どちらを先に行くべきか
● 冒険者ランク表 ●
ランク10~14 スチールカード ※スターライト
ランク 3~ 9 アイアンカード ※オリ&ツキ
ランク 1~ 2 厚紙カード ※済
【目指せ最高ランク、次は君だ!】
「う~ん……う~ん……」
「早く用を足しに行ってください」
そっちじゃない。
「あなたは本当にうんうん言うのが好きですね」
「うん」
「……」
「どっちを先に行こう?」
「大か小かなんて私に聞かないでください。自然に出る方でいいのではないですか?」
だからそっちじゃない。
「そっちってなんですか」
「尿でも便でもない」
「最低ですね。お食事中の人がいたらどうするんですか」
俺を排泄物を見る様な目で見るんじゃない。
あと、お食事中だったらごめんなさい。
って、この会話を聞ける人いたら、ここの壁薄すぎだろ。
「この世界にカレーがなくて良かったですね」
やめろやめろ。
……カレーないの?
「知りませんけど」
知らんのかい。
「しょーもない話さすなよ」
「あなたが紛らわしい事を言うからですよ」
「ダンジョンか水遊びどっち先に行く?」
「どちらでもいいですよ」
「皆そう言う!」
「優しいではないですか、選ばせてくれるなんて」
「そうなんだよ。本当いい奴らだよな」
「では、さっさと決めてくださいよ。リリーがしおりを作りたがっていますよ。あなたが決めない限りしおりが作れません」
「分かってるよ。だから焦ってるんじゃないか」
「ではダンジョンからでいいではないですか。楽しい事が後にあると思えば、やる気になるのでは?」
「俺、最初に楽しい事やりたい派」
「では水遊びからで決まったではないですか」
「でも水遊びで疲れた後にダンジョン行ったらやばくないか?」
「本当に面倒くさい人ですね」
イライラしてる?
「これがイライラして見えないなら、あなたの世界は平和ですね」
ありがたい事に、前の世界は平和だったな~。
穏やかすぎともいうか……
人間関係が希薄だったから、揉める事とかも無縁だったし。
それが良いのか悪いのか。
「いい加減にしてください。また関係ない事を考えていますよ。焦っていたのではないのですか」
いかんいかん。とはいっても、こういう関係ない事を考える時間も人生には有意義なもんだよ。
「ひとりでやってください」
すみませんでした。
寂しいこと言うなよ……。
「よし分かった!! 先にダンジョンへ行く事にする! やっぱり次に何かあると思うと遊びに集中できないからな!」
「やっと決まりましたか」
「リリーたちに伝えに行こ!」
「どうぞどうぞ」
「一緒に行くんだよ! リリーが一緒にしおり作ろって言ってただろ!」
「……そうでした」
◇
「その初心者用ダンジョンってどんな所なんだ?」
「アイアンくらいが行って丁度いいダンジョンね」
「スターライトはスチールだけどいいのか? 物足りなくないか?」
「いいよ~。初心者用だけどアイアンしかダメとかないし~。その辺りの制限はダンジョンにはないから。オリ達が初ダンジョンなら後ろで見てるし」
「それはそれでなんか恥ずかしいよな~。ツキもそう思うだろ」
首を振るツキ。
そりゃあなたはね。
心臓に毛が生えてるでしょうから、何にも動じないんでしょうね。
……待てよ。オリ&ツキの戦闘を見られるという事はツキが普段何もしてない事がバレてしまう!
ど、どどど、どうするんだ?!
(適当にやりますから大丈夫ですよ)
チュンッ! とかやったりしない?
(魔法を使えない設定なんですからするわけないでしょう)
そうか。普段何もしてないから想像つかなくて。
(いつもサボってるみたいに言うのやめていただけますか)
あれサボってるって言わないのか。
(二度と何も教えませんからね)
すみませんでした。
(ダガーを購入して頂いたので、それで戦いますよ)
おお、そうだったな。楽しみだ。
「オリ~? ツキちゃ~ん?
どした~? 見つめあっちゃって~」
おっと、いけない。
「いやぁ、ツキがライに見守って貰えて嬉しそうだな~と思って」
「そうなの~?」
「な~、ツキ~。良かったなぁ。
新しいダガー使う所、ライ達に見て貰えるぞ~」
(余計なことを言わないでください)
「見るよ見るよ~。そういえば、ツキちゃんが戦ってるところ見た事ないかも~。
わ~、楽しみだな~♪ な~、フェス~♪」
「そうですね。それは一見の価値ありですね」
「ソパール湖っていえば、完全に観光地だから念写屋さんあるよ!!」
念写屋って確か写真屋みたいな店だよな。
「そういえばそうだね~。せっかくだから念写して貰おうか~」
「賛成、賛成!」
リリーが興奮してきた。
「念写ですか。やぶさかではないですね」
「リリー、詳しいな」
「ライと一緒に何回も行ってるから」
「その時も念写したの?」
「もちろん! しないわけないじゃない!」
「そうだね~。皆、一度は念写するね~」
「私、たぶん部屋にあるよ! 持ってくる!」
言うが早いかリリーが部屋に走っていった。
「最近行ってなかったから張り切ってるな~」
「前はよく行ってたんだ?」
「そうだね~。観光地の上、ダンジョンまであるから人の賑わいがすごいよ~」
前世でいう、海水浴場みたいなものかな?
