄いという言葉しか出て来なかった。


「神官長がフェスの叔父さんって事知ってるのか?」


「まさか」


「知らないんだ」


「神官長からもルイズさんには言わないように言われてます」


「なんでだろ? 信用してないわけじゃないんだろ」


「さすがの神官長もそれを知った時のルイズさんがどうなるか予想もつかないようで、言わない方が無難だと判断したようです」


「確かに」


「てかさ、神殿って聖職者だから性に奔放だかなんだかって良いのか?」


「個人の自由でしょう。聖職者せいしょくしゃ生殖行為せいしょくこういをしてはダメという事はないのですし」


 誰が上手い事言えと。


「ふ~ん、そんな感じなんだ」


「そうでなければ、我々はいませんよ。それに魔法使いは遺伝でなる場合が多いので、性におおらかな人が多いのではないでしょうか」


「そういや血筋とか書いてあったもんな。本で読んだ」


「ちゃんと勉強してきたのですね」


「神官長に邪魔されて全然読めなかったけど」


「ははは」


「それで思い出した! フェスなんか本貸してくんない?」


 たくあんぬの袋詰めをしていたフェスが振り向いた。


「なんの本が良いのですか?」


「う~ん、魔法の本とか? この世界の話とかがいいかな?」


「この世界の話?」


「じゃなくて、歴史本とか? なんか実生活で為になる的な」


「料理本は『たくあんぬ本』しか持っていません」


「いや、料理本は見ないから大丈夫。たくあんぬ本も」


「掃除に興味ありませんし」


「それ本当の実生活で為になるやつだね」


「オリが言ったのではないですか」


 そうでした。


「じゃあ、魔法の本」


「魔法の本はありませんよ。神殿に行けばあるものを購入しません」


 そうですね。


「じゃあ、ここにある本は何系なんだ?」


「3分の2はたくあんぬ関連ですね」


「どんだけたくあんぬに夢中だよ」


「冗談です」


「分かり難い」


「語学、薬草学関連が多いですね。読める本が増えますから」


「真面目~」


「はい」


 魔法使いは肯定の速さが尋常ではないな。


「そっか~、じゃあ魔法の本はサラん所にあるか聞いてみるか~」


「!!」


「じゃあ、ありがとな~」


 立ち上がり部屋を出て行こうとしたらフェスに足を捉まれた。


「わぶっ」


 見事にこけた。


「いった……何すんだよフェ……いたたたたっ! 足足足っ!」


 もの凄い力で足を捉まれ続ける。


「あ、失礼しました」


 失礼どころの騒ぎではない。


「おい、足に手跡がついてるんだが」


 ホラー映画かな?


「私も行きます」


「は?」


「私もサラさんの所に一緒に行きます」


「だったら普通にそう言えよ」


「はい」


 すっくと立ちあがり、鏡で前髪チェックをして衣服を整えだすフェス。


「何で急に身なり整えてんの?」


「行きましょう」


 華麗なる無視。


「行くけどさ」


 そういや、サラと何かあったような?

 ……なんだっけ?

 まぁ、何でもいいか。


 ◇


「じゃあ、よろしくツキ」


(なぜフェスがここに?)


 一緒にサラの部屋行きたいってさ。


(また面倒な)


 なにが?


(さすが、激鈍クソ野郎です)


 なんで『クソ』が追加されたんだよ。


(失言でした)


 汚い言葉使いはやめよーね。


(つい事実を思ってしまいました)


 おい。


 ツキがサラの部屋をノックする。


「はいはいは~い♪」


 たぶん普通のノックじゃないんだろう。リリーの時とは違いすぐに反応が返ってきた。


「ツキさ~ん♪」


 サラがツキに抱き着こうとするが、ツキに右手で阻止されている。


 顔を持つのはやめてあげなさい。


「今日はどうしまし……」


 俺とフェスがいる事に気づく。


「今日はどうした~?」


「ちょっと本を貸して貰えないかと……」


「あ~ん? なんで私がお前に本貸さにゃならんのだぁ?」


 俺のおでこがサラのおでこでゴリゴリされる。


 普通に痛い。


「貸して」


 ツキが冷めた顔で言う。


「はいは~い♪ 何が良いかな~♪」


 本当に同一人物か?


「入って入って~♪」


 相変わらず雑然としている。


「足の踏み場もないな」


「あ~ん?」


「座りたい」


 ツキが冷めた顔で言う。


「おっといけな~い♪」


 言うが早いか、サラが指をパチンと鳴らした瞬間、物がなくなった。


「あとテーブルと椅子か」


 指をパチンと鳴らし、素敵なテーブルと椅子が出た。


「どうぞ~♪」


 俺もフェスもぽかんとしてしまう。

 俺達も魔法使いなのに、あまりに鮮やかに魔法を使うので見惚れてしまった。


「さすがにこの格好じゃ合わね~な……」


 またしても指を鳴らした瞬間、髪が整いスウェットから普通の服に着替えたサラがそこにいた。


「なんでパーカーとジーンズなんだよ。そこはワンピースとかだろ。この机と椅子に合ってないだろ」


「あ~ん?」


 またサラのおでこでゴリゴリされた。


「痛って~……」


「座って座って~♪」


 俺の扱いよ。


「なんか飲むか~?」


「俺は紅茶以外ならなんでもいいよ」


 紅茶はトラウマになったようだ。


「そんなもんね~よ!」


「カロピース」


「買ってきま~す!」


 隣の部屋に入ったと思った瞬間、明らかに気配が消えた。


「すぐ戻ってくるんだろうな……」


 サラが出した椅子に座ると、かなり良い椅子なのか凄く体にフィットした。


「おお……いいな」


 ダイニングテーブルの椅子に欲しい。


「フェス、この椅子いいぞ」


 フェスを見たら呆然と突っ立っていた。


「フェス?」


「……」 


「おい、大丈夫か?」


「……はい?」


「顔が真っ赤だぞ」


 目の焦点が合ってないように見える。


(だから面倒だと言ったんです)


「熱でもあるのか?」


「私は大丈夫です」


 大丈夫じゃない事はさすがの俺でも分かる。


(激鈍クソ野郎でも分かるものなのですね)


 そんな事思ってる場合じゃないだろ。


「ではまた次回」

ちょっとそこのコンビニまで買いに行ってます。

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