続・運命の人(2)
「ははは、自分からあの二人の話題を出すとは私もまだまだだな」
「ははは、聞いていいですか?」
「ははは、嫌だと言ったら言わなくてもいいか?」
「ははは、いいですよ」
「いいのか?」
「はい」
無理矢理聞いてもしょうがないし。
「ふっ……やはりオリ殿はいいな」
「ありがとうございます」
「あの二人からどこまで聞いた?」
「あ~……ショウさんが絡むとライがおかしくなるっていうのは聞きました」
「それだけか?」
ショウさんと見つめ合う。
ツキはお構いなしに唐揚げをもりもり食べている。
「あと、ショウさんが置き手紙を残していなくなったっていうのも聞きました」
「それだけか?」
「はい」
俺は嘘を貫き通すぜ。
「そうか……」
「……おい、カラアーゲー全部一人で食べるなよ」
コクリ。
気まずくなったらツキに話しかけよ。
「あの二人……いや、あの二人以外の人間もそうだが勘違いをしているんだ」
「どういう事ですか?」
「ライがおかしいんじゃない」
「?」
「おかしいのは私なんだ」
「聞いてる話とは違いますね」
ショウさんが困ったように微笑む。
「私こそが頭がおかしいくらいライの事を愛してるんだ」
「え?」
「頭がおかしいのは私なんだよ」
ええ……
「そんな感じは全くありませんけど」
「ふっ……そうだろ」
ショウさんが見た事のないを顔している。綺麗な顔のせいでよりそう見えるというか……悪い顔してる。
「伊達に4歳年上じゃないんだ」
ごくり。
ショウさんの威圧感に息を飲む。
「ライが生まれた瞬間から私に一目惚れした話は聞いたか?」
「はい」
「そんな事あるわけないって分かるだろ。目が見えてないんだから」
俺も思った。
「でも皆、ライの言葉を信じたんだよ。あいつが真っすぐな人間だから、あの瞳を見たら信じてしまうんだろうな」
「なんかキラキラしてますよね」
「そうなんだ。あいつ……本当に綺麗な目をしてるよな」
ショウさんがうっとりしている。
うん、なんかおかしい気がしてきた。
「私がライを洗脳したんだ」
「洗脳?」
「ライが物心つく前から『お前は生まれた瞬間から私に一目惚れした』ってな」
ええ……
「本当は……私こそが……ライが生まれた瞬間に一目惚れしたんだ」
ええー……
「毎日のように、小さいあいつを抱きしめて、耳元で囁いてやった」
「4歳で……?」
「ふっ……4歳から毎日な」
怖。
「怖いと思ったか?」
はい。
「さすがに……」
「ははは、私も自分が怖いから安心しろ」
おいおい、笑ってるよ。
「我ながら上手い事やって、ライと付き合う事になったんだ」
「そうですか」
「驚かないんだな」
ギクゥ。
「いや、そうだったんだな~って思いましたよ」
「目が泳ぐってそういう目の事を言うんだな」
ギクゥ。
「ははは、オリ殿は嘘が下手だな」
「嘘じゃないですよ」
「まぁ、何でもいいんだが」
「両想いだったなら何の問題もないじゃないですか」
「そうだな。ただ、私の気持ちの問題なんだよ」
「はぁ……」
「私はライを誑かして、ライの心を得たに過ぎない」
「はぁ……」
「周囲には付き合っている事を隠して、ライだけが私に夢中のように見せて。自分はまともな振りをして……最低なんだ」
「はぁ……」
「どうした、急に変態みたいになって」
「いや、その『はぁはぁ』はしてないです」
「そうか」
「最低まではいかないんじゃないですかね? ライも誑かされたと思ってないんですし」
「結局のところ一番の問題は、私もライもお互いが側にいると求めずにいられないようになってしまったことなんだ」
あ~……またそれか。
「見境のない猿みたいになって、理性をなくしてしまう……異常だろ」
「異常ってほどではないんじゃないんですか?」
知らんけど。
「まだ若いから抑えが効かなかったっていうだけで、今はもう大丈夫かもしれないじゃないですか」
「オリ殿も見ただろ、この間、一瞬会っただけでアレだぞ」
あ~……
「あれは久しぶりだからでしょう」
「そうなのだろうか……」
「長い間、お預けされてたらしょうがないと思いますよ」
俺、何言ってんだろ。
「二人とも環境が変わってるわけですし。大きなお世話だとは思ってますけど、ちゃんと話した方がいいんじゃないですか」
「だが……」
「無理にとは言いません。けど、二人ともずっとショウさんを探してます。二人とも自分のせいだと思ってます。逃げるようにいなくなるんじゃなくて、ショウさんの本当の気持ちとか伝えてあげられないですか? ショウさんがいなくなってからずっと心配してるんですよ?」
「そうだな……やっぱり私はおかしい」
「何がですか?」
「それを聞いて、二人に悪いと思う……だが」
だが?
