ダンジョンの管理人
「だからぁ、ダンジョンの管理人ってのはだな、ダンジョンを利用する冒険者が快適に冒険できるように、トラップとかちゃんと動くか点検したりとか掃除したりとかをするわけよ」
本当かよ。
(嘘ですよ)
嘘かよ。
「信じられません……」
「だろうな~。私すごいからな〜」
「あの片付いてない部屋の住人がダンジョンの管理などできるのでしょうか」
全くもってその通りだ。
「んだとこらぁ」
「ダンジョンの隠された部屋に住んでたんだから、きっと本当だよ!」
リリーの目が輝いている。
「そそ、本当本当」
(嘘ですよ)
分かったよ。
「では、なぜそんな事をしているのですか」
「それはな……それは私の使命なんだ」
あ、キリッってしてる。
(嘘ですよ)
もう分かったって。
「すごいね~」
「他のダンジョンにも管理人いるんですか?!」
「いないよ。この世界のダンジョンは全部私の管理下にあるから」
何ぃ?!
(本当です)
それは嘘であって欲しかったよ。
「それこそ信じられません」
「なんでだよ」
「この世界にいったいどれだけのダンジョンがあると思っているのですか」
「数はさすがに覚えてないな」
「そんな事を言っているのではありません」
「どれだけって言ったじゃねーかよ」
「そんな事は不可能です」
「それを可能にするのが私なんだよな~。敬えよ」
「ありえない」
「お前さ、この世界に不思議はいっぱいあるんだぜ。視野を広くもてよ」
「すごいすごい!」
「こういうのが大事なんだぞ。順応力」
「あなたは一体何者なのですか」
「だから管理人だって」
「真面目に答えてください」
「面倒くさい奴だな、お前。せっかく話しに付き合ってやってんのにギャーギャーと。お前もう嫌。あっち行ってくれ」
フェスは腸が煮えくり返った顔をしている。
綺麗な顔が怒ると本当に怖い。
「かわいこちゃんはこっちおいで」
俺たちの部屋のベッドにふんぞり返って座っていたサラが、自分の左側をポンポンして隣に座るよう促す。
リリーがサラに近寄ると、早業でリリーの肩を抱いた。
「君の名前教えてくれる?」
「あ、リリー・スフィナです」
「可愛い名前だね」
「ありがとうございます」
「そんな堅苦しい話し方やめてさ。他の奴らと話してるみたいに気安く話してよ」
「いいんですか?」
「もちろん」
なんかホストみたいだな。
「お前もこっち来いよ」
「俺~?」
「そうそう」
ベッドをポンポンしてライを自分の右側に来るよう促す。
ライがサラに近寄ると、これまた早業でライの肩を抱く。
「お前、名前は?」
ライには耳元でささやいている。
「っ!! えっと、ライ・クリスタルです」
「ふ~ん。普通だな」
「あの、耳元で話すのやめてもらえませんか」
「なんだよ、耳が弱いのか? お前も可愛いな」
近い近い近い。
お耳とお口がそのままじゃ、くっついちゃうよ!
「っっ!!」
うわっ! ライの耳舐めやがった。
なんか急に展開変わってんだけど。
「っっっ!!」
噛んでる噛んでる、あいつライの耳噛んでるよ!!
俺には刺激が強すぎるって!
「あはははは! 顔真っ赤だぞ~、ライ君~」
皆、目をひんむいている。
ライは両手で顔を隠している。
あんなライを見る日が来るとは。
……耳弱いんだな。
違う! そうじゃない! 怒涛の展開すぎる。
どうしよう、俺もあれやられちゃうのか?!
対応できる自信がない。
リリーとライを両腕で抱きながら、フェスを見るサラ。
完全に見下している。
「なんっというふしだらな」
もはや怒りすぎて、わなわなと震えている。
「お前にはやんないからいいだろ」
睨み合っている。
「そこのお前にもやんないから安心しろ」
「え?」
なぜ俺はちょっとガッカリしているんだろう。
「じゃあ、部屋割り決まったな。
私とリリーとライ。そしてツキさんの4人な」
「許容できません」
「お前の意見なんか聞いてない」
相変わらず睨み合う二人。
「嫌」
「え、なんですかツキさん?
