<ルイズ・ワグネイル>
神官長との面談時に受付のお姉さんと一緒に後ろに控えていた人の話しです。
主人公は神官長に見惚れていた為、視界に入っていない人物です。
私の名前はルイズ・ワグネイル。
28歳。独身。身長185cm。
視力は別に悪くありませんが、眼鏡をかけています。
眼鏡で知的さをアピールしたいわけではありません。
神殿には眼鏡をかけている人がいないので、特徴を作っています。
それにより得られるものはとても多い。
そして、ヴィグラス・アース神官長の補佐官をしています。
そして、ヴィグラス・アース神官長の補佐官をしています。
大事な事は2回言いましょう。
この座を手に入れるのがどれほど大変だったか。
思い出すだけで吐き気がします。
敬愛するアース神官長の為ならば屁でもありませんが。
……屁は不適切でした。
「ルイズ君、気づきましたか?」
神官長室に戻ると開口一番、この世で最も美しく、最も優れているであろうアース神官長が、これまた美しい声で私に問いかけられました。
「何にでしょう」
「オリ・ジナル君ですよ。何か気づきましたか?」
1っミリも興味がないので何も気づきませんでした。
「あの凡庸な少年を見て気づいた事は……
……凡庸の極みのような存在なのにもかかわらず、魔法の才能があった。という事くらいでしょうか?」
「どう思いましたか?」
稀な年齢で魔法が使えると分かったくらいで、アース神官長直々に対応してもらうとは、なんと羨まけしからん。とは思いました。
「どうとも思いませんでした」
「ルイズ君って……かなり優秀ですよね?」
「はい。確実にかなり優秀です。
でなければ、私はここにおりません。
ここに来るために他の優秀と言われる者どもを蹴散らしては蹴散らして。蹴散らし倒しては踏みつけて。
アース神官長のお側におります」
「ルイズ君でも気づかないですか……」
なんという、華麗なスルー。
さすがですアース神官長。
「オリ・ジナルが何か?」
「いえ、何でもありませんよ。
あ、お茶入れて貰えますか?」
「喜んで」
アース神官長の為にお茶を入れる事ができる喜び。
「オリ・ジナル君は面白い存在ですね~」
「そうですか? 珍しいだけでは?」
「かなり珍しいですね。
神殿長が起きていたら、喜びそうな子ですね」
神殿長……
神官長以外、誰も見た事がない神殿長。
神官長曰く、長い眠りについているとか。
そして神殿長のお話をされるのは珍しい。
「神殿長は本当に存在しているのですか?」
「もちろん。この神殿の一番日当たりの良い所でクリスタルの棺に入って、ぐーすか寝ていますよ」
「アース神官長以外……
誰も見た事がありません」
「見たいですか?」
「それはもちろんです……」
なんて、アース神官長だけ見ていられればどっちでもいいですが。
「ルイズ君が神官長になれば確実に見れますよ」
「では、一生見る事はなさそうですね」
「ははは……」
守りたいその笑顔。
目に指2本を突き刺されたような衝撃が走りました。
それくらい凄い破壊力です。一生ついて行きます。
「どうぞ」
アース神官長に渾身の一杯を差し出す。
「ありがとう。
ん~、良い香りです……うん、おいしい。
やはりルイズ君の入れるお茶は美味しいですね」
目からお茶が……
「曲芸はやめましょうね」
はっ……魔法でお茶を目に入れてました。
「本当にルイズ君も面白いですね」
「ありがとうございます」
褒められました。
「神殿長もいつまで寝てるつもりなんだか。
私ばっかり働かされて……いい気なものですよ」
「叩き起こせないのですか?」
「ふふ、神殿長ですからね。
一応この世で一番強い方でしょうから、叩いた所でビクともしないでしょう」
「神官長よりも……ですか?」
「ははは、もちろんですよ。上司ですし」
「それはそうですが……」
「この神殿作ったのも神殿長ですから」
「え?」
「一瞬で作るんですから、どん引きですよ」
「作る? 神殿長が『建てた』ではなく、神殿長が『作った』ですか?」
「そうですよ。
あれ? ルイズ君知りませんでしたか?」
「はい」
「あ~……じゃあ、内緒で」
二人だけの秘密!
