異世界で二度寝
その湖は神秘的な色をした真っ青な湖面。
空の雲、渡る鳥さえ映しだす。
震える俺。
「やばい、緊張してきた」
「さっさと見れば楽になりますよ」
「ちょ、ちょっと小石投げて良い?」
ぽちゃん。
広がる波紋、鏡ではない湖面。
「ふ~……やるか」
腰を落とし、集中!
サイドスローで石に回転をかけ!
水面すれすれに石を投げる!
跳ねる石!
「1っ2っ3っ4っ5ぉろくぅ……
あー……6回かぁ」
はっ……思わず水切りをしてしまった。
振り返ると、突風を背に受けた、少女が仁王立ちしていた。
「怖っ」
早く見よう!!
俺が水切りをしたせいで、わずかに揺れている水面を覗く。
そこには15歳前後の少年がいた。
「……こ、これが俺?!」
「そうです」
「お、俺じゃないか!」
「そうです」
「15歳前後の俺だ!」
「そうです」
「イケメン、いや、カッコイイ顔じゃないぞ?
馴染みのありすぎる15歳くらいの時の俺だ!」
「そのようですね」
「なんで?! 凄い普通の顔なんですけど」
「あなたナルシストですからね」
は?
「自分の事大好きじゃないですか。
もれなく顔も好きなんでしょう」
はぁぁ? 俺がなんだって?
「自分の事大好きじゃないですか。
もれなく顔も好きなんでしょう」
聞こえてるよ!
せっかく望みがなんでも叶うのに、顔は前のままなのか……
「望みがなんでも叶うとは誰も言ってませんよ。念のため」
あ、そうか。
「なんか顔は変わるもんだと勝手に思ってたから、拍子抜けだな」
よくあるのはイケメンだったり、美少女だったり。
太ってたのに、ムッキムキのスタイル抜群になってたり。
平らだった胸がぽよよ~んと豊満なナイスバディになってたり。
ちなみに、俺は手から溢れ出るような豊満な胸はあまり興味はないかな。
とはいいつつ、どんな胸でも好きになった人の胸を好きになるんだろうな。
「それにしても普通の顔だな~」
顔を横にしたり、睨んだり、笑ったりしてみる。
若いな。15歳か?
「16歳ですよ。私も同じく16歳です」
へ~。16歳か。
思春期まっさかりだな。
青春を謳歌したかったのかな俺。
恥ずかしくて女子と話せなかったもんな。
いや、思春期過ぎても話せなかったわ。切な。
「さて、0歳スタートではないのでおさらいが必要ですね」
おさらい?
「前世の記憶が戻りましたので、転生してからの記憶がない状態です」
ほぉ。
「なので、おさらいする必要があります。ささ、寝ましょうか」
寝る?
「睡眠学習のようなものですね」
睡眠学習?
「何日か寝れば、記憶の融合がされていると思います」
それは目が覚める前にやっておいてよ。
「なにぶん本体がポンコツなもので、すみません」
この場合のポンコツは俺なのでは?
「あちらに小屋がありますので、寝てきてください」
え~……冒険は?
「後でいくらでも出来ますから」
寝れそうにないんだけど。
「ふっ……子守歌でも必要ですか?」
うん。
「早く寝に行ってください」
すみません。甘えてました。
「ツキは一緒に寝ないのか?」
「は?」
「あ、違っ! ツキは寝ないのか?」
「私はポンコツではないので大丈夫です」
やっぱり、ポンコツって俺のことだったのか。
◇
ぼろっぼろの小屋に到着。
ギィィィ……ガコッ。
戸が外れてしまった。
小屋の中は真っ暗だ。
入りたくないが、入るしかない。
「ぶほっ……ごほっ……ほこりぃ」
ここで寝ろと。
埃でまみれている。
埃でまみれまくっている。
寝ている間に鼻にほこりがつまって永遠の眠りにつきそうだ。
「本当にこんなところで寝ろと?」
ツキさんは鬼かな。
お澄まししてる顔をたまにひん剥いてるからそうかもな。
顔芸もできるのは強いな。
ぷっ! あの顔思い出すとなかなかクセになるな。
「何をしてるかと思ったら悪口ですか」
ぷっ……! その顔。
「口には出してないから、悪口じゃないし、むしろ褒めてたし」
ぷっ……! その顔。
「……何でもいいですが、こちらの小屋ではないですよ」
「え? そうなの?」
「あちらの小屋です」
ツキが指した方を見る。
「どこが小屋だよ!」
そこには神殿みたいな建物があった。
「さっきまでなかったし!」
「今、出したので」
なんなの?
「ふっ……少し揶揄っただけですよ」
◇
あからさまな神殿に到着。
これが美しいという事か。
語彙力がない自分に絶望する。
埃ひとつない。
床は綺麗すぎて、スカートをはいていたら見えてしまう。
思わず、ツキを確認してしまう。
鬼の形相だ。
ツキはスカートじゃなかったから大丈夫だった。
俺も大丈夫だった。
神殿を進むと寝台みたいなのがあった。
「ここで寝るのか、痛そうだな」
「それはテーブルなので、寝ないでください」
そうでしたか。
神殿の家具なんて分かんないよ。
「あちらにベッドがありますので、ゆっくり寝てきてください」
「ちゃんと目覚めるかな?」
ツキがにやりと笑う。悪い顔だ。
「微笑みです」
起きたばかりだから、寝たくないな。嫌な二度寝だ。
「起きたら楽しい異世界がはじまりますよ」
「本当かよ」
「あなた次第ですね」
「寝てくるわ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
パタン。
「ではまた次回」