「活気があるし、行かない人の方が珍しいんじゃないかな?」
どうも、行かない人です。
ツキと二人だけだと、観光地なんて行くわけないんだよな。
(あなたが行きたいと言えば、付き添いましたよ)
そういう所へ行く発想がなかったからな。
今も昔も変わんねーなー。
(今回行くから良いではないですか)
そうだな。
「あった! あった!」
「これが念写かぁ~」
見せてくれた写真にはリリーとライの他に知らない人が5人写っていた。
リリーがライの肩に腕を回して笑顔でどやっている。
反対側にはライと腕を組んで笑ってる可愛い女の子。
ライの頭上の男の子はライの首に腕を回している。
皆、ライに腕回しすぎ。ライが中心って感じだな。
皆笑ってる。眩しい笑顔ってこういうのを言うんだろう。
というか、分かりやすすぎるくらいリア充の写真だ。
そう、完全に写真。セピア色の凄く良い写真だ。
この異世界、こんな風に前世の時みたいに思い出残せるんだ……
前世の時、写真全然なかったな。
特に必要とも思ってなかったし、スマホですら写真撮ってないし。
子供の時くらいか……親が撮ってくれたのとか、学校の集合写真とか。
こういう写真とは無縁だった。
「え?! オリどうしたの?!」
「え?」
あ、泣いてた。
「あれ? なんで泣いてんだろ。
ははは……あれ、止まんない」
自然と涙がぽろぽろ出てた。
「オリ、どうした~? 大丈夫か~?」
ライが心配そうに、俺の肩に手を置いて下を向いた俺を覗きこんでくる。
「うん、大丈夫大丈夫」
はー……。
この涙の正体を俺は知っている。前の人生でもあった。
歳を取れば取るほど涙もろくなるというかなんというか……
羨ましい。俺はすっごく羨ましいと思うと、たぶん涙が出て来る。
妬みとかじゃなくて、無意識にめっちゃ羨ましくて。
素敵な青春を目の当たりにすると、俺は青春を満足に過ごしてない事を痛感してしまうのか、勝手に涙が出て来る。
それは誰のせいでもない、俺のせいって分かってるし。そんな生き方を後悔してるわけでもないんだけど、後悔してるんだろうなって。興味がないわけでもないんだけど、何もしてこなかった自分を振り返ってしまう。
若い時には戻れないからな。
(若い時には戻れませんが、今は若いのですから。あなたにはこれからがあります)
そうだな。
「驚かせてごめん。あまりにいい写真だったから、なんか感動した」
「あはは! なにそれ!」
「俺、こういう楽しそうな感じ経験したことなくてさ。なんか羨ましいなって思ったみたいだ」
「なに言ってんの~。これから一緒に経験しに行くんだよ~」
「そうよそうよ! はじめての念写なら最高なの写しちゃおうよ!」
「うん!」
「ちょっと! 『うん!』だって! オリ可愛いー! しゃしゃしゃしゃっっ!」
頭をすごい勢いで撫でてくる。犬猫じゃないんだから。
「よしよし……沢山思い出作ろうね~」
その勢いでリリーの胸の中でヨシヨシされる俺。
何が起こっているんだ……あ、柔らか~い。
これって、胸に顔うずめていいのかな。
この……谷間のとこ……。
(ダメに決まっているでしょう)
グイっと、ツキに服を引っ張られ、リリーの胸とお別れさせられた。
「あっ……」
リリーのぬくもりが。
せっかくなら、あとちょっと。
ゲシッ!
俺にローキックしてくるツキ。
「キモイ」
「今のはしょうがないだろ」
「あはは~。元気出て良かったね~」
「ご心配おかけしました」
「オリなら、いつでも胸貸してあげるから!」
「本当に?」
ゲシッ!
またしてもローキックをしてくるツキ。
「聞いただけだろ」
「ま~ま~。他にも行くところ決めよ~。リリーしおり作りたいんだろ~」
「そうだった! ツキちゃん作ろ~」
コクリ。
ジロリ。
そのジロリはなんなわけ?
(ではまた次回)