「承知しました。一生誰にも言いません」
「ルイズ君は一生が好きですね」
「アース神官長限定でしか使用しておりません」
「重いなぁ。
まぁ、そんなルイズ君ですから補佐官に選んだわけですが」
ニコリとほほ笑むアース神官長。
「今日が私の命日か……」
「重いなぁ」
「今後さらに重くなる事はあれど軽くなることはございませんので、お許しください」
「はいはい」
懐も広くていらっしゃる。
「でも、今起こしに行ったら起きるかもなぁ」
「え?」
「いえ、オリ・ジナル君の事を伝えたら起きるかもしれないなぁ。と」
「寝ているのでは?」
「寝てても聞こえていますよ、たぶん」
「?」
「たぬき寝入りみたいなものですから」
「?」
「穏やかな日々もよいですが……
新しい風が吹くのもまた良いかなと」
「新しい風がオリ・ジナルだとおっしゃるので?」
「さぁ、どうでしょうね」
「あんな……
街に行けばどこにでもいるような少年がですか?」
「『どこにでもいる少年』……ですか。
私もあなたも『どこにでもいる大人』ですよ」
「私ならまだしも!
アース神官長がどこにでもいる大人なわけないではないですか! そんな嬉しい世界はありません!」
「あなたの言葉を借りただけですが」
「通常、魔法使いは魔法が使える事もさることながらその容姿、指の先にいたるまで造形に優れています。
それこそが神に愛された証。と言われるほどに。
アース神官長はすべてが完璧です。
その他の者達と一緒にしないでください」
「ルイズ君、そんな事思ってたんですか?」
「はい」
「どうしましょうか……
先に聞いておきたいのですが、ルイズ君は魔法使いを見た目で判断しているのですか?」
「それこそが魔法使いの最大の特徴ではないですか。
だから、あのオリ・ジナルが魔法を使えるなどとは到底信じ難いことです。
本来であれば認めたくもありません」
「魔法使いの容姿が優れているなどと、誰が言ったのですか?」
「私です」
「君ですか……」
アース神官長がおでこに手をやり、やれやれと言わんばかりに頭を横に振っている。
本日も髪がさらさらで素晴らしい。
「実際そうではないですか。
私の理論ではそうです。
これで論文を書いて評価されています」
「全く何をしているのやら。
評価する方もする方です」
「私は間違っていません。
歴代の上級魔法使いを見れば一目瞭然です。
その最たる人物が神官長ではありませんか」
「は~……確かに君も綺麗な顔をしていますね」
「はい」
褒められた!
今日の事は一言一句もれなく日記に書こう。
「神殿にいる者は皆、美しく綺麗で優れた容姿だと?」
「はい。神官長が一番美しいですが」
「それはルイズ君にとって、私が好みの容姿というだけです」
「好みとかいう次元ではありません。
アース神官長は完璧なのです」
「私は完璧などではありません。
それこそ、魔法使いが皆容姿に優れているのであればただの普通ではないですか。優れた容姿が集まっているのであればそれはもはや普通のことですよ」
「しかしっ!」
「ルイズ君の考えはルイズ君のものですから私がとやかく言う事ではありませんが。
ただ言えるのは、私はオリ・ジナル君のあの素朴な顔が好きですよ。見ていると安心します。自分の顔よりね」
………
「目からお茶を出さないで下さい」
「ずびばぜん……」
「なんの話をしていたのやら」
「ずびずび……」
「あ~あ~……
ルイズ君はまだまだ『どこにでもいる少年』でしたね」
「失礼しました。職務に戻ります」
オリ・ジナルめっ!
おかげでアース神官長に泣かされてしまったではないか。
……それもまた良い。ふふふ、日記に書こう。
タイトルは『はじめてアース神官長に泣かされた日』だ。
私の名前はルイズ・ワグネイル。
そして、ヴィグラス・アース神官長の補佐官。
アース神官長を原動力に生きている男。
神官長を崇拝している補佐官。
ルイズ・ワグネイル。
神官長の事になると全くブレない男である。
そして、大事な話しを聞ける機会を逃す男。




