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神殿の偉い人・再び

 俺は今、猛烈に後悔してる。

 なんで俺は『どうぞ』なんて言ったんだ。


「オリ君って呼んでるけどいいかな?」


「はい?」


「『さん』から『君』に変えちゃった。気づいてた?」


「全然気づいてなかったです。どっちでもいいですし」


「それは良かった」


 おいおい、微笑んでるよ。


「『君』呼びに変えると結構喜ばれるのですが、オリ君はあまり変わらないですね」


 何だそれ。『さん』でも『君』でもどっちでもいいだろ。


「後ろにいるルイズ君なんて、喜んで目からお茶を出してたんですよ」


 ちょっと何言ってるか分かんない。


「何茶なんですかねー」


 全然興味ないけど。


「お茶は何だったかな? 私の為にブレンドしたお茶とか言ってたような」


 茶葉の名前聞いたって分からないから良かったよ。


「えー、凄いですねー。美味しそうだなー」


 目から出すようなお茶に何言ってんだろ俺。


「そうだ! これから私の部屋に飲みに来ませんか?」


 行きません。


「いやぁ、僕なんかには『神官長ブレンド茶』とか勿体ないのでご遠慮させて頂きます」


 神官長が目をぱちくりさせている。


 気を悪くさせちゃったかな?


「いいですね~」


 怖。何か笑ってるぞ。


「やっぱりオリ君は面白いですね」


 う~ん、分からないなぁ。


「そんな事言われてしまったら、余計に来て欲しくなってしまいました」


 面倒くさ。


「えっと、本が読みたくてですね……」


「本は逃げませんよ」


 俺は逃げ出したいよ。


「ささ、行きましょう」


 なんでこんなに強引なんですかね。

 しかしながら、そろそろ視線が痛い。痛すぎる。

 ルイズ君は言わずもがなだけど、周りの目が痛い。

 そりゃそうだよ。この人神官長なんだから。

 神官長が見た事もない少年と椅子並べて話してたら見るよね。俺なら見る。


「はぁ、ではお言葉に甘えて」


 1mmも甘えてないけど。


「良かった! では行きましょう。ルイズ君、部屋へ戻りますよ」


「はいっ」


 うわ~、嬉しそう。

 飼い主が大好きな犬っぽい。しっぽブンブン振ってそう。

 あれが犬に例えられる人間か。初めて見たかも。

 あんなに格好良いのに、なんか可愛く見えて……来ない。

 なぜなら睨まれているから。なんなの? 怖。


「貴様、なぜついてくる」


 貴様って言われた! 貴様って言う人いるんだ! 凄~。


「ルイズ君、私が部屋に誘ったのですよ」


「なっ!!」


 ルイズ君の目が見開いたかと思ったら、俺の方を睨んでくる。


 なぜ俺なんだ。俺が悪いのか。

 あと、人がこっちを見る時に『ギギギ』っていう音を連想させる経験を初めてした。


「ルイズ君のお茶は美味しいですよ~って紹介してたんです」


「ええ、自信あります。アース神官長の為に日々探求しておりますから」


 凄まじい肯定っぷりだ。いっそ清々しい。

 というか、この人。ルイズ君面白いな。

 アース神官長に心酔してるというか、大好きというか。

 ここまで人に気持ちを向けられるのは羨ましい。

 

  ◇


「じゃあ、ルイズ君、お茶お願いね。オリ君の分も」


「はい……」


 嫌そう~。俺にお茶入れるの嫌そう~。


「なんか申し訳ないんですけど」


「大丈夫だよ。ルイズ君は私の言うことならなんでも聞いてくれるから」


 凄い事言うな。


「嫌々して、私に構ってほしいだけですから。可愛いですよね」


 確かに可愛い。あんな見た目で。

 飼い主から可愛がられて良かったな。

 う~ん、我ながらひどい言いぐさだ。


「さてと、ルイズ君がいない間に本題を」


 本題?


