選択のとき(3)
う~ん。
う~ん。
「そんなにふんばったって、出ませんよ。死んでますから」
うるせぇ。そっちじゃねぇよ。
「ここは時間とかありませんので、ゆっくり考えて下さい」
そういえば、俺ひとりに時間かけすぎだよな。
こんなに毎回対応してたらキリがない。
「私は懇切丁寧がモットーですから」
嘘つけ。
「時間の概念はないですが『とき』はあるんですよ」
「どういうことだよ」
「分からなくて良いですよ」
なんだそれ。
「では、あなたが悩んでる間に候補を上げて差しあげましょう」
おぉ!
「よくあるのは、ゲームみたいな世界感の異世界とか、貴族とかに転生して、俺つえーっ! したりとか、悪役令嬢とかになったりとか、ネットコンビニとかが利用できたりとかで大儲けしたりとか、何か作り出して、すごい〜とかなったりとか、異世界にガラケー持ってったりとか、動物を毛づくろいしたり、医学の知識で助けたり、雑草を薬草にしたり、上げたらキリがないですね。分かります。そりゃ悩みますよ。あとハーレムものとかもありましたね。童貞には夢のようでしょうね」
うるせぇ。そして長い。
「懇切丁寧がモットーですから」
そういえば、その前に何のコースを選ぶかもあったな。
当たり前のように異世界コースを選ぶことになってる。
「バレましたか。
テヘペロとはまさにこういう時にするのでしょうね。しませんけど」
しないんかい。する流れだろ。
「私はそんなにふしだらではありませんよ」
ふしだらて。色んなところから怒られるぞ。
まぁ、でもやっぱり異世界コースだな! 夢にかけるぜ!
「おぉ~! パチパチパチ」
ありがとう! 背中押してもらったぜ! 俺の望む異世界か〜。
やっぱ、今までにない異世界を目指したい。
だけど、思いつかない。
なぜなら、俺は凡人だからだ。
おっと、涙が。目から汗が。とかは言わないぜ。
うん、思いつかない。やはりテンプレのごった煮か。
ハーレムはやめておこう。怖い。
童貞には厳しい。でも俺だって男だ。
ちょっとした、エチチ、アチチくらいで。
ラッキーホニャララとか。むふふ。
「気持ち悪いですね」
でも、初めてはやっぱり好きな人じゃないとな!
好きな人できるかな?
ぽっ。
「ぽっ。じゃないですよ。
だからあなた童貞なんですよ」
やめてよ。
「生きてた時、好きな人がいなかったから童貞なんですから」
マジでやめてくれ。
「誰でもいいから、やっておけばいいのに」
やめろ。人をなんだと思ってる。
童貞は大切にしろ。
いや、相手の事を考えろ。
キリッ!
「キリッ! じゃないですよ」
やっぱりステータスウィンドウとか鑑定とかはあってほしいかな。
テンプレすぎか? でも能力は可視化したいしな〜。
オリジナルとはいいつつ便利なテンプレはやっぱほしいよな。
あと、剣と魔法の世界で。ギルドもあってほしいな。
うわ。よくある異世界になっていく。
魔物はいるけど魔王はいらないかな。
神様もいらないかな。
「怒られますよ」
え、いるの?
あ、白髪2本の人がもの凄い顔してる。
そんな顔芸までできるのか。
そして、そんなに怒られるのか。
「ごめんなさい。え~っと、神様がいたらバランスがおかしくなっちゃいますし。神様ってやっぱり、すごいじゃないですか! もう凄すぎて? それで色々解決しすぎちゃうから。
やっぱり、そこは? 自分の力で解決したいなって、思うわけですよ。恐れおおすぎて。ね~?」
「なら良いですって」
これで良いの?
ってか、100%神様いるなコレ。
話を戻そう、ドラゴンはカッコいいからいてほしいな。
スライムとかゴブリンとかやっぱり分かりやすいのは出てほしいな。
エルフとか美しいらしいから是非会いたい!
ドワーフはやめておこうかな。
「ドワーフがいたら泣くでしょうね」
俺お酒飲めないし。
あと、不老不死とかになれたり?
「ばかですか」
え?
「不老ならともかく、不死なんて罰ゲームですよ」
罰ゲームて。
誰だって死にたくないだろ。
「あなた、ここにいてそれ言いますか?」
は?
「死んだら、選べるんですよ」
ああ。確かに。
「でも、そんなの覚えてないし」
「覚えてなくても、死は救済です」
おい、問題発言だぞ。
「死はやすらぎ。死なないと魂がすり減りますよ」
マジでそんな事言ったらダメだろ。
「事実そうなので」
いやいや。
「例えるなら、あなた寝ないでずっと起きていられますか?」
それは無理。
「一緒です」
違うだろ。
「一緒なんですよ」
そんな事言ったら、自分で人生終わらせる人、出て来ちゃうぞ。
「実際いますしね。疲れ果ててるのでしょう」
この話はマジでやばいって。
「自分で人生終わらせたらここには来れませんよ」
は?
「自分で終わらせたんですから、次に生きる意志なしとなります」
生まれ変われないの?
「そこで終了です」
死は救いじゃなかったのかよ。
「それもひとつの救いですしね。自分で死んだら全てが終わりです」
なんだそれ。なんか動悸がおさまらない。
「あなた、死んでるから心臓動いてませんよ」
うるせー。
「まぁ、それもこの世界の理です」
なんかショックだ。
「私が言えるのは、自分で死ぬなんて勿体ないからやめておけとは思いますけど」
なんでこんな話になったんだ。
「懇切丁寧がモットーですから」
……
「シリアスにならないでください」
は?
「そういえば、大事な初期年齢考えてはいかがでしょう?」
初期年齢?
「0歳スタートとか、少年スタートとか、色々ありますよね」
選べるの?
「選べますよ、都合の良い世界ですから。あ、当選したらですが」
当選って言っちゃってる。でもそれは迷うな。
赤ちゃんからだと色々しんどそうだ。
「おじいちゃんだったのに、今更ママのお乳なんて吸いたくありませんよね」
冷静に考えてそれはキツイ。
どうせ吸うなら、好きな人のお乳を吸いたい。
「気持ち悪いですね」
ひどい。
「もう面倒くさいんで追々考えてもらって良いですか?」
えー……冒頭でゆっくりでいいとか言ってたの誰だよ。
「そんなしっかり考えなくても無意識の望みが拾われますから。安心してください」
そうなの?
「いい加減、次の展開行かないと」
展開ってなに?
「はい、異世界コース入りまーす」
ちょっ!
「果たして夢は叶うのかっ」
おいっ!
「ハズレた場合、記憶がないことを祈ってあげまーすん」
どっちだよ! うっ! 引っ張られる!
っああああぁー!
「ではまた次回」
果たして異世界でミジンコになっているのかいないのか。