俺の属性
「こんにちは、オリさん」
「こんにちはバーバラさん」
「初めていらっしゃった以来ですね。お忙しかったですか?」
「駆け出し冒険者なので、依頼をこなしてたら全然来れなくて」
本当は足が向かなかっただけだけど。
「そういえば、オリさんは冒険者でしたね」
「はい」
「魔法使いで冒険者になる方はなかなかいないので、新鮮です」
「じゃあ、フェスとか珍しいんですね」
「そうですね。フェスさんはかなり珍しいですね。まさか冒険者になるとは誰も思っていませんでした」
「へ~」
まぁ、そうか。完全に冒険者やってる顔じゃないよな。
「オリさん、せっかく魔法が使えるようになったのなら、魔法を覚えてからの方が良いのではないですか?」
「そこは自主練でなんとかしてます」
「自主練ですか?」
「モンスター相手にあーでもない、こーでもないって魔法ぶつけてます」
「それはそれで良いかもしれませんね」
バーバラさんがくすくす笑っている。
ん、良い。素敵な笑顔。
「本日はどうされましたか?」
「今日は図書館で本を読ませてもらおうと思って」
「ご利用は初めてですよね?」
「はい。この間は見学だけだったので」
「では、ご案内しますね」
「場所覚えてるんで大丈夫ですよ」
「いえ、ご利用前に調べておく事がありまして」
調べる?
「難しい事ではありませんから、ご安心ください」
「はい……」
何だろ?
「では参りましょう」
◇
「こちらの部屋へお入りください」
相変わらず、図書館はクリスタルクリスタルしている。
そしてクリスタルの階段の下にあるドアから、図書館の一室に案内される。
クリスタルの階段下にある部屋は、図書館とは違い落ち着いた雰囲気の事務室だった。
お~、こっちの方が図書館って感じするな。
重厚な椅子に落ち着いた木の本棚。木彫りのキラーベアー。
……木彫りて……前世の田舎の土産物屋とかで見たことがある感じだ。
誰が買うんだよっていう……鮭は咥えてない。
このクリスタルしてる神殿で木彫りのキラーベアーなんて誰の趣味だ?
「可愛いですよね」
「え?」
「木彫りのキラーベアー」
バーバラさんの趣味?
「バーバラさん、こういうのがお好きなんですか?」
「全然」
「え?」
「言ってみただけです。熱心に見てたので」
そしてくすくすと笑う。
うん、しょーもない会話だったけど良い。可愛いから良い。
「さて、と。オリさんお掛けになってお待ちくださいね。ちょっと準備しますので」
「あ、はい」
立派なソファに浅く腰掛ける俺。
深く腰掛けられるほど、余裕のある男ではない。
ついキョロキョロしてしまう。12畳くらいの部屋だから、ついつい隅々まで見てしまう。
お~、ペンが格好良い。つけペンだ。たまりませんなぁ。ああいうの好きなんだよな~。カリカリ鳴らしたいぜ。
「ないわね……」
俺がペンに気を取られていると、バーバラさんの声が聞こえた。
すると、お尻が目に入った。
なぜお尻が?!
バーバラさんが何かを探しているのか、四つん這いになっている。
お尻をこちらに向けてだ。下が絨毯だからと油断しているのだろう。お尻と一緒にタイトなスカートのスリットからわずかに覗く太ももがまた……。
ダメだ! 見てはいけない。そう、木彫りのキラーベアーを見るのだ。
木彫りのキラーベアーは子連れではない。うん。
たまに子連れの置いてあったよなぁ。
結構高いんだよなぁ、木彫りの置物って……。
「ん~……?」
つい、声がする方へ目をやってしまう。
なぜお尻を振っている! ……なんの試練だ!
木彫り木彫り……。親キラーベアーはお母さんなのか、お父さんなのか……。
バーバラさんが奥の方に置いてあるっぽい何かを取ろうと苦戦しているようだ。
「この辺りにあるの前に見たんだけど……」
あ、足あげちゃダメだよ……
あ~、俺の頭が下の方へ行ってしまう……
「あった、あった!」
誘惑に負けそうになっていた俺は、一瞬で背筋を伸ばした。
なんということでしょう、お尻が俺の方へ向かってくる。いや、正確には向かってきてはいない。お目当ての物を見つけたようで、後ろに下がっていただけだ。
でも俺の目にはお尻しか見えない。
ん、綺麗なラインだ。
「バカヤロウ!」
「え?! どうしました?」
「いえ、なんでもないです。叱咤激励してました」
「……?」
バーバラさんが『何言ってんだこの人』という顔をしている。
いや、あなたのせいですよ。ありがとうございました。今日は良い事がありそうだ。
「お待たせしました。この部屋で属性を見る事がほとんどないので、奥の方にしまいこまれていました」
バーバラさんが膝についた埃を払う動きをする。ちなみに全然汚れてないけど、気分の問題なんだろう。
「属性?」
「はい。子供の時に魔法使いだと分かるので、教室で属性を調べるんですよ」
「属性調べるんですか?」
「ええ、属性を知っておけば、本を選ぶ助けになりますよ」
「はぁ……」
「火属性の適性しかないのに、風属性の本読んでてもしょうがないですからね」
「なるほど」
「では調べましょうか」
「え?」
「魔力を流すだけなので、痛くもなんともありませんからご安心ください」
「え?」
「?」
バーバラさんが不思議そうな顔をしている。
「あ……すみません、ちょっと待ってくださいね」
俺って確か全属性持ってるとか言われてたよな。
どうしよう。これ調べて良いものなのか?
(あなた次第ですね)
あれ? そういえばお前、何か静かだったな。
(くだらならい会話が聞こえてきたので、放置してました)
ひどい。楽しそうだっただろうが。
(私には理解できない、実りのない会話です)
あっそ。俺には実りありました。
(あなたにはお尻があっただけでしょう)
へへ、お尻が実ってたな。
(気持ち悪いおっさんが出てますよ)
誰がおっさんだよ。まぁ、おっさんだった時もあるからな。
(そんな事はどうでもいいです)
おっと話しが反れてしまった。
(あなたが全属性持ちだと知られてもいいならそのまま調べれば良いですし、嫌なのであれば私が制御しますよ)
そんな事できるのか?
(私は何でもできますよ)
毎度の事ながら本当に何でもできそう。
(どうしますか?)
本当に俺が決めていいの?
(あなたの事はあなた以外の誰にも決められません)
そっか。
じゃあ……属性は見られてもいいや。
(ほほう。それはなぜですか?)
色んな魔法したいから、こそこそしたくないし。
使ってるところ、見られたら終わりだし。
何より……。
(何より?)
全属性持ちはチートみたいで格好良いからバレたい!! 一目置かれたい! という欲求からです。はい。ダメかな?
(あなたらしくて良いのではないですか?)
じゃあ、見てて。
バーバラさんの反応も楽しみだぜ。
「よし! 気持ちの整理がつきました! バーバラさんお願いします!」
「では心を落ち着かせて、ありのままのオリさんの魔力を流しましょう」
ふ~……緊張する。
(ではまた次回)