「いるよね?」


「はい?」


「君と一緒に来た子」


「え? ゆ、ゆゆゆ幽霊的なのですか?」


「とぼけちゃって」


「?」


「何言ってるか分からないのかな?」


「分からないですね……」


 何言ってるんだろ?


 思わず首を捻ってしまう。


(私の事ですよ)


 え?! お前の事言ってるのか? 見えてるハズないと思って除外してた。

 なんで気づいてるんだ?


(相当やりますね。さすが神官長と言ったところでしょうか)


「この間からいましたよね?」


「何がですか?」


 これがとぼけるという事だ! どや!


「おや……さすがに本気で気配を消されてしまわれては、分かりませんね」


「神官長はさっきから何を言っているんですか?」


 押し通す!!


「ふむ。オリ君は本当に気づいていない。という事でしょうか?」


「気づいていないと言われると、気になりますね! 何を言っているのか分からないので教えてください!」


 どや! 逆に気にしてみるという高等技術よ。


「ふむ。本人が知らないパターンなのでしょうか?」


 神官長が首を捻っている。


 俺も捻り返してやろう。


「な に を し て い る の で す か」


 ルイズ君がお茶のカートを押しながらこちらへやってくる。


「なぜ神官長と首を捻り合っているのですか」


 『首を捻り合っている』なんて初めて聞いたわ。でも助かった。


「ルイズ君、お茶ありがとう」


「はい、すぐに」


 神官長の微笑みとお礼の言葉で正気に戻るルイズ君。


「う~ん、君がとぼけているのか本当に知らないのか分からなかったですね」


「?」


 いつまででもとぼけてやるぜ。そう、俺は演技派。


「今後も機会は沢山あるでしょうし、またお話しましょうね」


 神官長の微笑みが眩し……い、と思ったら凄い勢いで目の前にお茶が置かれ、ルイズ君の体で神官長を隠され見えなくなった。


「ど う ぞ」


 代わりにルイズ君の顔が至近距離にあった。


 近い近い。


 ルイズ君が声を出してないのに『二度と神官長に近づくな』と言われたのが口の動きで分かった。

 俺はいつの間に読唇術ができるようになったのだろうか。


「ありがとう……ございます」


「ルイズ君のお茶は本当においしいですよ」


 ルイズ君がアース神官長に微笑む。


「じゃあ、いただきます」


 お茶飲んで帰ろ。


「まっず」


 俺、紅茶だめだった。


「…………」


 あ……。


「まっずっは! 一口~! わぁ~! 大人の味だな~!」


「貴様っ!」


「はい! ルイズ君~『貴様』はやめようね~」


「しかし!」


「まずは一口なんだよね、オリ君」


 首をブンブン縦に振る。


「しかし神官長!! こいつ!」


 こいつになっちゃった。指差さないで。いや、今のは指差されてもしょうがない。俺が悪い。


「はいはいはいはい。分かりましたよ。落ち着いて~」


 神官長が俺を指差しているルイズ君の手をそっと掴んだ。


 人差し指掴んじゃうんだ。


「私はルイズ君のお茶が大好きですから。ね?」


 神官長がルイズ君の顔に顔を近づけ言っている。


 おーーっ! これがっ! これがキラースマイルというものか!!


「本当ですか?」


「本当本当。これからも期待していますよ」


 わ、笑ってる。さっきまで鬼の形相だった知的眼鏡ルイズ君が嬉しそうに笑っている。

 恐るべし、神官長。


「いつでも期待に応えてみせます」


 ルイズ君がキリっとしたー!


「オリ君。今日はありがとう。また今度お話しましょうね」


「あ、はい」


「『あ、はい』だと?」


 怖い怖い。


「是非、よろしくお願いします」


 『次はない』とルイズ君から声もなく言われた。


 俺もそう祈ってるよ。


(ではまた次回)

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