「激しい喜びも感じてしまう」
は?
「ライが追いかけてくれてる事が嬉しいんだ。ライが私を探してる……それだけで」
ショウさんが恍惚としてる。
「うん。おかしいですね」
こりゃキメてますわ。
「じゃあ、そういう事で。よく分かりました」
「え?」
「おいツキ、カラアーゲー1個残して他全部食べるっておかしいだろ」
眉を八の字にするな。
「すみません、ツキがほぼ食べちゃったんで、そろそろお開きにしますか」
「ライ殿?」
「カラアーゲー1個はショウさんどうぞ」
「ありがとう……」
「カラアーゲー、冷えちゃいましたね」
「冷えてもうまいぞ」
「それは良かった。あ、そういえば今の話の感じだと、特にリリーについては問題ないんですよね」
「ああ」
「じゃあ、リリーにだけでも会ってあげて貰えませんか?」
「そうだな。リリーには本当に悪い事をした」
「じゃあ、リリーにだけ連絡先教えてもいいですか?」
「ああ」
◇◇
「あ~、スッキリした~」
「何がスッキリしたんですか?」
「いや、なんかもやもやしてたけど、しょーもなかったなって事が分かって」
「言いますね」
「今回の場合、リリーが気の毒だったけど、会ってくれるらしいから無事解決だろ」
「ライはいいのですか?」
「いいだろ。あの感じだと離れてた分だけ盛り上がりそうだし、そんな心配しなくてもいいかなって。それこそリリーに任せるよ。俺には難易度が高すぎ」
知らない世界なのだけは分かった。
「ショウさん拍子抜けしてましたね」
「ライもそうだけど、ショウさんもライさえ絡まなければ気さくで良い人なんだけどな」
やはり、恋愛は人をおかしくさせるのか。
「色々な恋や愛の形がありますからね」
「二人とも運命云々言ってたけど、そんなんあるのか?」
「なんでもそうですが、あると思いたい人にはありますし、ないと思っている人にはない。以上」
あっそ。
「じゃあ、二人には運命があるんだな」
「そうなりますね」
「ライみたいに誰かに影響されたっぽい運命ってどうなの?」
「影響されて運命だと思ったとしても、結局はライがあると思ったのですからそれが真実ですよ」
だよな~。
「おや、反論しないのですね」
「最終判断したのは自分だろって俺も思うからさ」
俺も俺の運命の相手だって思う人ができるんだろうか。
「前世はいませんでしたね」
そうですね。
「誰か俺を洗脳してくれないかな」
「言いますね」
「俺の場合、むしろ洗脳してくれるんなら助かるよ」
洗脳したい程、俺の事好きになってくれるなんて幸せだろうなぁ。
「誰かを好きになりたいな~」
「好きになりたいな~、なんて願望を言っている内は難しいでしょうね」
何だよ。
「私は『気づいたら好きになっていた』が好きなのだと思います」
「なんかどっかで聞いたセリフだなぁ」
「TV、漫画、小説などでよく言ってます」
「受け売りかよ」
「いえ、そういった情報の中で私が選択した好きの定義です」
なるほど。
「俺の好きは何かなぁ」
「何か分かったら教えてくださいよ」
「俺が言わなくたって、聞こえてるくせに」
「どうでしょうね」
なんだそりゃ。
「あれ? そういえばお前、好きになった人とかいる?」
「なぜ過去形なのですか?」
なんとなく。
「え? まさか今いたりするのか?」
「いたとして、あなたに言うと思いますか?」
え……
「いるのっ?!」
「いませんよ」
「だよな。あー、ビックリした」
驚かせんなよ。
「で、過去好きになった人とかいるのか?」
「あなたと恋バナをする気はありません」
だと思ったよ。
「うわー、そうかー。考えた事もなかったけど、そういう事もあるんだよなー」
気持ち悪。
「なんか親の恋愛話聞いてる気分になるな」
「あなたが勝手にしだしたのでしょう」
そうでした。
「結局、あんまり食べられなかったから家帰ったらなんか作ってくれよ、母さん」
「誰が母さんだ」
お茶漬けでいいんだ。
「ではまた次回」
そろそろ冒険がしたい。