間違えた……何がだよ?」
「一緒の部屋、嫌」
俺以外の3人が驚いた顔をしている。
「ど、どうしてですか?!
ああ、違う。どうしてだよ!」
急に泣きそうな顔になる。
情緒不安定かよ。
プイっと無視するツキ。
お強い。
「どうすればいいんですか。あじゃじゃ……何がご希望なんだよ」
「帰って」
「ええ……」
薄目で睨むツキ。
「はい……帰ります。ああ、私帰るわ」
きょとんとする俺達4人。
サラは部屋を出て行こうとするが、1歩進むたび振り返り、ツキの顔色を伺う。
ツキに念話で何か言われたのか、やっと観念したようだ。
「また会おうな~」
遠慮しておきます。
そして、静かにドアは閉まったのだった――――
「何だったの?!」
「無っ茶苦茶だったな!」
「ツキちゃん、凄すぎ~。最強だったね~」
事実、最強だからね。
「でも危ないから、これからはあんなこと言っちゃダメよ」
コクリ。
「なにはともあれ、帰ってよかったな」
「ほんとほんと」
「私はもう休みます」
「フェス?」
さっさと出ていくフェス。
「俺も……」
「ちょっと、ライ大丈夫?」
うなだれながら出ていくライ。
フェスとライを見送りながらリリーと目を合わせた。
「私、今日こっちの部屋で寝ていい?」
「そうだな、そっとしておこう」
特にライ。
あれは他人事ながら気の毒だった。
うらやましいなんて思ってないぞ。
人前であれはキツイ。
共感羞恥がすごい。
◆
「ポリポリポリポリ、ポリポリポリポリ、ポリポリポリポリ―― 」
なんなのですか、あの女性は。
こんなに腹が立ったことはありません。
とっておきのたくあんぬなのに味がしないではないですか。
「ポリポリポリポリ、ポリポリポリポリ、ポリポリポリポリ―― 」
当たり前の疑問を投げかけただけで、あのような。
私に対する嫌がらせです。屈辱。そして破廉恥な。
女性が男性の耳を舐めたり、噛んだりするとは!!
目撃した事すら忌まわしい。
「ポリポリポリポリ、ポリポリポリポリ、ポリポリポリポ―― 」
ない!! あんなに持ってきた、たくあんぬがもうない!!
明日から何を食せば良いのですか!!
……そういえば、たくあんぬ屋があると言っていましたね。
あの女性のせいで、勿体ない食べ方をしました。
たくあんぬに罪はないのに。
しかし、たくあんぬのおかげで落ち着きました。
ありがとう、たくあんぬ。やはり私にはたくあんぬしかありません。
「フェス、咀嚼音がうるさいんだけど」
「もうなくなりましたから安心してください。ライ、ちゃんと耳は洗いましたか?」
「その話やめて……もう寝るから話しかけないでくれ」
「失礼しました」
「おやすみ~……」
「おやすみなさい」
((今日は夢見が悪そうだ))
◇
「今日は凄い一日だったね!」
コクリ。
「オリもせっかく初ダンジョンだったのにさ」
本当、台無しだよ。俺の初ダンジョン返せよ。
「元はと言えば、俺が余計な事言ったせいだからしゃーないな」
(私のせいですね)
お前のせーじゃねーだろ。俺が判断したんだし。
「まぁ、ダンジョンは逃げないし。また来ような」
「そうね! また一緒に来よう! それに明日は湖だしね!」
忘れてた! そうだ! 俺には湖があった!
「だな! 気を取り直して、明日は楽しもう~」
「おー!!」
珍しくツキも手を上げてくれていた。
せっかくだから声も出そうよ。
「ではまた次回」
ライは犠牲になったのだ。
人によってはご褒美かもしれませんが……




