サラ・ノエル
「ダンジョンの一画とばかり思っておりました。あなた様のお部屋と存じ上げていれば入室などしなかったのですが、知らなかったとはいえ大変申し訳ございませんでした。すぐにお暇いたします」
「お前らどこのダンジョンから来たんだ?」
なんで自分のいるダンジョン知らないんだよ。
「ソパールダンジョンです」
ちゃんと答えて偉いなリリー。
俺なら、何言ってんのか聞いちゃうな。
「ソパール〜? あそこだと、ここの入口隠してたハズだけど……何で分かった?」
「それは……」
皆して俺を見て来る。
俺を見るな。
まぁ、俺が言ったんだけど。
「あ~、俺が……なんとなく見つけまして」
「やるね~。あんなん見つけるとは」
実際はツキが見つけたんだけど。
「そっすかね……ははは」
「で、開けたのもお前か?」
「いや、それは」
みんなして、フェスを見る。
「私が開けました」
「ふ~ん。よく開け方分かったな」
「知っている扉と似ていたので」
「なるほど、そっち系ね」
どっち系だよ。
「よし分かった! じゃあ行くか!」
どこへ?
全員、同じ疑問を抱いたのが分かる。
珍しくツキもだ。
「これも、何かの縁だからな」
「はぁ……」
自分でも間抜けな声を出したと思う。
◇
俺たちは宿屋に戻ってきていた。
なぜか、スウェットの人も一緒に。
ソパールダンジョンは10階まであるというのに、3階で帰って来るハメになるとは……。
ダンジョンで入手したアイテムも売れてないし。
まぁ、それはアイテムボックスにあるからいいんだけど。
あんな隠し部屋行くんじゃなかった。
「ソパール久々に来たわ〜。なんか前より賑わってるな」
俺の心とは裏腹になにやら楽しそうにしているスウェットの人。
「で? 私の部屋どこ?」
お前の部屋はダンジョンだろうが。
「ソパールダンジョンですよね?」
リリーは毎度ちゃんと答えて偉いな〜。
「はぁ? 泊まりに来てんだろーが」
「こちらの宿は既に満室のようなので、他を探されるしかないかと」
「気ぃ使うなよ。いいよお前らと同じ部屋で」
使ってねーよ。
「おほほ、しばしお待ちを」
リリーが皆を手招きする。
「あれどーすんの? なんで付いて来てるの?」
「知らないよ~」
「帰ってくんないかな?」
「じゃあ、オリがそう言ってよ」
「無理。なんかヤバそうだから」
「私も同感です。確実に只者ではありません。刺激しないほうが無難です」
「それはなんとなく分かるから、扱いに困ってんのよね」
「だね~」
「何やってんだよ」
「おほほ、部屋割り考えてまして」
「早くしろよ」
「思ったのですが……」
「何々? 何か良い案ある?」
「とにもかくにも、どなたなのか聞いた方が良いかと」
「それだ!」「それよ!」「だね~」
「誰が聞く~?」
「そりゃ言い出しっぺでしょ」
「お願いします」
「構いませんが……」
「まだか~?」
みんな一斉にスウェットの人に向き直る。
「お? 決まったか?」
「いえ、決まっていません」
「何してんだよ!」
「私の名前はフェス・ティバールと言います」
「そりゃまた楽しそうな名前で」
「失礼ですが、あなた様のお名前を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はぁ~? 名前だあ~?」
「はい」
「ねーよ」
「?」
「お前らに教える名前は……ね え の!」
「教えて頂けない……と」
「じゃなくて、名前とかない…むぐっ」
「???」
またしてもスウェットの人の口が勝手に閉じた。
ツキを見てみると、お得意の薄目。
完全に目で会話してる二人。
……いや、念話してるなこれは。
ツキにコクコクとうなずいている。
「ぶはっ! はぁ、はぁ……。
名前な、名前は、あ~……あるよ!
お前らに教える名前な! あるある!
……何がいいかなぁ……ちょっと待ってな」
うんうん唸っている、スウェットの人。
困惑する俺達。
なんなんだ一体。
(後輩には名前がありません)
はっ?
(何か良い名前を考えてやってください。
本人も考えているようですが、思いつかないようなので)
なんだそれ。
(私と同じタイプの人間なので)
は~? んじゃ『サラ・ノエル』
(なぜ『サラ・ノエル』)
超適当。
(分かりました)
なぜかツキが嬉しそうな顔をしている。
早速、スウェットの人に念話で伝えているようだ。
「お待たせお待たせ!
私の名前は『サラ・ノエル』ってんだ」
「サラ・ノエルさん……ですか」
「なんだよ」
「いえ、良い名ですね」
「え、そ~お? やっぱ先輩が考えたのはいいんだな~」
嬉しそうにしてるけど、考えたの俺だけどな。
「では、サラさん……とお呼びしても良いでしょうか?」
「おう! いいぞ!」
「サラさんは誰なのでしょう?」
「サラだけど?」
「聞き方が悪かったようです。サラさんは何者なのでしょうか?」
「あ?」
サラの目が据わる。
怖。
対して、フェスは動じずキリッとしている。
おお~。負けてないな。
「私が何者か知りてぇの?」
「でなければ、同じ部屋に泊まるなど論外です」
本当は何者か知ったぐらいで同じ部屋になんか泊まれないけどね。
「ふむ。なるほどね」
いちいち目が怖い。いや、目つきが悪い。
ずっと思ってたけど、完全にヤンキーだ。
「ぷっ……」
「ツキちゃん!」
ツキの口を抑えるリリー。
リリーは優しいなぁ。
「そうだな~。何者かか~。どこまで言って良いのかね~」
ちらちらとツキを見るサラ。
アイコンタクトをしているから、たぶん念話してる二人。
「よっしゃ! じゃあ教えてやろう。耳の穴かっぽじって聞けよ。あと今から言う事は内緒な。いいか?」
ごくり。
「大丈夫ですよね? 皆さん」
全員が頷く。
「私はなぁ、ダンジョンの管理人だ」
………
「管理人……ですか?」
「そう、お前らが当たり前のように、土足で入って来るダンジョンの管理人をしてるのが私だ。敬えよ」
「その様な存在は聞いた事がありませんが」
「今、初めて言ったからな。内緒だぞ。誰かに言ったら……どうしようかな……そうだな、もう生まれてこないようにしちゃうぞ! あはは! どうだ! 怖ぇだろ!」
「生まれてこないように? ですか?」
皆、サラが何を言っているか分からないといった顔で困惑している。
俺には分かる。とんでもなく恐ろしいことを言っている。殺される方がマシだ。どんな生き物になろうとも、また転生するんだから。生まれてこないようにするって事は、もう転生もできないって事だ。その者にとって全ての終わりだ。
「ははは! 冗談だよ、冗談! マジな顔すんなよ~。私にそんな力はないから安心しろよ! まぁ、3回殺すぐらいにしておいてやるよ」
「口外しないので大丈夫です」
皆して頷きあう。
「よしよし、じゃあ管理人の何たるかを教えてやろう」
「ではまた次回」




