ソパールダンジョン 3F(秘密の部屋)
扉を開けると――――
暗闇からうって変わって、その部屋は明るかった。
急な変化に目が追いついていかない。
眩しさに慣れた頃、その部屋を見ることができた。
誰も知らないであろう、その場所。
そこは、やけに生活感のある部屋だった。
「誰かの家かよ」
思わず出た第一声。
「何ここ?」
「私たちは秘密の部屋に入ったのでは……?」
「誰か住んでそ~」
スパンッ!
軽快な音に振り向くと、片引き戸を足で開ける人がいた。
「何だお前ら」
右手に飲み物、左手にはピーザを持っている。
「…………」
固唾をのむ俺達。
「誰だよ。人ん家勝手に入ってきやがって」
「あ……すみません」
流れるように謝ってしまう。
「すみませんじゃねーよ。せめてノックくらいしろ」
「申し訳ないです。私が開けました。暗かったもので、ドアだとは思ったのですが配慮が足らず……」
「あ? 電気ついてなかった?」
電気ないよな、この世界。
「じゃあ、しゃーないか。以後気をつけろよ」
「「「「はい……」」」」
全員で顔を見合わす。もちろんツキ以外。
「まぁ、いいや出てってくれ。これからご飯だから」
「ご飯……」
リリーが呆然としながら、つぶやく。
「やらないぞ」
思わぬ展開に思考停止していたが、ようやく頭が働き出す。
目の前のこの人、どう見てもスウェット着てる。
この世界にスウェットなんてない。どうなってんだ。
そして髪ボッサボサ。
声からして、女の人……だよな。
背も160cmくらいだし、何より胸の膨らみがあるし。
顔は中性的だけど普通の顔。
特別綺麗でもなんでもない。
「ぷっ……」
この状況で何笑ってんだよ。
リリーが慌てて、ツキの口を抑える。
「おい、誰だ今笑ったの。何が可笑しいんだよ」
ほらみろ。怒らせた。
ツキがスウェットの人と目を合わせる。
「うわっ?! 何してんすか?!!」
なんですと?
「お久しぶりっす! 先パ……むぐっ」
ボサボサ頭の人の口が勝手に閉じたように見えた。
ツキを見ると、お得意の薄目でスウェットの人を見ていた。
何をしているか分からないが、口を閉じたままスウェットの人はコクコクと首を縦に振っている。
「ぷはっ。あービックリした」
「あの、どうかしましたか?」
果敢にもリリーがスウェットの人に声をかける。
「別に。あ、ご飯食べるか? ダンジョン上がってきて腹減ってんだろ。丁度ピーザできたから、一緒に食おうぜ。飲み物、何飲む?」
なぜか急に態度を変えてきた。
またしても、全員で顔を見合わす。ツキ以外ね。
「早く座れよ。せっかく誘ってんだからよ」
「あ、はい」
「テーブルがないな。絨毯あるから、まぁいいよな。で、何飲むんだよ」
「何でもいいです」
珍しくライがちゃんと話してる。
さすがにいつものようには話さない。
いや、話せないが正しいな。
「OK~、じゃあ適当に持ってくるから楽にしてて。その辺の本読んでていーぞ」
スウェットの人が出て行った瞬間に身を寄せ合う俺達。
「なになになに? 何が起こってんの? 私達、知らない内に人様のお宅に来ちゃったの? ここ、ダンジョンじゃないの?」
「分からないよ~」
「逃げるしかないだろ」
「あの感じだと、逃げるとお怒りになりそうですが」
「じゃあ、ピーザ食べて平和においとまする?!」
「何が正解か分からないよな〜」
態度が軟化したのは、確実にツキがなんかしたんだろう。
「ツキ、どうする?」
さっきのアレは何なんだよ。
(知り合いでした)
知り合い?
(後輩です)
後輩て。
(あまりに態度がひどいので説教しました。ピーザも飲み物も貰って問題ありません)
「食べる」
「ツキちゃん、心臓強いね~」
「ツキちゃんたくましー。私達もビビッてらんないね。本読んでいいって言ってたから見てみよっか」
リリーも十分心臓強いよ。
「そうだね~」
「見た事のない装丁ですね。文字も読めません。こちらの本もです」
「フェスでも読めない文字とかあるんだ」
「どれどれ」
日本語じゃねーか。英語もある。
こっちの本はよく分からないけど。
壁にも、京都のペナントとか飾ってある。
他にもどこかの異国っぽいものが飾ってある。
(全て異世界産ですね)
なにぃ?!
(異世界品の収集が趣味のようです)
スパンッ。
またしても、片引き戸を足で開けた。
両手でお盆を持ってるから足で開けてるんだろうけど、お行儀が悪い。良い子は真似しちゃダメなヤツだな。
「お待ち~。お前ら絶対飲んだことないヤツ持ってきてやったぞ~」
コップの中の飲み物は光っていた。
「これ、飲めるんですか……?」
「体にもいいぞ」
本当かよ。
「とりあえず、乾杯すっか。遠慮すんな。はい、コップ手に持って~」
おずおずとコップを手にとる俺達。
「今日の出会いに! かんぱ~い」
「かんぱ~……い」
スウェットの人が喉を鳴らして、光る液体を飲んでいた。
またしても、全員で顔を見合わす。ツキ以外ね。
これは意を決して飲むしかない!
「ぷはっ!」
飲んでやったぜ。味なんかない。
成し遂げた気持ちで皆を見ると、手に持ったままで誰も飲んでなかった。
「飲んでないんかーい!」
「あはははは! 良い飲みっぷりだ! お前面白いな! お前らは面白くない! なんで飲まねーんだよ」
「今、喉乾いてなくて。あは」
「そ、そうそう。美味しそうなんだけどな~。残念だな~」
「胃が光そうで飲めません」
フェスも心が強いな。
「あっそ。まぁいいけど。で、お前ら人ん家来て何してんの?」
そうでした。
「ではまた次回」




